31.青いパラソルの家
私はAI秘書のアイリスに電話をかけた。
「ねえ、エマ博士が住んでいた家の場所は分かる?」
「はい。フジワラ様の現在地からほど近くに、該当の建物があります。案内を送信します」
スマホの案内を頼りに、細い坂道を下りていく。
いくつかカーブを曲がったところで、青いパラソルのある家が視界に入った。
階段を三段ほど上がった先に門扉があり、アーチ型の屋根がついたブルーの郵便受けが門扉の上に据えられていた。
私は玄関の前に立ち、ドアをノックした。
「エマさん!いますか!?」
しかし、中から反応はない。
そのとき、隣家の庭から顔を出した男性が声をかけてきた。
「そこは空き家だよ。もうずっと誰も住んでない」
胸がざわめく。
(たしかに、坂の上からエマの自律ロボットが入っていくのを見た)
再びアイリスに連絡を入れ、家の所有者を調べさせた。
「現在、所有者は存在せず、売りに出されています」
一瞬ためらったが、思わず口をついて出た。
「私の貯蓄で、この家を買える?不足分はローンで」
「はい。購入可能です。購入しますか?」
「……お願い」
値段を確認もせず、私はそう指示を出していた。
直後、スマホの画面に契約書とスマートキーが送信されてくる。
玄関ドアに近づくとドアキーが「カチッ」と音を立てた。
扉をそっと開いて、慎重に足を踏み入れた。
……その瞬間、息が止まった。
リビングにはテーブルと椅子がきちんと配置され、靴箱には履き古された靴が収められている。
ハンガーにはコートが掛けられ、コーヒーテーブルには読みかけの本まで置かれていた。
まるで、ほんの数分前まで誰かが生活していたかのように。
しかし、家全体は不気味なほど静まり返っている。
私は胸のざわめきを抑え、スマホを取り出した。
「アイリスさん、この家の各部屋にカメラを設置して。人の出入りを監視してほしい。エマのロボットにはドアのアクセス権を与えたままにしておいて」
「承知いたしました。業者を手配いたします」
無機質な声が返り、私は”エマの”家を後にした。




