遥香の気遣い
日向朔也は、優里を守るために、彼女に付き添い、
そばにいる時間が増えるにつれ、ある事実に改めて気づかされていた。
優里は、ダイアモンドメンバーにふさわしい、
圧倒的な可愛さを持っていた。
優里がブロンズランクにいるのは、宝来グループの陰謀によるもの。
しかし、彼女が本来いるべき場所ではないブロンズランクにいたからこそ、
彼女の魅力は、より一層際立って見えた。
優里の持つ、純粋な心、そして、誰にも媚びない強さ。
朔也は、そんな優里の魅力に、頭を悩ませていた。
優里を守りたい。
しかし、優里の持つ魅力が、
新たな悪意を引き寄せてしまうのではないか。
朔也は、優里の魅力を、
どのように守っていくのか、頭を悩ませていた。
優里は、ダイアモンドメンバーたちの保護の下、
危険な視線や接触からは守られていた。
しかし、優里を狙う悪意は、水面下で、新たな動きを見せていた。
優里が、朔也たちに守られていること。
そして、プラチナランクへの昇格を待っていること。
これらの事実は、優里を妬み、
陥れようとする者たちの怒りを、さらに燃え上がらせていた。
まだ残暑が厳しく、生徒たちは各々、冬服を着たり、
なかには夏服で過ごしている生徒もいた。
そんななか、遥香の際立つ美しさが、学園中の注目を集めていた。
ブレザーを脱いだ遥香は、モデルのようなすらりとした手足と、
高身長が際立っていた。
風になびく艶やかな黒髪と、圧倒的な美貌は、
まさにダイアモンドメンバーの中でもひときわ輝く存在。
優里は、そんな遥香の美しさに見惚れる一方で、
自分との間に横たわる、埋めようのない隔たりを改めて痛感していた。
しかし、遥香の美しさは、優里の劣等感を刺激するだけでなく、
優里の心に秘められた、遥香への特別な感情を、
さらに強くするものでもあった。
優里は、放課後のダイアモンドラウンジの片隅で、
ずっと遥香の姿を眺めていた。
遥香は、他のダイアモンドメンバーたちと談笑しており、
その美しい佇まいは、ラウンジの中でもひときわ目を引いていた。
優里は、遥香の姿を目で追うだけで、
胸がいっぱいになり、話しかけることなど考えられない。
遥香の美しさは、優里にとって、憧れの象徴であると同時に、
決して手が届かない存在であることを、改めて意識させるものだった。
そんな優里の様子に気づいた真佑は、優しく優里に近づいた。
「優里ちゃん、あんなに遥香のこと見てるなら、話しかければいいのに」
真佑の言葉に、優里はハッとした。
「え……いや、そんな……」
優里は、慌てて視線を逸らしたが、
真佑は、優里の気持ちを見透かしたように、微笑んだ。
真佑の言葉に、優里は顔を赤らめ、視線をそらした。
(話しかける……?)
優里の心のなかでは、遥香に近づきたいという気持ちと、
遥香に釣り合わない自分への劣等感が激しく葛藤していた。
遥香は、ダイアモンドメンバーの中でもNo.1の存在。
そんな彼女に、自分が話しかけていいのだろうか。
話しかけて、どう思われるだろうか。
優里は、臆病風に吹かれ、その場で立ち尽くしてしまいた。
しかし、そのとき、遥香が優里の方を振り向き、優しく微笑みかけた。
「優里、こっちにおいで」
遥香のその言葉に、優里は、葛藤を振り払い、小さく頷いた。
そして、勇気を出して、遥香の元へと歩み始めた。
「遥香様の……その、今日の格好、すごく素敵です」
優里は、顔を少し赤らめながら、勇気を振り絞って言った。
遥香の夏服の着こなしは、シンプルながらも洗練されていて、
そのスタイルは優里にとって、ずっと憧れの的だった。
「ずっと、言いたかったんですけど……なかなか、言えなくて」
優里は、そう付け加え、少し恥ずかしそうに視線を落とした。
優里の言葉に、遥香は少し驚いたように目を丸くしたが、
すぐに優しく微笑んだ。
「ありがとう、優里。すごく嬉しい」
遥香は、そう言って優里の頭をもう一度、優しく撫でた。
その温かい手つきに、優里の心は安らぎに満たされた。
「でも、優里もすごく可愛いよ。夏服、とても似合ってる」
遥香は、優里の顔を覗き込むようにして、そう告げた。
その言葉は、優里の心に、遥香への特別な気持ちを、
再び強く呼び起こした。
優里は、遥香に褒められ、顔を赤く染めていた。
そんな優里の様子を見ていた日向朔也たちは、首を横に振った。
