輝くバッジ
深い森のなかで意識を失った宝来優里が、
次に目を覚ました時、
彼女は柔らかいベッドの上にいた。
周囲を見渡すと、見慣れない部屋。
豪華な調度品と、窓の外に広がる相模湖の景色。
ここは、ダイアモンドコテージだった。
優里の心臓は、激しく動揺した。
自分がなぜここにいるのか、
そして誰が自分をここまで運んだのか、
理解できなかった。
あの時、孤独のなかで死を覚悟したはず。
優里は、慌てて飛び起きた。
全身を襲う激しい痛みに、顔を歪めた。
しかし、その痛みよりも、優里を支配したのは、
再びダイアモンドメンバーと
顔を合わせることになるかもしれないという、
恐怖と羞恥だった。
自分がどれほど情けなく、
弱々しい姿を彼らに見せてしまったのかを想像し、
深く恥じ入る。
「……どうして……」
優里の口から、無意識のうちに言葉が漏れた。
その時、扉が開く音がした。
そこに立っていたのは、
優里の身を案じていた日向朔也だった。
朔也の顔には、安堵と、深い苦悩が滲んでいた。
「優里、目を覚ましたのか……」
朔也の声は、優里の心をさらに深く揺さぶる。
彼女は、彼らの優しさに触れることが、
再び自分を傷つけるのではないかと恐れていた。
優里は、自分がなぜここにいるのか、
そして日向朔也の安堵した顔を前に、
どう振る舞えばいいのか分からずにいた。
孤独のなかで死を覚悟したはず。
しかし、今、目の前には、
自分が最も見せたくなかった姿を知っている彼がいた。
優里は、羞恥心と恐怖から、
朔也の顔を見ることができなかった。
「どうして……」
「どうして、私なんかを助けたんですか?」
自分はもうダイヤモンドのパートナーではない。
美月と悠斗に屈辱を与えられ、
自分からバッジを手放した、
何の価値もない存在だと、自分自身を卑下していた。
「私はもう……あなたたちの世界にいる資格なんてないのに……」
優里の言葉は、朔也の心を深く突き刺した。
彼は、優里の絶望が、
彼らの想像を遥かに超えるほど
深いものであることを悟った。
朔也は、優里に近づき、
そっと優里の肩に手を置いた。
「優里、君は……」
彼は、優里の肩に置いた手に、少しだけ力を込めた。
そして、俯く優里の顔を、両手でそっと包み込み、
彼女の瞳をまっすぐに見つめた。
「優里、君はなぜ、自分を犠牲にして、悠斗を助けたんだ?」
朔也の問いに、優里は言葉を失った。
彼女は、ただ反射的に、本能的に行動しただけだった。
「それが、君の真の強さだ。君は、どれだけ傷つけられても、どれだけ孤独になっても、他人を思いやる心を失わなかった」
「いいか、優里。私たちは、君の人間性に惹かれ、君をダイアモンドのパートナーに選んだ。バッジは、ただの飾りだ。君の価値は、そんなものに左右されるものじゃない」
朔也は、優里が抱えていた
全ての羞恥心と自己卑下を、その言葉で否定した。
「そして、君がどれほど一人で戦い、苦しんでいたか、私たちは知っている。君は、もう一人じゃない。私たちは、君の味方だ」
朔也の言葉は、優里の凍てついた心を、ゆっくりと溶かしていく。
朔也は、優里の人間性を信じ、彼女を救い出してくれた。
朔也は、優里が今、
一人になりたいと思っていることを理解していた。
彼は、優里の顔からそっと手を離すと、
優里の頭を優しく撫でた。
「落ち着いたら、リビングにくるといい。みんな、君のことを心配している。温かいご飯を、一緒に食べよう」
朔也は、それだけを告げると、
優里の部屋を出ていった。
優里が意識を失っていた間、
ダイアモンドメンバーたちは激しい雨と風のなか、
必死に彼女の行方を捜索していた。
向井渉の追跡システムが示した場所へと向かい、
彼らはついに崖のふもとで、
倒れている優里の姿を発見した。
血だらけになり、泥まみれになった優里を見て、
日向朔也たちは一瞬、息を呑んだ。
しかし、彼らは絶望する間もなく、
優里のもとへと駆け寄った。
「優里! 優里!」
