安らぎの夜
宝来優里がシルバークラスの
居場所であるキャンピングカーに戻ることなく、
山下遥香の隣で温かな安堵に包まれたまま
ソファに座っていると、
日向朔也が、濡れた優里の荷物を持って戻ってきた。
彼の顔には、まだ雨粒がついていたが、
その手には、優里のリュックサックがしっかりと握られていた。
「優里、これ」
朔也は、リュックサックを優里に差し出したが、
その表情には微かな申し訳なさが見て取れた。
「雨で、少し濡らしてしまった。すまない」
彼の言葉に、優里は慌てて首を振った。
嵐のなか、わざわざ自分のために
荷物を取りに行ってくれたことへの感謝で胸がいっぱいだった。
「いえ、とんでもないです!ありがとうございます!」
優里が荷物を受け取ると、
宮瀬真佑が、優しく口を開いた。
「ねぇ、優里ちゃん?体も冷えちゃっただろうし、お風呂に入らない?コテージには大きなお風呂があるんだよぉ~」
真佑の言葉に、優里は驚いて目を見開いた。
シルバークラスの生徒に許されているのは、
キャンピングカーに備え付けられた、
簡素なシャワーだけのはずだった。
それは、体を洗うだけの最低限のもので、
とても「お風呂」と呼べるようなものではない。
ダイアモンドのコテージにある「大きなお風呂」など、
優里にとっては夢のような存在だった。
「で、でも、私なんかが……」
優里が遠慮しようとすると、
朔也が、今度は迷うことなく優里の言葉を遮った。
「何を言っているんだ。体を温めるのが一番だ。風邪でも引いたら大変だろう」
朔也はそう言うと、優里の返事を待たずに、
彼女の肩に手を置き、コテージの奥にある浴室の方へと促した。
その動きは、優里が拒否することを許さない、
しかし、どこか兄のような優しい配慮に満ちていた。
遥香は、このやり取りを静かに見守っていた。
彼女は、優里が遠慮なくコテージの設備を使えるよう、
朔也と真佑が自然に誘導してくれていることに満足していた。
優里が身体の芯から温まり、心からリラックスできること。
それが、この夜の彼女にとって何よりも重要だと遥香は考えていた。
浴室へと続く廊下の奥から、
温かい湯気が微かに漂ってくるのが感じられた。
優里は、戸惑いながらも、
ダイアモンドメンバーたちの温かい気遣いに、
これまで経験したことのない深い安堵と感謝を感じていた。
この夜は、優里にとって、体だけでなく、
心の奥底まで温まる、特別な一夜となる。
暖かな湯気が満ちるダイアモンドコテージの浴室は、
優里にとって、夢のような空間だった。
シルバークラスのキャンピングカーに
備え付けられた簡素なシャワーとは比べ物にならない、
広々とした浴槽。
豊かな泡が立つシャンプーの香り。
それは、彼女がどれほど長い間、
このような贅沢から遠ざかっていたかを痛感させるものだった。
優里は、身体の隅々まで温かいお湯に浸かった。
冷え切っていた手足の先まで血が巡り、
凍えていた身体がじんわりと温まっていく感覚は、
何物にも代えがたい安らぎだった。
髪を洗い、体を清めるたびに、
嵐の恐怖と、クラスメイトに締め出された孤独の記憶が、
少しずつ洗い流されていくようだった。
湯船に深く浸かると、優里は目を閉じた。
この温かさは、単にお風呂の温もりだけではなかった。
それは、遥香が自分をコテージに招き入れてくれた優しさ、
朔也が荷物を届け、入浴を促してくれた気遣い、
そして真佑や玲司、渉、悠といったダイアモンドメンバーたちの、
さりげない配慮が作り出した、心の温かさでもあった。
(私……ここにいて、いいのかな……)
優里の心には、まだ戸惑いがあった。
しかし、身体が温まり、心が落ち着くにつれて、
彼女の胸に広がるのは、
これまで感じたことのない深い安堵感だった。
学園の階級や過去の苦しみを忘れさせてくれるような、
