表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイアモンドクラス  作者: 優里
朔也のパートナー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/96

「無実」と「秘密」






遥香は、ダイアモンドラウンジの、

誰もいないソファに、深く、深く、沈み込んでいた。


優里を失い、自らの無力さを痛感した彼女の心は、

深い絶望に満たされていた。


少し前まで、遥香は、ダイアモンドの絶対的で、完璧なナンバー1だったはずだ。


周囲の誰もが、遥香を「女王」と崇め、

遥香の言葉は、常に、正しいと、信じられていた。


しかし、それは、すべて、虚像だった。


優里が失ったパートナーバッジの一件で、

遥香は、自分の無力さを、まざまざと、見せつけられた。


優里を助けることもできず、

ただ、無力に、立ち尽くすことしかできなかった。


そして、優里は、遥香の代わりに、すべてを背負い、

自分の人生に、大きな傷を負った。


(…本当の私は、無力で、何もできない。)


(自分でも見たくなかった、自分の醜さを、どんどん、見せつけられているような気がする。)


(なにもできないのに、周囲におだてられて、私は、完璧な仮面を、被り続けていた。)


「…なにが…ダイアモンドの…ナンバー1だ…」


遥香の声は、震えていた。


その言葉には、自分自身への、深い嫌悪と、絶望が込められていた。


完璧な仮面は崩れ落ち、そこには、ただ、傷ついた一人の少女がいた。


その時、ダイアモンドラウンジの扉が開き、朔也が入ってきた。


朔也は、ラウンジのなかを見渡した。


「…あれ?…遥香…1人…?」


朔也の声は、静かだったが、

その言葉は、遥香の心を、深く、深く、えぐった。


優里が、遥香の隣にいない。


その事実が、遥香に、再び、自分の無力さを突きつけていた。


朔也は、遥香の無力な姿を見て、気さくに声をかけた。


「…どうしたんだよ。そんな顔をして…」


「…遥香…らしくないぞ…?」


朔也は、そう言って、遥香の隣のソファに、腰を下ろした。


「…そこは…優里の席…」


「…悪い…」


朔也は、そう言って、席を立った。


そんな時、遥香は、意を決したように、朔也に声をかけた。


「…ねぇ、朔也」


朔也は、遥香のただならぬ雰囲気に、振り返った。


「…朔也から見た私って…どんな人…?」


遥香は、朔也に、そう尋ねた。


その問いかけは、遥香が、自分自身を見失っていることの、何よりの証拠だった。


完璧な仮面を被り、誰にも弱みを見せなかった遥香が、

初めて、他人に、自分自身を、問うていたのだ。


朔也は、遥香の問いかけに、すぐに答えることはできなかった。


朔也は、遥香の心の奥底にある、深い悲しみと、孤独を、感じていた。


朔也は、先ほど座った優里の席とは逆にある

遥香の隣のソファに、もう一度、腰を下ろした。


「…遥香は…完璧で強い」


「…でも、それは遥香が…一人で戦ってきた証だ…」


朔也は、そう言って、遥香の肩に、優しく、手を置いた。


「…遥香は…一人じゃない…」








美月による宝来優里への一方的な攻撃は、

その日のうちに学園中に知れ渡り、優里を深い孤立へと追いやった。


そして、翌日からは、美月とその取り巻きのプラチナの生徒たちによる、

陰湿で巧妙な「女子特有のいじめ」が始まった。


それは、これまでの学園のいじめとは一線を画す、精神的な追い込みだった。


