49.妻のなだめ方
街には、途方に暮れた表情の人々があふれ、各所に立たせていた自律ロボットに殺到していた。
「朝ごはんのメニューを決めてもらえないと、何を食べたらいいかわからない」
「昨日のランニングのコースが送られてこなかったので、ランニングができなかった」
「妻と喧嘩したが、仲裁してくれるAIがいなかったので、仲直りができない」
――うそでしょ?
胸の奥で思わずそうつぶやく。
こんなにも、AI頼みで、自分で決められない状態になっているの?
私たちの世界も、いつかこんなふうになってしまうのだろうか……?
でも、ケンは違う。
彼はなぜ、あんなに自立して動けるんだろう?
何が違うのだろう?
そんなことを自問しながら、私はアイリスと共に工場へ向かった。
現在、工場は休止している。
街と街の移動や、エマ系統AIへの対応は、今ごろケンやリー博士が取り組んでいるはずだ。
私がするべきことは、別にある。
この工場には、エマの仕掛けた“何か”を――
それでも相殺しようとしていた“別の何か”がある。
エマの干渉によって、出荷数は増加する。
そして、工場の“自浄作用”によって減少する。
カリーム博士は言っていた。
――モリス博士は、
「やがてAIは人間のように嘘をつくようになる」と予見していた、と。
その“嘘”を監視するAI――
それは、モリス博士自身の人格を備えている可能性があるのだ。