篠原悠が、優里の体を揺さぶりながら呼びかけるが、
優里は目を覚まさない。
その時、鷹城玲司が、静かに優里の脈を測る。
「生きている。急いでコテージまで運ぶぞ」
玲司は、冷静にそう告げると、
迷うことなく優里を背負い、
重い足取りでぬかるんだ山道を登り始めた。
彼は、その冷静な表情の下で、
優里の血まみれの体に触れ、
彼女がどれほどの苦痛を味わったのかを痛感していた。
優里が意識を取り戻す前の、誰も知らない救出劇。
朔也が優里にかけた「君は一人じゃない」という言葉は、
彼らが優里を救い出すために、
どれほどの困難を乗り越えてきたのかを物語っていた。
優里が意識を取り戻す前のコテージは、緊張と不安に包まれていた。
鷹城玲司に背負われ、
ずぶ濡れで血まみれになった優里が運び込まれると、
ダイアモンドメンバーたちは、
一瞬の躊躇もなく、優里の救護に当たる。
優里は、リビングのソファーにそっと寝かされた。
真佑は、温かいタオルを準備し、
朔也は、優里の冷え切った体を丁寧に拭き始めた。
「優里ちゃん……」
真佑は、優里の無数の傷を見て、目に涙を浮かべた。
しかし、彼女は優里を心配する気持ちを抑え、
冷静に救急セットから消毒液やガーゼを取り出した。
優里の服を脱がせ、新しい毛布をかけた。
悠の顔には、怒りや自責の念が浮かんでいたが、
今はただ、優里を救うことに集中していた。
渉は、優里の傷を手当てする真佑に、
冷静に指示を出した。
「にゃん……まずは、傷口を消毒するにゃん。そのあと、ガーゼで止血するにゃん」
玲司は、優里の呼吸や脈を確認し、
真佑たちの手当てが正しいかを見守っていた。
彼らは、優里が意識を失っている間に、
彼女の体の傷を丁寧に手当てした。
それは、優里を助けられなかったという自責の念と、
彼女への深い思いやりが詰まった、
献身的な手当てだった。
優里は、意識を失いながらも、
その温かい手当ての感覚を、微かに感じていた。
それは、彼女が孤独のなかで感じていた心の冷たさを、
少しずつ溶かしていく、温かい光だった。
朔也が優里と会話を終え、リビングに戻ってきた時、
ダイアモンドメンバーたちは、一斉に彼に視線を向けた。
彼らの顔には、優里の身を案じる思いと、
朔也が何を話してきたのかを知りたいという、
期待と不安が入り混じった感情が浮かんでいた。
「朔也、優里ちゃんの様子はどうだった?」
真佑が、最初に優里の様子を尋ねた。
彼女は、優里の無数の傷を手当てしながら、
優里の心がどれほど深く傷ついているのかを痛感していた。
朔也は、優里の部屋の扉に背を向け、全員に語りかけた。
彼の顔には、安堵と、優里への深い思いやりが滲んでいた。
「大丈夫だ。優里は、私たちの言葉を、ちゃんと聞いてくれた」
朔也の言葉に、メンバーたちは安堵の息を漏らした。
しかし、篠原悠は、優里の絶望的な表情を忘れられずにいた。
「でも、本当に大丈夫なのか? あんなに傷ついて、一人で全部抱え込もうとして……」
悠の不安な声に、朔也は首を横に振る。
「もう、一人じゃない。そう伝えてきた。そして、私たちが、彼女をどれだけ大切に思っているか、それを伝えてきた」
朔也は、優里がなぜ彼らを拒絶しようとしたのか、
そして優里が抱えていた心の闇を、メンバーたちに伝えた。
「優里は、バッジを失ったことで、自分はもう私たちの世界にいる資格がないと思っていたんだ。だから、一人で何もかも解決しようとしていた。でも、私たちは、彼女の人間性を信じている。バッジなんて、ただの飾りだ」
朔也の言葉に、メンバーたちは深く頷いた。
鷹城玲司は、
優里を背負って運んできた時のことを思い出していた。
彼は、優里の冷え切った体と、
その心の冷たさを、肌で感じていた。
「彼女は、私たちが思っている以上に、深い絶望のなかにいたんだ。でも、これで、優里は、もう一人じゃない」
玲司は、そう言いながら、朔也の肩に手を置いた。
向井渉は、タブレット端末を操作しながら告げた。