これまでのいじめは、直接的な暴力や金銭の要求といった、

より「暴力的で物理的なもの」が主だった。


しかし、優里が直面したのは、目に見えにくく、確実に心を蝕む攻撃だった。


いじめの主導者である美月やその取り巻きは、優里を精神的に追い詰めるために、

彼女の「ランク」と「立場」を執拗に突きつけた。


「あんたがプラチナを怒らせたから、こんなことになってるんだよ」


「身の程を知らないから、こうなるんだ」


彼らは、優里がブロンズからシルバーへと昇格したものの、

本来は下位ランクであるという事実を嘲笑し、

彼女がダイアモンドのパートナーであること自体が

「偽物」であるかのように仕向けた。


「どうせ、ブロンズ上がりのシルバーが、ダイアモンドのパートナーなんて、調子に乗ってただけじゃない?」


「ダイアに見捨てられた途端、これだよ。やっぱり、下位ランクは下位ランクってことね」


優里の「本来ブロンズ止まり」という自己認識を容赦なく刺激した。


優里は、遥香の完璧さを守るために真実を隠し、

その結果としてダイアモンドメンバーからの信頼を失い、

そして今、学園全体から孤立し、精神的に追い詰められていた。


かつて、遥香の輝きを間近で見るために、

ダイアモンドメンバーになれるよう努力した優里だったが、

今はその輝きが遠ざかり、深い絶望の淵に立たされていた。


優里が陰湿な女子のいじめに深く追い込まれていくなか、

向井渉は、いつものように学園のネットワークを巡回し、

最新の情報を収集していた。


彼の猫耳は、学園のあらゆるざわめきを捉え、

その情報をデータとして分析する。


退屈そうにダイアモンドラウンジのソファに寝ころび

タブレット端末をいじっていた。


その時、渉の目に飛び込んできたのは、

学園内の生徒がこっそり撮影し、

匿名でアップロードした一本のショート動画だった。


タイトルは

「ブロンズ上がりがプラチナを怒らせて大騒ぎ!」

といった煽り文句がつけられており、

内容は、昨日、優里が美月と廊下で揉み合っている様子を捉えたものだった。


動画は、低画質で、音声も不明瞭だったが、

優里が必死に何かを奪い返そうとしている姿と、

美月がそれを拒絶している様子が、はっきりと映し出されていた。


動画の説明文には、

「宝来優里がプラチナの生徒を怒らせて揉めている」

と書かれており、優里がいじめの加害者であるかのようにミスリードされていた。


「…ん?」


渉は、ソファから起き上がる。


その混沌とした映像のなかに、

決定的な「真実の断片」を見逃さなかった。


動画が一時停止された瞬間、

渉の鋭い視線が、優里の制服の襟元に釘付けになった。


そこには、美月と揉み合う直前、

確かに、ダイアモンドのパートナーバッジがきらりと輝いていた。



向井渉は首を傾げる



動画に映る優里の襟元には、

間違いなくダイアモンドのパートナーバッジがつけられていた。


これは、美月がバッジを身につけているのを見た後の

優里の言葉(「どこかで落とした」)と、

ダイアモンドメンバーが抱いた「譲渡」の疑念に矛盾する。


「揉み合い」の理由は、

優里がプラチナの生徒と揉み合っていたのは、

美月がバッジをすでに持っていたからではなく、

優里が美月から「何か」を取り戻そうとしていたからだ。


優里の沈黙は、

優里がこの真実をダイアモンドメンバーに明かさなかったのは、

美月をかばうためではなく、別の理由がある。

そして、その理由は、恐らく「遥香の完璧さを守る」という、

