無力感と決意
「……朔也に、恋してる?」
その言葉は、優里を驚かせた。
優里は、遥香がなぜそんなことを聞くのか、理解できなかった。
遥香の瞳は、優里の答えを、真剣に求めているようだった。
優里は、朔也の優しさに心を救われ、感謝の気持ちは抱いていたが、
それが「恋」という感情なのか、自分でも分からずにいた。
「……朔也様は、私を助けてくれた、大切な人です」
優里は、そう答えるのが精一杯だった。
優里にとって、朔也を恋愛対象として、
意識したことはなかったからだ。
その答えに遥香は、少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「そっか……」
遥香は、優里が朔也に抱いている感情が、
まだ恋心ではないことを悟った。
遥香は、優里の手をそっと握る。
「優里、あのね……」
その瞬間。
ダイアモンドラウンジの扉が、外から勢いよく開かれた。
「優里!遥香!」
扉を開けて入ってきたのは、日向朔也、篠原悠、そして向井渉。
彼らの顔には、緊急事態を知らせる、深刻な表情が浮かんでいた。
「一体、どうしたんですか?」
優里は、彼らの様子を見て、ただならぬ事態が起こったことを察した。
朔也は、優里に、一つのタブレット端末を差し出した。
「優里、見てくれ……」
画面に映っていたのは、美月が、優里を罠にはめた、決定的な証拠映像。
美月は、優里に屈辱的な「ショー」を強要していた。
そして、その動画は、
すでに学園の掲示板に、美月によって公開されていた。
「これは……」
優里は、美月の悪意が、
ついに学園全体に知れ渡ったことを知り、言葉を失った。
優里が、美月によって公開された悪意に満ちた動画に言葉を失っていると、
向井渉が、怒りを露わにしながら、タブレット端末を操作していた。
「にゃん……美月の悪意は、もう通用しないにゃん」
渉は、驚くべき速さで、
美月がアップロードした動画を、学園の掲示板から全て削除した。
そして、さらに、動画が保存されても、
自動的に削除されるように、チェッカープログラムを起動させた。
「にゃん……美月がアップロードした動画は、全て削除したにゃん。もし、誰かが保存していても、そのチェッカープログラムが、自動的に削除するにゃん。もう、美月の動画は、この学園から完全に消え去るにゃん」
渉の言葉に、メンバーたちは、安堵の息を漏らした。
美月は、優里の屈辱を学園全体に晒すことで、
優里の心を完全に破壊しようとしていた。
しかし、渉の素早い行動によって、
美月の悪意は、一瞬にして打ち砕かれた。
優里の復帰を決意したダイアモンドメンバーたちは、
美月と宝来悠斗への反撃を準備していた。
向井渉は、美月が動画をアップロードした際のログ、
そして彼女が遥香のドレスを奪い、
優里に悪質な取引を持ちかけた証拠を全て収集した。
さらに、日向朔也は、悠斗がブロンズの生徒たちを扇動し、
優里を非難させたことを証明するため、
その場にいた生徒たちから証言を集め始めた。
彼らは、美月の悪行を、揺るぎない事実として固めていく。
優里は、彼らの行動に感謝しつつも、
自分のせいで彼らが危険な目に遭うのではないかと心配していた。
しかし、朔也は、優里の心配をよそに、
優里の隣で、優里の手を握り、優里を安心させた。
「優里、もう、一人じゃない」
朔也の言葉に、優里は、改めて、彼らと共に戦うことを決意した。
優里の復帰に向け、日向朔也たちが着々と準備を進めるなか、
遥香は、何もできない自分に、深い悔しさを感じていた。
遥香は、朔也に、一人でいるところを捕まえ、自分の無力さを告げた。
「朔也……私、何もできない。私があんなにうかつだったから、優里はあんなに辛い思いをしたのに……」
遥香は、優里の屈辱的な経験が、
自分のせいだという罪悪感に苛まれていた。
彼女は、優里を守るどころか、優里にさらなる苦しみを与えてしまった。
その事実は、遥香の心を深く傷つけていた。
「私、優里を守りたいのに……」
朔也は、そんな遥香の気持ちを、優しく受け止めた。
彼は、遥香の頭をそっと撫で、こう告げた。