「にゃん……美月と悠斗の動きを、監視するにゃん。もう二度と、優里に同じような思いはさせないにゃん」
彼らの間には、優里を守り、
彼女の心を癒すという、強い決意が芽生えていた。
「優里のバカ……」
「どうして、あんな人を助けるの……」
優里への怒りではなく、自分を犠牲にしてまで他人を救おうとする、
優里のあまりにも優しすぎる心に対する、遥香なりの悲痛な叫び。
遥香は、優里が孤独のなかで、
どれほどの苦しみを背負ってきたかを知っていた。
だからこそ、優里にはもう、誰も助けるのではなく、
誰かに助けられてほしいと願っていた。
「もう二度と、優里を一人にはしない」
遥香は、そう心に誓った。
彼女は、優里を救い、彼女が安心して笑える場所を取り戻すために、
自分ができることを全てやろうと決意した。
朔也の言葉からしばらく経った後、
優里はゆっくりとリビングの扉を開けた。
手当てしてくれた包帯を巻いた足を引きずりながら、
みんなの元へと向かう。
リビングには、ダイモンドメンバー全員がそれぞれの場所に座り、
優里の様子を静かに見守っていた。
彼らの視線は、優里を責めるものではなく、
優里を案じる、温かいものだった。
優里は、みんなの優しい視線に、顔を赤らめ、俯いた。
朔也は、優里の隣に腰を下ろすと、優しく話しかけた。
「制服は、いま干している。もう少ししたら、乾くと思う」
朔也は、優里が自分の汚れた制服を気にしていることを察し、
優しくそう告げた。
優里は、ダイモンドメンバーの優しさに触れ、
再び一人ではないことを実感した。
優里がリビングのソファに座り、
ダイモンドメンバーの優しい視線に戸惑っていると、
篠原悠が、マグカップを両手で持ったまま、優里の前に来た。
「優里、これ……飲めよ」
悠は、優里に、温かい飲み物を差し出した。
優里は、何を飲むのか分からず、マグカップのなかを覗き込んだ。
それは、温かいココアだった。
優里は、悠の優しい気遣いに、心が温かくなった。
もはや自分が、彼らにとって特別な存在ではないと思っていた。
優里は、震える手でマグカップを受け取り、ゆっくりと口に運んだ。
温かいココアは、優里の冷え切った体を温めると同時に、
彼女の心を、ゆっくりと溶かしていく。
「……ありがとうございます」
優里は、か細い声で、感謝の気持ちを込めて、そう告げた。
悠は、優里の言葉に、何も答えずに、
優里がココアを飲んでいる姿を、静かに見つめていた。
彼の顔には、安堵と、そして優里への深い思いやりが滲んでいた。
ココアの温かさは、優里の心に、
再び人との繋がりを信じるための、小さな光を灯した。
優里が温かいココアを飲み終えた後、
ダイアモンドメンバーたちは、
優里の心を少しでも癒そうと、あることを提案した。
「優里、みんなでババ抜きでもしないか?」
朔也が、トランプの束を手に、優しく優里に尋ねた。
優里は、戸惑った。
もう自分は彼らの世界にいる資格がないと思っていた。
しかし、彼らの目は、優里を責めるものではなく、
ただ優里と一緒に過ごしたいという、純粋な気持ちに満ちていた。
遥香は、優里の隣に座ると、優里の手をそっと握る。
「いいから、やろうよ、優里」
遥香の優しい言葉に、優里は、ゆっくりと頷いた。
こうして、ダイアモンドメンバーと優里の、ババ抜きが始まる。
ゲームは、最初は静かに進んだ。
しかし、悠が、ババを引いてしまい、悔しがる姿に、
優里の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。
「悠、バカだね」
真佑が、からかうように言うと、
悠は「うるせー!」と反論し、
リビングは、笑い声に包まれた。
玲司は、冷静にババを避け続け、
渉は、トランプの動きを完璧に予測し、
メンバーを驚かせた。
そして、優里は、彼らと一緒に過ごす時間のなかで、
心の冷たさが、少しずつ溶けていくのを感じていた。
この日初めて、本当の笑顔が浮かんだ。