(これでは、ただの憧れどまりだ)
朔也たちは、優里が遥香への気持ちを
「憧れ」だと勘違いしていることに気づいていた。
優里が、遥香への感情に気づき、
遥香に自分の気持ちを伝えるためには、
さらなる「きっかけ」が必要だと、朔也たちは考えていた。
日向朔也の計画は、静かに実行された。
遥香は、優里の視界に入る場所で、
プラチナランクの生徒と親しげに話していた。
遥香は、時折楽しそうに微笑み、
その姿は、まるで二人が特別な関係にあるかのように見えた。
優里は、その光景を遠くから見ていた。
胸がチクチクと痛み、心臓が締め付けられるような、
苦しい気持ち。
それは、憧れの対象が、遠くへ行ってしまうような、そんな寂しさ。
篠原悠たち他のダイアモンドメンバーは、
優里の苦しむ姿に胸を痛めていたが、
「優里の幸せのため」という朔也の言葉を信じ、じっと見守っていた。
優里は、ダイアモンドメンバーたちの会話を、偶然耳にしてしまう。
「遥香とプラチナの生徒、すごくお似合いだよね」
「もしかしたら、本当に付き合ってるのかもね」
その時、優里は、
遥香がプラチナの生徒と楽しそうに話している姿を目撃してしまう。
遥香の優しい笑顔と、楽しそうな声。
優里の心は、遥香を独り占めしたいという、
強い感情に支配されていった。
優里は、いまだに遥香を憧れの人として見ていた。
遥香は、ダイアモンドのなかでもNo.1の存在。
そんな遥香と、自分との間には、
埋めようのない隔たりがあると、優里は勝手に思い込んでいた。
「遥香様は、私とは住む世界が違う」
優里は、そう自分に言い聞かせ、
遥香への気持ちを、憧れという言葉で片付けようとした。
優里が自分との間に壁を感じる一方で、
遥香は朔也の計画に従い、
プラチナランクの生徒と親密になっていく。
遥香は、優里の心に嫉妬心を芽生えさせることが、
優里の本当の気持ちを引き出すための唯一の方法だと信じていた。
しかし、プラチナの生徒と過ごす時間は、
遥香の心にも複雑な感情を抱かせていた。
プラチナの生徒は、優里とは違う、遥香の心を理解してくれる存在。
彼は、遥香の孤独や、
優里への複雑な感情を優しく受け止め、
遥香に安らぎを与えてくれた。
遥香は、優里への想いと、
プラチナの生徒への安らぎの間で、揺れ動いていた。
優里が遥香への想いを憧れだと片付けようとし、
遥香が優里の幸せのために、
プラチナランクの生徒との関係を深めていくなか、
朔也たちダイアモンドメンバーは、
優里の嫉妬心をさらに駆り立てるために、ある行動に出た。
ある日、優里をダイアモンドラウンジに
呼び出した朔也。
「優里、これを見ろ」
朔也は、優里の目の前に、
遥香のダイアモンドのパートナーバッジを差し出した。
それは、朔也が、新たに金庫から取り出したものだった。
朔也は、優里の顔をじっと見つめ、
静かに、重みのある言葉を告げた。
「優里、もう一人、新たに、パートナーができることになりそうだ。仲良くできるか?」
朔也の言葉は、優里の心に、激しい動揺と嫉妬を呼び起こした。
優里は、朔也が差し出したダイアモンドのパートナーバッジを、
震える手で見つめていた。
「これ……どなたの……パートナーバッジですか?」
優里は、震える声で朔也に尋ねた。
優里の問いかけに、朔也は何も答えない。
優里は、このバッジが、
遥香の新しいパートナーのものであることを、
直感的に悟っていた。
そして、その相手が、遥香と親密にしている、
あのプラチナランクの生徒であることも。
優里の心は、嫉妬と、
遥香を失ってしまうかもしれないという恐怖で、
激しく揺れ動いていた。
「お前も知っているだろう」
朔也は、優里の問いかけに、そう短く答えた。
優里は、朔也の言葉に、
胸を締め付けられるような、苦しい気持ちになる。
(やっぱり、あのプラチナの生徒……)
優里の嫉妬心をさらに煽るため、
日向朔也たちの計画は続行された。
遥香は、プラチナランクの生徒と、
学園のカフェで楽しそうに話していた。
それは、デートと呼ぶにふさわしい、親密な雰囲気。
優里は、偶然、その光景を目撃してしまった。
遥香の優しい笑顔と、楽しそうな声。
優里の胸は、チクチクと痛み、
心臓が締め付けられるような、苦しい気持ちが増していく。
