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ダイアモンドクラス  作者: 優里
シルバーへの復権

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77/96

揺れる感情






宝来優里が日向朔也のパートナーとなったことで、

山下遥香の心には、優里への独占欲と、

微かな嫉妬の炎が確実に燃え上がっていた。


そして、その炎をさらに大きく燃え上がらせるべく、

朔也は篠原悠の意図を汲み、遥香の嫉妬を募らせるような行動を、

意図的に重ねていった。



学園が日常を取り戻すと、

朔也は優里の「パートナー」としての役割を、

これまで以上に積極的に果たし始めた。



ダイアモンドラウンジでは、朔也は優里の隣に座ることが多くなった。


優里が読書していれば、隣に寄り添って静かに見守ったり、

優里の質問には、遥香よりも早く、そして丁寧に答えたりした。


時には、優里の髪に触れて位置を直してやったり、

優里が淹れたお茶を「美味しいな」と微笑んで見せたりと、

ごく自然な親密さを演出した。


これらの光景を目にするたびに、遥香の胸にはチクリとした痛みが走った。



授業の合間や放課後、

優里がシルバークラスの教室からラウンジへ移動する際も、

朔也は常に優里に付き添った。


廊下で生徒たちがざわつくなか、

朔也は優里の肩にそっと手を置いたり、

優里の歩調に合わせてゆっくりと歩いたりした。


他の生徒、特に男子生徒が優里に話しかけようとすれば、

朔也は彼らの間に立つようにして、威圧感のある視線を向け、彼らを遠ざけた。


これらの行動は、優里を護衛するという役割を超え、

まるで「俺のパートナーだ」と周囲に誇示しているかのようだった。



朔也のこれらの行動は、遥香の心に確実に影響を与えていた。


遥香は、優里と朔也が親密にしている姿を見るたびに、

胸の奥で複雑な感情が渦巻くのを感じた。


彼女は、優里が今何をしているのか、

誰と話しているのか、常に意識するようになった。


優里が朔也と親しくしている姿は、遥香のなかに強い独占欲を掻き立てた。


しかし、遥香はあくまで学園の女王であり、感情を表に出すことは許されない。


彼女は内心の嫉妬と焦燥を隠しながら、

優里への優しさと、女王としての冷静さを保とうと努めた。



朔也が、遥香の嫉妬を募らせるように優里への接近を続ける日々。


そのなかで、朔也は、かつて優里の「偽装パートナー」であった悠に、

直接的に問いかけた。


場所は、人目のないダイヤモンドラウンジの片隅。


朔也は、悠が淹れた紅茶を一口飲み、その瞳を悠に向けた。


「……その、キスとか、したのかよ」


朔也の言葉は、単なる好奇心から出たものではなかった。


もし悠が優里と身体的な接触、

特に「キス」のような親密な行為をしていたとすれば、

遥香の嫉妬を煽る朔也の行動が、優里を本当に傷つける可能性があったからだった。


また、それは遥香の心に深い傷を残しかねない問題でもあった。


悠は、朔也の直接的な問いに、一瞬だけ目を見開いた。

彼の表情に、微かな戸惑いと、隠しきれないある種の「ためらい」が浮かんだ。


彼は、カップをゆっくりとソーサーに戻すと、沈黙した。


悠の沈黙は、雄弁だった。

それは、彼が優里と「キス」のような親密な行為をしていないことを示唆していた。

もし彼がそのような行為をしていれば、

この場でわざわざ否定するか、別の言葉で誤魔化すかしたでしょう。


しかし、彼の沈黙は、言葉以上にその事実を物語っていた。

それは、悠が遥香の感情を考慮し、

優里を「道具」として利用するにしても、

