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ダイアモンドクラス  作者: 優里
シルバーへの復権

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過去の傷





ある日の放課後、ダイアモンドラウンジで勉強を終えた優里が、

いつものようにラウンジを後にしようとした時のこと。


朔也は、他のダイアモンドメンバーに聞こえるか聞こえないか、

ぎりぎりの声量で、まるで独り言のように呟いた。


「最近、優里に声をかける生徒が増えたな……。特に、あのサッカー部のアイツとか、結構熱心みたいだ」


その言葉は、優里の耳にも、はっきりと届いた。

優里は、思わず足を止め、朔也の方を振り返ったが、

朔也は窓の外を見つめたままで、優里に気づいている様子はなかった。


その朔也の無関心を装う態度が、

かえって優里の心に、朔也の言葉の「信憑性」を強く印象付けた。


優里の頭のなかには、最近、確かに廊下で何度か挨拶を交わしたり、

少しだけ言葉を交わしたことがある、明るい雰囲気の男子生徒の顔が浮かんだ。


彼はサッカー部のエースとして学園でも有名で、いつも笑顔が素敵な生徒だった。


優里は、彼が自分に好意を寄せているなどとは、夢にも思っていなかった。


朔也は、優里の反応を気にするそぶりも見せず、

続けて、まるで誰もいないかのように呟いた。


「まあ、優里も可愛いからな。新しいパートナーができてもおかしくないか」


「新しいパートナー」という言葉は、優里の心に、漠然とした不安の影を落とした。

朔也とのパートナーシップは、遥香のためだと分かっているものの、

その言葉は優里にとって、どこか複雑な響きがあった。


優里が、自分以外の生徒と親しくしているという漠然とした情報が、

遥香の耳にも入り始め、敏感に反応した。


優里が自分以外の誰かに興味を示すことへの強い拒否感が、遥香の心に湧き上がってきた。




ある日の午後、ダイアモンドラウンジで、

何気ない会話の中で優里の話題が出た際、

遥香は、他の生徒たちが優里に好意を寄せているという雰囲気を察知した。


その瞬間、遥香の顔に、女王としての冷徹な表情が戻った。


しかし、その瞳の奥には、優里への強い執着と、

抑えきれない独占欲が燃え盛っていた。


「優里は、ダイアモンドのパートナーだよ。他のランクの者とパートナーを組む必要性など、一切ない」


遥香の言葉は、氷のように冷たく、ラウンジの空気を一瞬にして凍らせた。


その声には、学園の女王としての絶対的な権威と、

優里への強い所有意識が込められていた。


彼女は、優里が他の誰にも手出しさせないという、強い意志を示した。





ある日の放課後、ダイアモンドラウンジ。


朔也は、さりげなく優里をラウンジの窓際へと誘導した。


窓の外では、グラウンドにいた遥香が、隣を歩く悠と楽しそうに会話をしていた。

悠が遥香の肩に軽く手を置いたり、遥香が悠の言葉に笑顔を見せたりと、

二人の間には親密な雰囲気が漂っていた。

それは、まさしく恋人同士のような光景だった。


朔也は、優里の隣に立ち、何気ない口調で遥香と悠の様子を指し示した。


「遥香と悠は、昔から仲が良いからな」


朔也は、優里の反応を注意深く観察していた。


優里の顔に、嫉妬や焦燥の色が浮かぶことを期待していた。


しかし、優里の反応は、朔也たちの予想を大きく裏切るものだった。


優里は、遥香と悠の親密な様子を微笑んで見つめ、

純粋な笑顔で、素直に言葉を紡いだ。


「仲が良さそうで、良いですね!」


優里の言葉には、何の悪意も、嫉妬も、

そして「取られたくない」という感情の影もなかった。


ただただ、大切な遥香と、頼れる悠が仲良くしていることへの、

心からの喜びと、温かい感情が込められていた。




優里がダイアモンドラウンジに顔を見せなくなり、

学園中には「朔也に捨てられた」「ダイアモンドに見放された」という噂が急速に広まり始めた。


優里が廊下を歩けばひそひそ話が聞こえ、

これまで親しくしてくれていた生徒たちも、次第に優里から距離を置くようになった。


そして、その日は突然訪れた。


昼休み、中庭の片隅。


人気のない場所にいた優里のもとに、複数の女子生徒たちが集まってきた。


彼女たちは、かつて優里に嫉妬心を抱いていた生徒や、

ダイアモンドの威光を笠に着る優里に反感を抱いていた生徒たちだった。


「ねぇ、宝来さん。最近、朔也様と一緒にいるところ見ないわね?」


