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ダイアモンドクラス  作者: 優里
ブロンズの少女
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交わらない世界線

ブロンズの少女、優里はあの日、

この学園のトップである女王、遥香を見てしまった。




容姿端麗、才色兼備、頭脳明晰の三拍子が揃う完璧な遥香。


丁寧に手入れをされているであろう、長い、きれいな黒髪が

風になびいていた。



『本当に同じ人間なのだろうか』

『”天は二物を与えず”ではなかったのだろうか』




優里はあの日、一目みただけで、一瞬にして虜になった。

世間では、これを一目惚れと呼ぶのであろう。



しかし、世間とはかけ離れている学校に所属しており、

世間とはかけ離れている生活を送っている優里にとって、

一目惚れなどとは無縁の生活だった。



きっと世の中のありきたりな学校の高校生であれば、

一目惚れをして、本人が理解できなくとも、

友人なる人物が、

「それは一目惚れだよ」と

教えてくれるに違いない。


もっとも、そう呼べる友人がいれば、の話かもしれないが




しかし、世間とはかけ離れている学校に所属しており、

世間とはかけ離れている生活を送っている優里にとって、

そう呼べる友人はおろか、

そう呼べる現象に出逢うとさえ思っていなかったのだ。




なぜなら、優里にとって、日常は地獄のようなものだからだ。






遥香への一目惚れ以来、優里の日常は遥香の存在に支配されるようになった。




カースト最下位の生徒にとって、

ダイアモンドクラスの遥香は、まるで別世界の住人だ。



ダイアモンドラウンジに籠りがちな遥香を見かける機会は少ない。



少ない…

というか、滅多にお目にかかれないという方が正解だろうか。




それでも、廊下の向こうに、あるいは中庭で、

彼女の完璧な姿を見つけるたび、

優里の胸は締め付けられるような感覚に襲われた。




遠くからでも

話せなくても



一目みかけるだけで

彼女の心は遥香への「憧れ」で満たされていった。





しかし、遥香は優里の存在に全く気づいていなかった。



カースト下位の生徒は、彼女の視界にすら入らない。






ある日の放課後、遥香が校舎を後にする際、

風に舞ったシャープペンシルが彼女の教科書から滑り落ちた。



優里は反射的に手を伸ばす。



しかし、その手は遥香に届くことはなかった。





「おっと、女王様の物だぞ。ブロンズが触れるなど恐れ多い」




優里の前に立ちはだかったのは、

遥香に長年片想いしている向井渉だった。




彼は優里の手を払いのけ、嘲るような目で優里を見下ろした。




そして、拾い上げたシャープペンシルを遥香に差し出す。





遥香は一瞬、眉をひそめたが、すぐに無表情に戻った。




「ありがとう、向井くん」



その声には何の感情もこもっていない。



彼女は優里を一瞥することもなく、向井からシャープペンシルを受け取ると、

そのまま足早に去っていった。




向井は優里に冷たい視線を投げつけ、


まるで「分をわきまえろ」とでも言うように鼻で笑ってから、


遥香の後を追った。






優里は、その場に立ち尽くすしかなかった。




遥香は、本当に自分に何の興味もない。



その事実が、凍てつくように心を締め付けた。




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