42.滅びる世界
スマホはずっと震え続けていた。
フェリーに乗り込み、ようやく画面を覗くと、ケンからの着信だった。
「もしもし」
「さやか!フェリーから降りろ!」
その声にハッとして振り返ると、桟橋がゆっくりと離れ始めていた。
私は一か八かで身を投げ出した。
フェリーのデッキから桟橋へ――。
伸ばした手がギリギリで手すりを捉える。だが、スマホは指の間から滑り落ち、海面へと沈んでいった。必死に桟橋の手すりを握りしめる私の腕を、職員が駆け寄って引き上げてくれた。
どうにか桟橋の上に這い上がると、フェリーのデッキにはエマの姿があった。
彼女は私を見つめて、声なき口元で告げる。
「リチャードのいない世界なんて、滅びればいいのよ――」
声は届かない。
だが、確かにその口が、そう言ったのが見えた。
見送る視界が滲む。
気づけば、滝のように涙が頬を伝っていた。
――あれが、エマさんの生前の本音なのだ。
彼女の慟哭に突き動かされているロボットが、
今、暴走している。
桟橋にへたり込み、そんなことを考えていると、地面の底から轟音が響き、桟橋全体が激しく揺れ始めた。
「地震だ!」
周囲の職員たちが悲鳴を上げる。
こちらに来てから初めての揺れだった。
やがて揺れが収まり、私はよろよろと立ち上がる。
アイリスに指示を出さなければ。
だがスマホを失った今、彼女にエマの追跡を命じることもできない。バスの料金すら払えない。歩いて工場へ戻るしかなかった。
街はすでにパニックに包まれていた。
――この世界の人々は、地震に慣れていないのだろうか。
そんな場違いな考えが、呆然とした頭をよぎった。