この束の間の平和に、優里は静かに身を委ねた。
浴室を出た優里は、肌触りの良いパジャマに着替えた。
リビングルームに戻ると、暖炉の炎が心地よく揺れ、
温かいミルクが用意されていた。
「温まった?」
遥香が優しく尋ねた。
優里は、遥香の顔を見て、はにかみながら深く頷いた。
「はい……本当に、ありがとうございます」
遥香は、優里の髪を優しく撫で、その瞳には慈愛の色が宿っていた。
この夜、優里は、体だけでなく心の奥底まで温められ、
遥香の優しさが本物であることを確信した。
長らく閉ざされていた優里の心の扉が、
ゆっくりと、開き始めていた。
この夜の出来事は、優里にとって単なる雨宿りではなかった。
それは、ダイアモンドクラスという学園の頂点にいる存在が、
自分を守り、支えてくれるという、確かな実感をもたらした。
そして、その中心にいる遥香への信頼と、
これまで抱いていた複雑な感情が、
徐々に感謝と尊敬、そしてかすかな温かい絆へと変化していく、
決定的な一夜となった。
優里が温かい湯に身を沈め、安らぎのひとときを過ごしている間、
ダイアモンドコテージのリビングルームでは、
篠原悠、山下遥香、日向朔也、
鷹城玲司、宮瀬真佑、篠原悠、
そして猫耳をつけた向井渉が集まっていた。
暖炉の炎が揺らめくなか、彼らの間には、
優里の存在がもたらす変化と、学園の根深い問題に対する、
真剣な空気が漂っていた。
悠は、暖炉に薪をくべながら、静かに口を開いた。
「……本来ならば、宝来優里は今頃、このラウンジにいるべきだった」
悠の言葉に、他のメンバーたちは静かに頷いた。
彼らは皆、学園のシステムが如何に不完全であり、
個人の才能や価値が、いかに簡単に歪められるかを知っていた。
朔也が、冷静な声で続けた。
「彼女の学力、そして何よりもその精神力は、ブロンズやシルバーの範疇をはるかに超えている。ダイアモンド、あるいはプラチナの資質すら持っている」
プラチナクラスは、ダイヤモンドに次ぐ、学園のエリート中のエリートだ。
朔也が優里にその資質を認める言葉は、
彼女がどれほど高い潜在能力を持っているかを示していた。
玲司が、腕を組みながら言った。
「だが、あのデマと暴行事件……そして、お前の『公認カップル』の件が、彼女を不当に引きずり下ろした」
玲司の視線が、一瞬遥香に向けられた。
遥香は、玲司の言葉に、苦しげに目を伏せた。
彼女は、自身が優里の苦しみに加担してしまったことへの後悔と、
優里が本来あるべき場所から引き離されてしまったことへの
罪悪感を深く感じていた。
向井渉は、猫耳をつけたまま、黙って聞いていた。
彼の顔には、自らが流したデマが
優里の人生をいかに大きく狂わせたかという、
深い後悔の念が浮かんでいた。
彼にとっての猫耳は、
その罪を常に意識させる、視覚的な贖罪の証だった。
真佑は、悲しげな表情で言った。
「優里ちゃん、本当にたくさん傷ついてきたよね……」
悠は、全員の顔を見回し、再び口を開いた。
彼の声には、学園の歪んだシステムに対する怒り、
そしてそれを正すという強い決意が込められていた。
「学園の階級制度は、個人の能力を測る基準であると同時に、時に、個人の尊厳を踏みにじる凶器にもなりうる。優里はその犠牲者だ」
悠の言葉は、彼らがなぜ優里を救い、遥香への憧れを黙認しているのか、
その根底にある思想を明確にするものだった。
それは、単なる個人的な関係の修復だけでなく、
学園の根深い問題を解決するための、
彼らの「ゲーム」の一部でもあった。
コテージのなかには、暖炉の音だけが静かに響いていた。
優里の入浴中のひとときは、彼らにとって、
彼女の「本来の姿」と、学園の「あるべき姿」について、
深く議論する貴重な時間となっていた。
