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ダイアモンドクラス  作者: 優里
シルバーへの復権

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波紋と囁かれる噂





合宿が終わり、束の間の日曜日を挟み、月曜日がやってきた。


学園はいつもの活気を取り戻していたが、

水面下では、この週末の出来事が大きな波紋を広げようとしていた。


特に、宝来優里の学園生活は、これまでの何とも違うものになることは明白だった。



優里がシルバークラスの教室に入ると、

クラスメイトたちの間に明らかな動揺が見られた。


優里をキャンピングカーから締め出した生徒たちは、

彼女と目を合わせようとせず、顔を伏せたり、慌てて視線を逸らしたりした。


彼女らの間には、朔也から受けた警告の重みが、まだ色濃く残っていた。


彼女らは、優里がダイアモンドコテージで一夜を過ごしたことを知っており、

その背後にダイアモンドクラスがいることを明確に認識していた。


教室の空気は、以前のような優里に対する嘲りや蔑みではなく、

複雑な畏敬と恐れに満ちていた。


誰もが、優里はもはや簡単に手出しできる相手ではないことを理解していた。



放課後、優里が教科書を片付けようとしていると、クラスメイトたちがざわつき始めた。

その視線の先に立っていたのは、他でもない遥香だった。


遥香は、教室の入り口に立つと、堂々とした態度で優里に呼びかけた。


「優里、ラウンジに来て。話がある」


遥香の言葉は、教室中の生徒たちに衝撃を与えた。


ダイアモンドクラスの生徒が、

シルバーの生徒をラウンジに招くことは、極めて異例のことだから。


クラスメイトたちは、驚きと好奇心、

そして優里への新たな恐れが入り混じった視線を送っていた。



学園の廊下では、

向井渉が相変わらず白い猫耳をつけたまま、周囲の注目を集めていた。


彼の姿は、優里に関するデマの終焉と、

学園のパワーバランスの変化を、無言のうちに示していた。


彼が優里の「裁き」を受け入れている事実は、

ダイアモンドクラスが優里を支持しているという、

新しい「常識」を学園中に広めていた。


渉は、優里が遥香に呼ばれる様子を遠くから見て、ニヤリと口角を上げた。

彼の計画は、着々と、予定以上に進んでいることを確信していた。




この月曜日、優里の学園生活は、明確な転換点を迎えた。


彼女はもう、孤独なブロンズの少女ではなく、

ダイアモンドの女王に招かれ、その庇護下にある存在として、

新たな一歩を踏み出すことになる。



優里は、遥香のまっすぐな視線と、

「ラウンジに来て」という言葉に、迷うことなく頷いた。


教室中の生徒たちの視線が突き刺さるなか、

優里は遥香の後について、堂々と教室を出た。


彼女の心臓は高鳴っていたが、そこにはもう、以前のような恐怖や不安はなかった。

あるのは、遥香への信頼と、新しい未来への期待だけだった。




ダイアモンドラウンジへの廊下は、

優里にとって、これまで畏れと手の届かない場所の象徴だった。


しかし、遥香の隣を歩く今、

その廊下は、未来へと続く道のように感じられた。


ラウンジの重厚な扉が、遥香によって静かに開かれた。


なかには、篠原悠、田村真佑、鷹城玲司、日向朔也、

そして猫耳をつけた向井渉が待っていた。


彼らは皆、優里と遥香を温かい眼差しで迎え入れた。



優里は、ラウンジの中央にある豪華なソファに座るよう促された。


提供された温かい紅茶を口にすると、

彼女はラウンジの空気が、以前と変わらず厳かで、

どこか張り詰めていることに気づいた。


しかし、そのなかに優里は、

以前のような息苦しさを感じることはなかった。

それは、遥香の隣にいる安心感と、

ダイアモンドメンバーたちの温かい眼差しがあったから。


遥香は、優里の向かいに座り、真剣な表情で口を開いた。


「優里、改めて学園に戻ってきたね。合宿の件は、本当に申し訳なかった」


遥香は、深々と頭を下げた。


その真摯な謝罪に、優里は驚き、慌てて首を横に振った。


「い、いえ!遥香様のおかげで、助かりました。本当に、ありがとうございました。」


遥香は顔を上げる。


「優里、ラウンジは、ダイアモンドのパートナー以外は入ることができない。それは、学園のルール。」