「遥香様が、遠くへ行ってしまう……」
優里は、遥香を失ってしまうかもしれないという、
決定的な危機感を抱いた。
孤独な戦いを強いられた優里は、
一人、カフェの隅で、二人の姿をじっと見つめていた。
優里が、カフェの隅で一人、
遥香とプラチナランクの生徒のデートを見つめていた翌日、
遥香は、優里の様子がおかしいことに気づいた。
ダイアモンドラウンジで、
遥香は、優里の隣にそっと座る。
「優里、最近、何か元気ないね」
遥香の優しい言葉に、
遥香の優しさが、優里の心を温かくすると同時に、
遥香を失ってしまうかもしれないという、恐怖を呼び起こした。
「大丈夫です……」
優里は、そう言って微笑んだが、その顔は、強張っていた。
遥香は、そんな優里の様子を見て、優しく微笑んだ。
「よかったら、今度の日曜日、二人で出かけない?」
遥香の言葉に、優里は驚きを隠せない。
「ダ……ダイアモンドの……遥香様と、ですか?」
優里は、震える声で尋ねた。
優里の心には、遥香の優しさへの感謝と、
自分には釣り合わないのではないかという、
強い劣等感が渦巻いていた。
遥香は、優里の心の声を聞き取ったかのように、優しく微笑んだ。
「優里、関係ないよ。私にとって、大切なのは、優里だけだから」
遥香は、そう言って優里の手をそっと握った。
優里は、遥香の温かい手の感触に、心が安らいだ。
「もちろんです……行きます」
優里は、遥香の誘いに、勇気を出してそう答えた。
優里は、遥香と二人で出かけることになった喜びを、
朔也たちダイアモンドメンバーに伝えた。
朔也たちは、優里が勇気を出して遥香の誘いを受け入れたことに、
心から喜んでいた。
それは、優里が、遥香への劣等感を乗り越え、
遥香との関係を、一歩前へと進めようとしていることの証でもあった。
優里が遥香と出かけることになったと聞き、
真佑は、ある提案をした。
「優里ちゃんが劣等感に苛まれずに遥香と釣り合えるように、私服を選んであげるよ」
優里は、真佑の言葉に驚いた。
遥香は、ダイアモンドメンバーのなかでも、ひときわ輝く存在。
そんな遥香と並んで歩くことに、優里は不安を感じていた。
「で、でも……」
優里は、戸惑いながらも、
真佑の優しさに触れ、心が温かくなった。
真佑は、優里の不安を察し、優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ、優里ちゃん。私に任せて」
真佑の言葉に、優里は、勇気を出して、
真佑に私服を選んでもらうことを承諾した。
真佑は、優里に似合う服を想像し、
優里を連れてショッピングに出かけた。
「お待たせ、優里ちゃん~」
真佑は高級車の後部座席から現れた。
「それじゃあね~」
車から降りてきたかと思えば
のんきに運転手に別れを告げて、
優里の腕を組んで歩き出した。
本当に気さくな人。
ランク問わず仲良くしてくれる。
真佑が選んだのは、優里の持つ可憐さと、
隠された美しさを引き出す、シンプルな私服。
真佑は、優里に、淡いクリーム色のワンピースと、
柔らかな素材のカーディガンを選んでくれた。
それは、優里の優しさを引き立て、
同時に、優里の女性らしい魅力を際立たせるものだった。
「うん!いいよ!とっても似合う」
「やっぱりモデルがいいと、なんでも似合うねぇ~」
試着を終えた優里は、
鏡に映る自分の姿に驚きを隠せなかった。
ブロンズの頃の制服に身を包んでいた時とは違う、
自信に満ちた自分がそこにいた。
「優里ちゃん、すごく似合ってるよ。これなら、遥香もきっと喜んでくれる」
「まぁ、遥香ならどんな優里ちゃんでも喜ぶけどね~」
真佑の言葉に、優里は、
遥香とのお出かけが、ますます楽しみになっていく。
そして迎えた優里と遥香のお出かけ。
遥香が優里を連れて行ったのは、
学園からは少し離れた、静かで洗練されたブックカフェ。
店内は壁一面が本棚で、落ち着いたジャズが流れている。
「優里は本が好きだって聞いたから」
遥香の優しい気遣いに、優里は胸が熱くなった。
二人はお互いの好きな本について語り合い、
穏やかな時間を過ごした。
真佑が選んでくれた私服のおかげで、
優里は自信を持って遥香の隣にいることができた。
夜になると、遥香は優里を街の明かりが一望できる
高層レストランへと連れて行った。
