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4.新しい物語
息を呑んだ瞬間――エレベーターの扉が、ひとりでに音もなく開いた。
そこに立っていたのは、先ほど無表情で私を見送った職員とは対照的な人物だった。
三十代半ばほどだろうか。柔らかな笑みを浮かべ、仕立てのいいスーツを肩の力を抜いて着こなし、余裕のある立ち姿でこちらを見ている。
「藤原さやかさん、ようこそ」
落ち着いた声に導かれるまま、私は応接室のような空間へ通された。
磨き上げられたガラスのテーブルと、深い色合いのソファ。都会の高層ビルの一室というより、どこか異国のホテルのラウンジのような雰囲気だった。
彼は懐から名刺を取り出し、穏やかに差し出してくる。
そこにはこう記されていた。
――
ChronoWorks
CEO
Ken Ohta
――
目の前の男の名と肩書きを見た瞬間、心臓がひときわ強く脈打った。ここから、自分の新しい物語が始まるのだと。