優里は、遥香の言葉に静かに頷いた。

それが、このラウンジにいるための絶対的な条件であることは、優里も理解していた。


「俺が、パートナーになる」


日向朔也の声が響いた。


「優里。俺が、パートナーになる」


その言葉に、優里は息を呑んだ。

遥香ではなく、朔也。

予期せぬ展開に、優里の心は大きく揺れ動いた。


悠は、朔也の行動を満足げに見守っていた。


優里は、朔也のまっすぐな視線を受け止めた。


彼の言葉には、以前の事務的な響きではなく、

優里を守り、支えようとする確かな意志が感じられた。


優里は、朔也が嵐のなか、傘をさしてキャンピングカーまで行ってくれたこと、

そしてイヤホンをくれたことなど、彼のさりげない優しさを思い出した。


戸惑いながらも、優里の心には、朔也への感謝と、

彼が差し伸べてくれた手を取るべきだという思いが芽生えた。


「……はい」


優里は、小さく、しかしはっきりと答えた。


朔也が差し出した手を、優里はそっと握り返した。


この瞬間、宝来優里は、日向朔也のパートナーとなった。


それは、優里にとって、学園の階級制度を乗り越え、

ダイアモンドラウンジという新たな居場所を再び手に入れる、決定的な一歩だった。



「僕でもいいよ?」


悠は、遥香と優里の間に視線を送りながら、穏やかな声で優里に問いかけた。

その言葉は、まるで優里に「選択肢」を与えているかのようだった。


しかし、優里はすぐに首を横に振った。


優里の脳裏には、遥香が以前、

悠への隠れた感情を抱いているかのような振る舞いをしていた記憶が蘇った。

そして、何よりも、悠にはかつて、

自分の「偽装パートナー」として、多大な恩を受けていたという思いがあった。


彼にはもう十分助けてもらった。

これ以上、彼に世話になるわけにはいかない。


優里の心のなかでは、遥香が悠を想っているからこそ、

自分が悠のパートナーになることはできない、という強い感情が働いていた。


優里が首を横に振ったことで、悠は心の中で微かに舌打ちをした。


彼の思惑通りに、優里が遥香への「遠慮」と悠への「恩義」から、

自分を選ばないことを確認できたから。


朔也は、優里の反応を冷静に見ていた。


彼が望むのは、遥香と優里が「パートナー」になること。

そして、そのためには、遥香の嫉妬心を煽り、

優里が遥香を意識するきっかけが必要だった。


この瞬間、優里の無意識の選択が、遥香の心に、

そしてダイアモンドメンバーたちの計画に、新たな波紋を広げることになる。




優里が朔也のパートナーになることを承諾し、彼の差し出した手を取った瞬間、

ダイアモンドラウンジの空気は一変した。


遥香は、優里の選択を見つめながら、複雑な感情を胸に抱いていた。



優里は、朔也の手の温かさを感じながら、彼の瞳をまっすぐに見つめた。

彼の静かな決意と、これまで示してくれた数々の配慮を思い出し、彼を信頼することに決めた。


「これから、よろしく頼む」


朔也は、優里の手をしっかりと握りしめ、簡潔に、

しかしその言葉には確かな責任と優しさが込められていた。


優里は、小さく頷き、新たな一歩を踏み出す覚悟を決めた。



遥香は、優里が朔也の手を取り、

パートナーシップが成立した光景を、息を詰めて見守っていた。

彼女の胸には、朔也の行動への驚きと、

優里が自分の隣ではなく朔也を選んだことへの、微かな嫉妬が芽生えていた。


しかし、その嫉妬は、優里への独占欲と、

彼女を誰にも渡したくないという強い思いへと変換されていきた。


遥香は、朔也の真意を理解していた。


このパートナーシップは、優里をラウンジに入れるための手段であり、

同時に、遥香自身に優里への感情を深く自覚させるための、

朔也なりの「火種」なのだと。


悠は、ソファに深く座り、この展開を満足げに眺めていた。

朔也の予想外の介入は、遥香の心を効果的に揺さぶり、

彼女の優里への感情をより明確に引き出したから。


悠は、朔也に目配せし、彼の行動を承認するサインを送った。


これから朔也は、優里の「パートナー」として、

彼女がダイアモンドラウンジに自由にアクセスできるよう手続きを進め、

学園内での優里の立場を確固たるものにする。

彼は、優里の護衛役であり、情報共有のパイプ役となる。


遥香は、優里が朔也のパートナーになったことで、優里への関心と独占欲を一層強める。

学園内でも、優里と朔也が共に行動する姿を見るたびに、