そこは、ダイアモンドメンバーたちが利用するような、
優里には縁のない場所。
遥香は、優里の新しい私服を褒め、
優里の持つ美しさを再確認させてくれた。
しかし、優里は、この場所にいることで、
遥香との住む世界の差を改めて感じ、
胸が締め付けられるような気持ちになった。
優里は、遥香が自分を特別扱いしてくれることに喜びを感じながらも、
遥香の隣にいることへの不安を拭いきれないでいた。
優里と遥香の特別なお出かけは、
二人が気づかないところで、
朔也たちダイアモンドメンバーに見守られていた。
篠原悠は、優里の新しい私服姿を見て、思わず興奮していた。
「優里、かわいい! かわいい!」
悠は、遥香と並んでも見劣りしない優里の美しさに、
感嘆の声を上げていた。
朔也たちは、優里が遥香にふさわしい存在であることを、改めて確信した。
優里が、高層レストランの窓から見える煌びやかな夜景を見つめながら、
遥香との間に横たわる、埋めようのない隔たりを痛感していたその時、
遥香は、優里の不安そうな表情に気づいた。
「優里、どうしたの?」
遥香は、優里の手をそっと握り、優しく問いかけた。
「私……遥香様と、住む世界が違うんだなって、思って……」
優里は、震える声で、ようやく本音を口にした。
遥香は、優里の言葉に、悲しそうな表情を浮かべた。
「優里、それは違うよ」
遥香は、そう言って優里の顔をじっと見つめた。
「私にとって、大切なのは、優里。優里がどこに住んでいようと、どのランクにいようと、関係ない。ただ、優里という存在だけだよ」
優里は、遥香の言葉と、遥香の温かい手の感触、
遥香のまっすぐな瞳に、
心の奥底にあった不安や劣等感が、
ゆっくりと溶けていくのを感じた。
遥香は、優里を特別扱いするのではなく、
ただ、優里を大切に想っているだけなのだと、
優里は初めて気づいた。
優里は、遥香の温かい言葉に、
心の奥底にあった不安や劣等感が
ゆっくりと溶けていくのを感じた。
しかし、優里の心には、まだ一つの疑問が残っていた。
「どうして……遥香様や、ダイアモンドのメンバーは、ダイアモンドでも、プラチナでもない私に、そんなに優しくしてくれるんですか?」
優里は、震える声で、遥香に尋ねた。
優里の問いかけに、遥香は、少し悲しそうな表情を浮かべた。
「優里、私たちは、優里のことを『ブロンズ』として見ていない。ただ、優里という一人の大切なパートナーとして、見ているんだよ」
「それに……」
遥香は、そう言って優里の顔をじっと見つめた。
「優里は、私たちが守らなければいけない、大切な存在なんだから」
遥香の言葉は、優里の心に、
この学園にいることの意味を、改めて深く刻みつけた。
優里は、遥香への想いと、
遥香たちダイアモンドメンバーへの感謝を胸に、
新たな一歩を踏み出すことを決意した。
「どうして……私だけ、他のブロンズの生徒と違って、特別扱いしてくれるんですか?」
「それは……」
遥香は、優里の手をそっと握る。
「優里は、私たちにとって、大切な『宝物』なんだから」
「宝物……?」
優里は、遥香のまっすぐな瞳を見つめながら、
その言葉の意味を問い返した。
「うん。優里は、私たちにとって、大切な『宝物』なんだよ」
遥香は、そう告げると、優里の耳元にそっと唇を寄せた。
「だから、絶対に、誰も、優里に傷つけさせたりしない。……優里は、私たちにとって、かけがえのない存在なんだから」
遥香の言葉は、優里の心の壁を完全に打ち砕いた。
優里は、遥香への想いを伝える決意をしたが、
その矢先、再び、朔也たちの計画に翻弄されることになる。
遥香は、プラチナの生徒と親密そうに話していた。
「遥香様が、遠くへ行ってしまう……」
優里は、遥香が自分を「宝物」だと言ってくれたことの喜びを胸に、
ある決断をした。
(遥香の隣にいることが、遥香の幸せにつながるのだろうか。)
優里は、自問自答を繰り返した。
そして、遥香の幸せを願うあまり、
遥香への想いを、
心の奥底に封印してしまうことにした。
「遥香様には、私よりも、もっとふさわしい人がいる」
優里が遥香への想いを諦めてしまうことを決意したことで、
二人の関係は、新たな局面を迎える。
優里は、遥香を遠ざけるようになる。
遥香と目が合っても、すぐに視線を逸らし、