朔也は、優里が不当な扱いを受けている根本的な原因について、
核心を突く問いを投げかけた。
「もとより優里が宝来グループの跡取りではないことが大きな原因だ」
「なぜ宝来悠斗なんだ?」
朔也の問いに、悠が、宝来グループの内部事情と、
優里の悲劇的な生い立ちについて、重い口を開いた。
彼の言葉は、優里の人生に暗い影を落としてきた、
知られざる真実を明かすものだった。
「宝来グループは、本来、優里の母が継ぐはずだった」
悠の言葉に、コテージのなかの空気が一瞬にして重くなった。
誰もが、優里の母が既に故人であることを知っていたが、
その死が優里の運命に深く関わっていることを知る者は少なかった。
「しかし、母は優里の出産と引き換えに亡くなったそうだ」
その事実に、遥香は息を呑んだ。
優里が生まれることで、その母が命を落とした。
それは、優里の存在が、
宝来グループ内で「疫病神」と見なされる理由を明確にした。
「母は現、会長である両親から寵愛されていたがために、優里の存在は疫病神そのもの」
玲司の言葉は、宝来グループの現会長夫妻が、
亡き娘への深い愛情ゆえに、
優里の存在を「娘を奪った存在」として憎悪していることを示唆していた。
「宝来グループは母の亡き後、優里の母の弟であり、宝来悠斗の父が社長になったために、宝来悠斗が跡取りになった」
悠は、優里が宝来グループの正当な後継者ではない理由を明確にした。
彼女の叔父が社長となり、その息子である宝来悠斗が跡取りとなったことで、
優里はグループ内で孤立し、その存在は厄介者として扱われるようになった。
「優里の父は婿養子で、いまは宝来グループのメイン事業である高級焼肉店の銀座にある本店でオーナーをしている。しかし父も妻である優里の母親を溺愛していたがために、妻ではなく優里が助かったことが気に入らず、なかば育児放棄のようなものなのだと」
悠の言葉は、優里の悲劇的な家庭環境を明らかにした。
実の父親からも愛情を注がれず、育児放棄に近い状態であったこと。
それは、優里が学園でいじめられ、孤独に耐えてきた背景に、
さらに深い闇があることを示していた。
悠は、優里の過去の全てを知っており、
それが彼女を救うための彼の計画の根幹をなしていた。
真佑は、悠の言葉に涙を浮かべ、優里の過酷な運命に心を痛めていた。
渉は、猫耳をつけたまま、その表情に深い後悔の色を浮かべていた。
彼が流したデマは、優里の悲劇的な生い立ちに、
さらに追い打ちをかけるものであったことを、彼は今、痛感していた。
この夜、ダイアモンドメンバーたちは、優里の過去の全てを知り、
彼女を救うことの重要性を改めて認識した。
彼らの計画は、優里の人生そのものを救済するという、
より深い意味を持つことになった。
その時、向井渉が、猫耳をつけたまま、重い口を開いた。
彼の表情には、深い後悔と、
学園のシステムへの疑問が混じり合っていた。
「ほかの生徒はみんなそんな感じなのか?」
渉の問いは、優里のような悲劇が、
学園の階級制度や、生徒たちの家庭環境の複雑さによって、
他にも存在しうるのかという、学園全体の構造的な問題への疑問だった。
彼が流したデマが、優里の悲劇的な生い立ちに、
さらに追い打ちをかけるものであったことを、彼は今、痛感していた。
朔也は、腕を組み、静かに首を振る。
「いや、ここまでの生徒は聞いたことがない」
学園の生徒に関する膨大な情報を管理する
ダイアモンドのナンバー2である朔也が、
「聞いたことがない」と断言する重みは、
優里のケースが、学園全体を見渡しても極めて特殊なものであることを示していた。
玲司もまた、朔也の言葉に同意した。
「俺もだ。家庭内で権力争いに巻き込まれる生徒はいるが、ここまでの生徒は見たことがない」
玲司の言葉は、学園の生徒たちが抱える家庭の問題、