遥香の心には複雑な感情が渦巻き、それが優里へのアプローチを加速させる原動力となる。


向井渉は、猫耳をつけたまま、

この新たなパートナーシップの情報を学園中に広める役割を担う。


過去の優里に対するデマを完全に打ち消し、

優里の地位向上を確立するためのものでもあった。

彼の流す情報は、優里の評価を決定的に変え、

いじめや排除の動きを完全に封じ込める。


真佑は、優里がラウンジでの生活に早く慣れるよう、細やかなサポートを続ける。


ダイアモンドコテージでの一連の出来事、

そしてこのラウンジでのパートナーシップ成立は、

優里の学園生活を完全に変える始まりとなった。

優里は、朔也のパートナーとして、遥香との関係を深めながら、

ダイアモンドの光と影のなかで、新たな居場所を見つけていくことになる。


しかし、その喜びと期待のなかに、

鷹城玲司は、学園の現実的な側面から、新たな懸念を投げかけた。


玲司は、冷静ながらも鋭い視線で、

優里、朔也、そして篠原悠を見回した。


「でも朔也のパートナーになれば、かつて優里が悠とのパートナーだったことを知っている学園の生徒全員が、浮気したと思うのでは?」


玲司の言葉は、その場の全員に、

優里の過去の「偽装パートナーシップ」がもたらす、

複雑な人間関係の波紋を再認識させた。


学園の生徒たちは、悠と優里が一時的にパートナーだったことを広く知っている。


その優里が、今度は朔也とパートナーになったとなれば、

憶測と誤解が飛び交うことは想像できる。


特に、学園のトップに君臨するダイアモンドメンバー間の関係は、常に注目の的だから。


優里の顔から、一瞬にして安堵の表情が消え失せた。

玲司の指摘は、彼女が考えもしなかった、しかし非常に現実的な問題だった。


再び、自分が学園の噂の的となり、

誤解や非難の対象になるのではないかという不安が、優里の心に重くのしかかる。


せっかく手に入れた安らぎの場所が、

新たな波風の始まりになるかもしれないという恐怖がよぎった。



遥香は、玲司の言葉に眉をひそめた。

優里が再び傷つく可能性に、彼女の表情に憂いが浮かんだ。



「確かに、その可能性はある」


悠は、そう認めると、朔也と玲司に視線を向けた。


朔也は、玲司の言葉を聞いても表情を変えない。

彼は、このリスクを承知の上で、あえて優里のパートナーになることを選んだ。


「そこは、俺たちがきちんと対処する」


朔也の言葉には、優里をあらゆる困難から守り抜くという、

確固たる決意が込められていた。


向井渉は、猫耳をつけたまま、玲司の言葉に興味深く耳を傾けていた。


「『浮気』の噂が立てば、面白い情報になるにゃん。ただし、それはあくまで噂。最終的には、女王の感情が全てを覆す」


渉は、この新たな状況が、学園内の情報戦において、

自身の腕の見せ所となることを悟っていた。


彼の役割は、この「浮気疑惑」を、優里を攻撃する手段ではなく、

逆に遥香と優里の関係を加速させるための「燃料」に変えることだった。


朔也は、その日のうちに、学園の全生徒に向けて、

優里がダイアモンドクラスのパートナーとなったことを公式に発表した。


それは、学園のシステムを通じて、全クラスの生徒が確認できる形で伝えられた。


この発表は、学園全体に大きな衝撃を与えた。


ブロンズから這い上がり、一時的にシルバーに昇格したばかりの生徒が、

まさかダイアモンドのパートナーになるなど、前代未聞の出来事だったから。


しかし、朔也の発表には、ある重要な一文が加えられていた。


「パートナーの相手が誰であるか、具体的な個人名を告げる必要はない。知る必要もないだろう」


彼の言葉は、簡潔にして明確だった。

ダイアモンドのパートナーになった事実は伝えるが、誰のパートナーであるかは明かさない。


これは、優里への不必要な憶測や好奇の目を避けるための、

朔也なりの配慮であり、同時に、ダイアモンドクラスが情報統制において

絶対的な権力を持つことを示すものでもあった。



この朔也の宣言により、優里の学園内での立場は劇的に変化した。


優里がダイアモンドのパートナーになったという事実だけで、

彼女に対するいじめや嫌がらせは完全に停止した。


誰も、ダイアモンドクラスの怒りを買うような真似はできない。


彼女は、学園の最高峰の庇護下に入ったのだ。


しかし、パートナーが誰であるか明かされないことで、