「遥香、君は何もできなくなんかない。君が優里を想う気持ちが、優里を救うんだ」
朔也の言葉に、遥香は、顔を上げた。
「優里を支えてくれる人がいる。それが、優里にとって、一番の支えになる。遥香、君が優里を想う気持ちが、優里を強くするんだ」
朔也の言葉は、遥香の心の奥底に眠っていた、
優里への強い思いを、再び呼び覚ました。
遥香は、もう一度、優里を守るために、
自分ができることを全てやろうと決意した。
朔也は、優里の怪我が治るまで、
優里をダイアモンドラウンジで休ませ、
優里の怪我の具合を毎日チェックした。
朔也は、優里に、美月の悪行を明らかにするための
準備を進めていることを伝えた。
彼は、優里がもう一人で苦しむ必要がないことを示していた。
朔也と優里の距離は、日を追うごとに、縮まっていく。
優里は、朔也の優しさと、優里を守ろうとする強い意志に触れ、
再び人との繋がりを信じることができるようになった。
朔也は、優里にとって、
もはや「ダイアモンドのパートナー」という関係を超えた、
特別な存在になっていた。
優里は、朔也と共にいると、
心が安らぎ、再び笑顔を見せることができるようになっていた。
朔也と優里の距離が日を追うごとに縮まっていくのを、
遥香は、複雑な心境で見つめていた。
優里が、朔也の隣にいると、心から安らいでいること。
優里の顔に、以前のような絶望ではなく、再び笑顔が戻ってきたこと。
その優里の幸せそうな姿を見て、遥香は安堵すると同時に、
胸の奥が締め付けられるような、切ない気持ちを感じていた。
優里の心は、朔也へと向かっている。
遥香は、その事実を目の当たりにし、
優里と朔也が本当に付き合ってしまうのではないかという、
強い不安感に襲われていた。
遥香は、優里の幸せを心から願っていた。
しかし、その幸せの隣に、
自分がいることができないかもしれないという事実は、
遥香の心を深く傷つけていた。
元々、優里がダイアモンドのパートナーになったのは、
遥香の孤独を癒すためだった。
その目的は、優里の優しさと、
ダイアモンドメンバーたちの支えによって、今まさに達成されようとしていた。
しかし、その過程で芽生えた遥香の優里への感情は、
友情だけでは言い表せられない感情に発展していた。
向井渉は、遥香の表情を見て、深い思いやりを込めて告げた。
「にゃん……遥香は、優里に自分の気持ちを伝えないまま、優里の幸せを願うつもりかニャン?」
渉の言葉は、遥香の心を突き刺した。
遥香は、優里の幸せを心から願っていたが、
その幸せが、朔也との間に生まれるかもしれないという事実に、
複雑な感情を抱えていた。
しかし、遥香は、優里が誰と結ばれるにせよ、
優里の幸せを第一に願っていた。
優里を支え、守り続けることを、心に誓っていた。
ダイアモンドメンバーたちが、遥香の複雑な心境に気づくなか、
遥香は、優里の幸せについて、深く考えていた。
遥香は、優里の隣に座り、優里をじっと見つめていた。
(優里……)
遥香は、優里が孤独のなかで、
どれほどの苦しみを背負ってきたかを知っていた。
だからこそ、優里にはもう、傷ついてほしくない。
ただただ、幸せになってほしいと願っていた。
遥香は、自分自身の気持ちに、ある決意をした。
「私は、優里を守りたい。でも……私じゃ…。優里を守って、癒してあげられるのは、朔也や悠、そしてみんなだ」
遥香は、自分自身が女の子であること、
そして朔也や悠、そしてダイアモンドメンバーたちが、
優里を守るために、どれほどの力を持ち、
どれほどの優しさを持っているかを、冷静に分析していた。
遥香は、自分自身が優里を守るよりも、
朔也や悠、そしてダイアモンドメンバーたちに、
優里を守ってもらう方が、優里は幸せになれる、と悟る。
遥香の心は、優里への感情と、
優里の幸せを願う気持ちの間で揺れていた。
しかし、遥香は、自分の気持ちを押し殺し、
優里の幸せを第一に願うことを決意した。
優里がダイアモンドメンバーたちと過ごす、
穏やかな時間が流れるなか、
優里が授業でダイアモンドラウンジを離れた隙に、
朔也は、メンバーたちに、ある決断を告げた。
「優里を……プラチナランクに引き上げる」
