25.スマートウェア
次の瞬間、部屋に声が満ちる。
それはAIによる自動ナレーション――にもかかわらず、息遣いや抑揚まで人間と寸分違わない完璧な声だった。
『異世界から科学者の募集に応じ、この世界へと渡られたヘミングウェイ博士は、AIの開発とロボティクス研究に尽力され、当社の礎を築かれた研究者の一人です。当社が開発したクロノスマートウェアは、人々の健康寿命を飛躍的に延ばし、異世界人との交流によって生じた健康被害を改善する、画期的な医療機器です――』
その「人間らしさ」が、むしろ不気味に感じられた。
私は画面の中の女性の瞳に吸い込まれるように見入っていた。
そこに映っていたのは、数日前――バスで隣に座っていた“あの女性”の面影。
年齢も姿も違うはずなのに、確かに同じ人物だった。
(彼女は、こちらに来て十年と言っていた……。
その頃の姿をかたどったロボットなのかな……)
『――そして、創業から六十年の時を超え、新たな異世界からの研究者、李瑶博士の手によって、クロノスマートウェアは完成の域へと到達しました』
「……リー・ヤオは、僕の母の名前だ」
ケンが低くつぶやいた。
私は息をのんで、彼の方を見た。
私がバスで会ったエマ・ヘミングウェイは、あまりにも人間そのものだった。
その“完璧さ”が、逆に私を不安にさせた。
気がつけば、私はケンの腕を両手で強く握りしめていた。
自分でも抑えきれないほど、胸の奥からこみ上げてきた問いが、口をつく。
「……あなたは、人間……よね?」
声が震えていた。
問いかけた瞬間、部屋の空気がさらに張りつめた気がした。
「うん、僕は人間だよ。安心して」
ケンはやさしく微笑む。その笑顔が、かえって不安を煽った。