「あら、もしかして、もう飽きられちゃったのかしら?」



「あんな風にダイアモンドのコネで上がってきたくせに、結局、実力がないから捨てられたのね」


「あんたみたいな子が、あのラウンジにいるなんておかしいと思ってたんだから!」




その様子を、少し離れた場所から、朔也、悠、玲司、真佑が静かに見守っていた。


彼らの表情は、一様に苦渋に満ちていた。


悠は、今にも優里のもとへ駆け寄ろうとしたが、朔也がその腕を掴んで制した。


「まだだ。俺たちが手を出す段階ではない」


朔也の声は、冷静ながらも、苦渋に満ちていた。




優里は、周囲の冷たい視線と、悪意ある言葉の暴力に、完全に打ちひしがれていた。


誰も助けてくれない。味方は誰もいない。


深い孤独と不安が、優里の心を支配した。


彼女は、涙で滲む視界のなかで、ただただ、この状況が終わることを願うばかりだった。




その時だった。


中庭の喧騒を切り裂くように、凛とした、

しかしどこか焦燥を含んだ足音が近づいてきた。


周囲の生徒たちが、その音に気づき、ざわめき始めた。


「あれは……!」


「遥香様だ!」


生徒たちの視線の先には、遥香の姿があった。


普段は落ち着いた足取りの彼女だが、その日はどこか急いでいるように見えた。


その表情は、険しく、そして只ならぬ怒りを湛えているようだった。


遥香は、優里が取り囲まれている場所に近づくにつれ、

周囲の生徒たちの言葉の内容を耳にした。


彼女の美しい顔が、みるみるうちに怒りに染まっていく。


そして、優里の数メートル手前で、遥香は立ち止まった。


その場にいた全ての生徒の視線が、一点に集中する。


遥香の存在感は圧倒的で、周囲の空気が張り詰めるのが感じられた。


遥香は、まず優里の顔を、心配そうに見つめた。


優里の目に涙が浮かんでいるのを確認すると、

その視線を、優里を取り囲む女子生徒たちへとゆっくりと移した。


その瞳は、氷のように冷たく、

学園の頂点に立つ女王としての威圧感に満ち溢れていた。


「……そこで、何をしているの?」


その一言には、逆らうことを許さない絶対的な力が宿っていた。


中庭の喧騒は瞬時に止まり、女子生徒たちは、畏怖の念にかられ、息を飲む。


嫌がらせをしていた生徒の一人が、怯えながらも何か言い返そうとしたが、

遥香はそれを冷たい視線で一蹴した。


「答えて」


その威圧感に耐えきれず、女子生徒たちは口ごもりながら、

優里に対する不満や噂話を言い始めた。


「こいつが、ダイアモンドのコネで成り上がったから」


「ブロンズだったくせに、勘違いしたから」


「...だから!」


「言い訳は聞かない。宝来優里は、ダイアモンドの大切なパートナー」


その言葉は、中庭にいた全ての生徒の耳に、はっきりと届いた。


「彼女に何か不当なことをする者は、私が決して許さない。分かった?」


その一言は、単なる警告ではなかった。

それは、学園の女王による、絶対的な「保護宣言」だった。


女子生徒たちは、遥香の圧倒的な威圧感に完全に萎縮し、青ざめた顔で頷くしかなかった。


遥香は、彼女たちから視線を外し、優しく優里に手を差し伸べた。

その表情は、先ほどの冷酷さとは打って変わり、優しさと思いやりで満ちていた。


「優里、大丈夫?」


震える声で、優里は小さく頷いた。

遥香は、そんな優里の肩をそっと抱き寄せ、周囲を睥睨するように見渡した。


「ダイアモンドのパートナーである宝来優里に手出しをする者は、ダイアモンドに逆らうことになる」


その言葉は、学園中に響き渡る、女王の絶対的な命令だった。



遥香は、優里を優しく抱きしめたまま、その場を後にした。

二人の背中を見送りながら、生徒たちは、

今日、学園の歴史がまた一つ動いたことを感じていた。



中庭での劇的な救出劇の後、遥香は震える優里を優しく抱きかかえ、

そのままダイアモンドラウンジへと連れ帰った。


遥香の表情は、まだ怒りの余韻を残しつつも、

優里を守り抜いたことへの安堵と、優里への深い愛情に満ちていた。


ラウンジのソファに優里を座らせ、遥香は優里の顔色を心配そうに覗き込んだ。

優里は、遥香の優しさに、自分のせいで遥香に迷惑をかけてしまったと、胸を痛めていた。


優里は、遥香のまっすぐな瞳を見つめた。


「遥香様……。私、朔也様のパートナーなのに、遥香様にご迷惑を……」


優里のその純粋な言葉は、遥香の心に、ちくっと刺さった。



(優里にとっては、私はただの「遥香様」で……朔也は「パートナー」なのか……)


