27.部屋番号
ケンはマンションまで私を送り届けると、そのまま幹部会議へと向かっていった。
ひとりで部屋に戻ろうとしたとき、玄関ドアがなぜか反応せず、開かなかった。
「……え?」
不審に思い、ポケットからスマホを取り出す。
画面には、未読の通知が一件だけ残っていた。
《新しい部屋番号 1500》
「……?」
首をかしげつつも、ホテルで部屋替えを告げられるようなものだろうと自分に言い聞かせ、エレベーターで十五階へ向かった。
やがて扉が開く。
その瞬間、息をのむ。
そこには廊下もエントランスもなく、いきなり広々とした玄関ホールが広がっていた。
どうやら、この階は許可されたスマートキーを持つ者だけがアクセスできる特別仕様になっているらしい。
「おかえりなさいませ」
ふいに声がして振り向くと、丸みを帯びた白いフォルムのロボットがスッと近づいてきた。
ロボットは自然な仕草で私のバッグを受け取り、玄関に整え、スリッパを差し出す。
その一連の動きは、まるで一流ホテルのスタッフのように洗練されていた。
「あっ、あなたは?」気がつけば声をかけていた。
「わたくしは、さやかさまのお世話をいたします給仕ロボットでございます」
「そうなんだ、よろしくね。お名前は?」
「Unit-X100-003です」
「もうちょっと、かわいい名前がいいな……」
「では、シャオとお呼びください」
「わかった。シャオ、よろしくね」
あまりにも自分に不釣り合いな部屋に圧倒されていたが、シャオの存在で、ほんの少しだけ気持ちが和らいだ気がした。
(正直、前の部屋のほうが落ち着いたけど……シャオがいるなら、ここでもいいか)
そんなことを思いながら、新しい住まいを探索してみる。
広いリビングには革張りのソファと大きなガラステーブル。
壁一面の窓からは夜景が広がり、その向こうには専用の屋上プールが静かに水面を揺らしていた。
隣にはジャグジーが据えられ、淡い照明の下で泡が柔らかく湧き立っている。
寝室にはキングサイズのベッドが整えられ、バスルームは大理石調で統一されていた。
さらにワインセラーや書棚まで備えられ、まるで上級幹部の暮らしを象徴するかのような空間だった。
呆然と部屋を眺めていると、シャオが滑らかな声で話しかけてきた。
「さやかさま、お食事になさいますか?血糖値が下がっています」
「え?……ごはんも作れるの?」
「はい。調理と栄養管理は標準機能に含まれています」
「じゃあ、お願いするね。私は先にお風呂に入ってくる」
そう言ってバスルームへ向かう。
大理石の床に反響する水音、満たされたバスタブから立ちのぼる湯気。
熱い湯に身を沈めた瞬間、張りつめていた心と体がふっと緩んだ。
今日は、あまりにも長い一日だった。
豪奢すぎるこの部屋も、白い小さなロボットも――きっと、そのうち馴染んでいくのだろう。
そう思った瞬間、バスタブから溢れた水音だけが耳に残り、心はゆるやかに溶けていった。




