51.隠し部屋の真相
私はアイリスと共に、エマの家へ入った。
玄関は映像で見たときと寸分違わぬままで、違和感はない。迷いなく書斎へと足を運ぶ。
小さな絵のかかった壁に手を伸ばし、軽く押す。
何かしらの認証があると思ったが、そういったものはなく、壁は静かにスライドして開いた。
――思ったよりアナログな仕掛けだ。
足を踏み入れたその空間は、畳一枚分ほどの狭さだった。小さな木のテーブルとチェア、そしてその上にはノートパソコン。
私の世界では最新式に見えるが、この街ではそもそもパソコン自体が珍しい。むしろ古い型だと推測できた。
アイリスに解析を頼むと、パソコンにはメールのやり取りと写真が保存されていた。送り主はモリス博士。そして写真に写っているのは、彼と彼の愛犬だった。
どうやら二人は、数年にわたってオンラインでのみ交流を続けていたらしい。やがて「会いたい」という言葉に変わり、街と街を繋ぐ転移装置が完成した日、初めて対面したようだ。
「坂を下ったところのフェリー乗り場も、このとき作られたの?」私は尋ねる。
「いえ。転移装置の開発後、それを遊覧船のように改良したのがヘミングウェイ博士です」
そのとき――。
部屋の奥、いや、壁の向こうからカタカタと微かな音がした。
「ねぇ、アイリス。この壁の向こうは?」
「キッチン側の壁と書斎の壁、それぞれの寸法を照合しました。内部には――この部屋とほぼ同じ広さの空間が存在します」
「つまり……この先にも、隠し部屋があるってこと?」
壁を隅々まで調べてみたが、開く気配はなかった。
「アイリス、ここの開き方わかる?」
「少々お待ちください」
彼女は壁に向かったまま動かなくなり、やがて答えた。
「この壁は一枚の構造体で、開閉機構はありません。入口は別にあると思われます」
ならばと、部屋の裏側にあたる、キッチンや勝手口の壁を調べてみた。しかし開閉用の端末はどこにも見当たらない。
その間、アイリスは隠し部屋の寸法を解析していた。
「ねぇ、立面図ってないの?建物の縦の数値が分かるもの」
「はい、提供されていません。家の外観から推測しましょうか?」
「……ううん、ここの下にも何かあるんじゃ無いかと思ってね」
そうつぶやきながら床に手をついた瞬間――板の一枚がパタンと跳ね上がった。
取っ手のように浮き上がった部分をつかみ、力を込める。
ハッチが開き、冷たい空気と共に石造りの階段が姿を現した。