優里自身の深い優しさに起因していると推測できる。


渉の猫耳がぴくりと動き、その瞳に鋭い光が宿った。


彼は、優里がバッジを失くした真の理由、

そして彼女がなぜ沈黙を選んだのかの核心に迫っていた。



優里が陰湿な女子のいじめに苦しむなか、

渉は学園のネットワークから得たショート動画をさらに詳しく解析していた。


粗い画質のなかでも、彼の鋭い目は、重要な細部を見逃さなかった。


動画を特定のフレームで拡大した瞬間、渉は息を呑んだ。


そこには、優里と美月が揉み合っている様子が映し出されており、

美月の手が、優里の腕やドレスだけでなく、

優里の制服の襟元を、明確に掴んでいるのが確認できた。


美月の指が、バッジの留め具らしき部分に触れているのが、うっすらと見えた。


そして、その直後、優里が手を離した時には、

バッジは既に襟元から消えていた。


渉の脳内で、全ての情報が瞬時に繋がり、

明確な結論が導き出された。


「にゃん……これは……」


彼の猫耳がぴくりと震え、瞳に確信の光が宿った。


この動画は、美月が、単にドレスを隠しただけでなく、

揉み合いの騒ぎに乗じて、

意図的に優里のダイアモンドのパートナーバッジを奪い取ったことを示していた。


美月は、最初から優里のバッジを奪い、

彼女を失墜させることを狙っていたのだ。


優里が真実を語らなかったのは、

遥香の完璧な姿が崩れたことを隠すためだった。


しかし、その結果、優里はダイアモンドメンバーからの不信感を買い、

美月の策略にまんまと嵌められていた。


そして、この動画は、その優里の潔白を証明する、決定的な証拠となる。



渉は、この動画が持つ意味の重大さを理解していた。


これは単なる個人のいじめ問題ではなく、

ダイアモンドの権威、そして優里への不信感を払拭するための、

唯一の鍵だった。


渉は、この動画を他のダイアモンドメンバーたちに提示し、

優里が直面している不当な状況、

そして彼女が真実を語らなかった理由を明らかにしようと決意した。



向井渉が真実を暴く決定的証拠を発見している頃、

宝来優里は、なおも美月とその取り巻きのプラチナの生徒たちによる

陰湿な攻撃に晒されていた。




昼休み、人気のない学園の裏庭。


優里は、逃げるように身を隠していたが、美月たちに見つかってしまう。


彼女たちは、優里を嘲笑しながら取り囲む。


「何よ、こんなところでコソコソと。寂しいの?」


美月の仲間の一人が、わざとらしい声で優里を挑発した。


優里は、悔しさで唇を噛みしめ、必死に絞り出した。


「美月さん……お願いだから、あのバッジを返して……」


優里の言葉に、美月は顔に冷たい笑みを浮かべた。


彼女は、胸元に輝くダイアモンドのパートナーバッジを、

わざと優里に見せつけるように指でなぞった。


「これのこと? あら、これ、あなたのものだったかしら? 私、あなたが私にくれたって聞いたんだけど」


美月の言葉は、優里の心に深く突き刺さった。


自分が遥香を守るためについた嘘が、

今、自分自身を深く傷つけている。


その事実が、優里の胸を締め付けた。


優里は、反論する言葉が見つからず、

ただ美月を睨みつけることしかできなかった。


彼女の瞳には、悔しさと、深い絶望が滲んでいた。


「どうしたの? 何か言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいじゃない。もしかして、自分がブロンズ上がりの分際で、ダイアモンドのものを欲しがっていることが、恥ずかしいのかしら?」


