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ダイアモンドクラス  作者: 優里
プラチナ昇格

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94/96

愛ゆえの嘘






優里は、ダイアモンドラウンジのソファで、

項垂れていた。


遥香の「優里はタイプじゃない」という言葉が、

優里の心に深く突き刺さっていた。


優里は、遥香が自分を思って、

あえて突き放したのだと理解してはいたが、

それでも、遥香の言葉は優里の心を深く傷つけていた。




ダイアモンドメンバーたちは、

そんな優里を心配そうに見つめていたが、

誰も優里に声をかけることができなかった。




遥香の言葉は、優里への愛ゆえの嘘だった。


遥香は、自分の人生が、

宝来悠斗との婚約という、

悲しい運命に縛られていることを知っていた。


遥香は、優里の人生を、

自分と同じように、不幸にしたくなかったのだ。


遥香は、自分を犠牲にすることで、

優里の幸せを守ろうとしていた。



しかし、朔也は、遥香の言葉を聞き、

遥香の矛盾を指摘した。


「優里を一番守りたいと言っていた人が、どうして優里を一番傷つけているんだ?」


朔也の言葉は、遥香の心を抉るように響いた。


遥香は、優里を守りたいと心から願っていた。


しかし、結果として優里を深く傷つけてしまった。



「優里は、私のそばにいたとしても幸せになれない」


「私といると、優里は、いつか必ず不幸になってしまう」



朔也は、遥香の言葉に、

これまでの遥香の行動の矛盾を突きつけた。


「それなら、俺と優里が付き合ったとしても、何も言うな」


朔也の言葉に、遥香は動揺を隠せなかった。




「俺が優里に手を出さなかったのは、あの子が遥香のそばにいるべき存在だと思っていたからだ」


「でも、君がその存在を自ら手放すなら、容赦しない」



朔也は、遥香に、自分自身の心と向き合うように促し、

その場を去っていった。






遥香がダイアモンドラウンジに戻った時、

遥香の目に飛び込んできたのは、衝撃的な光景だった。


優里は、朔也の腕の中に抱きしめられていた。


「朔也……?」


遥香は、信じられないという表情で、

優里と朔也を見つめた。


優里は、遥香の存在に気づき、

驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。


ダイアモンドメンバーたちも、

この状況に驚きを隠せなかった。


彼らは、朔也が、遥香を試すために、

このような行動に出たのかと、考えを巡らせていた。




遥香は、優里を突き放したばかりなのに、

優里が他の誰かの腕のなかにいるという事実に、

嫉妬と後悔の念に駆られた。


そんな遥香に、ダイアモンドメンバーたちは、

残酷な事実を突きつけた。


「遥香がもたもたしているから、朔也に取られちゃったんだよ」


「遥香、優里のこと、好きじゃないって言っただろ?だったら、優里が誰と付き合おうと、文句は言えないよな」




遥香は、自分の嘘が、

優里を他の誰かの腕のなかに追いやったという事実に、

胸が張り裂けそうな思いになった。


遥香は、優里を守るために、優里を遠ざけようとした。

しかし、その結果、

優里は、遥香から離れていってしまったのだ。




優里が朔也の腕のなかにいるのを見た遥香は、

翌日から、強い嫉妬に駆られるようになった。


優里が朔也と親密になる姿を見て、

遥香は、次第に自分の気持ちに

嘘をつくことができなくなっていく。


遥香は、朔也と話す優里に、常に視線を送っていた。


優里が朔也に微笑みかけるだけで、

遥香の心は、激しい嫉妬に燃え上がった。


(優里は、私のものなのに……)