遥香の胸に、言いようのない痛みが走った。

その痛みは、優里が他の生徒と親しくしていた時の嫉妬とも異なり、

自身の優里への強い感情と、

優里の自分への認識との間に存在する「隔たり」を突きつけられたような、切ないものだった。


遥香は、優里にとって自分が「憧れ」以上の存在ではないことを、改めて自覚させられた。




朔也は、その日の放課後、人目のないラウンジで、優里を呼び止めた。

優里は、中庭での出来事以来、遥香への申し訳なさもあってか、どこか浮かない表情をしていた。


朔也は、優里の正面に立つと、普段の冷静沈着な態度を保ちつつも、

その眼差しには優里への真剣な問いかけを込めていた。


「優里」


「俺は、優里のパートナーだ」


朔也の言葉は、二人の間に存在する「契約」に基づいた関係性でありながら、

どこか優里に寄り添うような響きがあった。


朔也は、優里の目をまっすぐに見つめ、静かに問いかけた。


「俺は、お前のパートナーとして、お前が抱えているであろう問題に、気づいていない」


そして、朔也は、優里の心の最もデリケートな部分に触れる問いを投げかけた。


「優里、お前に悩みはないのか?」

「年頃の女の子なら、恋人が欲しいと願う時期だろう?」


朔也の目は、ただ答えを求めるだけでなく、

優里の苦悩を理解しようとする、静かな優しさを湛えていた。

その優しさが、優里の閉ざされた心の扉を、ゆっくりと開き始めた。


「あの……私……」


彼女の声は、か細く、今にも消え入りそうだった。

だが、朔也は辛抱強く、優里の言葉を待った。


「私……誰とも、その……付き合うとか、そういうのが、怖くて……。見られるのが、嫌で……」


「私なんて、他の誰とも比べても魅力なんてなくて、平凡でどこにでもいそうな存在で」


「家族にも愛されてなくて、跡取りでもない」


「そんな存在、誰も好きになんてならない」


「望まれて生まれてきたわけじゃない。何度も死のうとした。でも死ねなかった。」


「弱かったんです。いつも怖気づいてしまう。」


遥香への「憧れ」の裏には、自分のような「傷」を持つ人間が、

完璧な遥香の隣に並び立つことはできないという、優里自身の深い劣等感が存在していた。


朔也は、優里の告白を、一言も逃さずに聞き届けた。

彼の心には、優里の苦悩への理解と、

彼女をこの苦しみから解放したいという強い思いが湧き上がっていた。

同時に、優里の自己肯定感の低さの根源が、ついに明らかになった。


優里は、朔也に、その心の奥底にある絶望を吐き出した。


「こんな自分と、付き合いたがる人なんて、誰もいない」


優里の言葉には、過去の経験と、自分自身に対する深い劣等感がにじみ出ていた。

完璧な遥香とは違い、自分は「欠陥品」だという思いが、優里の心を支配していた。


「もし、もし奇跡的に誰かと付き合えたとしても……きっと、結局は捨てられてしまう」


その言葉は、優里が抱える、未来への深い不安と絶望を示していた。

彼女は、たとえ一時的に愛されたとしても、

最終的には自分の「醜い」部分が露呈し、見捨てられるだろうと、

無意識のうちに信じ込んでいた。



朔也は、優里のその心の叫びを、一言一句、真剣に聞き届けた。

彼の冷静な表情の奥では、優里の抱える絶望の深さに、

優里を救い出さなければならないという強い使命感が芽生えていた。