ある一線は超えなかったということの証でもあった。


朔也は、悠の沈黙に、小さく頷いた。彼の読み通りだった。


悠が優里との間に身体的な深い関係を持っていなかったことは、

朔也が遥香の嫉妬を募らせつつも、優里の心を守り、

最終的に遥香へと導く彼の計画にとって重要な前提条件だった。


朔也の直接的な問いと、それに対する悠の沈黙は、

彼が当初の目的のためとはいえ、

優里との間に肉体的な関係を結んでいなかったという明確な証拠となり、

朔也の心に安堵をもたらした。


そして同時に、悠が単に冷徹な策略家ではなく、

遥香への深い感情と、優里の尊厳に対する一定の配慮を持っていたことを示唆した。




朔也は、優里がラウンジにいる際、

これまで以上に意図的に優里と親密に接する機会を増やす。


優里の勉強を個人的に見てやったり、

休憩時間に優里だけを連れてコテージの庭を散歩したりするなど、

「パートナーらしい」行動をより顕著にする。


遥香が目にするたびに、その心には優里への独占欲が募り、

優里を自分だけのものにしたいという焦燥感が強まる。


向井渉は、学園内で「優里と朔也は、単なるパートナー以上の仲なのではないか」という、

遥香にとっての「好ましくない」噂が、

しかし優里を直接傷つけない範囲で広がるよう、情報操作を続ける。


これは、遥香に「手を打たなければ、優里は朔也のものになってしまう」

という危機感を抱かせることを狙っていた。




悠たちは、優里がダイアモンドラウンジで過ごす時間を通じて、

その学力や精神力が向上していることを、

遥香が間接的に認識できるよう仕向ける。


優里が難しい問題を解決したり、他の生徒と堂々と意見交換する姿を、

遥香が見かけるような状況を作る。



遥香の優里への独占欲が募っていくなか、

真佑は、悠の計画通り、遥香の心にさらなる火を灯すべく、絶好の機会を捉えた。


それは、ラウンジでの午後のひととき、

優里が先に席を外し、遥香と真佑だけになった時のこと。


真佑は、遥香の隣に座ると、優しく口を開いた。

彼女の表情は、まるで親友に秘密を打ち明けるかのような、無邪気さを装っていた。


「ねぇ、遥香」


遥香は、手元の本から顔を上げ、真佑に視線を向けた。


「優里ちゃんってさぁ、本当に可愛いし、優しいよねぇ」


真佑の声は、まるで心底から感心しているかのように、純粋な賛辞に満ちていた。


遥香は、その言葉に小さく頷いた。

優里の純粋さや優しさは、遥香自身が強く惹かれている部分だった。


真佑は、遥香の表情の変化を見逃さず、さらに言葉を重ねた。

ここからが、彼女の真骨頂だった。


「それに、朔也くん、優里ちゃんのこと、すごく大切にしてるみたい」


その言葉は、まるで何気ない呟きのように聞こえたが、遥香の心臓をチクリと刺した。

朔也が優里のパートナーとして行動していることは承知していたが、

真佑の口から「大切にしている」という言葉を聞くのは、遥香にとって複雑な響きがあった。


真佑は、さらに畳みかけた。


「この前もね、優里ちゃんがちょっと咳してた時に、朔也くん、すぐに温かい飲み物持ってきてあげててさぁ。なんだか、見てるこっちが照れちゃうくらいだったんだよねぇ~」


真佑は、遥香の感情が確実に揺さぶられていることを確認すると、満足げに微笑んだ。

彼女の役割は、これで果たされた。




優里は、朔也とのパートナーシップを通じて、

ダイアモンドラウンジでの新しい生活に再び少しずつ慣れてきていった。


しかし、彼女の心には、まだパートナー制度に関する素朴な疑問があった。

特に、遥香をはじめとするダイアモンドメンバーたちが、

中学時代から一度もこの制度を利用してこなかったという事実は、