遥香は、心のなかで、そう叫んでいた。



遥香の嫉妬を目の当たりにした真佑は、

遥香の心をさらにかき乱すように、

残酷な事実を突きつけた。


「優里は、朔也のパートナーだったんだから、二人が本当に付き合ってもおかしくないよ」


遥香は、優里を突き放したことが、

どれだけ大きな過ちであったかを、

改めて思い知らされた。




遥香は、気づけばダイアモンドラウンジで

朔也と話している優里の元へと向かっていた。


「優里、話があるの」


遥香は、優里の手を掴み、

誰もいない場所へと優里を連れ出した。


「優里は、私が最初に見つけた存在だよ。朔也には、渡したくない」


遥香は、嫉妬と独占欲が混じり合った、

強い言葉で伝えた。



「遥香様は宝来悠斗と婚約しているんですよね?」


「遥香様が誰と婚約していようと、私が誰と付き合おうが、遥香様には関係ないはずです」


「朔也様が待っているので失礼いたします」


優里はさっさと帰っていく。


遥香は、優里を失うことの恐怖に、

ついに耐えられなくなった。



『どうして……どうして、私は、優里を失うようなことをしてしまったんだろう……?』





翌日も、遥香がダイアモンドラウンジに

入ろうと手を伸ばしたところで

その手は空中で停止された。


ダイアモンドラウンジから聞こえてくる、

朔也と優里の声に、激しい嫉妬を覚えた。



遥香は、優里の元へと駆け寄りました。


優里が他の誰かのものになることを、

遥香は決して許すことができなかった。



遥香がダイアモンドラウンジに飛び込んだ時、

優里は朔也とソファーに座っていた。


「遥香様、おはようございます!」


「…どうしたんですか?」


優里は、遥香のただならぬ様子に、

心配そうな表情で尋ねた。


しかし、遥香は何も言葉を発さず、

ただ、優里の元へと近づいていく。


遥香の瞳には、嫉妬と後悔、

そして優里への深い愛が入り混じっていた。


自分の臆病さと、優里を失うことの恐怖に打ち勝ち、

優里を自分のものにしたいという

強い思いに駆られていた。


遥香は、優里の目の前に立つと、

優里の頬を両手で包み込んだ。



「朔也じゃなくて、私を選んで……」



遥香の言葉は、ダイアモンドのナンバーワンらしからぬ、

優里を失うことの恐怖が入り混じった、切ない叫びだった。


自分の臆病さと、優里を守りたいという思いが、

優里を不幸にすると信じ込んでいたことに、

後悔の念で胸が張り裂けそうだった。




「本当に、手がかかるお姫様だ」


どうやら、朔也は、遥香の嫉妬心を

煽るための芝居だったようだ。


玲司と向井も、呆れた表情でラウンジに入ってきた。


すべて朔也の計画通りで、一部始終は筒抜け。


朔也は、手がかかるお姫様たちのために、

自らが悪役を演じることで、二人の背中を押していた。




「よかったな、朔也」


悠は、朔也の肩を叩いた。


「遥香は、本当に不器用なやつだからな。優里が、しっかり支えてやってくれ」


朔也の言葉は、優里へのメッセージだった。


優里は困惑してなにがなんだかわからない。


朔也は呆れながらも、

「ほんと、手のかかるお姫様だな」と笑っていた。


悠の説明により、なんとか状況把握できた優里。


朔也は、安堵しながらも、

二人に、残された問題を突きつけた。


「だからといって、遥香と宝来悠斗の婚約が解消されたわけじゃない」


朔也の言葉は、二人の心を現実に引き戻した。


遥香は、未だに宝来悠斗の婚約者であり、

このままでは、遥香は、幸せになることができない。




「優里、そこで俺から提案がある。お前が、宝来グループの本当の跡取りになれば、問題ないと思わないか?」


朔也の言葉は、優里の人生を大きく変えるものだった。


優里が、宝来グループの本当の跡取りになれば、

遥香は、悠斗との婚約を解消することができる。


朔也の提案に、

ダイアモンドメンバーたちは

苦悩に満ちた表情を浮かべた。


「跡取りにすることは決めたものの、そう簡単にはいかない。俺たちは、あくまでも学内においてはトップだが、まだ子供だ。会社の決定権など、あるわけがない」


悠の言葉に、他のメンバーたちも頷いた。


彼らは、優里を助けたいという気持ちは本物だが、

会社の跡取りという、あまりにも大きな問題に、

自分たちの無力さを痛感していた。


優里もまた、宝来グループの跡取りになることの

難しさを理解していた。


