26.昇進
本社を後にし、ケンの車で街へ戻る途中だった。
私のポケットの中でスマホが小さく震える。
取り出した画面には、初めて見る通知が浮かんでいた。
《昇進のお知らせ》
「昇進のお知らせって、出てる」運転中のケンに話しかけた。
「うちの会社は、査定はすべてAIが行っているからね。君の働きが評価されたんだろう」
「何が評価されたんだろう?」
「自覚してないの??」ケンは笑いながら答えた。
「笑ってないで、ちゃんと教えてよ~」
「評価と、昇進後のタイトルも来てるはずだよ」
「ほんと?」そう言って、スマホの画面を確認した。
*
《昇進のお知らせ》
このたび、あなたは 《データ統括監査官》 に昇進しました。
《評価理由》
工場出荷数に関する異常値を独自に解析し、確証的情報を特定した実績が認められました。
《新しい権限》
工場関連システムにおけるアクセス権限を最大レベルに更新。
搬入出ログ・在庫管理・監視映像を含むすべてのデータを統括的に閲覧可能とします。
*
「データ統括監査官だって」
スマホの画面を見ながら、私は声を上ずらせた。
「それはそれは」ケンは苦笑した。
「監査官って……すごい権限、持ってるんじゃなかった?」
「ある意味、経営者より上かもね。不正を正す立場になる」
「……」
胸の奥に、冷たいものが広がっていく。
「そう気負うことはないよ。今まで通り、仕事をしてくれればいい」
「ほんと?」
「あぁ」
その一言で、少しだけ気持ちが軽くなった。
ちょうどその時、対向車線を走るバスとすれ違う。
(エマ……)
あの日バスで隣に座った彼女の姿が、再び脳裏に浮かんでいた。