二人きりになることを避けた。
優里の心には、遥香を想う気持ちと、
遥香にふさわしくない自分への劣等感が、激しく葛藤していた。
一方、遥香は、優里の変化に戸惑っていた。
優里が自分を避けていることに気づき、
胸を締め付けられるような、苦しい気持ちになった。
遥香は、優里の心が、
なぜ自分から離れていこうとしているのか、理解できない。
朔也たちダイアモンドメンバーは、
優里のこの変化を見て、
計画が思わぬ方向に進んでしまったことに気づいた。
彼らは、優里が遥香への想いを諦めてしまったことに、
心を痛めていた。
そんな優里の様子を好都合だといわんばかりに、
優里が遥香を避け始めたことに気づいた美月と宝来悠斗は、
優里を陥れる絶好の機会だと考えた。
「あのダイアモンドメンバーたちに守られていた優里が、今度は孤独になった。これを使わない手はない」
悠斗は、優里の心に巣食う孤独と、
遥香への諦めの気持ちを利用し、新たな罠を仕掛けた。
優里は、放課後、一人で学園を出ようとしていた。
そこに、美月からメッセージが届いた。
「屋上に来て。遥香が待っている」
優里は、遥香を諦めたばかりだが、
そのメッセージに、胸が高鳴ってしまう。
優里は、遥香が自分に会いたがっているのだと信じ、
屋上へと向かった。
優里が屋上へ向かう階段を駆け上がり、
重い扉を開けると、
そこには美月と宝来悠斗が、
悪意に満ちた笑みを浮かべて立っていた。
「…えっ?」
「待ってたよ、優里」
美月は、優里の失望した表情を見て、満足そうに微笑んだ。
優里は、遥香がいないことを悟り、
希望が一瞬にして絶望へと変わるのを感じた。
「どうして……遥香様がいないんですか?」
優里は震える声で尋ねた。
悠斗は、優里の質問に答えず、
ただ優里にじりじりと近づいた。
「優里、君は本当にバカだね。まだダイアモンドの連中が、君を気にかけているとでも思っていたのかい?」
悠斗は、優里の心をえぐるような言葉を投げかけた。
優里が遥香への想いを諦めたばかりの心の傷を、
容赦なく抉った。
「君は、所詮ブロンズだ。ダイアモンドにふさわしいのは、私たちだ」
悠斗は、優里を追い詰めるように、さらに一歩近づいた。
優里は、背後に迫る金網に、逃げ場を失い、
再び恐怖に支配された。
優里の心は、美月と悠斗の悪意に、
完全に打ち砕かれていった。
優里が完全に絶望の淵に立たされた、その瞬間。
その恐怖は、やがて強い怒りへと変わった。
「……暇なんですか?」
優里は、震える声と、まっすぐな瞳で悠斗を見据えた。
「どうして、そんなに私に構ってくるんですか? 嫌いなら無視すればいいじゃないですか。それが……プラチナの器なんですか?」
優里の言葉は、美月と悠斗の予想をはるかに超えたものだった。
彼らは、優里が恐怖に支配され、泣き叫ぶことを期待していた。
しかし、そこにいたのは、折れない心を持つ優里。
悠斗は、優里の反撃に、怒りで顔を歪ませた。
「何を言っているんだ、ブロンズが……」
悠斗は、優里の腕を掴み、その力を誇示しようとした。
優里は、美月と宝来悠斗の悪意に満ちた言葉と行動に、
折れない心で立ち向かった。
「私の後ろには、ダイアモンドがいる」
「プラチナの生徒なんて、簡単に片付けられる。だから……これ以上、私に構わないでください」
優里の言葉は、ただの脅しではなかった。
それは、遥香たちへの信頼と、
自分を守ってくれる存在への確信からくる、
強いメッセージになっていた。
美月と悠斗は、
優里の言葉に、一瞬、怯んだ。
しかし、彼らは、優里を追い詰め、
所詮ブロンズランクの生徒であることを思い知らせようとした。
「ブロンズ上がりが、なにを…」
しかし、その瞬間、
屋上の扉が激しい音を立てて開いた。
美月と宝来悠斗が後ろを振り向く。
そこにいたのは、絶対に来るはずのない人物。
遥香が、そこに立っていた。
「優里に、何をしているの?」
遥香の冷たく、鋭い声が、屋上に響き渡った。
遥香は、優里を守るために来た。
暗闇をさまよい続けていた優里にとって、
ヒカリのような存在。
後光がさしているかのように見える、
圧倒的な存在感。
美月や宝来悠斗よりも驚いていたのは、
優里の方だった。
優里は、遥香の登場に、誰よりも驚きを隠せなかった。
(本当に……遥香様……?)