優里の好奇心を刺激していた。


ある日の午後、ラウンジで穏やかな時間を過ごしていた優里は、

思い切ってダイアモンドメンバーに問いかけた。


「あの……先輩たちは、パートナーと何をしていたんですか?」


優里の質問は、ラウンジにいたダイヤモンドメンバーたちの間に、一瞬の静寂をもたらした。


真佑は、優里の純粋な疑問に、少し困ったような、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。


「え~? 優里ちゃん、それってまさか……肉体関係ってこと?」


真佑の言葉に、優里は顔を真っ赤にして、思わず紅茶のカップを取り落としそうになった。


彼女の頭のなかでは、そこまで直接的な意味合いを考えていたわけではなかったから。

ただ、パートナーシップがどのような活動を伴うのか、漠然とした疑問があっただけだった。


真佑の隣にいた玲司が、フッと鼻で笑い、優里の反応を見て面白がっているようだった。


朔也は、優里の赤くなった顔を見て、静かに微笑んだ。

彼は、優里の純粋さを愛おしく思いながらも、

この質問が遥香にとってどのような意味を持つかを理解していた。


その時、悠が、落ち着いた声で、優里の質問に答えた。

彼の言葉は、真佑の冗談めいた発言を否定し、

パートナー制度の「本質」と、彼らの関係の特殊性を語るものだった。


「パートナー制度は、学園内での互いの地位を保証し、情報やリソースを共有するためのシステムだ」


悠は、まず制度の公式な目的を説明した。


「そして、先輩たちがパートナーと何をしていたか、君が想像するような肉体関係を結ぶ生徒も、もちろんいただろう。というよりもだいたい本来そういうものだ。」


悠は、学園の現実として、

パートナーシップを個人的な関係に発展させていたことを認めた。

これは、学園の生徒たちの間では公然の秘密のようなものだった。


「だが、僕たちは違う。僕たちは、最初から互いを信頼し、支え合う仲間として、ダイアモンドを築き上げてきた」


悠は、遥香を含めたダイアモンドメンバー全員に視線を向けた。

彼らの絆は、制度によって結びつけられるものではなく、

長年の友情と信頼によって育まれたものであることを強調した。


「だから、僕たちはこれまで、制度上のパートナーは必要なかった。僕たちの間には、すでにそれ以上の絆があったからだ」


優里は、真佑の冗談に戸惑いながらも、悠の言葉に深く納得した。

ダイアモンドメンバーたちの間には、言葉以上の、強い信頼と絆があることを改めて感じた。

そして、自分がその一員として、今ここにいることの重みを、優里は静かに噛みしめた。


「もちろん、優里が望むなら、肉体関係を結ぶこともできるよ?」


朔也の言葉は、その場の空気を一瞬にして変えた。

優里は、顔を真っ赤にして、視線を泳がせた。

彼女は、まさか朔也から、そのような直接的な言葉が飛び出すとは思っていなかった。


朔也は、その表情を崩さず、優里に「選択肢」があることを示唆した。

これは、単なる挑発ではなく、優里がこのパートナーシップにおいて、

自分の意思を持つことができるという、彼なりのメッセージでもあった。



朔也の言葉に、最も強く反応したのは、やはり篠原悠だった。

彼は、明らかに不満そうな口調で呟いた。


「俺だって、触れなかったんだぞ!」


悠の言葉は、彼がかつて優里の「偽装パートナー」であった際、

肉体的な関係を一切持たなかったという事実を、

半ば悔しそうに、半ば主張するように訴えるものだった。


彼の不満は、朔也への「先を越された」ことへの、わずかな苛立ちが入り混じっていた。


(触れなかった……?つまり、悠がパートナーだった時でさえ、優里に誰も手を出していない……?)


