破られた約束
優里が遥香への憧れを語るのを聞き、
ダイアモンドメンバーたちは焦り始めた。
このままでは、優里の遥香への気持ちが、
ただの「憧れ」で終わってしまうのではないかと
不安になった。
彼らは、優里と遥香が、もっと多くの時間を共有し、
お互いの感情に深く向き合う機会を与えるための、
新たな計画を立て始める。
真佑と向井は、
優里に遥香がどれほど
優里のことを大切に思っているか、
そして優里のために
どれほど努力したかをさりげなく伝えた。
しかし、優里は感謝の気持ちよりも、
申し訳なさそうな顔で俯いてしまう。
「そうですよね、私のせいで遥香様にたくさんの迷惑をかけていたんですね」
優里の言葉に、真佑と向井は戸惑った。
優里は遥香の愛を「迷惑」だと受け取ってしまったのだ。
「優里、それは違うよ」
真佑は優しく告げた。
優里は長年にわたり傷つけられてきたため、
このままでは自己否定にしずんでしまう。
それは避けなければならなかった。
第一、余計なことをして優里を励ますどころか
落ち込ませたなんて遥香に知られたら
自分たちの立場が危うくなるだけでなく
遥香の怒りは測り得ない。
「遥香が優里のために頑張ったのは、迷惑だなんて思っていないからだよ。むしろ、優里を助けることが、遥香にとっての幸せだったんだ」
続いて向井が言葉を継いだ。
「そうだよ。もし本当に迷惑だったら、俺たちに優里の居場所を教えたり、助けを求めたりしないだろ?遥香は優里を助けたくて、一人で頑張っていたんだ」
二人は、遥香がどれだけ優里を想い、
そのために必死になっていたかを具体的に話した。
遥香の行動は義務や迷惑からではなく、
純粋な愛から生まれていたのだと、
優里に気づかせようとした。
「遥香様にとって、私を助けることが幸せだった……」
優里は、遥香がどれだけ優里のことを想い、
そのために必死になっていたかを考えた。
優里は、遥香が、自分のことを、
ただの「ブロンズ」として見ていたのではなく、
一人の人間として、
大切に思ってくれていたのだと気づき始めた。
「遥香様って、本当に、メンバー想いの優しい人なんだ……」
しかし、優里は、遥香の優しさが、
自分だけに向けられたものではなく、
ダイアモンドメンバー全員に向けられた、
大きな愛であると、改めて感じてしまっていた。
優里が、遥香への気持ちに
少しずつ変化を感じ始めている頃、
朔也は、二人がじっくりと向き合える機会を作ろうとした。
「遥香、優里。今日は二人でゆっくり話してくるといい」
朔也は、ダイアモンドラウンジにいた
他のメンバーたちに目配せをし、
彼らをラウンジから出した。
ラウンジには、優里と遥香だけが残された。
「朔也様……?」
優里は、戸惑いながらも、
遥香と二人きりになれたことに、胸が高鳴っていた。
遥香は、優里と二人きりになったことに
喜びを感じながらも、
優里が戸惑っているのを見て、申し訳なさそうにしていた。
「ごめん、気を使わせちゃったみたいで……」
遥香は、優里の表情を見て、
優里がまだ、遥香を「憧れの人」として、
遠い存在だと感じていることを察していた。
それもそのはず、
遥香はダイアモンドのメンバーのなかでもトップの存在。
そんな高嶺の花の存在である遥香とふたりきりにされるなど、
繊細で気を遣いがちな優里からすれば、
「自分がなんとかしなくては」と
思ってしまう最大の要因であり、
極度の疲労に陥る可能性がある。
優里は、遥香の言葉に、
胸が締め付けられるような痛みを感じた。
遥香は、優里が自分に気を使っていると、
誤解している。
遥香は、優里に、
そんな風に思わせたくなかったのだと、
優里は気づいた。
遥香は、優里の戸惑いを感じ取り、
二人の間に流れる重い空気を和らげようと、
優しく問いかけた。
「プラチナにはもう慣れた?」
遥香の言葉は、優里の胸に、温かい光を灯した。
遥香は、優里がプラチナへと昇格したこと、
そして、その変化に、
優里がまだ戸惑っていることを、理解してくれていたのだ。
「いえ…」
「あの私、学園の施設自体、よくわかっていないんです」
優里の言葉に、遥香は驚きを隠せなかった。
幼稚舎は、他の校舎だったため、
中学生から現在の校舎で過ごしていたが、
優里は悠と出会うまでずっとブロンズだったため、
ブロンズが使えるエリアしかわからないのだ。
優里は、いじめられ、孤独だった
ブロンズでの日々を思い出していた。
優里にとって、学園は、
自分の世界を広げる場所ではなく、
ただただ耐え忍ぶ場所だった。
