表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイアモンドクラス  作者: 優里
プラチナ昇格

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/96

婚約者の焦燥








優里と遥香の束の間の幸せな日々は、

あっという間に過ぎ去った。



学園の日常へと引き戻された優里を待っていたのは、

再び、冷たく厳しい現実だった。




学園内では、宝来悠斗が

未だに高飛車な振る舞いをしていた。




彼は、遥香の婚約者となったことで、

プラチナランクのなかでも崇拝される存在となっていた。


生徒たちは、悠斗の周りに集まり、

彼に媚びを売り、その権威にあやかろうとしていた。



悠斗は、その光景を満足げに眺め、

傲慢な笑みを浮かべていた。


優里は、そんな悠斗の姿を見て、

複雑な心境を抱いていた。




一方、その中心にいるべき遥香は、

悠斗に全く興味がないようだった。


遥香は、悠斗が崇拝される光景を、

冷めた目で一瞥するだけで、

すぐに優里に視線を戻した。


遥香の瞳には、悠斗への関心など微塵もなく、

ただ優里だけを映し出していた。




遥香の冷徹な態度は、

悠斗のプライドをかすかに傷つけていた。


しかし、悠斗は、

遥香が自分に興味がないことには

気づいていないふりをし、

再び傲慢な笑みを浮かべて、

周囲の生徒たちの歓声を浴びていた。




優里は、遥香の瞳に映る自分が、

悠斗とは比べ物にならないほど、

遥香にとって特別な存在であることを感じていた。


しかし、同時に、遥香の婚約者という立場を

手に入れた悠斗の存在が、

二人の関係に、いつか暗い影を落とすのではないかと、

漠然とした不安を抱いていた。




朔也は、優里の隣にそっと座ると、

優しく優里の頭を撫でた。


その手つきは、優里の心の奥底に染み渡るように、

温かく、安心感を与えてくれた。


優里は、朔也の優しさに、

張り詰めていた心が、少しずつ解けていくのを感じた。


「…遥香様が、宝来悠斗と話すだけで、どうしようもなくイライラするんです」


優里は、朔也にだけ見せる、

弱い自分を、素直に言葉にした。


その声は、悔しさと、

遥香への独占欲が入り混じった、複雑な感情に満ちていた。


朔也は、優里の言葉を静かに聞くと、

優里の頭を撫でる手を止め、優里の瞳をまっすぐに見つめた。



「そりゃあ、そうだろ。自分を散々いじめてきた奴が、学園の女王様の婚約者になろうとしている状況を、よく思う奴なんていないさ」


朔也の言葉は、

優里の気持ちをすべて理解しているかのように、

優里の心を代弁してくれた。



朔也の言葉に、優里は、自分が抱えていた感情が、

間違ったものではなかったのだと、少しだけ安心した。


朔也は、優里の表情が和らいだのを見ると、

再び優しく優里の頭を撫でた。




「それに、安心しな。宝来悠斗がいくら宝来グループの跡取りであり、遥香の婚約者だからといって、遥香がダイヤモンドのパートナーバッジを、簡単に渡すわけがないさ。遥香は、そんな安っぽい人じゃない」


