33.自律型ロボット
私はアイリスとともに、《システムルーム#1》にいた。
静まり返った室内の壁面モニターには、エマ博士の略歴が映し出されている。
アイリスが、エマ博士の経歴について語り始めた。
「エマ・ヘミングウェイ――彼女が誕生したのは、1932年のことです。
1960年、28歳の若さで“第二世界”から渡来しました。
その後、1965年に、他5名の研究者と共にChronoWorksを設立。
わずか5年後の1970年には、初代スマートウェア〈ボルゾイ〉を世に送り出しています。
やがて1984年、49歳のときに当社を離れ、独立の道を選びました。
そして……2009年。77歳で、その生涯に幕を下ろしたのです。」
私にも理解できるように、西暦で表記されている。
どうやら、私たちがかつて暮らしていた世界は「第二世界」と呼ばれているようだった。
アイリスが無感情に、情報を補足した。
「なお、2008年ごろから市井にて、自律型ロボット、エマ・ヘミングウェイが確認されています」
モニターには彼女の写真が次々と映し出された。
あの青いパラソルの家の前で、男性と並んで笑うエマ。
まだ若く美しい彼女の隣には、穏やかそうな男性の姿があった。
コンコン、とドアがノックされた。
アイリスが開けると、そこにはケンが立っていた。
「あぁ、ケン。ちょうど良かった。エマ博士について、知ってることがあったら教えて」
「うん、わかった」
ケンは本当はデートにでも行きたかったのだろう。
少し苦笑しながら、私の隣に腰を下ろした。
エマの隣に映っていた男性は、ChronoWorks創業メンバーの一人、リチャード・モリス博士という人物だった。
だが彼は、1970年にすでに死亡していた。
「モリス博士は、エマと一緒に住んでいたの?」
私の問いに、アイリスが答える。
「いいえ。モリス博士は別の街の出身で、住居をこの街に構えた記録はございません」
ケンが口を開いた。
「登録の住所と実際の住所が一致しているとは限らない。だから、公式記録に残っていなくても、モリス博士がエマと一緒に暮らしていた可能性は十分にある。そのために――彼は1970年に亡くなったのかもしれない」
私は息をのんだ。
「……当時、彼は何歳だったの?」
「モリス博士は、40歳と2ヶ月で亡くなっています」
アイリスの無感情な声が、静まり返った室内に響いた。
私は言葉を飲み込み、別の問いを投げかけた。
「初代スマートウェア〈ボルゾイ〉……どんな機能があったの?」
(それには身体の異常が察知できなかったのだろうか)
「心拍、血圧、歩数を記録し、健康的な生活習慣を提唱する――その程度のものでした」
私は思わず息をのんだ。
(そんな機能……私が高校生くらいの時に初めて発売されたんじゃないかな、、、、それが、
1970年にすでに開発されていたなんて――)