朔也は、優里が全てを打ち明けたことで、

今にも壊れてしまいそうな優里の心を守るように言葉を選んだ。


彼の声は、普段の冷徹なトーンとは異なり、

深い理解と、優里への揺るぎない支えを感じさせるものだった。



「優里」


朔也の呼びかけに、優里は不安そうに顔を上げた。


「そんなことはない」


その短い一言は、優里が抱えるすべての絶望と不安を打ち消すかのように、力強く響いた。


朔也は、優里の存在そのもの、

そして彼女の抱える過去の傷も含めて、

すべてを受け入れるという意思を、その言葉に込めていた。


朔也は、優里の手をそっと取り、

自分の手のひらで包み込むように優しく握った。


彼の表情は、真剣そのものだった。


「俺は、優里が誰よりも純粋で、誰よりも優しいことを知っている。そして、遥香も、優里のその本質を、誰よりも大切に思っている」


朔也の言葉は、優里の外面ではなく、その内面にある美しさ、

つまり遥香が惹かれている優里の本当の価値を、

優里自身に再認識させようとするものだった。


「優里の過去の傷が、優里を『好きになる』という感情を邪魔することはない。むしろ、それも含めて、優里は唯一無二の存在だ」


朔也は、優里のコンプレックスを否定するのではなく、

それも含めて優里の個性であり、魅力を損なうものではないと断言した。


彼の言葉には、優里の自己肯定感を高め、

自分自身を受け入れる勇気を与えるという明確な意図があった。


「だから、優里。お前は、決して一人ではない。そして、優里を心から大切に思う人間が、ここにいる」


朔也の言葉は、

優里が「結局捨てられる」という恐怖を抱いていることに対し、明確な「否定」だった。

彼は、優里が孤独ではないこと、そして遥香を含め、

彼女を大切に思う人々がいることを、優里に深く、深く刻み込もうとした。



優里から、「誰とも付き合えない」という深いコンプレックスを打ち明けられた朔也は、

優里の心の奥底に隠された真実を知った。


優里の絶望的な言葉は、彼女の「憧れ」の壁の裏に、

どれほど深い傷があったかを物語っていた。


朔也は、優里に希望の言葉をかけ、

彼女の心を少しでも軽くした後、

足早にダイヤモンドラウンジへと戻った。



朔也は、ラウンジに入ると、他のメンバーたちに視線を向け、

その表情は普段の冷静さを保ちつつも、どこか重いものだった。


「みんな、優里のことで、重要な話がある」


朔也の言葉に、メンバーたちの間に緊張が走った。

朔也は、遥香が近くにいないことを確認すると、彼らに向かって静かに告げた。


「これから話すことは、遥香には決して口外するな。優里自身の、非常にデリケートなことだ」


その厳重な口外禁止の指示に、

メンバーたちは朔也の言葉の重さを感じ取り、真剣な面持ちで頷いた。


朔也は、優里から聞いた話を、詳細に、そして感情を交えずに淡々と語り始めた。


「そんな……優里が、そんな過去を……」


悠は、優里の純粋さの裏に、想像を絶する苦悩が隠されていたことに、言葉を失った。



「優里ちゃん……そんなに辛い思いをしていたなんて……」


真佑は、優里の献身的な優しさの裏に、

深い自己肯定感の低さが隠されていたことに、胸を締め付けられる思いだった。


渉は、猫耳をぴくりと動かし、その深刻さに顔を曇らせた。


「にゃん……データだけでは推測しきれなかった、極めて個人的な心理的障壁にゃん。……」


