5.転職先
新しい仕事の説明は、拍子抜けするほど明快だった。
会社の業務はほとんどAIに任されていて、人間が手を動かす場面は少ない。だからこそ、事務処理や確認作業を正確にこなせる人材を求めている――と男は穏やかに語った。
「実は、工場で少し数字の食い違いが出ているんです」
男は落ち着いた声で説明を続けた。
AIが算出した出荷数と、実際に流れている製品の数がどうしても一致しない。
しかも困ったことに、AIはその誤った数値をあたかも“正しい答え”であるかのように扱い、修正を受け付けなくなっているという。
「……あの、私、AIの仕組みはよくわからないんですけど」
不安げに口を開いた私に、彼はやわらかく首を振った。
「大丈夫ですよ。藤原さんにお願いしたいのは、数値の変動をきちんと記録することだけです」
「そうですか……」
思っていたよりもずっと単純な仕事に聞こえて、少し拍子抜けした。
(でも、始めてみれば全体が見えてくるはず――)
そう自分に言い聞かせた。
工場を案内されると、そこには働く人間の姿はなく、代わりに機械だけが黙々と動いていた。
油の匂いひとつなく、規則正しい機械音だけが響く。チリ一つない工場のフロアは、近未来の模型をそのまま切り取ったように見えた。