「だからといってこのまま何もしないわけにはいかないだろう」


「そうだが、子どもにできることなど限られている」


「そのなかで何ができるか作戦を立てよう」



優里を助けるために、

ダイアモンドメンバーたちは、

それぞれの得意分野を活かした作戦を立てた。


朔也は、宝来グループの経営陣と株主に対して、

優里が持つ宝来グループの本当の跡取りであるという証拠と、

宝来悠斗の不正を突きつけた。


優里の持つ正当な権利を主張し、

株主たちを味方につけようとした。




悠は、宝来グループが持つ、

将来的な可能性を最大限にアピールした。


優里が、宝来グループの事業を拡大し、

新たな市場を開拓できることを示した。



玲司と向井は、宝来悠斗の悪事を

世間に公表する準備を始めた。


もし、宝来グループが優里を跡取りとして認めない場合、

彼らは、悠斗の不正をメディアにリークし、

宝来グループのイメージダウンを狙おうとした。


ダイアモンドメンバーたちは、自分たちの持つ限られた力と、

優里への友情を武器に、優里の未来を切り開くために、

力を合わせた。




朔也は、優里と遥香が楽しそうに

笑い合っている姿を、遠くから眺めていた。


優里は、かつてのいじめられ、

孤独だったブロンズの自分ではなく、

遥香を信じ、強く生きる存在になっていた。


しかし、朔也は、

優里を宝来グループの跡取りに引きずり出せば、

優里の笑顔が再びなくなってしまうのではないかと、

苦悩していた。


朔也自身も跡取りであり、

その大変さは、誰よりもよくわかっていた。


「このまま、優里を自由にさせてあげるべきなのか……それとも、遥香との未来を掴むために、優里を跡取りにするべきなのか……」


朔也は、優里の笑顔と、二人の未来の間で、

どうするのが良いのか、深く悩んでいた。




玲司たちは朔也に、残された問題を突きつけた。



「で、婚約の件はどうなるんだ?」


玲司の問いかけに、朔也は首を横に振る。


その表情は、苦悩に満ち溢れていた。


朔也は、優里を宝来グループの跡取りにすることで、

遥香と宝来悠斗の婚約を解消しようと考えていた。


しかし、朔也は、その計画が、

優里を再び苦しめるのではないかと、深く悩んでいた。





優里は、遥香の高級車に乗り込み、

都会の中心部へと向かっていた。


窓の外を流れる、煌びやかな高層ビルや、

行き交う人々の洗練されたファッションに、

優里はただただ圧倒されていた。


ブロンズの自分とは、全く違う世界。


遥香が、そんな世界へと、優里を連れ出そうとしていた。



優里と遥香が、午後の陽光が眩しい

都会の通りを並んで歩いていると、

周囲の視線は否応なく遥香に吸い寄せられた。


歩く姿さえも絵になるような遥香の圧倒的な美貌は、

まるで磁石のように人々の目を惹きつける。



すれ違う女性たちは、遥香の完璧なプロポーションと、

その凛とした佇まいにため息をつき、憧憬の眼差しを送る。


高級ブランド店の前を通りかかると、

店の奥から出てきたマダムたちが、

遥香の優雅さに一瞬動きを止め、

見惚れているのがわかる。



特に目を引くのは、街を歩くイケメンたちの視線だった。


彼らは、一様に遥香の姿を捉え、驚嘆と興味の色を瞳に宿らせる。


なかには、思わず足を止め、

振り返って遥香の後ろ姿を追いかける者もいるほどだ。


遥香の放つオーラは、性別や年齢を超え、

人々を魅了する特別な力を持っているようだった。



優里は、そんな周囲の熱い視線を肌で感じながら、

隣を歩く遥香の横顔をそっと見上げた。


遥香は、周囲の騒めきなどまるで気にも留めず、

ただ前を見据えて歩いている。


その冷たい横顔は、人工的な輝きを一切拒絶し、

自然な美しさだけを放っていた。



誰もが手を伸ばしたくなるような、

学園の頂点に立つ絶対的な女王。



しかし、そんな遥香の目に映っているのは、

広い道路をせわしなく歩く周りの人々ではなく、

隣を歩く、自分よりも背の低い、

不安そうな顔をした小さな少女だけだった。


自身に向けられる熱い視線のあらゆる妨害も、

遥香の意識のなかには存在しないかのようだった。


遥香にとって、周りの評価など、

取るに足らないものだったのだろう。


彼女の世界観の中心にいるのは、常に優里ただ一人。


周囲の注目がどれほど熱くても、遥香の目が捉え、

心を向けているのは、隣を歩くか弱い優里だけなのだ。