朔也の言葉に、メンバーたちは驚きを隠せない。
優里は、かつてブロンズランクにまで落ち、
一時はシルバーランクにまで上がったものの、
美月との一件で、再びバッジを手放し、
行ったり来たりを繰り返していた。
そんな優里を、一気にプラチナランクにまで引き上げるという
朔也の言葉は、メンバーたちにとって、衝撃的な発言だった。
しかし、朔也の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
「優里は、もう一人じゃない。彼女は、ダイアモンドにふさわしい人間だ。彼女の優しさ、そして強さは、プラチナランクの生徒たちを、必ず変えることができる」
朔也は、優里の人間性を信じていた。
朔也の決断は、優里を、
再びこの学園のヒエラルキーのなかで、
高く引き上げることを意味していた。
それは、優里の再起であり、
美月と悠斗への、最大の報復となる。
しかし、その決断は、同時に大きな危険を伴うものだった。
「優里を、美月や悠斗と同じランクに……」
篠原悠が、不安な表情で呟いた。
朔也の決断は、優里を、
再び美月と悠斗の悪意に晒すことを意味していた。
プラチナランクという、彼らが支配する世界に、
優里を送り込むことになる。
悠は、優里の身を案じ、朔也に訴えた。
「朔也、それは危険すぎるよ! 優里が、また美月たちに……」
「わかっている。だが、優里がこの学園で、本当に安心して笑える場所は、美月たちの悪意を完全に打ち砕いた先にある」
朔也は、優里が、ただ守られるだけの存在ではなく、
自らの力で立ち向かい、勝利を掴むことを望んでいた。
「優里は、一人じゃない。私たち全員が、優里の味方だ。優里が、再び美月と悠斗と対峙する時、私たちが、優里の盾となり、剣となる」
朔也の言葉は、メンバーたちの心を揺さぶる。
彼らは、優里を守るために、
どんな危険も厭わないという、強い決意を新たにした。
鷹城玲司は、その決断に疑問を呈した。
「だとしても、彼女はいまシルバークラスだ」
「ゴールドをすっ飛ばして、プラチナに引き上げるというのか?」
玲司の言葉は、ダイアモンドメンバーたちの心を代弁していた。
優里が一気にプラチナランクへと昇格するという、異例の事態。
それは、学園のヒエラルキーを揺るがすほどの、大きな決断になる。
しかし、朔也の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
「優里をプラチナに引き上げるのは、単なる昇格じゃない。これは、美月と優里の立場を、完全に入れ替えるためのものだ」
「美月は、遥香のドレスを奪い、優里のバッジを奪った。その代償として、美月にはプラチナの地位を剥奪する。そして、優里に、そのプラチナの地位を与える」
朔也の言葉は、学園のヒエラルキーを根底から覆す、
大きな事態で革命的なものだった。
美月の家は、学園の運営にも影響力を持つ財閥。
そんな彼女をプラチナからブロンズへと引きずり下ろすことは、
学園の歴史上、前例のないことだった。
しかし、朔也の決意は固い。
「これは、学園のヒエラルキーを支配する、美月の悪意を打ち砕くためのものだ。美月が持つ、その地位と権力を、優里に与えることで、美月のプライドを完全に打ち砕く」
優里のプラチナランク入りは決定したものの、
その手続きには時間がかかった。
その間、ダイアモンドメンバーたちは、
美月と宝来悠斗への反撃を準備する一方で、
ある新たな動きに直面していた。
いつの間にか、遥香と、プラチナランクの生徒が、
深く関わるようになっていった。
プラチナランクは、ダイアモンドランクのすぐ下に位置し、
学園のなかでも、特に財力と権力を持つ生徒たちが集まる場所。
例年、ダイアモンドのパートナーに選ばれるのも、
このプラチナランクの生徒たちからだった。
遥香を除くダイアモンドメンバーたちは、
この状況に、危機感を抱き始めた。
「まさか、遥香が……」
朔也は、遥香がプラチナランクの生徒たちと関わるようになった理由を、
深い思いやりを込めて考えていた。
悠は、遥香が優里の幸せを願い、