美月の言葉は、優里の最も弱い部分を容赦なくえぐった。


優里は、言葉を失い、顔を蒼白にした。


プラチナの生徒たちは、そんな優里を見て、

嘲るように冷たい笑みを浮かべた。


優里は、この時、完全に孤立し、絶望の淵に立たされていた。


美月の悪意と、真実を語れない自身の状況が、優里を深く追い詰めていく。






優里が美月とその取り巻きによる陰湿な攻撃に晒されている頃、

ダイアモンドラウンジでは、朔也、玲司、悠、真佑、遥香が、

優里の処遇について重苦しい議論を続けていた。


美月がバッジを身につけて現れたことで、

彼らは優里がバッジを「譲った」という美月の言葉を

信じざるを得ない状況に追い込まれていた。


「優里が自らバッジを譲ったとすれば、これは学園の規則に対する明確な違反だ。ダイアモンドのパートナーとしての資格を剥奪せざるを得ない」


朔也は、非情な決断を下す覚悟を滲ませていた。


彼の表情からは、優里への深い失望が見て取れる。


玲司もまた、厳しい口調で付け加えた。


「ダイアモンドの権威を保つためにも、見せしめは必要だ。そうでなければ、学園の秩序が乱れる」


「だけど……優里ちゃんが、そんなことするはずないよ……!」


真佑は、優里の無実を信じたい一心で、必死に訴えた。


しかし、美月の証言と、優里自身の沈黙が、彼女の言葉の説得力を弱めていた。


「だが、現に美月がバッチを持っている。優里は何も話さないしな」


「悠、バッジの譲渡は禁止だと、優里に教えなかったのか?」


「優里がバッジを譲渡すると思うのか?あの性格だぞ?」


「確かに、優里は美月と違って、ダイアモンドのパートナーになったからといって対価を求めているようには見えない」


「むしろいじめから逃れるための手段にしていたとしか思えなかったがな」


悠は、優里の沈黙に苛立ちながらも、真佑の言葉にわずかに迷いを見せていた。



しかし、その議論の傍らで、向井渉は、彼らとは全く異なる場所を見ていた。


彼は、昨日発見したショート動画を何度も繰り返し再生し、

美月が優里の襟元を掴んだ瞬間の映像を、あらゆる角度から分析していた。


そして、その瞬間の映像をさらに鮮明に拡大し、

ピクセル単位で解析した結果、

渉の猫耳がぴくりと震え、瞳に強い確信が宿った。


「にゃん……!」


渉は、ディスプレイに映し出された映像を指差した。


その映像には、美月が優里の襟元を掴み、

指がバッジの留め具に意図的に触れ、引き剥がそうとしている、

明確な動作が映し出されていた。


そして、次の瞬間、

バッジが優里の襟元から消え去る瞬間が、鮮明に捉えられていた。


「この動画は、優里がバッジを譲ったわけではない、奪われた証拠だにゃん!」


渉は、興奮した声で叫んだ。


彼の解析は、美月が優里の注意がドレスに向いている隙を突き、

巧妙にバッチを盗み取ったという、決定的な真実を暴き出した。




優里の処遇を巡るダイアモンドメンバーたちの重苦しい議論のなかで、

山下遥香は、ただ黙って耳を傾けているだけだった。


彼女の表情は読み取れなかったが、

その瞳の奥には、深い苦悩と葛藤が渦巻いていた。


遥香は、優里がなぜ真実を語らないのか、

その理由を正確には知らなかった。


しかし、優里が自分の窮地を救ってくれたこと、

そしてその際にバッジが失われたことは、遥香自身が最もよく理解していた。


優里が沈黙を選んだのは、

きっと自分の「完璧な姿」を守るためなのだろうと、

遥香は直感的に感じ取っていた。


(もし、私が口を開けば……)