遥香は、優里の隣を歩きながら、ふいに投げかけた。。


「…私は、優里が中等部だった頃のことは、知らない」


それもそのはず、ダイアモンドに所属する遥香たちは、

優里が本来いたブロンズとは、

全く異なる世界に住む人間だった。


学園の廊下で、すれ違うことさえもなかった。


優里が中等部時代に、遥香の存在を認識していたとしても、

遥香が優里を認識することは、ありえないことだった。


ましてや現在のように言葉を交わすことはもちろん、

隣りを歩くことさえ許されなかった。



「…私は、遥香様のことを知っています」


優里は、そう言って、遥香の横顔を見つめた。


その瞳には、遠い日の記憶を辿るような、

懐かしさと、どこか切なさが宿っていた。




優里は、中等部時代、いつも遠くから遥香を見ていた。


彼女が学園の頂点に君臨する、絶対的な女王として、

常に人々の注目を集めていたことを知っている。


優里は、遥香が、自分とは全く違う、

手の届かない世界に生きる存在だと、ずっと思っていた。




遥香は、優里の言葉に、何も答えなかった。


しかし、その表情は、どこか不思議そうな色を帯びていた。


優里が、自分の中等部時代をどのように見ていたのか。


遥香は、その真実を知りたいと、かすかに思っていた。


優里は、遥香の問いかけるような視線から、そっと目を逸らした。


「私の…中等部の頃のことを知ったところで、何もないですよ」


優里の声は、どこか諦めを含んでいた。


遥香の輝かしい日々とは違い、

優里の中等部時代は、常にモノクロの世界だった。





朝起きて、学校へ行き、授業を受け、家に帰る。




ただそれだけの、つまらない日常。


優里は、誰にも話しかけることもなく、

誰からも話しかけられることもなく、

一人で孤独に時間を過ごしていた。




そんな自分の、色もない、意味もない日常を、

この学園の絶対的な女王である遥香が知ったところで、

何になるというのだろうか。


優里は、遥香が自分の過去を知ることで、

彼女のなかにある自分のイメージが、

壊れてしまうのではないかと、漠然とした不安を抱いていた。



遥香は、優里の言葉に、

何も答えることなく、優里の隣に立ち止まった。


そして、道行く人々の視線など気にも留めず、

大胆に優里の顔を両手で包み込んだ。


その手は、優里の頬に触れた瞬間、

遥香の心の温かさが伝わってくるようだった。


「…そんなこと、ない!」


遥香の声は、優里がこれまで聞いたことのない、

感情に満ちたものだった。


優里は、突然の遥香の行動に、驚きを隠せないでいた。


「どうして、私たちと違うと思うの? ダイアモンドだから何? 私たちだって、ただの人間だよ。悩むことだって、たくさんある。私だって…みんなが思うほど、強くはない」


遥香の瞳には、優里の知らない、

弱くて、孤独な遥香の姿が映っていた。


「それなのに、優里だけは、私の境界線を壊してくれた。優里は、私のことを、ダイアモンドとして見なかった。遥香という、一人の人間として、見てくれた…」


「だから、優里だけには…優里に興味がないなんて、思われたくない!」


遥香は、優里の顔を両手で包み込んだまま、

優里の瞳をまっすぐに見つめた。


その瞳には、優里に自分の本心を理解してほしいという、

遥香の切ない願いが宿っていた。



遥香は、孤独だった。


そして、優里と同じように、

人々に理解されない苦しみを抱えていた。


遥香は、優里の心を、

ただの同情や、気まぐれで見ていたのではない。



優里は、遥香の言葉に、ただただ圧倒されていた。


遥香は、この学園の誰もが恐れ、憧れる、

気まぐれな女王様だったはずだった。


彼女の行動は、常に予測不能で、

その真意を測ることは、誰にもできなかった。



しかし、優里に対しては、その様子が全く違っていた。



確かに、二人の出会いは、

遥香の気まぐれから始まったのかもしれない。


優里を「おもちゃ」と呼び、

彼女の反応を楽しむかのような態度。


しかし、それは、遥香が優里という存在に、

興味を持ったからこその行動だった。



遥香の、優里への態度は、決して気まぐれではなかった。


優里が悠のパートナーだった頃から、

遥香は、優里の小さな変化を見逃さず、

彼女の行動を、ずっと見守っていた。


そして、優里が窮地に陥った時には、

自分の立場やプライドを投げ打ってまで、

彼女を守ろうとした。



遥香は、優里の純粋な心に触れ、