自分自身の気持ちを押し殺そうとしていることを、
薄々感じ取っていた。
「遥香……何考えてるんだよ」
悠は、遥香の行動に、不安を抱いていた。
優里のプラチナランク入りが決定し、
その手続きを待つ間、
遥香は、特に何も考えてはいなかった。
優里が、朔也たちに守られ、再び笑顔を取り戻していく姿を見て、
遥香は安堵すると同時に、自分自身の優里への感情を、
どうしていいのか分からずにいた。
そんな遥香の弱った心を支えるかのように、
プラチナランクの生徒が現れた。
その生徒は、遥香の優しさに気づき、
遥香の心の奥底にある孤独を、
そっと埋めるように、遥香に寄り添った。
遥香は、その生徒の優しさに、惹かれていくようだった。
優里を想う遥香の心は、
プラチナランクの生徒との出会いによって、揺らぎ始めていた。
遥香は、そのプラチナの生徒と、デートをしたりしていた。
遥香にしてみれば、それは優里への感情から
解放されるための、ただの遊びの一環。
しかし、二人の親密な様子は、
傍から見れば親密なもので、
学園の生徒たちの間で、たちまち噂になっていた。
「遥香様、プラチナの生徒と付き合ってるらしいよ」
「まさか、悠様と噂になってなかった?」
遥香の行動は、学園のヒエラルキーのなかで、
様々な憶測を呼んでいた。
遥香は、優里の幸せを願い、
自分自身の気持ちを押し殺そうとしていた。
しかし、その行動は、優里を傷つけ、
そして遥香自身を苦しめることになっていた。
遥香とプラチナランクの生徒との噂は、
学園中に広まり、優里の耳にも届いていた。
優里の心には、かすかな嫉妬心が芽生え始めていた。
朔也たちダイアモンドメンバーは、
その優里の心の動きに気づき、ある作戦を実行した。
「遥香、プラチナの生徒と、またデートするらしいぞ」
悠が、優里の前で、わざとらしく遥香の噂を口にした。
「えっ……そうなんですか?」
優里は、動揺を隠せない。
「遥香は、優里ちゃんに、何も言わなかったのかな?」
真佑が、優里に、そう尋ねた。
優里は、遥香が何も話してくれなかったことに、寂しさを感じていた。
その時、朔也は、優里の隣に座り、優しく優里の頭を撫でた。
「優里、気にすることはないさ。遥香には、遥香の考えがあるんだ」
朔也の言葉は、優里を安心させたが、
同時に、優里の心に、
遥香を失うかもしれないという不安を掻き立てた。
「遥香は、優里の幸せを願っている。そして、優里は、遥香が自分から離れていくことに、不安を感じている。これは、二人にとって、避けては通れない道だ」
玲司の言葉は、遥香が、優里の幸せのために、
自らを押し殺し、他の誰かとの関係を選ぶかもしれないという、
悲しい現実を突きつけていた。
優里は、遥香とプラチナランクの生徒との噂に、
ことあるごとに嫉妬していた。
しかし、優里は、それが「嫉妬」という感情だと、
まだ気づいていない。
優里は、遥香が他の生徒と親密に話しているのを見ると、
胸が締め付けられるような、苦しい気持ちになる。
「遥香様……楽しそうですね」
優里は、そう言って、無理に笑顔を作っていた。
しかし、遥香が自分の隣にいないと、心が落ち着かず、
遥香がどこで、誰と何をしているのか、
気になって仕方なかった。
朔也たちは、そんな優里の心の動きを、静かに見守っていた。
「優里は、遥香が自分から離れていくことに、不安を感じているんだ」
鷹城玲司は、そう分析していた。
優里は、遥香への気持ちが、友情だけではないことに、
少しずつ気づき始めていた。
しかし、優里は、その気持ちを
「嫉妬」という言葉で表現することができずにいた。
優里は、遥香の隣にいたい。
遥香の笑顔を、独り占めしたい。
優里の心の奥底で、遥香への特別な感情が、
ゆっくりと芽生え始めていた。
優里は、一人で学園の廊下を歩いていると、
たまたまプラチナランクの生徒に出くわした。
その生徒は、日向朔也や篠原悠たち、
ダイアモンドメンバーにも劣らないほどの、相当なイケメン。
優里は、その生徒の洗練された佇まいや、
周りを圧倒するようなオーラに、ただただ圧倒されていた。
(これが、プラチナ……)