学園内には新たな憶測が飛び交うことになった。



「一体誰が彼女のパートナーになったのか?」

「なぜ明かさないのか?」

という疑問が、生徒たちの間で囁かれ始めた。


これにより、玲司が懸念した「浮気」の噂は、

特定の相手に向けられることなく、優里の周囲を曖昧な形で漂うことになる。



遥香は、朔也のこの発表を静かに受け止めた。


優里が正式にダイアモンドの庇護下に入ったことに安堵しながらも、

パートナーが伏せられたことで、

彼女自身の優里への独占欲がさらに刺激されることになる。


悠は、朔也のこの機転に満足げに頷いた。

優里を不必要に傷つけることなく、かつ遥香の嫉妬を効果的に煽る。

この曖昧さが、二人の関係を進展させるための

完璧な舞台装置となることを、悠は確信していた。


向井渉は、猫耳をつけたまま、学園中のざわめきを静かに観察していた。


「これで『浮気』の噂は、ターゲットが定まらないまま学園を漂うにゃん。女王の嫉妬の燃料は維持されつつ、優里への直接的な誹謗中傷は避けられる。完璧な情報操作だ」


渉は、この状況を最大限に利用し、学園内の噂をコントロールすることで、

遥香と優里の関係を裏から操作していくことになる。


優里は、その立場が劇的に変わったことに戸惑いながらも、

ダイアモンドクラスが自分を守ってくれているという事実に、深い安心感を覚えていた。




優里は、授業の合間や放課後には、

再び堂々とダイアモンドラウンジに足を運ぶようになった。

かつては畏れ多く、自分には縁のない場所だと思っていたラウンジも、

今では彼女の日常の一部になった。


ラウンジでは、遥香が温かい笑顔で優里を迎え入れ、

お茶を淹れたり、談笑に加わったりと、

積極的に優里との時間を共有しようとした。


朔也は、優里のパートナーとして、

彼女がラウンジで快適に過ごせるよう細やかに配慮し、必要な情報を提供した。

彼は、優里の護衛役として、常に彼女の側にいることも多かった。


真佑は、変わらず優里に優しく接した。


そして、猫耳をつけた渉は、常に学園中の情報を収集していた。



朔也が優里のパートナーになったことを公式に発表した際、

相手の個人名を明かさなかったことは、学園中に新たな憶測の波を生み出していた。


「優里がダイアモンドのパートナーになったらしいぞ!」

「マジかよ!誰だよ、相手は?」

「やっぱり悠様じゃないのか?前にパートナーだったんだろ?」


しかし、学園内で優里が朔也と行動を共にしている姿や、

ラウンジで朔也が彼女に付き添う場面が目撃されるにつれ、

生徒たちの間では、新たな囁きが広がり始めた。


「あれ?優里のパートナーって、悠様じゃないのか?」

「朔也様と一緒にいることが多いよな?」

「もしかして……相手は朔也様で、悠様との関係はもう終わったのか?」

「ってことは、優里が悠様を振って、朔也様と浮気したってこと!?」


玲司が懸念した通り、「浮気」という言葉が、

優里の新たなパートナーシップを巡る噂として浮上し始めた。


しかし、朔也が相手を公表しなかったことで、

噂は特定の人物に向けられることなく、

優里の過去と現在のパートナーシップの関係性そのものに集中した。


この曖昧な状況は、一部の生徒の好奇心を刺激し、

再び優里に注目が集まるきっかけとなったが、

同時に、ダイアモンドクラスが優里を明確に守っているという事実は変わらず、

誰もが彼女に直接的な攻撃を仕掛けることはなかった。


遥香は、優里と朔也が一緒にいる姿を目にするたびに、

胸の奥で微かな痛みを感じ、

それが優里への思いを一層募らせる燃料となっていた。


優里の新たな学園生活は、ダイアモンドの庇護という光と、

曖昧な噂という影のなかで、複雑に展開していく。



篠原悠は、この「浮気」の噂を完全に予測していた。

彼の目的は、噂が優里を直接傷つけることを避けつつ、

遥香の嫉妬心を最大限に刺激することだった。


悠は、向井渉に対し、噂の拡散をコントロールするよう指示した。


「優里がダイアモンドのパートナーになったのは事実だが、相手が誰かは明かされていない」


という曖昧な情報を維持させ、

特定の個人への攻撃に繋がらないよう、学園内の情報網を操作させた。


また、「優里がダイアモンドのパートナーになったのは、彼女の能力が認められたからだ」

というポジティブな側面も同時に流させ、優里の評価を向上させることに努めた。