遥香は、優里の過去の孤独な日々を知り、優しく告げた。
「朔也のパートナーバッジがあれば、基本的にランクを問わず、どのエリアにも入ることができるんだよ」
「それに、優里はプラチナに上がったんだから、ダイアモンドのフロア以外に制限がかかることもないんだよ」
遥香は、優里に、
もう一人であの時のような孤独に
耐えなくてもいいのだと、伝えたかったのだ。
優里は、遥香の優しい言葉に、
心が温かくなるのを感じた。
優里が、遥香の優しい言葉に、
心が温かくなっている頃、
悠がダイアモンドラウンジにやってきた。
「遥香、朔也が呼んでるよ!」
遥香は、悠に「いまいく」と告げると、
優里に微笑みかけた。
「ごめんね、また今度ゆっくり話そう」
遥香が立ち上がり、
悠の後を追ってラウンジを出ていくのを見て、
優里は胸が締め付けられるような痛みを感じた。
遥香がラウンジを出ていった後、
優里は一人、ラウンジに座り、
胸の痛みの正体を探していた。
『この胸の痛みは、何だろう……?』
優里は、遥香が自分から離れていくことに、
孤独や悲しみとは違う、
もっと強い、切ない感情を感じていた。
遥香が朔也の元へ行くと、
朔也は険しい表情で遥香を待っていた。
「どうしたの、朔也?悠が呼んでたけど」
朔也は、遥香の問いかけに、重い口調で告げた。
「遥香……宝来悠斗が、優里との約束を破ったようだ」
朔也の言葉に、遥香は驚きを隠せなかった。
遥香は、優里が悠斗に、自分との婚約を破棄させ、
その代わりに悪事を隠してあげたことを知っていた。
悠斗が約束を破ったということは、
遥香と優里の関係に、
再び大きな障壁が立ちはだかったことを意味していた。
遥香と朔也がダイアモンドラウンジに戻ってくると、
優里が一人、椅子に座っていた。
「優里……」
遥香は、優里に、
今にも駆け寄りたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、遥香は、悠斗が約束を破ったという事実を、
優里に伝えることはできなかった。
このままでは、婚約が進んでしまい、
遥香は、悠斗と結婚しなければならなくなってしまう。
しかし優里のそばにいれば、
察しのいい優里は何かがおかしいと気づいてしまう。
遥香は、優里の前で苦悩を見せることはできなかった。
遥香は、優里を信じ、優里を守るために、
一人でこの困難に立ち向かうことを決意した。
遥香の苦悩を察したダイアモンドメンバーたちも、
その場にいることに耐えられなかった。
朔也が宝来悠斗が約束を破ったことを伝えた後、
彼らは遥香と優里がラウンジに戻ってきてからも、
その事実を優里に悟られないように、
努めて明るく振る舞った。
「優里、またみんなでゲームやろうぜ!」
悠は、いつものように優里に話しかけた。
しかし、その笑顔には、いつものような無邪気さはなく、
遥香への深い心配が滲み出ていた。
真佑と向井も、優里に話しかけたが、
その声には、どこか悲しみが混じっていた。
遥香は、ダイアモンドメンバーたちの優しさに、
胸が締め付けられるような思いだった。
ダイアモンドのトップであるはずなのに、
自分一人では優里に
隠し事をすることさえもままならない。
それは、遥香が無力なのか、
優里が察しがいいからなのかは、
わからなかった。
遥香は優里に悟られず、
余計な心配をかけないように
一人でこの困難に立ち向かうことを決意した。
一方、優里が、悠の呼びかけに笑顔で応え、
ダイアモンドラウンジにある
テーブルに向かおうとした、その時。
優里の腕を、遥香が、咄嗟に掴んだ。
優里は、遥香の突然の行動に、驚きを隠せなかった。
遥香の手は、優里の腕を強く握りしめていたが、
その手は、いつになく震えていた。
「遥香様……?」
優里は、遥香の顔を見つめた。
遥香の表情は、苦悩と悲しみに満ちていた。
(本当は、助けてほしいっていいたい…)
(もう、お飾りのダイアモンドのナンバーワンは懲り懲り)
(…でも優里に言えば、優里にまでこの苦悩を背負わせることになる。やっと戻ってきてくれた存在なのに、また手放してしまうの…?)
遥香は、優里の腕を強く握りしめながら、
何も言葉を発することができなかった。
優里の腕を離し、
苦しそうな表情で、優里に告げた。
「ごめん……」
遥香は、それだけを告げると、
ラウンジから走り去っていった。
優里は、ラウンジに取り残され、
遥香が残した、
「ごめん」という言葉の重さに、
心を揺さぶられていた。