朔也の言葉は、優里の心のなかの不安を、

優しく拭い去ってくれた。


しかし、優里の心のなかには、

まだ、漠然とした不安が残っていた。



自分がブロンズから這い上がったのは、

いじめから逃げるためと、

遥香の孤独を救うため。


遥香が、自分にダイアモンドの

パートナーバッジを渡してくれる日が、

本当に来るのだろうか。



優里は、朔也の言葉を信じたいと思いながらも、

その答えを探し求めていた。




放課後、遥香は、いつもとは違う、

豪華なドレスに身を包んでいた。


艶やかな髪はアップにされ、

控えめながらも上品なジュエリーが、

彼女の美しさを際立たせている。


しかし、その煌びやかな外見とは裏腹に、

遥香の表情は、どこか憂鬱そうだった。




運転手が運転する高級車に乗り込むと、

車窓から流れる都会の煌びやかな夜景が、

遥香の心をさらに重くする。



この煌びやかな世界は、遥香にとって、

ただの義務と責任で彩られた、退屈で窮屈なものだった。



車は、都会の中心部にある、高級な飲食店の前で止まった。


案内人に促され、遥香は、店の奥へと進んでいく。


そして、案内人が扉を開けると、

そこには、遥香の憂鬱な原因が待っていた。



個室のなかには、宝来グループ社長の宝来和彦と、

傲慢な笑みを浮かべる宝来悠斗、

そして、遥香の父が待っていた。



部屋の空気は、張り詰めており、遥香の心をさらに重くする。




遥香は、この場にいるすべての人々が、

自分を駒としてしか見ていないことを知っていた。


宝来グループとの政略結婚。


それは、遥香にとって、自分の人生を、

自分の意思で決めることができないという、

残酷な現実を突きつけられる、非情な夜の始まりだった。




宝来和彦は、遥香の父の前で、悠斗に穏やかな口調で尋ねた。


「悠斗、遥香さんと仲良くしているのか?」



和彦は、息子が遥香との関係をうまく築けていることを、

遥香の父にアピールしたかったのだろう。



悠斗は、和彦の期待に応えるように、

どこか上辺だけの言葉で答えた。



「遥香さんは、学園の絶対女王ですから、簡単には手が届かないし、気安く話しかけられる存在ではありません。僕には、畏れ多い存在です」




悠斗は、遥香が自分に興味がないことを隠し、

あたかも遥香が崇高な存在であるかのように

振る舞っていた。


その言葉に、遥香の父は、

悠斗が遥香を尊敬しているのだと勘違いし、

遥香に厳しい口調で告げた。



「遥香。悠斗と積極的に交流すべきだ」



父の言葉に、遥香は何も答えなかった。



悠斗は、さらに畳みかけるように、お世辞を続けた。


「それに、遥香さんは完璧な人だから、僕なんかは取るに足らない存在で、話していても退屈になってしまうでしょう」


悠斗にとって、

遥香の気分を害さないための、お世辞だった。


しかし、遥香は、内心で冷たく呟いた。


(…よく分かってるじゃない)



遥香は、悠斗の退屈な言葉や、

上辺だけの振る舞いに、心底うんざりしていた。




遥香は、目の前で繰り広げられる、

上辺だけの会話を、冷めた目で聞いていた。


父と宝来和彦の会話は、ビジネスと権力に満ちており、

悠斗の言葉は、ただの薄っぺらいお世辞に過ぎない。




(目の前にいるのが、優里だったら…きっと、退屈しなかったのに)



遥香にとって、悠斗との会話は、

ただの時間の浪費でしかなかった。


しかし、優里と話す時は、

彼女の純粋な心に触れることができ、

遥香の心は、温かく満たされていくのを感じていた。



元を辿れば、宝来グループの跡取りは、

優里だったはずだ。


しかし、大人の都合で、

その立場は、悠斗へと奪われた。


優里は、そんな理不尽な運命に翻弄され、

杜撰な扱いを受けている。


(よく平然と、他人の椅子に居座れたものだ)