遥香の脳裏には、自分が肌着一枚で絶望していたあの瞬間が蘇った。


その姿を学園のトップであるダイアモンドメンバーたちに知られることは、

遥香の完璧な女王としてのイメージに、

取り返しのつかない傷をつけることになる。


そして、優里がその秘密を守ろうとした献身を、

遥香自身が裏切ることにもなってしまう。


遥香は、優里が自分のためにどれほどの犠牲を払っているかを知っていた。


だからこそ、今、優里が守ろうとしているものを、

遥香自身が壊してしまうわけにはいかない。


優里がどんなに苦しんでいようと、彼女が沈黙を選んだのであれば、

遥香もまた、その沈黙を守るべきだと考えていた。


彼女は、自身のプライドと、優里への深い信頼と感謝の間で、激しく揺れ動いていた。


優里の無実を訴えたい。


しかし、優里が守り通そうとしている秘密を、

自分自身の口で暴くことはできない。


このジレンマが、遥香を苦しめていた。


遥香は、ただ静かに、優里の運命が決定されるかもしれない

議論の行方を見守るしかなかった。


彼女は、優里の真意を信じ、そして優里が守ったものを守り抜くために、

自らもまた沈黙という重い選択をするしかなかった。




一方、美月の瞳には、優里を完全に叩き潰すための、

新たな、そしてより悪質な企みが宿っていた。


美月は、優里の目の前に立ち、

その胸元に輝くダイアモンドのパートナーバッジを指先でなぞった。


優里の顔には、一瞬、希望の光が灯ったが、

美月の冷たい笑みが、それが偽りであることを告げていた。


「このバッジ、返してほしいんでしょ? いいわよ、返してあげる」


美月の言葉に、優里の心臓が大きく跳ね上がった。


しかし、その甘い言葉の裏には、

凍てつくような条件が隠されていた。


「ただし、条件がある」


美月の声は、蜜のように甘く、

しかしその内容は、優里の心を絶望の淵に突き落とすものだった。


「あなたは、私に土下座して謝罪して。その様子を、私が動画に収める。それが、このバッジを返す条件よ」


美月の言葉は、優里の耳に届いた瞬間、全身を凍てつかせた。


優里は、息をすることさえ忘れて、美月を見つめた。

その瞳は、恐怖と、信じられないという感情で大きく見開かれている。


それは、優里の純潔を奪い、その行為を公衆の目に晒すという、

あまりにも卑劣で、残酷な要求だった。


優里に「ブロンズ止まり」というレッテルを、決定的な形で烙印を押そうとする、

悪魔のような企みだった。


美月は、優里が、ダイアモンドのパートナーバッジを取り戻すために、

この屈辱的な条件を受け入れざるを得ないだろうと確信していた。


美月の顔には、完璧な勝利を確信したかのような、醜悪な笑みが浮かんでいた。


彼女は、優里を精神的にも肉体的にも完全に支配し、

学園から永久に追放しようと目論んでいた。


優里は、震える体を必死に奮い立たせた。


彼女の脳裏に、遥香の笑顔が浮かぶ。


そして、その笑顔を守るために、自分が何をすべきか。


たとえダイアモンドメンバーからの信頼を完全に失い、

学園中でいじめがエスカレートしたとしても、

自分自身の尊厳だけは、決して手放してはならない。


遥香に恥じるような行為だけは、決してしてはならない。


優里は、美月の冷酷な目に、真っすぐな視線を返した。


その瞳の奥には、決して屈しないという、静かな決意が宿っていた。


「……嫌です」


優里の声は、震えていたが、

その言葉ははっきりと、美月の耳に届いた。


「そんなこと、絶対に、できません」


優里は、バッジを取り戻すという希望を捨ててでも、

自身の尊厳を守ることを選んだ。


それは、彼女にとって、唯一残された

「自分自身」を守るための、最後の抵抗だった。


彼女は、この卑劣な条件を拒否することで、

美月の悪質な企みに、真正面から立ち向かった。


この決断が、後にどのような波紋を呼ぶのか、

優里自身はまだ知らなかった。


優里の拒否は、美月の悪意に火をつけた。


優里がバッジを取り戻すために屈辱的な条件を受け入れると信じていた美月は、

そのプライドを踏みにじられたことに激怒した。


美月の顔は、憎悪で歪んでいた。


彼女は、優里に詰め寄るように一歩踏み出し、

その瞳は冷たい光を放っていた。


「そう……返さなくていい、ということね」


美月の声は、地の底から響くように冷たく、優里の心を凍てつかせた。


彼女は、胸元のダイアモンドのパートナーバッジを

わざと優里に見せつけるように、指でなぞる。


その輝きが、優里の絶望をさらに深くした。


そして、美月は、優里の心を完全に打ち砕くかのような、

非情な言葉を突きつけた。


「だけど、土下座はしてもらうわ」


優里は、バッジを諦めたにもかかわらず、

美月は、当初の条件、つまり優里の尊厳を奪うことを、

そのまま実行しようとしている。


それは、もはやバッジの返還とは関係なく、

優里を徹底的に貶め、精神的に破壊しようとする、純粋な悪意だった。


美月の顔には、勝利を確信したかのような、歪んだ笑みが浮かんでいた。


彼女は、優里が、この学園で誰にも助けられない、

孤立無援の存在であることを知っていた。


ダイアモンドメンバーは優里を信じていない。


遥香は沈黙している。


優里には、もはや逃げ場がない。



「これで、あなたは完全に終わりよ。ダイアモンドに見捨てられ、プラチナにも見放され、そして、ブロンズの底辺に、一生這いつくばることになるわ」


美月の言葉は、優里の最も深いコンプレックスを容赦なくえぐり、

彼女を絶望の淵へと突き落とした。


優里の目には、何も見えない虚無が広がっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