優里は、美月と宝来悠斗を前に、
「私の後ろにはダイアモンドがいる」と、
半ば虚勢を張っていた。
しかし、まさかその「ダイアモンド」のなかでも
ナンバーワンである遥香が、
本当に駆けつけてくれるとは思ってもいなかった。
遥香は、優里の隣に立ち、
美月と悠斗を冷たい目で睨みつけた。
「優里に、二度と手を出さないで。次は、許さないから」
遥香の言葉は、氷のように冷たく、
美月と悠斗は、恐怖に震えた。
遥香の登場は、
美月と宝来悠斗にとって、
予想外の出来事。
彼らは恐怖で震え上がっていた。
美月と悠斗は、優里を追い詰めることに夢中になり、
遥香が駆けつけてくることなど、完全に計算から外れていた。
「覚えていなさい、優里」
美月は、そう言って、
優里に憎しみに満ちた視線を送った。
しかし、遥香の存在を前に、
これ以上優里に手出しはできないことを悟っていた。
悠斗は、何も言わず、
美月の後に続いて、その場を立ち去った。
二人は、ダイアモンドの権力に屈服し、
一時的に撤退したが、
優里への復讐を誓っていた。
優里は、美月と宝来悠斗が去っていくのを見届けると、
その場にへたり込んでしまった。
張り詰めていた緊張の糸が切れ、
一気に力が抜けてしまった。
遥香は、何も言わず、ただ優里のそばに座り込んだ。
「優里……大丈夫?」
遥香の優しい声に、優里は、涙が溢れてきた。
優里は、遥香が自分のために駆けつけてくれたこと、
そして、自分を守ってくれたことに、心が安らいだ。
優里は、遥香の肩に顔をうずめ、
ただ、安堵の涙を流した。
美月は、宝来悠斗と共に屋上を後にしながら、
怒りをあらわにしていた。
「どうして……どうしてあのダイアモンドが来たのよ!」
美月は、優里を追い詰めることに成功したと確信していただけに、
遥香の登場は、彼女のプライドをひどく傷つけた。
美月は、優里の背後には、
ダイアモンドがいるという事実を、改めて突きつけられた。
「あのブロンズのくせに……! 何なのよ、あの子は!」
美月は、優里への憎悪をさらに募らせた。
美月は、優里を完全に打ちのめすまで、
決して諦めないことを、心に誓う。
美月が優里への怒りをあらわにする一方で、
宝来悠斗は、何も言わずにただ美月のそばを歩いていた。
悠斗は、美月とは違い、優里の真の立場を知っていた。
優里は、宝来グループの陰謀によって
ブロンズランクに落とされていたが、
本来はプラチナランクにいるべき存在。
優里の背後に、遥香たちダイアモンドメンバーが
味方していることも知っていた。
そして、もし優里の真実が公になれば、
自分たちの立場が危うくなることを、
内心、恐れていた。
悠斗は、美月の怒りに同調しながらも、
この事態を収拾するための、
新たな策を練り始めていた。
美月が優里への怒りをぶちまけるなか、
宝来悠斗は冷静に状況を分析していた。
「美月、落ち着け。君の怒りはもっともだ」
悠斗は、美月の肩に手を置き、静かに語りかけた。
「だが、感情に任せて優里に手を出しても、あのダイアモンドを刺激するだけだ。彼らを敵に回すのは得策じゃない」
美月は、悠斗の言葉に耳を傾けた。
「優里を本当に打ちのめしたいなら、もっと賢くやる必要がある。優里が最も恐れていることは、ダイアモンドに守られないこと、そしてブロンズのままでいることだ」
悠斗は、美月にそう告げると、悪意に満ちた笑みを浮かべた。
「優里のプラチナへの昇格手続きを、我々の権力で妨害する。そして、ダイアモンドの連中が優里に興味を失うように、彼らの間に亀裂を入れてやるんだ」
悠斗の提案は、優里を孤立させ、
ブロンズに降格させて、そのまま留まらせるという、
冷徹なもの。
美月は、悠斗の提案に、復讐の炎を燃やした。