特に名家や富裕層の家庭における権力争いの存在を示唆しながらも、
優里のように実の親族からここまで徹底的に排除され、
存在そのものを否定されるケースは、前代未聞であることを強調した。
彼女の境遇が、単なる「不幸な家庭環境」の範疇を超え、
極めて深刻なものであることを、ダイアモンドメンバーたちは認識していた。
悠は、彼らの言葉を静かに聞いていたが、
その瞳の奥には、優里を救い、彼女が本来あるべき場所に戻すという、
揺るぎない決意が宿っていた。
真佑は、玲司と朔也の言葉に、再び涙を浮かべた。
優里の過酷な運命を知れば知るほど、彼女を助けたいという思いが募っていた。
向井渉は、猫耳をつけたまま、この会話を黙って聞いていたが、彼の表情は深刻だった。
彼が流したデマが、優里の既に過酷な運命に、
どれほど追い打ちをかけたかという後悔が、彼のなかに深く刻み込まれていた。
彼の「贖罪」は、単なる罰ゲームではなく、
優里の苦しみを少しでも和らげるための、個人的な使命へと変わりつつあった。
温かい風呂から戻ってきた優里は、
湯上りの心地よさと、パジャマの肌触りに、心身ともに深く安らいでいた。
浴室のドアを開け、リビングルームへと足を踏み入れた瞬間、
彼女の目に飛び込んできたのは、予想外の光景だった。
先ほどまで優里の生い立ちや学園の闇について
真剣な議論を交わしていたダイアモンドメンバーたちは、
優里が戻ってきた気配を察するやいなや、
一瞬にしてその表情を切り替えた。
悠、遥香、朔也、玲司、真佑、
そして猫耳をつけた向井渉は、
まるで何事もなかったかのように、慌ててテーブルを囲み、
ボードゲームで遊んでいるふりをした。
真佑は、わざとらしく大きな声で笑い、
「あっ、朔也くんずるい~!」と叫びながら、サイコロを転がした。
朔也は、カードを並べながら
「いやいや、これは戦略だろ」と応じ、
玲司は静かに駒を進めていた。
渉は、まだ猫耳をつけたまま、
手元のカードを見つめるふりをし、
悠は、カップを傾けながら、彼らの演技を静かに見守っていた。
その瞬間的な切り替えは、プロの役者さながらのものだった。
彼らは、優里に自分たちの真剣な議論を
聞かれるわけにはいかないことを知っていた。
優里が抱える心の傷を慮り、
彼女に余計な負担や罪悪感を抱かせたくなかった。
彼らは、あくまで「優里が嵐のなか、偶然コテージにたどり着き、親切なダイアモンドメンバーに助けられた」というシナリオを維持したかった。
優里は、彼らの突然の陽気な雰囲気に、
少し戸惑いながらも、その温かい光景に安堵の息をついた。
湯上りの温かさと、楽しげな声が満ちるコテージの雰囲気は、
彼女の心に深い安心感をもたらした。
「おかえりなさい、優里」
遥香が、優里に優しい笑顔を向けた。
その笑顔は、優里が今まで学園で見たことのない、
心からの温かさに満ちていた。
遥香の隣には、真佑が温かいミルクのカップを差し出し、
「これ飲んで、もっと温まろうねぇ~」と声をかけた。
優里は、差し出されたミルクを受け取り、
遥香の隣へと歩み寄った。
彼女の心には、ここが、嵐のなかで見つけた、
かけがえのない安息の場所であるという確かな感覚が芽生えていた。
温かいミルクを飲み終えた優里は、遥香に促されるまま、
暖炉のそばの大きなソファへと向かった。
遥香は、優里の隣に腰を下ろし、
真佑が用意してくれたブランケットを優里の肩にそっとかけた。
遥香の隣に座るという、
これまでの優里には想像もできなかった親密さに、
優里の心臓はまだ微かに高鳴っていたが、
彼女の心は確かな安堵に包まれていた。
ダイアモンドメンバーたちは、優里が隣にいることに配慮し、
先ほどの真剣な議論を中断し、
ボードゲームを続けているふりをしていたが、
その会話は普段よりも穏やかで、