優里は、このババ抜きを通して、
自分は一人ではないこと、
そして、彼らが自分をどれほど大切に思ってくれているのかを、
改めて実感した。
優里が、朔也たちとのババ抜きを通して、
凍てついた心を溶かしていく一方で、
遥香の心には、優里に対する新たな感情が芽生えていた。
遥香は、優里の笑顔を見て、安堵すると同時に、
胸の奥が締め付けられるような、切ない気持ちを感じていた。
それは、友情や同情といった感情とは、
明らかに異なるもの。
優里が、自分を犠牲にしてまで宝来悠斗を助けたこと。
そして、その優しさゆえに傷つき、孤独の淵に沈んでいたこと。
優里の強さと脆さを目の当たりにした遥香は、
優里を守りたいという強い思いを抱いていた。
遥香は、優里がこの学園で、再び安心して笑えるように、
そして、もう二度と傷つくことがないようにと願っていた。
彼女は、優里の隣で、優里を支え、
守り続けることを、心に誓う。
優里が朔也たちとの温かい時間のなかで、
心の傷を癒し、再び笑顔を見せ始めた頃、
ペア・ラリーのスケジュールは終わりを告げようとしていた。
「そろそろ、帰る時間だな」
鷹城玲司が、窓の外を眺めながら呟いた。
優里は、その言葉に、
再び孤独な現実へと引き戻されるような、寂しさを感じた。
朔也は、優里の様子を察し、優しく優里に語りかけた。
「優里、制服が乾いたかどうか見てくる。もうすぐ、帰る支度をしないとな」
朔也は、そう言って立ち上がると、悠、そして渉と共に、
優里の制服が干してある場所へと向かう。
真佑は、遥香に優里の面倒を見るように目配せをすると、
洗い物をするために、キッチンへと向かう。
リビングには、優里と遥香の二人だけが残された。
遥香は、優里がソファに座る隣に腰を下ろした。
二人の間には、温かい沈黙が流れていた。
遥香は、優里の顔をじっと見つめ、
優しく、真剣な声で尋ねた。
「優里、体はもう大丈夫?」
遥香の言葉は、優里を気遣う、純粋な優しさに満ちていた。
それは、遥香が優里に抱いている、
複雑な感情を隠すかのような、優しい問いかけだった。
優里は、遥香の言葉に、ゆっくりと頷いた。
「……お気遣いいただきありがとうございます。もう、大丈夫です。」
優里の声は、以前のような虚無感は消え、そこに温かい光が宿っていた。
優里の制服が乾いたか確認しに行った朔也は、優里の制服を手に取る。
そこには、以前優里がつけていた
ダイアモンドのパートナーバッジはなかった。
優里が美月に返してもらったバッジは、
かつて篠原悠がパートナーだった頃のもの。
優里は、遥香が悠を好きになった際に
悠とのパートナー関係を解消し、
朔也とパートナーになった後も、
そのバッジをつけ続けていた。
朔也は、新しいパートナーバッジを取り出した。
それは、朔也のパートナーバッジだった。
朔也は、優里が自分の価値を
バッジで測っていたことを知っていた。
だからこそ、朔也は、優里に新しいバッジをつけることで、
優里に、優里自身の価値が、バッジに左右されるものではないこと、
そして優里が、今、朔也の大切なパートナーであることを、
伝えようとした。
朔也は、優里の制服に、新しいバッジをそっとつけた。
そのバッジは、以前のバッジよりも、
どことなく優里の制服によく似合っていた。
朔也は、優里の制服を大切に手に持ち、リビングへと戻った。
彼の顔には、安堵と、そして優里への深い思いやりが滲んでいた。
「優里、制服、乾いたぞ」
朔也は、優里の隣に座ると、優しくそう告げた。
優里が制服に着替えている間、
リビングに残されたダイアモンドメンバーたちは、
優里がどのようにして
美月からバッジを取り戻したのかについて、話し合っていた。
朔也は、優里の様子を思い返しながら、重い口調で語り始めた。
「優里は、きっと、美月の言うことを全て受け入れたんだ。自分を犠牲にしてでも、バッジを取り戻したかったんだろう」