遥香の心のなかでは、優里がまだ「誰のものでもない」という確信と、

それと同時に、朔也が優里に「肉体関係を結ぶこともできる」と告げたことへの、

強い焦燥感が渦巻いていた。


朔也の行動は、遥香の優里への独占欲を、最大限に刺激した。



真佑は、悠の不満げな様子と遥香の嫉妬に満ちた表情を見て、

心の中でガッツポーズをしていた。



朔也のあえて踏み込んだ言葉と、悠の不満、そして遥香の募る嫉妬。


これらは全て、緻密な策略の一部だった。


優里は、まだその全てを理解していないが、

彼女の周囲の空気は、遥香の優里への強い思いによって、

ますます熱を帯びていくことになる。


悠が不満げに優里との関係における「一線」を主張したのを受け、

朔也は悠の目を見据え、静かに告げた。


「優里は今、俺のパートナーだ」


「俺と優里が何をしようが、俺たちの勝手だろ?」


朔也の言葉は、まるで悠の抗議を一蹴するかのように、

悠と優里の関係はもはや過去のものであり、

現在のパートナーシップにおいては自分と優里の間に何が起ころうと、

外部が口出しする権利はない、と宣言するものだった。



悠は、ぐっと言葉を飲み込んだ。

彼の顔には、明白な不満の色が浮かんでいたが、

朔也の論理的な「権利」の主張には、反論の余地がないことを悟ったようだった。



ある日、朔也はダイアモンドラウンジで優里と二人きりになった。


朔也は、優里の瞳を真っ直ぐに見つめ、決意に満ちた声で告げた。


「優里、遥香は君を深く溺愛している」



「だが、まだ遥香には、本当に自らの感情と向き合う自覚が足りない」



朔也は、その理由を優里に説明した。

遥香は、これまで常に女王として、感情を抑え、合理的に行動することを求められてきた。


「だから……もう少しの期間、僕と『付き合って』欲しい」



朔也の言葉は、優里に、遥香のためにもう少しの間、

この「偽りの関係」を続けることへの理解と協力を求めた。


優里は、朔也のまっすぐな視線を受け止め、ゆっくりと頷いた。


「……はい。私、朔也様の願いを受け入れます」


「ありがとう、優里。君の協力が、遥香を真の女王にする」


朔也は、優里の手を再び優しく握りしめた。



(遥香が嫉妬したのはいい。だが、それは優里への本当の気持ちなのか……?)


朔也の脳裏には、重要な問いが浮かんでいた。

「取られたくない」という感情だけでも嫉妬は起こる。

しかし、それは優里への深い愛情から来るものなのか、

それとも女王としての「所有欲」や「プライド」から来るものなのか。


(取られたくないという程度でも嫉妬はする。遥香が優里とどこまで望んでいるのか、それを知る必要がある)