優里と遥香は、
二人きりで穏やかな時間を過ごしていた。
遥香は、ふと優里に尋ねた。
「優里は、屋上に入ったことある?」
優里は、屋上での恐怖が蘇り、
少し顔を強張らせながらも、
「今回が初めてです」と答えた。
遥香は、そんな優里の様子に気づき、優しく微笑んだ。
「そっか。私は、中学時代からよく来てたんだ」
遥香にとって、屋上は特別な場所。
ダイアモンドラウンジには、常に他のメンバーがいて、
一人になることはない。
遥香は、人々の期待や、
ダイアモンドランクとしての重圧から逃れたい時、
この屋上を訪れていた。
遥香は、優里に、
屋上が自分にとっての「逃げ場」であったことを告げた。
遥香の言葉は、優里の心に、
遥香もまた、優里と同じように、
孤独や重圧と戦っていたのだと、深く刻みつけた。
優里が、遥香の言葉に耳を傾けていると、
遥香は、静かに、重みのある言葉を紡ぎ始めた。
「優里、ダイアモンドでも、所詮は人間なんだ」
遥香は、そう告げると、
優里の手をそっと握り、まっすぐな瞳で優里を見つめた。
「ブロンズとダイアモンド、そこには明確なヒエラルキーがある。でも、ブロンズに孤独があるように、ダイアモンドにも孤独がある。私は、ダイアモンドとしての重圧から、何度も逃げ出したいと思った」
遥香の言葉は、優里の心に、深く響いた。
優里は、遥香が自分と同じように、
孤独や重圧と戦っていたことを知り、
遥香への想いを、憧れではない、
一人の人間としての深い共感へと変えていく。
「優里、あなたは一人じゃない。私たちがいる」
優里は、遥香のまっすぐな瞳を見つめながら、
遥香の名前を、震える声で呼んだ。
「……遥香様」
遥香は、優里の真剣な眼差しに気づき、
優しく微笑んで答えた。
「ん? どうしたの、優里」
「私、遥香様のことが……」
優里は、ずっと胸のなかに秘めていた想いを語り始めた。
「……私、ずっと、遥香様のことが憧れでした」
優里は、中学時代、遠くから遥香の輝く姿を見ていた。
遥香は、いつもクラスの中心にいて、多くの人に囲まれていた。
「中学の時から、遥香様は、私にとって、手の届かない存在でした。話せるだけでも夢心地なのに、そばにいられるなんて、絶対ないって思ってました……。ましてや、ダイアモンドの遥香さんと、こうして話せることなんて、あり得ないって……」
優里の言葉は、遥香の心を静かに揺さぶる。
優里の告白は、揺れ動く優里の心のすべてを映し出していた。
優里の告白を聞いた遥香は、優里の手をそっと握る。
「優里、私にとって、優里はいつも、遠くから見てるだけの存在じゃなかった」
「ダイアモンドでも、孤独だった私にとって、優里の存在は、いつも希望だった。優里が私に憧れてくれていたように、私も、優里、あなたに憧れていたんだよ」
遥香の言葉は、優里の心に、深い安らぎを与えた。
遥香は、優里への想いを、
心の底から溢れ出るような、強い言葉で伝えた。
「優里、私は優里がブロンズだろうと、プラチナだろうと、そんなことは関係ない。私にとって、大切なのは、優里という存在だけなんだ」
遥香は、そう告げると、優里をそっと抱きしめた。
遥香の温かい抱擁と、
まっすぐな告白は、
優里の心を深く揺さぶった。
(やっぱり、遥香様はすごい……)
優里の心は、安らぎと、遥香への憧れで満たされた。
遥香が、自分のようなブロンズランクの生徒を、
これほどまでに大切に想ってくれているという事実に、
優里はただただ感動していた。
遥香の言葉は、
優里の心のなかにある「憧れ」という壁を壊すどころか、
さらに高く、強固なものにしていた。
「遥香様、ありがとうございます……。私、遥香様みたいな人に、出会えて本当に良かったです」
優里の言葉は、遥香への感謝と、純粋な憧れに満ちていた。
