68.まどろみ
通信が切れた瞬間、私は自宅のリビングにいたことをようやく思い出した。
そのままソファーに倒れ込み、静かに呟く。
「……疲れた」
「お疲れ様です」
アイリスの声が、いつになく柔らかく返ってきた。
「街間の移動ができるようになるのは、5年後かぁ……」
(その間に、ケンには新しい恋人ができて、結婚して、もう二度と会えないとかもあるんだろうな……)
まだ起こりもしない未来を想像して、私は涙ぐんだ。
「エマ……何がしたかったんだろう。スマートウェアのパーツで、何をしようとしてたの?」
「偽物を作成、流通させ、そこから健康データを傍受し、自身の研究に利用していた――事故調査委員会ではそう報告されています」
アイリスが答えた。
「スマートウェアの研究を進めても、モリス博士が生き返るわけじゃないのになぜ?」
「生前のエマ・ヘミングウェイ博士の“後悔”が、彼女の残した自律ロボットの行動の動機になっていた――そう推定されています。」
「後悔かぁ……もう一度会って、謝りたいと思ったのかな。もし私が、あんな別れ方をしたら……」
私は、はっとして体を起こした。
「――もう一度会いたい?!エマは、モリス博士にもう一度会いたかったんじゃない?!」
「エマと、もう一度話がしたいな……」
「エマロボットとの通信は可能ですが、手配いたしますか?」
「ううん、それより優先すべきことが山積みだもん。今のはただの興味本位だから、忘れて」
「承知いたしました」
「工場にいるモリス博士に会いたくて……数値の異常が発生したらモリスが目覚めるかもしれないとか思って……。でも、一向にうまくいかないから癇癪を起こして、連鎖破綻を仕掛けたとか……。だとしたら、エマ、ほんと、わがままな子どもみたい……」
取り留めのない独り言をつぶやきながら、私はそのまま眠りに落ちた。