全員が、優里の言葉の根源にある、優里の自己評価の低さの真の原因を理解した。


彼らのこれまでの策略が、優里の「憧れ」の壁を越えられなかったのは、

優里自身の深いコンプレックスという、

彼らが全く知らなかった「盲点」があったからだった。


その重い沈黙を破ったのは、常に冷静な分析を怠らない玲司だった。


「優里は、遥香を尊敬し、感謝している。それは事実だ。しかしそれ以上にはならないだろう。」


玲司は、優里のコンプレックスを解消することは、

優里が「誰かを好きになる」ことを可能にするかもしれないが、

それが遥香でなければならない理由にはならないのだ。


朔也は、優里の「憧れ」を逆手に取った、大胆な一手に見出した。

それは、優里を「憧れ」の対象である遥香の隣へと引き上げ、

対等な立場で互いを意識させるための、「昇格」だった。


朔也は、ラウンジに集まったメンバーたちに、その驚くべき決断を告げた。


「優里の心が動かないのは、遥香を『手の届かない女王』として見ているからだ。その壁を壊す」


朔也の言葉に、メンバーたちは固唾を飲んで耳を傾けた。


「優里のランクをゴールドに上げる」


朔也のその言葉に、ラウンジにいた全員が驚きに目を見開いた。



「なっ……! 朔也、何を言ってるんだ!?」


悠が、思わず声を荒げた。


ダイアモンドのパートナーとはいえ、優里はあくまでシルバーランク。

いきなりゴールドへの昇格は、学園の序列において前代未未聞の出来事だった。


玲司もまた、その冷静さを失い、信じられないという表情を浮かべた。


「朔也……それは、学園の秩序を揺るがしかねない。あまりにも性急すぎるのではないか?」


「にゃん……優里は、まだゴールドにふさわしい実績を上げていないにゃん……」


向井渉は、彼のデータが示す「優里の現状」と朔也の決断の乖離に、困惑していた。


しかし、朔也は、彼らの驚きを意に介することなく、

その冷徹な瞳で全員を見渡した。


「優里は、遥香を『憧れ』としてしか見られない。この状況を打破するには、優里に遥香の隣に並び立つ存在だと、自覚させるしかない」


朔也の狙いは、明確だった。


優里をゴールドに昇格させることで、

遥香と優里の間に存在する「ランク」という壁を取り払い、

優里に遥香と対等な存在であるという意識を芽生えさせる。


遥香が学園の女王として、

優里のゴールド昇格を承認する立場にあるため、

優里は遥香に対して、これまで以上の「特別な恩義」と、

そして「認められた」という深い感情を抱くようになる。


学園の上位ランクの一つであるゴールドに昇格することで、

優里の自己肯定感を劇的に高め、

過去のコンプレックスを乗り越えるきっかけとする。


ゴールドランクになれば優里は、

より頻繁に遥香と共に公の場に出る機会が増える。



優里のゴールドランクへの昇格という、朔也の大胆な決定は、

ダイアモンドメンバーたちに大きな衝撃を与えた。


しかし、彼らはすぐに現実的な課題に直面した。


渉が以前指摘した通り、優里はゴールドランクにふさわしい実績を上げていない。



「にゃん……優里は、まだゴールドにふさわしい実績を上げていないにゃん。ブロンズからシルバーへの昇格は、定期テストで2位のご褒美だったけど、それ以外の目立った実績がなかったにゃん」


