40.核心
「現在の経営陣が許可してくれるのであれば、ぜひAIの解析をさせてもらいたい」
そう告げるカリーム博士に、ケンは「一度持ち帰って、経営者会議で承認を問います」と答え、通信は一旦終了した。
「……ボルゾイ」
私は呟いた。情報の処理が追いつかず、しばらく呆然と立ち尽くす。
ケンが口を開く。
「“犬の置物”とは、初期のスマートウェアを指している可能性が出てきたね」
「偽物のスマートウェアと差し替えて、データを盗んでいる……?」
「その可能性を考えてもいいかもしれない」
ユスフ・カリーム博士との対話は、会社の公式記録をいくらにらんでいても見えてこなかった答えを、一瞬で照らし出した。
もし博士が工場に来て、直接調べてくれることがあれば――。
期待と不安、その両方が心をかき乱した。
早く、エマを探し出さないといけない。
私は、焦燥感に駆られていた。カリーム博士が来る前に。なぜか、そう感じていた。
終業後、休日、時間の許す限り私は街に出てエマを探し続けた。
エマはこの街にもう居ないのかもしれない。そんな感覚に囚われ始めた頃、ケンの言葉を思い出した。
ー強くイメージすれば、その場所に辿り着けるー
ケンはそう言っていた。あのエマが幸せそうに微笑んでいた庭先をイメージして、私はバスに乗った。
以前エマが降りたバス停が現れた。
バスを降りると同時に、ポケットのスマホが震えた。
《エマ・ヘミングウェイが家に現れました》
アイリスからの通知だった。