遥香は、悠斗の傲慢な笑みを一瞥し、

内心でそう呟いた。


悠斗は、自分が優里の人生を奪ったという事実を、

微塵も気にしている様子がない。


その無神経さに、遥香は、深い嫌悪感を抱いていた。




遥香は、優里の人生を奪った悠斗を許すことができなかった。


そして、優里に、幸せな未来を与えたいと、強く願っていた。



遥香の父は、宝来和彦との商談を終えると、

穏やかな口調で和彦に告げた。


「では、私たちはお暇しましょうか」


そう言って、二人は席を立った。


宝来悠斗と遥香は、取り残される。


二人きりになった個室は、

先程までの張り詰めた空気から一転、

退屈で重苦しい沈黙が支配していた。



遥香は、父たちが去っていくのを見送ると、

露骨に退屈そうな表情を浮かべた。



悠斗もまた、遥香にどう接すればいいのか分からず、

ぎこちなくソファーに座っていた。


しかし、悠斗は、遥香の隣に立ち上がると、

エスコートをするために、そっと手を差し出した。


「遥香さん、帰りましょうか」


悠斗は、遥香に優しく微笑みかけたが、

遥香の反応は、悠斗の予想を遥かに超える冷たいものだった。


遥香は、悠斗の手を一瞥すると、

怒りのこもった鋭い声で言い放った。


「…触らないで」


遥香の声は、静かだったが、

その言葉には、悠斗を拒絶する、

強い意志が込められていた。


悠斗は、遥香の言葉に、驚きと、深い屈辱を感じた。


遥香が優里に優しく接し、

優里の頭を撫でたり、

手を繋いだりしているのを知っていた。


しかし、自分には、触れることすら許されない。


その事実に、悠斗の心に、遥香への愛情と、

優里への嫉妬が、ドロドロと渦巻いていた。





遥香は、差し出された悠斗の手を拒絶すると、

冷たい視線を悠斗に向けた。



「優里は、ビジネスの話をしても、きちんと答えられるのに…」



遥香の声は、静かだったが、その言葉には、

研ぎ澄まされた刃のような鋭さがあった。


「宝来グループの次期後継者である、宝来悠斗は、何も答えられないんだね」


遥香は、悠斗のプライドを、冷酷なまでに打ち砕いた。


悠斗の顔は、悔しさで歪み、何も言い返すことができなかった。


遥香の言葉は、悠斗が、

自分がいかに優里に劣っているかという事実を、

突きつけていた。



遥香は、悠斗の悔しそうな表情を一瞥すると、

それ以上何も言わずに、さっさと個室を後にした。


悠斗は、一人、部屋に残され、

遥香の冷たい言葉の余韻に、ただただ打ちひしがれていた。




遥香は、優里の人生を奪った悠斗を、

決して許すことができなかった。


そして、優里が、いかに素晴らしい人間であるかを、

悠斗に知らしめることで、

優里の無念を晴らそうとしていた。



遥香の心のなかには、優里を守るという強い決意と、

悠斗への深い嫌悪感が、渦巻いていた。





遥香は、高級レストランを後にすると、

運転手に車を呼ぶこともなく、

一人、夜の街を歩き始めた。


煌びやかなネオンが遥香の冷たい横顔を照らし出す。




遥香の足が向かったのは、優里が住むマンションだった。


遥香は、優里に、今すぐに会いたかった。


優里の温もりに触れ、自分の心を癒したかった。


優里のマンションのエントランスに辿り着くと、

遥香は、迷うことなくインターホンを押した。



優里は、インターホンが鳴り響く音に、

驚いて飛び起きた。


こんな時間に訪ねてくる人など、いないはずだ。


しかし、画面に映し出されたのは、遥香の顔だった。


優里は、遥香が自分のマンションに来たという、

信じられない事実に、言葉を失った。


優里は、慌てて扉を開け、

遥香をエントランスまで迎えに行った。


「遥香様…どうして、ここに…」


優里の声は、驚きと戸惑いで震えていた。


遥香は、優里の顔を見ると、

その冷たい表情を、少しだけ和らげた。


「…会いたかったの」


優里は、遥香の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。


優里は、遥香を家に招き入れた。




遥香は、何も言わずにソファーに腰を下ろした。


優里は、遥香が何も聞かずにいてほしいことを察し、

黙ってお茶を淹れ、遥香の前に置いた。


遥香は、そのお茶を一口飲むと、ため息をついた。


その顔には、先程のレストランでの出来事が、

いかに彼女を疲弊させたかを示すように、

深い疲労の色が浮かんでいた。


「…お疲れですか?」


優里は、遥香の顔を心配そうに見つめながら、

静かに問いかけた。


「…疲れた」


遥香の声は、静かだったが、その言葉には、

優里にだけ見せる、彼女の心の弱さがにじみ出ていた。


いつも完璧で、絶対的な女王として振る舞う遥香が、

素直に「疲れた」と認めたことに、優里は少し驚いた。


優里は、そんな遥香の素直さが、

とても愛おしく感じられた。


優里は、遥香の隣にそっと座ると、

遥香の手を優しく握った。


「…ここにいる時は、休んでください」


優里の言葉は、遥香の心に、温かい光を灯した。


遥香は、優里の優しさに触れ、

この場所が、自分にとって、

唯一の安息の場所であることを、改めて感じていた。


遥香は、優里の温かい言葉に安堵したのか、

突然、優里に強く抱きついた。


優里は、予期せぬ行動に、一瞬、息をのんだ。


遥香の体が震えているのを感じ、

優里はそっと背中に手を回した。


しばらく沈黙が続いた後、

遥香は優里の肩に顔を埋めたまま、

わずかに声を震わせて問いかけた。


「…優里は、私に何を望んでいるの?」


遥香の周りには、常に利益目的や、

自身の地位や権力を

利用しようとする人間ばかりが群がっていた。


彼女の圧倒的な存在は、多くの人々にとって、

踏み台や承認欲求を満たすための対象でしかなかった。


優里が、そういった目的ではないと、

遥香は重々承知していた。


しかし、育ってきた環境が、

遥香を深く疑り深くさせてしまっていたのだ。


本当は信じたいのに、心の奥底で、

確認せずにはいられなかった。


優里は、遥香の背中に回した手に、

さらに力を込めた。




「…遥香様に、そばにいてほしいんです」


その言葉は、遥香の心に、温かい衝撃を与えた。


モノや金銭的な要求ではなく、

ただ、そばにいてほしいという、清らかな願い。


遥香の周りには、そんなことを言う人間など、

一人もいなかった。


「…私が、ダイアモンドだから?」


遥香は、優里の肩から顔を上げ、

優里の瞳を見つめて問いかけた。


その目には、まだ少し不安の色が残っている。


優里は、首を横に振った。


「違います。私は…ずっと、孤独でした。遥香様のような、温かくて、強い人がそばにいてくれると、心が…癒されるんです」


優里の清らかでまっすぐな言葉は、

遥香の心の深い部分に届いた。


遥香は、優里のその答えに、

少し照れたように、口元を緩めた。


そして、少しからかうような口調で言った。


「…ツンデレって、言ってたのに」


優里は、温かく微笑んだ。


「はい。ツンデレでも、優しくしてくれるって、知ってますから」


その笑顔に、遥香の心の氷が、

かすかに溶けていくのを感じた。



優里といることができれば、

自分の冷え切ってしまった

この心も

いとも簡単に溶かしてくれるかもしれない。



長年にわたり誰も触れられなかった

遥香の氷の領域は、

優里という

ブロンズ上がりの生徒により、

少しずつ温められていくのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