63.見えない守り人
「モリス博士、初めまして。元ChronoWorks技師のゴトウ・ヒデトシと申します。
そしてこちらが、エマ・ヘミングウェイ博士の開発したAIロボットによるテロ行動への対応を指揮しておられる、フジワラさまです」
黒いモニターの中で、白いアスタリスクが一つずつ増えていく。
――思考中ということらしい。
「……ゴトウ・ヒデトシ。君は、音声認証の論文 “Individual Identification based on BRF” を発表した研究者かい?」オペレーションルームには、少し機械的な合成音声が響いた。
「えっ!?あ、はい!その論文を発表した後、ChronoWorks社からリクルートされまして、入社いたしました」
「うん、覚えているよ。その論文を読んで、君を推薦したのは僕だからね」
ゴトウ技師は震え、しばらく言葉を失っていた。
「モリス博士、初めまして。フジワラと申します。今回はご協力ありがとうございます」
「ああ、君が工場の出荷数を追っていた人だね」
「はい」
――モリス博士は、この世界をずっと見守っていたのだ。
この工場を、そして街そのものを支える“見えない守り人”。
彼こそが、その存在だった。
「それにしても、ゴトウ君。君も、もう老齢の域に達しているのではないか?」
「はい。今年で75歳になります」
「君が現場に呼び戻されているということは……若い技師が育っていないということかい?」
「残念ながら、コードを平打ちできるエンジニアは、私の世代が最後です。
現在は、技師らしい技師はいない状況になっています」
「それでは発展性がないね……私も責任を感じるよ」
一瞬の沈黙。
やがて、モリス博士が静かに言葉を継いだ。
「さて、フジワラ君。エマは、現在ユスフのところにいるんだね?」
「はい。先ほど修正コードをカリーム博士へ送信しましたので、今ごろ対応にあたっているはずです」
「ユスフは、元気にしているのかな?」
「はい。奥さまとともに、ご健勝だと聞いています」
「そうか――」
そう言って、モリスAIは再び沈黙した。