その言葉は、遥香の心を静かに締め付けた。
遥香が屋上に来る前のダイアモンドラウンジ。
優里の心の壁は、
ダイアモンドメンバーたちの予想をはるかに超える、
強固なものだった。
優里の強すぎる憧れに、
真佑は、ある結論に達していた。
「優里ちゃんは、遥香が自分を『好き』だと言ってくれていることが、まだ信じられないんだと思う」
真佑は、遥香に、そう告げた。
遥香は、優里の心の壁が、
自分の優しさや、完璧な姿から来ていることに気づいた。
遥香は、優里に自分の弱さを見せ、
優里と同じように、
不完全な一人の人間であることを伝える必要があると感じていた。
屋上。
遥香は、優里の隣に座り、
優里の手をそっと握っていた。
「優里、私ね、実は、すごく不安なんだ」
「優里が、私に憧れてくれるのは、すごく嬉しい。でも、その憧れが、優里の心のなかにある、私との距離を、もっと遠くしてしまうんじゃないかって……」
「優里、私は、優里の保護者じゃない。ただ、優里という一人の大切な人に、隣にいてほしいだけなんだ」
遥香は、そう告げた。
(私は……遥香さんに、迷惑をかけていたんだ……)
優里は、遥香の言葉を、
「自分は遥香様に甘えてばかりで、迷惑をかけている」と、
都合の良いように解釈してしまった。
遥香の「保護者じゃない」という言葉は、
優里の心に、遥香が期待したような影響を与えなかった。
この誤解は、優里の心にあった「恋」の感情を遠ざけ、
遥香への「憧れ」を、さらに強固なものにしてしまう。
優里は、遥香が自分を守ってくれていること、
そして、自分を大切に想ってくれていることに、
感謝の気持ちでいっぱいだった。
しかし、その感情は、遥香の隣に立つにふさわしい、
完璧な自分になろうという、「憧れ」に満ちたもの。
優里は、遥香の隣に立つにふさわしい存在になるまで、
遥香への想いを伝えることはできないと、
心の奥底で決意した。
優里は、遥香に迷惑をかけないよう、
そして、遥香に釣り合う自分になるために、
遥香との距離を置くようになる。
それは悪い方向に進んでいるわけではなく、
優里が、遥香の隣で守られているだけではなく、
遥香から離れた場所で、
自分を磨くことに集中し始めたから。
しかし遥香は、優里が再び自分を遠ざけていることに、
胸を痛めていた。
遥香は、優里の「保護者」ではないと伝えたことで、
優里がさらに心を閉ざしてしまったのではないかと、
自責の念に駆られていた。
優里が遥香との間に新たな心の壁を作ってしまったことに、
ダイアモンドメンバーたちは頭を悩ませていた。
そんななか、篠原悠は、優里の心を開くための大胆な提案をした。
「優里が憧れを捨てきれないのは、遥香との間に大きな隔たりを感じているからだ。だったら、その隔たりをなくしてやればいい」
悠は、優里と遥香に「二人だけの特別な体験」をさせることを提案した。
日向朔也たち他のメンバーは、
優里の心を動かすには、
この方法しかないと考え、悠の提案を受け入れた。
しかし、その決意は、
優里が学園に戻った後、残酷な現実に直面することになる。
優里のプラチナランクへの昇格審査書類は、
悠斗のグループの権力によって凍結されていた。
優里には、プラチナランクに
ふさわしい実績がないという虚偽の報告が流れ、
審査は長引く一方。
優里は、この事実に、深い絶望と無力感に襲われた。
遥香に釣り合うために自分を磨きたいのに、
一向に成果が出ない。
所詮、自分に遥香のような完璧な存在は、
地球から見る月のように、
見えるのに手が届くはずのない距離。
優里と遥香も同じように、
手が届く距離にいるように見えて
実際は手の届くはずのない距離にいる人なのだと。