朔也の言葉に、篠原悠は、怒りを露わにした。
「くそっ! 俺たちが、優里を一人にしたからだ。もしあの時、俺たちが一緒に美月と戦っていれば……!」
悠は、優里が一人で苦しんでいたことを、
自らの無力さと重ね、深い自責の念に駆られていた。
「にゃん……美月は、優里の心の弱さを利用したにゃん。優里は、遥香を守るために、美月の悪意を受け入れた。その優しさが、美月にとっては最大の武器だったにゃん」
渉の言葉に、遥香は、顔を俯かせた。
優里が自分を守るために、どれほどの犠牲を払ったのかを、
改めて痛感していた。
「優里が払った代償は、決して無駄にしない。美月と悠斗には、必ず報いを受けさせる」
玲司の言葉に、朔也は深く頷いた。
彼らは、優里が美月に屈辱を与えられたこと、
そして、その屈辱が優里の心を深く傷つけたことを知っていた。
しかし、優里が、再び彼らのもとに戻ってきてくれた。
その事実が、彼らに、美月への復讐と、
優里を守り抜くという、強い決意を芽生えさせた。
「事の発端は……私のせいなんだ」
遥香は、震える声で、重い口を開いた。
彼女の顔は、深い後悔と自責の念で満たされていた。
「私が、うかつだったから……」
遥香が語り始めたのは、美月の悪意の始まりだった。
学園のイベントで、遥香が着用する予定だったドレスが、
美月に奪われてしまったこと。
そして、優里が、そのドレスを取り戻すために、
美月との交渉に臨んだこと。
「優里は、私のために……」
遥香は、優里の優しさと、
彼女が払った代償の重さを、改めて痛感していた。
遥香は、優里を助けるどころか、
優里にさらなる苦しみを与えてしまった。
その事実は、遥香の心を深く傷つけた。
「私が、もっと早く気づいていれば……」
遥香の告白に、朔也たちは、静かに耳を傾けていた。
彼らは、優里が美月の悪意に立ち向かい、
一人で戦っていたことを知り、
優里を助けられなかったことへの自責の念を、さらに強く抱いた。
優里がどれほどの覚悟で美月と対峙したのかを改めて痛感し、
優里を守り抜く決意をさらに強くする。
「優里は、一人で戦ったんじゃない。遥香を守るために、私たちを守るために、戦ってくれたんだ」
「美月は、優里を精神的に追い詰めることで、優里の心を完全に破壊しようとした。悠斗は、それに乗じて、優里に屈辱を与えようとした」
玲司の言葉に、メンバーたちは深く頷いた。
渉は、タブレット端末を操作しながら、
美月と悠斗の行動の証拠を収集し始めた。
「にゃん……彼らの悪行は、必ず明るみに出すにゃん。優里が、どれほどの犠牲を払ったのか、学園全体に知らしめるにゃん」
渉の言葉に、篠原悠は、怒りを露わにした。
「次は、俺たちが優里を守る番だ。もう二度と、優里に一人で苦しむ思いはさせない!」
メンバーたちは、優里を助け、
彼女が安心して笑える場所を取り戻すために、
美月と悠斗への報復を誓う。
彼らは、優里の復帰を心から願いながら、新たな戦いの準備を始めた。
優里は、着替えを終え、鏡の前に立つ。
そこに映っていたのは、朔也たちの温かさによって、
顔に生気を取り戻した優里の姿。
そして、優里は、自分の制服に、
あるものがつけられていることに気づいた。
それは、かつて彼女が自ら手放した、
ダイアモンドのパートナーバッジ。
しかし、それは、以前のバッジとは違う、新しいもの。
朔也のバッジ。
優里は、朔也が、自分にこのバッジをつけた理由を、
直感的に理解した。
朔也は、優里に、「君は、ダイアモンドのパートナーだ。そして、私の、大切なパートナーだ」というメッセージを伝えていたのだ。
優里は、バッジにそっと触れた。
そのバッジは、以前よりも、優里の心に温かい光を灯した。
優里は、朔也たちの優しさに、
感謝と同時に、再び立ち向かう勇気を与えられた。
もう一人ではない。
彼女の背後には、彼女を信じ、支えてくれる、大切な仲間がいた。
優里は、鏡に映る自分をまっすぐに見つめた。