遥香の感情がピークに達している今だからこそ、

彼女の真の優里への望みが何であるかを確認する段階だと考えていた。


単に「パートナー」として優里をそばに置きたいのか、

それとも、より深い関係を望んでいるのか。




翌日、ダイアモンドラウンジでは、

朔也が、遥香の感情の迷いを冷静に分析していた。


「遥香には、優里がどれほど大切な存在か、そして優里を失うことがどれほど耐えがたいことか、さらに明確に実感させる必要がある」


朔也は、悠、玲司、真佑、渉に視線を向け、一つの提案をした。

それは、これまでの「挑発」とは異なる、優里との「距離」を利用した戦略だった。


「優里は、今日からしばらく、ラウンジには来させない」


朔也の言葉に、悠は驚きの表情を浮かべた。


「どういうことだ、朔也!?」


悠の問いに、朔也は遥香に聞こえるよう、しかし遥香の目を見ないように、淡々と続けた。


「優里は、今、俺のパートナーだ。その俺が、彼女をあまり学園に連れてこないことにすれば、学園中の生徒は『優里が朔也に捨てられたのではないか』と噂するだろう」


朔也の提案は、優里の「存在」を一時的に遥香から遠ざけることで、

遥香に優里の「不在」がもたらす喪失感を深く体験させることを狙っていた。


優里が常にそばにいることが当たり前になっていた遥香にとって、

優里の突然の不在は、その存在の大きさを否応なしに突きつけることになるはず。



朔也は、優里がラウンジに来ることを制限し、

学園でも優里と共に姿を見せる機会を減らすことで、

「優里が朔也に捨てられた」

「優里が学園から姿を消した」という噂を自然に流す。


これは、遥香の心に、優里を「失う」という具体的な恐怖を植え付けるためのもの。


しかし、優里が本当に傷つかないよう、

裏では優里と連絡を取り、状況を説明し、精神的なケアを行う。



優里がダイアモンドラウンジに姿を見せなくなり、

学園中に「朔也に捨てられた」という噂が広がり始めた数日後。

遥香の心は、優里の不在がもたらす喪失感と、

噂がもたらす焦燥感で、嵐のように荒れていた。



「朔也!」


遥香は珍しく感情を表に出した。



彼女は、優里が傷つけられることに、何よりも怒りを覚えていた。




朔也は、遥香の激しい怒りを冷静に受け止めた。

彼の表情は変わらないままだが、彼の心のなかでは、

計画が進んでいることに満足していた。


朔也は、遥香の感情をさらに煽るべく、挑発的に言葉を返した。


「俺たちの関係なのに、どうして遥香が口を出すんだ?」


朔也の言葉は、遥香の怒りをさらに燃え上がらせた。


優里と朔也の間の「パートナーシップ」が、

遥香の介入を許さない私的な関係であることを主張するものだった。



「そ、れは……、人として」


遥香は、優里が傷つけられることへの「人として」の怒りを訴えようとしたが、

その言葉は、彼女自身の戸惑いを同時に示していた。

女王としてのプライドが、優里への個人的な感情を公にすることを躊躇させていた。


朔也は、遥香のその言葉を聞くと、冷徹な目を細めた。


朔也は、遥香の迷いを打ち砕くかのように、追い打ちをかけた。


「俺たちのことだから」


朔也の言葉は、優里と朔也の関係が、

遥香の介入を許さない私的な領域であることを再度強調し、

遥香が「人として」の感情を盾にしている限り、

優里には手が届かないことを示唆していた。


遥香が優里に踏み込むためには、「人として」ではなく、

もっと個人的で、感情的な理由が必要だと迫っているようだった。






遥香は、ダイヤモンドラウンジのソファに沈んだまま、混乱の中で自問自答していた。


(私が優里に感じているのは、一体何なの……?)


その感情は、悠に抱くような穏やかなものではなかった。

優里が朔也と共に行動している知った時の、あの胸が引き裂かれるような痛み。

それは、同年代の妹のような子を心配する気持ちや、

友人を失うことへの悲しみとは、明らかに異なる種類のものだった。


(まさか、私が優里に……そんな感情を抱いているはずがない。これは、ただの友人として、妹として、大切に思う気持ちの延長で……)


