30.ヨーロッパ風の街
アイリスに工場カメラに映ったエマの画像を調べるよう指示を出し、私は工場を後にした。
送迎車サービスは朝オフにしていたため、来ていない。
それに安堵する。
――バスに乗って、エマを探そう。
それから毎日、仕事終わりや休日になると、私はひたすら街を走るバスに乗り続けた。
同じルートを巡るバスだが、窓の外の街並みは、日ごとに形を変える。
エマと出会ったあの時と同じ景色に再び出会うために。
(エマは必ずバスに乗る)
確信めいた予感だけが、私を突き動かしていた。
一週間以上が過ぎたある日――
車窓に、あの日と同じ光景が広がった。
息をのんで乗客を見渡す。
だがエマの姿はない。
それでも彼女が下車したあの駅が近づくと、私は決意を固めていた。
(ここで探そう)
バスを降り、歩き始める。
ほどなくして、オリーブの大木が影を落とす公園に出た。
ベンチで読書をする人、犬を散歩させる人……静かな余暇の光景が広がっている。
(ヨーロッパのどこかの街並みたい…)
さらに坂を下ると、目の前にエメラルドグリーンの海が広がった。
オレンジ色の瓦を載せた石造りの家々が斜面に並び、細い道が大きなカーブを描きながら海辺へと続いている。
あまりの絶景に、思わず目的を忘れて見入ってしまう。
ケンと訪れたビーチとは違い、潮の香りが濃く漂っていた。
そのとき、眼下の坂道を歩くひとりの女性が視界に入った。
(……エマだ!)
心臓が跳ねる。
しかし距離は遠く、今から追っても見失うだろう。
私は必死に目を凝らし、彼女を見失わないように追い続けた。
やがてエマは、青いパラソルのかかったバルコニーのある家へと入っていった。




