39.新たな証言者
「こちらはユスフ・カリーム博士だ。リチャード・モリス博士とは、公私ともに親しい間柄だった方だよ」
ケンがモニターに映る老人を私に紹介した。
映し出されたのは、深い皺を刻んだ浅黒い肌の老人だった。年齢を重ねてもなお衰えを知らぬ鋭い眼光が、画面越しにこちらを射抜いてくる。
ケンが口を開いた。
「我々は現在、自律ロボットのエマ・ヘミングウェイの行方を追っています。彼女が工場の入荷トラックに乗って現れた日には、必ず出荷数が予定より多くなっていました。しかし、それ以外の日は予定数を下回っていたのです。ところが彼女が姿を消してからは、常に正規の数〈100〉を維持するようになりました……」
ケンは経緯を簡潔に説明し、さらに切り込む。
「エマの自律ロボットが、こちらのフジワラ氏に語った言葉――『犬の置物と犬の死体の置物を差し替えている』という発言について、博士。もし何か心当たりがあれば、教えていただけませんか」
しばらく黙って聞いていた博士は、左手を顎に添えて考え込んだ。
「ふむ……リチャードは無類の犬好きで、常に犬を飼っていたのは確かだ。我々が開発した初期のスマートウェアのバージョン名に、犬の名前をつけるほどにな。だが――“犬の置物”が何を意味するかは、私にもわからん」
「ボルゾイ……」
思わずつぶやいた。ボルゾイが犬種名であることすら知らず、私は今までまったく気づけなかった。
博士はさらに言葉を続けた。
「出荷数が変動しているにもかかわらず、AIが正しい数値を報告してくる――その現象は、リチャードが十代の頃からすでに予見していたことだ。『やがてAIは人間のように嘘をつくようになる』とね。まさか、それが現実になっているとは……実に興味深い」
私は息を整え、博士に問いかけた。
「あの……では、“嘘をつくAI”を監視する機能が、工場に備わっている可能性はありますか?」
「ふむ、それは当然だろうね。その監視AIは――リチャード自身の人格を備えている可能性がある」
老人の瞳が、研究者特有の好奇心でぎらりと光った。