遥香は、自分の感情を否定しようとした。

しかし、優里の笑顔を思い出すたびに、優里の無邪気な仕草を思い出すたびに、

そして優里が朔也の隣にいた時のあの強烈な嫉妬の痛みを思い出すたびに、

遥香の心は激しく波立ち、その否定は虚しく響いた。


遥香は、学園の女王として、常に完璧であることを求められてきた。


その感情をコントロールし、理性的に振る舞うことが、彼女の生き方だった。


しかし、優里への感情は、遥香の制御を超え、彼女の内面を激しく揺さぶっていた。



優里がダイアモンドラウンジに来なくなったことで、

学園内では「朔也に捨てられたのではないか」という噂が広まる。


遥香は、優里を心配する一方で、

自分の感情の正体が分からず、もやもやとした日々を過ごす。



そんななか、優里がシルバークラスの別の生徒と、

以前よりも親しく話している場面を何度か目撃するようになる。

初めは気に留めていなかった遥香だったが、二人が笑顔で会話をしていたり、

放課後二人で一緒に何かをしていたりするのを見るうちに、

胸にこれまで感じたことのないざわつきを覚える。




ある日、遥香は偶然、優里とその生徒が少し離れた場所で、

楽しそうに何かを話しているのを見かけた。

その時の優里の表情は、遥香が見慣れた、

遠慮がちながらもどこか楽しそうなものだったが、

その笑顔が、これまで自分だけに向けてくれていたような、

特別な輝きを帯びているように感じてしまう。


さらに、その生徒が優里に何か優しい言葉をかけたり、

ちょっとしたプレゼントを渡したりするのを目撃してしまう。


優里がそれを受け取り、心から嬉しそうな表情を見せた瞬間、

遥香の胸には、まるで鋭い刃物で突き刺されたような痛みが走る。


その痛みは、単なる友人を取られたくないという感情や、

妹が他の人に懐いて寂しいという感情とは明らかに異質だった。


それは、優里の笑顔が、優里の好意が、

自分の知らない誰かに向けられていることへの、激しい独占欲と嫉妬だった。


その時、遥香は初めて、優里の隣にいるべきなのは自分だと、強く、明確に感じた。


そして、優里の幸せを願うと同時に、

その幸せの隣にいるのが自分ではないという事実に、

耐えられないほどの苦しみを覚えた。




この一連の出来事を通して、遥香は、優里に対して抱いている感情が、

単なる友情や姉妹愛といった言葉では説明できない、

もっと深く、激しい感情であることに、ようやく気づく。


優里が他の誰かと親密になるかもしれないという危機感が、

これまで曖昧だった遥香の感情に、明確な輪郭を与えることになる。




遥香は、優里が自分ではない別の生徒と親しくしている姿を目撃し、

胸を突き刺すような痛みと、これまで感じたことのない激しい嫉妬に襲われていた。



混乱と苦悩のなか、遥香は複雑な心境のまま、

いつものようにダイアモンドラウンジへと向かった。


彼女の脳裏には、優里が他の生徒と笑顔で話す姿が焼き付いて離れない。


ラウンジの重厚な扉を開くと、

なかでは朔也、悠、玲司、真佑、渉が、それぞれの時間を過ごしていた。


遥香は、優里の不在や、

学園で広がる優里と別の生徒との噂について話しているのではないかと身構えたが、

彼らの様子は、遥香の予想とは大きく異なっていた。


玲司は、新聞を読みながら、何気ない口調で言った。


「シルバーはシルバー同士仲良くするのが普通だろ?」


玲司の言葉は、まるで優里の行動がごく自然なことであるかのように聞こえた。


彼の視線は新聞に固定されており、

優里と別の生徒の関係について、特に気にも留めていない様子だった。


その隣にいた向井渉も、猫耳をつけたまま、

玲司の言葉に小さく頷いており、特別な感情を示していない。


朔也は、紅茶を飲みながら、静かに窓の外を見ており、

遥香の動揺に気づいているのかいないのか、無関心を装っているようだった。


悠も、優里の件で複雑な表情を浮かべることはあったが、

この場では、玲司たちの言葉に特に反論することもなく、

静かに自分の飲み物を口にしていた。


彼らの様子は、遥香にとって、

まるで自分が感じている激しい感情が、

まるで大したことではないかのように扱われているように感じられた。


遥香は、彼らが優里と別の生徒の関係を

当たり前のこととして受け入れているかのような態度に、

深い孤独と、優里を失うかもしれないという焦燥感を一層募らせた。


遥香の心のなかでは、

優里への真の感情が目覚め始めていたにもかかわらず、

周囲の「無関心」な態度は、彼女の苦悩をさらに深めるものとなった。


彼女は、この感情を誰にも理解してもらえないような、

言いようのない孤独を感じていた。



「遥香。なぜ、そこまで気にするんだ?」


朔也の言葉は、遥香の問いをそのまま突き返すものだった。


それは、遥香自身に「なぜ、そんなにも優里のことが気になるのか?」

「なぜ、優里が他の誰かと親密になることが、そんなにも耐えられないのか?」と、

その感情の根源を問い直すことを迫るものだった。





ダイヤモンドラウンジの片隅、誰もいない午後のひととき。


真佑は、優里の隣に優しく腰掛け、

まるで世間話をするかのように、優里に問いかけた。


「ねぇ、優里ちゃんってさぁ、遥香ちゃんのこと、どう思ってるの?」


優里は、真佑の突然の問いに、少し驚いたような顔をした。


彼女は、遥香への尊敬と感謝の気持ちを、いつも心に抱いていた。


真佑は、優里の反応を見ながら、さらに言葉を重ねた。


「なんかね、遥香ちゃん、優里ちゃんのことになると、いつもと違う感じなんだよね。私、ずっと見てて、そう思うの」



優里は、少し考えてから、優しく微笑んだ。

その笑顔は、純粋で、何の迷いもないように見えた。


「遥香様は、私にとって、憧れの存在です」


「学園の女王で、誰よりも強くて、美しくて、優しい。私が今、こうしていられるのも、遥香様が私を助けてくれたからです」


優里は、遥香への尊敬と感謝の念を、飾らない言葉で語った。

彼女にとって、遥香は、手の届かない、輝くような「憧れ」の対象であり、自分を救ってくれた「恩人」だった。




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