64.待ち時間
私は、カリーム博士からの通信を待つあいだ、ゴトウ技師に休憩を取るよう指示を出した。
「ヴィガ、ゴトウさんがゆっくり休めるように、ホテルの部屋くらい快適なの環境を工場内に準備して」
「承知しました」
ゴトウ技師は、これからしばらく工場に缶詰めになるかもしれない。
少しでもリラックスできる環境を整えておきたかった。
一方の私は、待機時間を利用して、アイリスから地震後の対応状況の報告を受けていた。
そのとき、胸ポケットに入れていたスマホが震えた。
アイリスが用意してくれた代替機――新しいスマホが鳴るのは、これが初めてだった。
画面をタップする。
《さやか、通信が少し復旧したよ。
君のおかげで事態は収束しつつある。ありがとう》
ケンからのメッセージだった。
「あぁ、ケン……!」
思わず声が漏れた。
私はスマホを胸に抱きしめ、目を閉じた。
街間の通信が復旧したのなら、あのパンチテープによる通信に頼らなくても済むのでは――
そんな考えがよぎり、アイリスに確認した。
「アイリス、街間の通信、もう回復したの?」
「現在、街間全体の通信はまだ開通しておりません。
ただし、非常用に確保されていた特定回線のみ、限定的に通信が可能な状態です」
「そう……カリーム博士との通信にも、それが使えるかは分からないのね」
「はい。早急に確認いたします」
いつもなら、指示を出す前に全容を把握しているはずのアイリスが、珍しく即答しなかった。
その沈黙が、状況の異常さを何よりも雄弁に物語っていた。
あらゆる情報が錯綜し、分析の優先度すら定まらない――そんな事態だった。
「私も、ケンに聞いてみるよ」
私は、スマホを手に取りながらそう言い、短くメッセージを打ち込んだ。
*
メールを送っても、すぐに返信はなかった。
(そうか……通信がまだ安定していないのかもしれない)
そう思いながら、スマホの画面を見つめていると、ふいに端末が震えた。
《今、全力で通信の回復を図っている。
また連絡する》
それだけの短いメッセージだった。
――きっと今、彼は現場で奔走している。
そんな姿が目に浮かび、私はスマホをそっと握りしめた。