優里にしか見せることのできない、

弱い自分を、少しずつ見せていた。


それは、遥香にとって、生まれて初めての、

心からの繋がりだったのかもしれない。




優里は、遥香が「気まぐれ」という仮面を被って、

孤独な自分を守っていたことを悟った。


そして、その仮面を壊してくれたのが、

自分だったという事実に、

優里の心は、深い感動で満たされていった。



遥香は、優里の過去、

特に自分がまだ知らなかった頃の優里の日常が、

どうしても気になっていた。


モノクロームだと語るその日々に、

果たしてどんな色彩が混じっていたのだろうか。


遥香は、優里の全てを知りたいと、心の奥底で強く願っていた。




街を歩きながら、遥香は、

何気ない会話の流れを装い、さりげなく優里に問いかけた。


「…中等部の頃は、誰か付き合っていた人とか、いたの?」


遥香の声は、普段の冷たい調子を保ちつつも、

少し探るようなニュアンスを含んでいた。



それは、絶対的な女王が見せる、人間的な一面だった。



優里は、予期せぬ質問に少し驚いた表情を見せたが、

すぐにいつもの落ち着きを取り戻し、素直に答えた。


「いいえ。毎日が退屈で、恋愛には全く興味がありませんでした」


優里のその答えを聞いた瞬間、

遥香の胸の奥に、温かい安堵の波が広がった。


それは、自分以外の誰かが、

まだ遥香の知らない頃の優里の隣にいた可能性が

消えたことへの、とても個人的な感情だった。



遥香は、その安堵を悟られないように、

何事もなかったかのように歩き続けたが、

その冷たい横顔には、かすかな喜びの色が差していた。


絶対的な女王にとって、それはとても小さいながら、

かけがえのない安らぎだったのだ。




遥香のかすかな安堵を察することなく、

優里は、遠い記憶を辿るように、静かに語り始めた。


「遥香様は…中等部の頃から、モテモテでしたよ。私たちブロンズの人間にとっては、まるで別世界の人で、とても手が届くような存在ではありませんでした」


優里の声は、清らかで、

嘘偽りのない幼い頃の記憶を語るようだった。


「どこへ行くにも、告白の嵐でした。私はいつも一人でいたいと思っていたのに、偶然行く先々で、遥香様への告白シーンに遭遇してしまったんです」


優里は、少し困ったように微笑んだ。


それは、恨み言というよりも、

ただの事実を述べているようだった。


「それくらい…遥香様は人気でした」



絶対的な女王への幼いながらも純粋な憧憬を表していた。




優里は、遥香の隣を歩きながら、ふと寂しそうな表情を浮かべた。


「中等部の頃は、学園のどこへ行っても、遥香様を見ることができました。でも、今は…ダイアモンドラウンジでしか、お会いできませんね」


優里の言葉には、遥香を遠くからでも見ることができた、

あの頃の日々を懐かしむ気持ちが滲んでいた。


遥香は、優里の言葉を聞いて、立ち止まった。


そして、優里の瞳をまっすぐに見つめた。



「…学園内で、私に会いたい?」



遥香の声は、静かだったが、

その言葉には、優里の気持ちを確かめようとする、

どこか期待に満ちた響きが含まれていた。


しかし、優里は、その期待に応えることができなかった。



「…その方が、みんなは喜びます」



優里は、そう言って、遥香から視線を逸らした。



それは、遥香という絶対的な存在を、

自分だけのものにすることはできないという、

優里のなかにある諦めだった。




しかし、優里の心の奥底には、別の感情が隠されていた。



(本当は…ダイアモンドの遥香様に、自分だけが会えるという特別感と、この独占欲を…認めたくない)


優里は、そう思っていた。


遥香が、自分だけのために、

ダイアモンドラウンジという特別な場所で待っていてくれる。


その事実に、優里は、喜びと、

そして、誰にも遥香を渡したくないという、

強い独占欲を感じていた。



しかし、ブロンズである自分が、

そんな感情を抱くことは、

許されないことだと思っていた。


「ふーん、私を独り占めしたいんだ?」


「…えっ!」



遥香は、優里の言葉の裏に隠された、

優里の複雑な感情を、すべて見抜いていた。


遥香は、優里の小さな背中を、そっと抱きしめた。


その温もりが、優里の心のなかの葛藤を、

優しく溶かしていくようだった。





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