渉の言葉は、冷徹な事実を突きつけた。

学園のランクシステムは厳格であり、実力と実績が伴わなければ、

いくらダイアモンドのパートナーとはいえ、

ゴールドへの昇格は周囲の反発を招きかねない。


それは、遥香の女王としての権威をも傷つける可能性があった。


朔也もまた、その事実は理解していた。


彼は、優里の昇格を強行するだけでは、

かえって優里が孤立を深める可能性があることを危惧していた。


朔也は、冷静に周囲を見渡し、新たな指示を出した。


「承知している。優里をゴールドに上げるには、まずは実績を作る必要がある」


朔也の言葉に、他のメンバーたちも頷いた。


優里の心のコンプレックスを乗り越え、

遥香の隣に立つ存在としての自信をつけさせるためにも、確かな実績は不可欠だった。



朔也は、優里を学園祭実行委員の主要メンバーに推薦し、

彼女にスポットライトが当たる場を設けた。


優里は持ち前の真面目さと優しさで任務にあたるが、

完璧主義の遥香やリーダーシップを発揮する悠のような「目立つ」存在ではない。


彼女は裏方に徹し、誰かのサポートに回ることで最も輝くタイプだった。


「優里は、本当に真面目に頑張っている。だが、突出した功績とは言い難い」


朔也は、優里の報告書を読みながら、眉間に皺を寄せた。


優里の貢献は確かに大きかったものの、

それは「全員で成し遂げたこと」として吸収され、

優里個人の「実績」としては見えにくいものだった。



悠と真佑は、優里の学業面でのサポートを強化し、

優里が苦手とする分野も熱心に指導した。


優里は着実に成績を伸ばし、確かに上位に食い込むようになった。


「優里ちゃん、すごいね!こんな難しい問題も解けるようになったんだ!」


真佑は優里の成長を喜んでいたが、優里はただ微笑むだけだった。


「真佑様や悠様が教えてくれたおかげです。私一人じゃ、きっと無理でした」


優里の言葉は、あくまで尊敬と感謝だった。

成績が上がった自信よりも、助けられたことへの感謝が勝っていた。


優里は、自分の成長を「教え」の成果だと感じ、

それが「自分自身の確かな実績」として、

自己肯定感に繋がることはなかった。


遥香への「憧れ」の構図は、依然として崩れないままだった。



玲司は、優里の隠れた才能を見つけ出すべく、

あらゆる分野のワークショップやイベントに参加させた。


絵画、音楽、演劇、スピーチ……。


しかし、優里はどれも器用にこなすものの、

突出して「天才的」と呼べるような才能は見つからなかった。


「優里は、何でも平均以上にこなせる。しかし、ゴールドランクに相応しい『特別な才能』と呼べるものが見当たらない」


玲司は、優里の多才さに感心しながらも、

彼女を際立たせる「何か」を見つけられないことに頭を悩ませた。



渉は、優里の小さな功績を学園中に広めようと試みたが、

優里の控えめな性格と、「自分だけの功績ではない」という謙虚さが、

情報操作の効果を限定的なものにしていた。


噂を広めても、優里自身がそれを「当たり前」と捉えてしまうため、

彼女の自己評価に大きな変化は見られなかった。


「にゃん……優里の純粋な謙虚さが、プロモーションの壁になっているにゃん。自己評価システムが極めて安定しており、外部からの刺激で容易には変動しないにゃん……」


渉は、データ分析の限界を感じ始めていた。


ダイアモンドメンバーたちは、優里をゴールドに昇格させるために、

あらゆる手を尽くしたが、ことごとく失敗に終わった。


優里の純粋さ、謙虚さ、そして遥香への揺るぎない「憧れ」が、彼らの策略を無効化していた。


ラウンジに集まった彼らの顔には、深い疲労と、

途方もない難題に直面したことへの絶望感が浮かんでいた。


「一体、どうすれば……」


悠の呟きは、全員の心境を代弁していた。


優里の自己肯定感の低さという深い問題に、

彼らは未だ有効な解決策を見つけられずにいた。



ゴールドランクへの「実績作り」もことごとく失敗に終わるなかで、

優里の自己肯定感はさらに低下していた。


彼女は、ダイアモンドメンバーたちが自分に手を焼いていることに気づき、

その優しさに感謝する一方で、何も貢献できない自分自身に深く絶望していた。




その日、ダイアモンドラウンジの片隅で、

優里は静かに、深い嘆きを抱えて座っていた。



(私、また何もできなかった……)