優里は、遥香が惹かれてしまうのも無理はない、と痛感した。
優里の心には、遥香への嫉妬と、
遥香を失うかもしれないという不安が、一層強く押し寄せていた。
優里にとって、遥香は、ダイヤモンドメンバーのなかでも、
まさにNo.1の存在。
遥香は、いつも優里の心の支えとなってくれていた。
優里は、そんな遥香に、ただただ憧れを抱いていた。
しかし、遥香が他の生徒といる姿を見ると、胸がチクチクと痛む。
朔也は、優里の隣に座り、優しく優里の頭を撫でた。
「優里……遥香のこと、どう思ってる?」
朔也の言葉に、優里は、胸がチクチクと痛むような、苦しい気持ちになった。
優里は、遥香への気持ちが、友情だけではないことに、気づき始めていた。
「遥香様は……私にとって、大切な人です」
優里の言葉に、朔也は、何も答えなかった。
ある日のダイアモンドラウンジ。
「どうすれば、優里がもっと遥香に憧れを抱くのか……」
日向朔也は、メンバーたちにそう問いかけた。
「遥香とプラチナの生徒の噂を、もっと優里ちゃんの耳に入れるにゃん。嫉妬を煽るにゃん」
向井渉は、タブレット端末を操作しながら、そう提案した。
「それだけじゃダメだ。優里が遥香を失ってしまうかもしれない、って危機感を抱かせるんだ」
鷹城玲司は、そう付け加えた。
「そうだ! 遥香が、他の誰かと付き合ってしまうかもしれない、って優里に思わせるんだ!」
篠原悠が、叫んだ。
「じゃあ、みんなで、遥香とプラチナの生徒が、デートしてる現場を、優里ちゃんに目撃させるのはどうかな?」
真佑は、加勢して提案した。
朔也は、メンバーたちの提案に、深く頷く。
優里と遥香の関係が、
ダイアモンドメンバーたちの計画によって、
新たな局面を迎えようとしているなか、
学園に、宝来グループの社長であり、宝来悠斗の父が現れた。
悠斗の父は、学園の運営にも大きな影響力を持つ、大企業のトップ。
彼は、悠斗が優里をいじめてたことを知り、激怒していた。
しかし、彼の怒りは、優里に向けられたものだった。
「優里という生徒が、私の息子の名誉を傷つけた」
悠斗の父は、そう言い、優里を退学させるように、学園側に圧力をかけた。
優里は、悠斗の父の登場に、
再び孤独な戦いを強いられるのではないかという、強い不安を感じていた。
宝来グループの社長は、優里の叔父であり、
宝来悠斗と優里は、いとこの関係。
本来であれば、社長の姉であり、優里の母が会社を継ぐはずだった。
しかし、優里の母は、優里が生まれるのと引き換えに、命を落としていた。
その結果、社長が後を継ぎ、
その息子である悠斗が、次期後継者として育てられていた。
つまり、宝来グループは、元々は優里が継ぐはずだった。
悠斗は、優里に敗北することが、自分にとって、
そして自分の家族にとって、どれほどの危機を招くか、よく理解していた。
悠斗の敗北は、優里が宝来を継いでしまう可能性を秘めていた。
悠斗にとって、優里の存在は、自分の人生を脅かす、最大の脅威だった。
優里がブロンズランクで苦難を強いられていたのは、
偶然ではなかった。
本来、宝来悠斗と同じく、プラチナランクからスタートするはずだった。
そして、その潜在的な力と人間性は、
ダイアモンドランクにふさわしいものだった。
朔也たちダイアモンドメンバーは、この事実を知っていた。
彼らが、優里をブロンズから引き上げ、
プラチナへと昇格させようとしていたのは、
単に優里を美月と悠斗の悪意から守るためだけではなかった。
朔也たちは、優里を、彼女が本来いるべき場所へと戻そうとしていた。
それは、優里の人生を支配しようとする悠斗の企みを打ち砕き、
優里に、彼女自身の運命を掴み取らせるための、壮大な計画だった。
優里の父は、愛する妻を亡くし、深い悲しみと喪失感に苛まれていた。
彼は婿養子として宝来家に入ったものの、
妻を亡くしたことで、その心の拠り所を失ってしまった。
彼は、優里に、妻の面影を重ね、優里と向き合うことができなかった。
その結果、優里は、父から育児放棄のような状態に置かれていた。
優里は、父の心の傷を理解していたが、
その孤独な環境は、優里の心を深く傷つけ、