優里は、以前つけていた篠原悠のバッジに慣れ親しんでいた。
朔也の新しいバッジに触れた時、
どことなく、わずかな違いを、すぐに感じ取ることができた。
最も大きな理由は、感情的なもの。
そのバッジからは、優里を大切に思う
朔也の温かい思いやりが伝わってきた。
それは、優里の人間性を信じ、
彼女を再びダイアモンドの世界へと引き戻そうとする、
朔也の決意の表れのようだった。
優里は、この新しいバッジが、朔也が自分にくれた、
「君は、私の大切なパートナーだ」というメッセージだと直感的に理解した。
その気づきは、優里が再び立ち上がり、
前に進むための、確かな光となった。
優里は、輝くダイアモンドのパートナーバッジを胸に、
リビングへと向かった。
扉を開けると、そこには、優里を心配し、
彼女を救うために奔走したダイアモンドメンバーたちの姿があった。
彼らは、優里の姿を見て、安堵の表情を浮かべた。
優里は、優しい視線に、まっすぐ向き合う。
「みなさん……本当に、ありがとうございます」
優里の口から出たのは、感謝の言葉だった。
優里は、頭を下げた。
「私は……みんなさんに、助けてもらうばかりで……」
優里は、自分を卑下するような言葉を口にしたが、
朔也は、優里の言葉を遮った。
「優里、私たちは、君の人間性を信じている。君は、もう一人じゃない」
朔也の言葉に、優里は顔を上げた。
彼女の瞳には、もう絶望や虚無感はなく、希望の光が宿っていた。
「……はい」
優里は、力強く頷いた。
「もう……私は、逃げません」
「私は、この場所で、みんなと一緒に、戦います」
優里は、再び、ダイアモンドのパートナーとして、
彼らと共に、美月と悠斗の悪意に立ち向かうことを決意した。
少し経った時、遥香はひとり、自室にいた。
ダイアモンドの女王でありながら、
本当のところ何もできない
無力な存在であることを嘆いていた。
表向きの自分はどの生徒も憧れを抱く完璧な女王様。
でも本当は無力で無能な女王。
そんなの、女王なんて言わない。
ただのお飾りにしか過ぎない。
その時、トントンと部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ?」
そして、優里が入ってきた。
「優里…?」
「あの、お話したいことが、あって…」
「こっちにおいでよ」
優里は遥香の前に座った。
「…話って?」
優里は黙っていた。
遥香は首を傾げる。
何か言いにくいことなのだろうか。
「…無理しなくても」
(時間オーバーだったかな…)
優里が諦めかけた、その時。
「…ちゃんときいてるよ?」
「…えっ?」
「無理しなくても、ちゃんと聞く。どんなに言葉が詰まったとしても、ちゃんと聞くから。ゆっくりでいいから」
(…私にできることはこれくらいしかないんだ)
(どんなに無力な自分でも、せめて優里の話を聞くことくらいは、させてほしい)
優里は勇気を出して言葉を紡ぐ。
「…あの時、美月さんに、バッジを返してもらうために、温室に行った時…」
優里は苦しそうな顔をした。
(きっと、思い出したくもないはず…)
遥香も同じように苦しい表情になった。
「…私を助けてくれたのは、遥香様でした」
「…へっ?」
ー温室にいたあの時。
美月にダイアモンドのパートナーバッジを
返して欲しいと願い、
その代償に動画の撮影と、
ブロンズの男子生徒たちに囲まれ、
自らの尊厳が穢されそうになっていたあの日、
ブロンズの男子生徒たちの手が伸びて、
優里は目を瞑った。
(もう、どうでもいい…)
(バッジさえ返せれば…)
(遥香様の隣に立たなくても、せめてバッジだけは…)
ブロンズの男子生徒のひとりが、
優里の制服に手を伸ばした、
まさにその時。
優里の制服のポケットに入っていた、
優里のスマートフォンが、
着信を知らせた。
「なんだよ、萎えるな」
男子生徒の1人が、落胆したように告げた。
優里はポケットからスマートフォンを取り出した。
その相手は…
(…あっ!)
