62.老技師
カリーム博士からの返信を待つ間、老技師が私に問いかけた。
「フジワラさま、モリスAIと音声での会話ができるように、改修してもよろしいでしょうか?」
「そんなことが可能なんですか?……アイリス、音声通信にして問題なさそう?」
私は即座に許可を出しかけ、念のためアイリスに確認した。
「セキュリティを考慮して、声紋認証機能を付加したほうがより安全になります」
「では、声紋認証を通過した相手とのみ音声通信ができるように、改修をお願いします……あの、お名前を伺っていませんでしたよね?」
「はぁ、そうでしたかな。いやいや、失礼いたしました。私はゴトウ・ヒデトシと申します」
老技師はカメラに向かって深々と頭をさげた。
ゴトウ技師が作業に取りかかるあいだ、私はアイリスから先ほどの地震による被害状況の報告を受けた。
アイリスが淡々と読み上げる。
「街全域で家屋の損壊が279件、軽傷者325名。
スマートウェアの機能停止による健康被害は118件。
そのうち3件は、生命維持支援装置との連動停止が原因です。
また、地震による精神的ショックから体調不良を訴える者が600名を超えています。
……ですが、想定されていた被害規模と比較すれば、混乱は最小限に抑えられています」
「……ありがとう、アイリス」
私は静かに目を閉じ、胸の奥で安堵の息を吐いた。
モニターの向こう側から、ゴトウ技師が声をかけた。
「フジワラさま、設定完了いたしました。音声認証は、フジワラさまの音声を登録すればよろしいでしょうか?」
「音声認証は、ゴトウさんと私の登録をお願いします」
「承知いたしました」
ゴトウは短く返事をすると、しばらく設定を進めたのち、モリスAIに話しかけた。
「モリス博士、初めまして。元ChronoWorks技師、ゴトウ・ヒデトシと申します」




