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ダイアモンドクラス  作者: 優里
ブロンズへの帰還

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68/96

渉の裁き





篠原悠の言葉は、

日向朔也、鷹城玲司、宮瀬真佑の三人の間に、

嵐のような衝撃を巻き起こした。



彼らは、悠が優里を

ダイアモンドラウンジに来るようにすることくらいは

予期していたが、

まさかこのような常識外れで、

大胆な提案をするとは、夢にも思っていなかった。




朔也は、悠の言葉に思わず目を見開いた。


そして、すぐに「え……?」と、

間の抜けた声が漏れた。



彼の頭のなかでは、これまでの学園の常識と、

悠の提案が激しく衝突していた。



女王である遥香と、

ブロンズである優里の関係を

「元に戻す」?


それは、学園の階層制度の根幹を揺るがすどころか、

完全に破壊するに等しい行為になりかねなかった。




玲司もまた、冷静な表情を崩しながらも、

その瞳には驚愕の色が浮かんでいた。



彼は、悠の提案が持つ意味を瞬時に理解した。


それは、学園の秩序を保つという

ダイアモンドの役割を放棄し、

個人的な感情を優先するということ。


そして、これまでの悠の「ゲーム」とは一線を画す、

あまりにも危険な賭けになりつつあった。




「悠……本気か?」


玲司は、絞り出すように問いかけた。




彼らの心のなかには、

激しい葛藤が渦巻いていた。



遥香の苦しみも、優里の絶望も、

彼らは間近で見てきた。


しかし、学園の秩序を重んじる彼らにとって、

この提案はあまりにも非常識で、

リスクが高すぎると感じられた。



真佑は、悠の言葉に最も早く、

そして複雑な反応を示した。



彼女は、遥香が優里に抱く感情の

「真実」に気づいた張本人であり、

優里の苦しみと遥香の孤独を誰よりも案じていた。



「え……でも、そんなこと……」



真佑は、驚きながらも、

その言葉の奥に、

悠の策略によって、

うまくいけば遥香と優里が

本当に幸せになれるかもしれないという、

淡い希望を感じていた。



彼女は、二人の間に

特別な絆があることを知っていたからこそ、

悠の提案が、荒唐無稽なものではなく、

もしかしたら「正しい道」なのかもしれないという可能性を、

直感的に感じ取っていた。





しかし、彼らの驚きや葛藤を打ち破ったのは、

悠の揺るぎない決意だった。


悠の目に宿る、優里と遥香への深い後悔と、

何としてもこの状況を打開するという覚悟を見た時、

彼らは悠の提案が、

単なる気まぐれやゲームではないことを悟った。




朔也は、遥香の寂しそうな顔を思い出し、

そして優里の傷ついた姿を思い浮かべた。



玲司は、学園の秩序も重要だが、

それ以上に大切なものがあることを、

悠の真剣な眼差しから感じ取った。



そして真佑は、遥香と優里が、

本当に心から笑い合える未来を想像した。



玲司はこの沈黙を破るかのように静かに告げた。


「…遥香は確かに、優里がきてから心が和んでいるように見えた。」


「ダイアモンドラウンジにとじこもってしまった遥香に、唯一光を与えられた存在なのかもしれない。」


朔也は玲司の発言に同意するかのように、

考え込んでいた。


「俺たちには、できなかったからな…」




彼らは、それぞれの心のなかで、

葛藤を乗り越え、一つの結論に達した。




「……分かった」



朔也が、最初に重い口を開いた。



「悠がそこまで言うなら、俺は協力する」



玲司も、静かに頷いた。



「この学園の秩序は、俺たちが守る。だが、その秩序が、大切な人間を傷つけるのなら……俺たちも、変わるべきなのかもしれない」



真佑は、力強く頷いた。


「私も、協力する! 遥香と優里ちゃんが、幸せになれるなら……!」



彼らは、悠の提案が

学園に大きな波紋を呼ぶことを理解していた。


しかし、女王である遥香の喪失感と、

優里の絶望を目の当たりにした今、

彼らは悠の「最大の誤算」を挽回し、

二人の「幻」を現実に変えるために、

この大胆な計画に協力することを決意した。