悠は、遥香が優里と朔也が共にいる姿を目にする機会を意図的に増やした。


ラウンジで優里が朔也と談笑しているところに

遥香が通りかかるように仕向けたり、


朔也に優里の学園生活の相談に乗るよう促したりした。


これにより、遥香の心に「優里が他の誰かのものになるかもしれない」という危機感を煽り、

優里への独占欲を一層強くさせた。



「浮気」の噂、そして優里が朔也のパートナーとして

行動を共にしている姿を見るたびに、遥香の心には、複雑な感情が渦巻いた。


遥香は、優里が朔也と親密に話している姿や、

朔也が優里を気遣う様子を見るたびに、胸の奥でチクリとした痛みを感じた。


それは、これまで感じたことのない、優里への強い独占欲と嫉妬だった。


彼女は、優里が自分の隣にいるべきだと強く思うようになった。



朔也は、優里の「パートナー」として、その役割を完璧にこなした。


朔也は、優里が学園内で不当な扱いを受けないよう、常に目を光らせた。

彼が優里の側にいることで、彼女に対する直接的な嫌がらせは完全に消滅した。


朔也は、遥香の嫉妬心を煽るため、

優里に対して意図的に親密な態度を取ることがあった。


優里の髪を軽く撫でたり、優里の肩に手を置いたりするなど、

遥香が目にする場所で、優里への特別な配慮を示すことで、

遥香の優里への思いをさらに燃え上がらせた。


玲司は、噂の動向を冷静に分析し、必要に応じて朔也や悠に助言を与えた。

彼は、噂が優里に与える心理的な影響を最小限に抑えつつ、

遥香の感情を刺激する最適なバランスを見極めることに貢献した。


真佑は、優里が噂に戸惑う様子を見せれば、すぐに優しく声をかけ、励ました。


「優里ちゃんは悪くないよ!心配しなくて大丈夫だよ!」と、優里の不安を和らげた。


渉は、猫耳をつけたまま、学園中の噂の発生源と拡散経路を徹底的に監視した。

遥香が優里と朔也の関係にどう反応しているかを詳細に観察し、悠に報告した。

彼の情報は、悠が次の策略を練る上で不可欠なものだった。


優里の新たな学園生活は、ダイアモンドメンバーたちの緻密な戦略と、

遥香の募る感情のなかで、目まぐるしく展開していくことになる。


噂は、優里を傷つける凶器ではなく、遥香と優里の絆を深めるための、

新たな試練であり、同時に、二人の関係を加速させるための「舞台装置」となっていった。



ある日の午後、ラウンジで紅茶を飲みながら、

優里はふと疑問に思っていたことを口にした。

彼女は、目の前に座っている悠、遥香、朔也、玲司、真佑、

そして猫耳をつけた向井渉を見回した。


「あの……皆さんは、これまでもパートナー制度を利用したことがあったんですか?」


優里の問いかけは、ラウンジにいる全員の視線を集めた。


彼女は、ダイアモンドのメンバーが

誰かとパートナーを組んでいる姿を見たことがなかったため、

素朴な疑問を抱いていた。


朔也は、優里の質問に、一瞬だけ目を伏せ、すぐに顔を上げた。

彼の答えは、優里にとって意外なものだった。


「いいや、一度もない」


朔也の言葉に、優里は驚いた。


ダイアモンドクラスにパートナー制度があることは、学園では周知の事実だった。


しかし、彼らが一度も利用したことがないとは、想像もしていなかった。


玲司が、腕を組みながら、その理由を補足した。


「制度自体は存在しているし、もちろん先輩たちも使っていた」


玲司の言葉は、パートナー制度が学園の伝統的なシステムであることを示していた。


しかし、彼らは違った。


「でも、俺たちは中学時代から、一度も使わなかった」


玲司の言葉には、彼らが独自の規範と結束力を持っていたことが伺えた。

彼らは、外部の助けを借りることなく、

自らの力でダイアモンドの地位を築き、維持してきたのだ。



優里は、ダイアモンドメンバーたちが

これまでパートナー制度を利用してこなかったという事実に、

驚きと同時に、彼らが持つ独特の誇りと独立性を感じ取った。


彼らは、常に自らの力で物事を解決し、互いに支え合ってきた。


だからこそ、朔也も、悠も、自分をパートナーとして選んだことが、

どれほど異例であり、強い意味を持つのかを、優里は改めて理解した。


悠は、優里の表情の変化を静かに見ていた。


彼らがパートナー制度を使わなかった理由、

そして今、朔也が優里のパートナーになったことの意味。


それが優里の心に、遥香への特別な感情を芽生えさせるための、

