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3.冒険への一歩
指定された時刻に、さやかはオフィスの自動ドアをくぐった。
どこか別の勤務地へ向かうバスか車に乗せられるのだろう、と勝手に想像していたのに、案内されたのは建物の奥へと延びる長い廊下だった。
外から見れば大して広くもないビルだったはずだ。それなのに、歩いても歩いても尽きない通路が続く。白い壁と無機質な照明だけが並ぶ光景に、次第に現実感が揺らいでいく。
それでも足取りは軽かった。
学生時代、留学や海外ボランティア、ワーキングホリデーに憧れながら、結局は一度も踏み出せなかった自分。そんな私が今、初めて本当に未知の世界へ歩み出そうとしている。
胸の奥にわずかな不安はあったが、それ以上に高揚感が勝っていた。
どれほど歩いたのだろう。数分だったのか、それとも数十分だったのか。感覚が曖昧になったころ、唐突に廊下の先にエレベーターが現れた。
無表情な職員がボタンを押し、扉が静かに開く。
彼は自分では乗り込まず、無言で手を軽く差し出し、エレベーターの中を示した。
促されるまま足を踏み入れる。
だが中には、行き先を選ぶボタンがひとつもない。
やがて、ふわりと重力がほどけるように、上下ではなく横へと滑っていくような感覚が身体を包んだ。