ダイアモンドのメンバーたちは、

悠の新たな「ゲーム」に、

それぞれが覚悟を持って挑むことになる。





篠原悠の提案を受け、

日向朔也、鷹城玲司、宮瀬真佑は、

山下遥香と宝来優里の関係を

「元に戻す」という

前代未聞の計画に協力することを決意した。



彼らは、まずこの大胆な計画を成功させるために、

ある人物の協力を仰ぐことにした。





それは、同じダイアモンドメンバーでありながら、

最近はラウンジに顔を出すことも少なく、

どこかくすぶっていた存在、向井渉だった。







悠は、渉の性格と能力をよく理解していた。


渉は、ダイアモンドクラスのなかでも

特に情報収集と分析能力に長け、

学園内の裏事情や生徒たちの

人間関係の機微にも詳しい人物だった。


しかし、彼は優里を陥れようとして以来、

朔也により、処分保留となり、

ダイアモンドラウンジに足を運ぶことを禁じられていた。



その後、ダイアモンドラウンジに

足を運ぶことはなく、

静かに過ごしていたが、

どこか満たされない思いを抱えているように見えた。



悠は、この計画が渉にとって、

渉の能力を最大限に活かす

絶好の機会となると考えた。




悠は、渉に直接連絡を取った。




それは、いつもの冷徹な命令口調ではなく、

どこか個人的な響きを持つ、真剣な呼び出しだった。



「渉。今すぐダイアモンドラウンジに来い。重要な話がある」



渉は、悠からの連絡に最初は訝しげな反応を示した。


最近はダイアモンドの活動にも

積極的に関わっていなかったため、

何を今更、という気持ちもあった。


ついに、自分の処分が言い渡されるかもしれない。

この学園を追い出されるかもしれない。

という恐怖もあった。



しかし、悠の声のトーンから、

ただ事ではないと察し、

しぶしぶながらもラウンジへと向かった。



向井渉は、ダイアモンドクラスのなかでも、

最近は目立つ活動もなかった。


彼は、もとより、表舞台で華々しく活躍する

悠や遥香、朔也や玲司とは異なり、

裏方で情報を集め、分析することを得意としていた。



その能力は非常に高く、

学園内のあらゆる情報を網羅し、

複雑な人間関係の糸を

解きほぐすことに長けていた。



しかし、その能力を

優里を陥れようとする行為に

使用してしまったため、

封印せざるを得なくなりくすぶっていた。



そのた、学園の階層制度のなかで、

ダイアモンドという最高位にいるにもかかわらず、

どこか満たされない思いを抱えていた。


悠は、そんな渉の本来の才能と、

彼が抱える不満を見抜いていた。



この「優里と遥香を再び元の関係に戻す」という計画は、

学園の常識を覆すものであり、

そのためには、渉の持つ情報収集力と分析力、

そして何よりも彼の型破りな発想が

必要不可欠だと考えた。






ダイアモンドラウンジの扉が開き、

向井渉が姿を現した。



彼の顔には、いつもの倦怠感と、

わずかな警戒心が浮かんでいた。


彼はまだ、これから始まる「ゲーム」が、

これまでのどんなものよりも壮大で、

そして個人的なものであることを知る由もなかった。




向井渉は、篠原悠からの呼び出しを受け、

ダイヤモンドラウンジへとやってた。


彼の顔には、どこか深い場所に燻る不満が見て取れたが、

悠の真剣な眼差しを受け、

その緊張感に気づき始めた。


しかし、悠と他のメンバーは、

渉の複雑な過去、

そして彼が宝来優里に対し行ってきた

一連の行為を、知っていた。



渉がラウンジに顔を出すことが少なくなっていたのは、

彼が優里に対して犯した過ちが原因だった。


その過ちは、単なる「いじめ」の範疇を超え、

彼の遥香への歪んだ恋心が引き起こした、

陰湿で執拗なものだった。




渉は、山下遥香に対し、深い恋心を抱いていた。


しかし、遥香が常に篠原悠に視線を向け、

特に優里と悠の「偽装パートナー」関係が

始まってからは、

遥香の関心が優里へと向いているように見えたため、

渉の心には嫉妬と焦燥感が募っていった。



その歪んだ感情は、優里への憎悪へと転じた。


渉は、遥香の気を引くため、

あるいは優里を遥香から引き離すため、

優里に直接的な危害を加える行動に出た。



渉は、優里の学業面での実力を