彼女の人間形成に、大きな影響を与えていた。
優里のプラチナランク入りが決定し、その手続きを待つ間、
日向朔也は、優里の心のケアを、遥香に託した。
「優里、送っていくよ」
遥香は、放課後、優里に優しく声をかけた。
優里は、かつて篠原悠がパートナーだった頃、
悠が優里を家まで送ってくれていた。
しかし、遥香と二人で帰るのは、なかなかない機会。
二人は、夕焼けの光が差し込む廊下を、ゆっくりと歩いていた。
優里は、遥香の隣にいると、心が安らぎ、
以前のような、胸がチクチクと痛むような、
苦しい気持ちは感じなかった。
胸がチクチク痛む気持ちよりも、
心拍数が不自然に脈打つ感じ…。
不自然な鼓動の早まり…。
(...どうした、自分)
ダイアモンドの女王様。
その遥香がいま、隣にいる。
誰もが憧れる存在。
手の届かない存在。
「そんなに見ないでよ。照れるじゃん」
遥香は、優里の顔をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「優里、最近、笑顔が増えたね」
「気にしないで。優里は特別だから。」
「えっ……特別?」
優里は、遥香が、自分のことを、
そこまで気にかけてくれていたことに、胸が温かくなった。
「もちろん。優里は、私たちの大切なパートナーだから」
遥香は、優里の肩にそっと手を置き、そう告げた。
遥香の車に乗り込んだ優里は、遥香の優しさに、ただただ感謝していた。
二人は、静かな時間を過ごしながら、優里のマンションへと向かう。
マンションに着くと、遥香はエントランスまで優里を送る。
「優里、何かあったら、いつでも連絡してね」
遥香は、優里の隣に寄り添い、
優里の心を包み込むように、優しく微笑んだ。
「なんで……馬鹿にしないんですか?」
遥香は、優里のマンションをちらりと見た。
高級タワーマンションで、
俗世間で言えば、『億ション』というものなのに、
優里にとってダイアモンドメンバーが住む豪華な家に比べれば、
質素なものかもしれない。
優里は、遥香が自分の住む場所を見て、
軽蔑したり、憐れんだりするのではないかと、
ずっと不安に思っていた。
しかし、遥香の顔には、そんな感情は一切なかった。
「どうして……?」
優里は、再び問いかけた。
遥香は、優里の手をそっと握り、優しく微笑んだ。
「優里、私にとって、優里が住んでいる場所なんて関係ないよ。私にとって、大切なのは、優里、君自身だから」
優里は、遥香の優しさに触れ、心が温かくなった。
遥香は優しく微笑み、そっと優里の頭を撫でた。
「また明日ね」
遥香は、そう言って、優里を安心させるように微笑みかけ、
車を走らせてマンションを後にした。
優里は、遥香に家まで送ってもらった帰り道、
一つの事実に直面していた。
学園内の生徒たちは、ほとんどが運転手付きの車で送迎されている。
特にダイアモンドメンバーのような御曹司やご令嬢にとっては、
それは当たり前の光景だった。
優里は、宝来グループのお情けで学園に入学できたようなものであり、
遥香たちとは住む世界が全く違うことを、改めて突きつけられた。
遥香の運転手付きの高級車のなかで感じた温かい安らぎと、
自分の住むマンション。
優里は、遥香が「住む場所なんて関係ない」と言ってくれた
優しさに感謝しながらも、二人の間に横たわる、
埋めようのない隔たりを痛感していた。
優里の心には、遥香への劣等感が芽生え始めていた。
(遥香様には、プラチナの生徒がいる…。)
優里は、このまま遥香を失ってしまうのではないかという、
強い不安を感じていた。
優里は、遥香との関係に、
どのように向き合っていくか、自問自答していた。
優里は、遥香への憧れよりも、
劣等感が募っていくのを止められない。
遥香は、ダイアモンドメンバーの中でも、誰もが認めるNo.1の存在。
しかし、遥香と自分との間にある、
埋めようのない隔たりを痛感した優里は、
遥香に手が届くわけがない、と勝手に思い込んでしまいた。
優里は、遥香の優しさに触れるたびに、
遥香の隣にいることが、
自分にはふさわしくないのではないか、と考えるようになっていた。