その瞬間、優里の目に輝きが戻った。
あの人の隣に立たなくなることをするべきではないと、
あの人に顔向けできなくなるようなことはするべきではないと、
何かに言われているような気がした。
優里は、スマートフォンの着信相手を、
ブロンズの男子生徒たちに見せつけるように向けた。
その相手こそ。
優里が隣に立ちたがった人こそ。
「山下遥香」
この学園の絶対女王である遥香だった。
「…や、山下遥香?」
「山下遥香って、あの?」
「ダイアモンドの女王様」
ブロンズの男子生徒たちは一気に顔色を失う。
ダイアモンドの女王様である遥香に、もしこのことがバレたら。
優里はかつてブロンズだったとしても、
いまや手の届かないダイアモンドのパートナー。
そんな人を学園の底辺の存在である
ブロンズが汚したなんて知られたら、
自分たちは一発で退学になる。
退学で済まされれば甘い処分だろう。
ダイアモンドの怒りを買ってしまえば、
何が起きるかわからない。
相手はダイアモンドだ。
一族もろとも路頭に迷わすことなど簡単にできる。
どんな子息、令嬢であろうとも、
ダイアモンドには敵わない。
それが、ダイアモンドの絶対条件。
そして、着信相手は、
そのダイアモンドのナンバーワンである、
山下遥香。
遥香に目をつけられてしまえば、
学園生活の終わりではなく、
人生の終わりを意味する。
遥香のひとことで、
自分たちを海に沈めることだって簡単にできる。
ブロンズの男子生徒たちは背筋が凍る。
「や、やべぇぞ!」
「な、なんでお前が、女王様の連絡先を…!」
「そんなことより、逃げろ!!」
ブロンズの男子生徒たちは逃げ去っていく。
「なんなのよ。腰抜けね。」
美月は腕を組みながら不満そうな顔をしていた。
しかし、優里は遥香のお陰で助かったのだ。
間一髪、守りたかった矜持は守られたのだ。
そして、今に至る。
遥香の目の前にいる傷ついた少女は、
遥香のお陰で間違いなく助かったのだ。
遥香からすれば何もできず、
無力に苛まれていたのもしれない。
しかし、優里にとっては、
この学園の、ダイアモンドの、ナンバーワンであり、
女王様である遥香に助けられたことに違いない。
「…私は、遥香様のお陰で助けられました」
「遥香様は、無力なんかじゃないです」
「…じ、じゃあ、男子生徒たちの手に堕ちてないの?」
「…そういうことになります」
「土下座もしなくて済みました」
「…ほ、ほんとに?」
「はい。指一本触れられてないです」
遥香は思わず優里に抱きつく。
その勢いで優里は思わず後ろに仰け反りそうになる。
「ぅわっ!」
遥香のいい匂いが、ふわりと香る。
久しぶりに嗅いだこの匂い。
心地よい、甘くて、優雅な匂い。
真正面から抱きしめているため、
遥香には優里の顔が見えない。
優里が遥香の匂いに
酔いしれていることなど知るはずもなく、
遥香はただ優里が無事だったことに安堵していた。
「よかった…、本当によかった…!」
「…遥香様のお陰です。ありがとうございました」
遥香は思わず優里の顔を撫でる。
それはそれは、愛おしそうで、
まるで壊れ物を扱うような、優しい手つきだった。
優里も嬉しそうに微笑んだ。
2人の顔は近かった。
その時ー。
「…はるかぁ〜?」
真佑が遥香の部屋のドアを開けた。
2人は慌てて離れる。
「…あれぇ〜?お邪魔だった?」
「ぜんっぜん!」
「それにしてはなんか2人とも顔が赤いような…?」
「…もしかして、2人ってそういう関係?」
「…違うわ!」
「…違います!」
「なに、揃いも揃ってハモっちゃって」
「怪しい…」
真佑は両手を組んで目を細める。
「べ、別に怪しいことなんてしてないし!」
「遥香が珍しく反論してるわね?」
「渉がいたら隠し事がバレてたわよ〜?」
「…まっ、私は2人がそういう関係なら応援する!」
「優里ちゃん!遥香を落とすの頑張ってね!」
「遥香、けっこう難攻不落だから!」
真佑はそう告げて部屋を出て行ってしまう。
「…行っちゃった」
優里はポカンとしていた。