優里の視線の先には、自分を励ますためにと、

様々な企画を立ててくれた朔也たちの姿が見えた。


彼らが自分に尽力してくれているにもかかわらず、自分は期待に応えられない。


その事実が、優里の心を重くした。


「ダイアモンドメンバーのみなさんが、こんなに手を焼いているのに……私、何も貢献できていない」


優里は、心の中で呟いた。


自分が彼らにとって「お荷物」になっているのではないか、

という罪悪感に苛まれていた。


遥香への深い憧れがあるからこそ、

その憧れの人の大切な仲間たちに迷惑をかけているという思いが、

優里を苦しめていた。


優里は、改めて自分自身の「価値」を問い直した。


(本来、私はブロンズ止まりだったはずなのに……)


優里は、自分がブロンズからシルバーに昇格できたのは、

定期テストでたまたま良い成績が取れたことと、

何よりもダイアモンドメンバーと知り合いになれたという

「コネ」があったからだと考えていた。


自分の実力ではない、という思いが強く、

その事実が優里の自己肯定感をさらに押し下げていた。


(私がシルバーにいるのは、ダイアモンドの皆さんが助けてくれたから……。本来の私は、ブロンズにいるべき人間なんだ)


優里の脳裏には、自信のない自分が蘇っていた。


無力な自分が「本来の自分」を証明しているかのようだった。


完璧な遥香や、それぞれの分野で突出した能力を持つ

ダイアモンドメンバーたちと自分を比較し、

優里は自分自身の無力さを痛感していた。


自分のような人間が、

遥香のような輝かしい存在の「パートナー」になることなど、

決してありえないと考えているようだった。


優里が自身の無力感とコンプレックスに苛まれ、自己評価を深く沈ませている一方で、

遥香は、その名に恥じぬダイアモンドらしく、

完璧すぎるほど完璧な女王として、学園に君臨していた。


彼女の朝は、学園の業務から始まるのが常だった。


膨大な書類を正確かつ迅速に処理し、

学園運営に関するあらゆる決定に的確な指示を出す。


その判断は常に合理的で、生徒や教師からの信頼は絶大。


ラウンジでの振る舞いも、常に優雅で気品に満ち、

立ち居振る舞い一つ取っても、隙がない。



授業では、どんな難問にも即座に正解を導き出し、

教師さえも舌を巻くほどの知識と理解力を見せつける。


スポーツでも、万能な才能を発揮し、

どのような種目においても、常に最高のパフォーマンスを発揮する。


その姿は、まるで絵に描いたような理想の生徒であり、

学園の誰もが憧れる存在だった。




遥香は、友人との交流においても、完璧な配慮を見せる。


常に相手の気持ちを察し、適切な言葉を選び、

決して相手を不快にさせることはない。


彼女の周りには、常に笑顔と尊敬の念が溢れていた。




彼女の存在そのものが、学園の「光」であり、

すべての生徒が目指すべき「頂点」だった。


遥香自身も、その完璧さを維持することに、一切の妥協を許さなかった。


どんな時も、どんな場所でも、

女王としての威厳と品格を保ち続けることが、

彼女にとっての使命であり、生き方だった。




しかし、この遥香の完璧すぎる輝きは、

皮肉にも、優里の心の闇をさらに深くする要因となっていた。


(遥香様は、何もかもが完璧で、一点の曇りもない。それに比べて、私は……)


優里は、遥香の完璧な姿を見るたびに、

自分自身の「不完全さ」を痛感していた。


自信のなさ、そして誰にも打ち明けられない秘密。


それらが、遥香の輝きと対比され、優里の劣等感を一層強めていた。


優里にとって、遥香は手の届かない「憧れ」であると同時に、

自分自身の「欠陥」を浮き彫りにする、残酷なほどの「理想像」でもあった。




この遥香の完璧さと、優里の自己否定という対照的な状況が、

ダイアモンドメンバーたちの心を大きく揺さぶる。



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