新たな布石となることを、悠は確信していた。


優里の頭の中には、初めて篠原悠と出会った頃の記憶が蘇っていた。


ラウンジの豪華なソファに座り、

温かい紅茶を口にしながら、優里は悠に視線を向けた。


彼はいつもと変わらず、落ち着いた様子で彼らの会話を聞いていたが、

その瞳の奥には、どこか読めない光が宿っていた。


優里は、当時の自分の惨めな状況を思い出した。


ブロンズの底辺で、常にいじめられ、学園から排除されかけていた日々。


そんな自分を、悠はまるで面白がっているかのように見つけ出し、

遥香に近づくための「道具」として、偽りのパートナーシップを提案した。


(もしあの時、悠様が私を見つけてくれなかったら……)


優里は、ぞっとした。


悠が自分を「面白がって」いなければ、遥香との接点など生まれなかった。


朔也がパートナーになってくれることも、

この温かいダイアモンドラウンジにいられることも、

全ては悠の最初の行動がなければあり得なかった。




優里は、深いため息をついた。




悠の動機が、当初は純粋な優しさではなかったとしても、

結果的に彼女をこの場所へと導いてくれた事実は、否定できない。


彼女は、複雑な思いで悠を見つめた。



「……もし、あの時、悠様が私をパートナーにしてくれなかったら、私、今、ここにさえいられなかったんだなって……」


優里は、しみじみと呟いた。


その声には、感謝と、しかし同時に、

自分の運命が他人の思惑によって大きく左右されたことへの、

微かな虚しさのようなものが混じっていた。


悠は、優里の言葉に、静かに微笑んだ。


彼の表情は、優里の純粋な感謝を受け止めているようにも見えたが、

その瞳の奥では、彼の緻密な計画が、

優里の気づきによって、さらに次の段階へと進もうとしていることを示唆していた。


優里のしみじみとした言葉は、悠の心に複雑な波紋を広げた。

彼の最初の動機が、ボロボロのブロンズが、

この学園の絶対的女王様である遥香に近づくための

「面白半分」であったことは事実だった。


しかし、優里がこの言葉を口にした今、

悠は、自らの真意の一部と、

優里への新たな感情を交錯させる必要があった。


悠は、優里の純粋な感謝と、

その言葉の奥に潜むかすかな悲しみを静かに受け止めた。


彼は、一瞬、遥香に視線を送った。


遥香は、優里の言葉に複雑な表情を浮かべていた。


悠は、優里の目を見つめ、穏やかに深い意味を込めて答えた。


「……君がラウンジにいるべき存在だと、僕は最初から知っていたからだよ」


悠の言葉は、優里の予想を裏切るものだった。


彼は、「面白がっていた」という優里の推測を直接否定することなく、

しかし、優里の潜在的な価値を早くから見抜いていたという、

ある種の「真実」を提示した。


彼の言葉には、単なる計算だけでなく、

優里の才能と強さを評価していたという、複雑な感情が込められていた。


悠は、続けて言葉を重ねた。


「そして、君がこのラウンジにいることで、遥香はもっと輝く。僕は、それを確信していた」


この言葉は、悠の真の目的の一端を明かすものだった。


彼の最初の行動は、遥香のためであり、

その目的のために優里を利用した側面は否定できない。


しかし、彼は、優里の存在が遥香に与える良い影響を予見し、

それを実現させるために行動してきた。


優里は、悠が自分を最初から認めてくれていたこと、

そして遥香のために自分を導いてくれたという、

その複雑な真意に、優里は感謝と同時に、

自分の運命が大きな力によって動かされていることへの、かすかな戸惑いを覚えた。


しかし、彼の言葉から伝わる信頼と期待は、優里の心に確かな光を灯した。


遥香は、悠が自分のために、優里を「導いた」という事実。

そして、優里の存在が自分を「輝かせる」という言葉は、

遥香の心に、優里への独占欲と、

彼女を絶対に手放したくないという強い思いを一層深く刻み込んだ。


悠が、自分と優里の関係をこれほどまでに深く考えていたことに、

遥香は驚きと、そして感謝の念を抱いた。


朔也は、悠の言葉に静かに頷いた。

彼の行動は、まさに悠の計画の意図を完璧に補強するものだった。




彼女の新しい学園生活は、多くの謎と期待をはらんで、

今、幕を開けようとしていた。


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