「…すみません、私のせいで誤解されてしまって」
「…べつに」
「…でも」
「…優里が無事ならそれでいい」
遥香は優里の頭を撫でて部屋を出ていく。
優里には再び遥香と話せるようになったことが、
何よりも嬉しかった。
優里が、ダイアモンドメンバーたちと再び共に戦うことを決意した翌日、
彼女はまだ、昨日の怪我の痛みをこらえながら、ゆっくりと歩いていた。
(朔也様たちに心配をかけちゃいけない……)
優里は、痛みを隠すように、
顔を少し引きつらせながらも、前へと進もうとしていた。
その時、優里の後ろから、一人の生徒が近づいてきた。
「優里、おはよう」
それは、日向朔也だった。
優里が驚いて振り返ろうとしたその瞬間、
朔也は、優里を後ろからひょいと抱え上げた。
優里は、突然のことに、驚きの声を上げた。
「えっ……! 朔也、さま……?」
朔也は、優里の問いかけに、何も答えなかった。
ただ、優里の痛みを和らげるように、
優しく、優里を抱きかかえていた。
優里は、朔也の腕のなかで、
彼の体温と、彼の強い意志を感じていた。
「どうしたんですか?」
優里は、朔也にそう尋ねたが、
朔也は、優里を抱えたまま、
有無を言わさずダイアモンドラウンジへと歩き始めた。
「いいから、もう少し休んでいなさい。僕の命令だ」
朔也の言葉は、優里を気遣う優しさと、
優里を守るという強い決意に満ちていた。
この瞬間、優里と朔也の関係は、
以前のような「ダイアモンドのパートナー」という関係ではなく、
互いを支え、守り合う、新たな関係へと変化していた。
朔也に抱きかかえられたまま、
ダイアモンドラウンジに入ってきた優里は、
顔を真っ赤に染めていた。
彼女は、朔也の優しい腕のなかで、
彼の心遣いに感謝しながらも、
メンバーたちに見られていることに、深い羞恥心を感じていた。
「朔也様、もう、大丈夫ですから……」
優里は、小さな声で、そう朔也に訴えたが、
朔也は、優里の言葉を無視し、
優里をソファにそっと座らせた。
「ここで、ゆっくり休んでいなさい。僕の命令だ」
朔也の優しい言葉に、
優里は、ただ頷くしかなかった。
その光景を、遥香は、複雑な心境で見つめていた。
優里が、朔也に心を開き、
優里の心と体が癒されていくことに、遥香は安堵していた。
しかし、朔也と優里の親密な距離感を見て、
遥香の胸の奥は、モヤモヤとした感情で満たされていた。
朔也に抱きかかえられて
ダイアモンドラウンジに連れてこられた優里の、
嬉し恥ずかしそうな姿と、それを見て複雑な表情を浮かべる遥香。
その様子を、真佑は、静かに見つめていた。
真佑は、以前、優里と遥香の距離を縮め、
二人の関係を応援しようとしていました。
しかし、美月の悪意や様々な出来事が重なり、
その計画は頓挫していた。
しかし、優里が孤独な戦いを経て、
再びダイアモンドのパートナーとして戻ってきた今、
遥香が優里を見る瞳は、以前よりも強く、
そして切ない光を放っていることを、真佑は悟る。
「遥香は……まだ、優里ちゃんのことが…」
真佑は、そう確信した。
真佑は、優里と遥香の二人の幸せを願う気持ちが、
再び強くなっているのを感じた。
彼女は、二人のため、
そして遥香の心を救うために、ある決意をした。
真佑は、メンバーたちに、
優里と遥香の二人をそっとしておくように促した。
「ねえ、朔也。優里ちゃん、ちょっと休ませてあげてよ。遥香、ちょっと優里ちゃんの話し相手になってあげて?」
真佑の言葉に、朔也たちは、
真佑の意図を察し、何も言わずにその場を離れた。
ダイアモンドラウンジには、
優里と遥香の二人だけが残された。
優里が、朔也に抱きかかえられてきたこと。
そして、二人の間に流れる、温かい空気。
その光景が、遥香の胸の奥を締め付けていた。
遥香は、意を決して、優里に、一つの問いかけをした。
「ねえ、優里……」
「……朔也に、恋してる?」
その言葉は、優里を驚かせた。
優里は、遥香がなぜそんなことを聞くのか、理解できない。
遥香の瞳は、優里の答えを、真剣に求めているようだった。