時折、優里の方へと優しい視線が向けられた。
悠は、静かに彼らの様子を見守り、
彼の計画が着実に進んでいることに満足していた。
優里は、暖炉のパチパチという音と、コテージに満ちる温かい空気、
そして遥香の隣にいる安心感に、
これまでの緊張と疲労がゆっくりと溶けていくのを感じた。
彼女は、目を閉じ、深い呼吸を繰り返した。
数時間前まで、嵐のなか、孤独に震えていた自分が、
今、学園の最高位にいる女王の隣で温かいブランケットに包まれている。
それは、まるで夢のような、奇跡のような夜だった。
遥香は、優里が完全にリラックスしているのを感じると、そっと彼女の髪を撫でた。
優里は、その優しい感触に、さらに深く安堵し、遥香に寄り添うように身を寄せた。
やがて、夜が更け、嵐の音も遠のくと、コテージのなかは静寂に包まれた。
ダイアモンドメンバーたちも、それぞれ自室に戻ったり、
リビングのソファで眠りについたりしていた。
優里は、遥香の隣で、深い眠りに落ちた。
それは、優里が生まれてこの方、
経験したことのないほど穏やかで、安らかな眠りだった。
孤独や不安、そして階級による差別から解放された、本当の意味での「安らぎ」。
遥香の温もりと、ダイアモンドの庇護が、
優里の心を深く癒し、これまでの辛い記憶を洗い流していくようだった。
この夜、遥香もまた、優里の寝息を隣で感じながら、
自身の心に芽生えた新たな感情に向き合っていた。
優里を守りたいという純粋な思いは、
もはや女王としての義務や計画の一部ではなく、
一人の人間としての、深く温かい愛情へと変化し始めていた。
嵐が完全に去り、夜明けの光がダイアモンドのコテージの窓から差し込んだ。
朝日は、部屋の中を温かく照らし、
昨夜の激しい嵐が嘘のように、静かで穏やかな朝を告げていた。
優里は、微睡みのなかでゆっくりと目を覚ました。
最初に感じたのは、体の芯から温まるような、
これまでにない深い安堵感。
そして、柔らかなシーツの感触と、
隣から伝わる温かい体温に、優里は自分がどこにいるのかを思い出した。
優里がそっと目を開けると、
すぐ隣には、穏やかな寝顔の遥香が眠っていた。
遥香の規則正しい寝息が聞こえ、
その隣で一夜を明かしたという事実に、
優里の心臓は再び優しく高鳴った。
遥香の顔には、普段の女王としての冷徹さはなく、
ただ安らかな少女の表情があった。
優里は、遥香を起こさないよう、ゆっくりと体を起こした。
リビングルームからは、
朝食の準備をするらしい真佑の賑やかな声と、
コーヒーの香りが漂ってきていた。
窓の外を見ると、木々はまだ濡れていたが、
空は澄み渡り、鳥のさえずりが聞こえていた。
優里は、自分のシルバークラスの合宿のスケジュールを思い出した。
今日は、地図読みとオリエンテーリング。
集合場所と時間が頭をよぎった。
しかし、優里の心は、もはやシルバークラスの活動へと向かっていなかった。
遥香の隣で過ごした夜の温かさ、
ダイアモンドメンバーたちの優しさ、
そして何よりも、朔也の言葉を思い出していた。
あの言葉は、単なる嵐からの保護ではなく、
優里の存在そのものを、彼らが守ろうとしているという強いメッセージだった。
優里は、昨日まで自分を拒絶した
キャンピングカーのクラスメイトたちの顔を思い浮かべた。
優里の心は、遥香の隣にいることへの安堵と、
この温かい場所への強い帰属意識で満たされていた。
優里は、立ち上がると、遥香の寝顔をもう一度見つめた。
そして、パジャマの肌触りを確かめるように、そっと自分の胸に手を当てた。
この朝、優里は、シルバークラスのレクリエーションには戻らないことを、決意していた。
彼女の心は、もはや過去の場所ではなく、
遥香とダイアモンドメンバーが示す、新たな光の方へと向かっていた。