試すかのように、

中間テストで優里に勝負を挑んだ。


結果的に優里は驚くべき成績を収め、

シルバークラスに格上げされるという事態を招く。


これは渉の計算違いであり、

彼の優里への憎悪をさらに募らせる結果とった。



優里がシルバーに格上げされ、

さらにダイアモンドに近づいたことに

危機感を覚えた渉は、最も陰湿な手段に訴えた。



彼は、優里がダイアモンドのメンバーに近づくために

「身体を売った」という

悪質なデマを学園中に流布したのだ。


このデマは、優里の尊厳を深く傷つけ、

学園内での彼女の孤立を決定的なものにした。



渉が流したデマは、学園内のいじめをさらに激化させ、

最終的には宝来悠斗による優里への

度重なる暴行事件へと発展する

引き金となった。



渉自身は直接手を下さなかったものの、

彼の悪意ある行為が、

優里を肉体的・精神的に

追い詰める要因となった。



これらの事態は、

当然ながらダイアモンドメンバーたちの

知るところとなった。



渉の行為は、学園の規則に照らし合わせれば、

即刻退学処分となっても

おかしくないほどの悪質さだった。


しかし、渉はダイアモンドのメンバーであるがゆえに、

その処分は保留されていた。



これは、ダイアモンドクラスが

学園の秩序を維持する最高機関であると同時に、

その地位が与える絶対的な特権でもあった。



彼らは、下位クラスの生徒には

容赦なく罰を与える一方で、

自分たちのメンバーに対しては、

学園のシステム全体への影響を考慮し、

安易な処分を下すことはできなかった。


この保留措置は、

渉自身にとっては

一種の「くすぶり」の原因でもあったが、

彼の存在は

学園の闇の一部を象徴するものでもあった。



悠は、渉が優里に何をしたのかを全て知っていた。


それでもなお、この計画に渉を呼び出したのは、

彼の能力が不可欠であると判断したからであり、

同時に、渉自身の「くすぶり」を解消し、

彼の過ちを正す機会を与えるという、

悠なりの思惑もあったのかもしれない。



篠原悠の言葉は、向井渉の心に、

これまで感じたことのない種類の衝撃を与えた。


彼の顔に浮かんでいた倦怠感と警戒心は、

一瞬にして困惑と不信へと変わった。


「……は?」


渉は、悠の言葉の意味を理解できず、

間の抜けた声を上げた。



彼が優里に対して行ってきた悪行の数々、

特に遥香への歪んだ恋心から優里を貶め、

傷つけてきた過去が、彼の脳裏を駆け巡った。



日向朔也、鷹城玲司、宮瀬真佑の三人も、

悠の言葉に複雑な表情を浮かべていた。


彼らの視線が、悠と渉の間を行き来した。


悠は、渉の反応を予想していたかのように、

その目に強い光を宿して渉を見据えた。


「お前が優里にしたことは、全て知っている」


悠の言葉に、渉の顔から血の気が引いた。


彼の心臓が激しく脈打ち、冷や汗が背中を伝った。


ダイアモンドの特権によって

保留されていたとはいえ、

彼の過去の悪行が、

今、悠の口から直接告げられた。



彼は、この場で悠から断罪され、

ついに学園を追放されるのだと覚悟した。


しかし、悠の言葉は、

渉の予想とは異なる方向へと進んだ。



「だが、今、遥香は優里を失って苦しんでいる。そして、優里は遥香に拒絶され、心を閉ざしている」


悠は、遥香の喪失感と優里の絶望について、

淡々と語った。



その言葉には、彼自身の深い後悔と、

この状況を何としても変えたいという

切実な願いが込められていた。



「お前は、遥香に恋心を抱いているのだろう? ならば、遥香が本当に望むものが何なのか、理解できるはずだ」


悠の言葉は、渉の心の最も深い部分に触れた。


遥香への恋心。



それは、渉が優里に危害を加える原動力となった、

彼の行動の根源だった。



悠は、その渉の感情を否定するのではなく、

むしろそれを逆手に取り、

遥香の幸福のために行動するよう促していた。



渉は、悠の言葉を咀嚼するように、

ゆっくりと理解していった。



遥香が本当に求めているのは、

自分ではなく優里なのか?

そして、遥香の幸福のために、

自分が優里と遥香を手助けをする?


それは、渉にとって、

自身の過去の過ちを償う機会であり、

同時に、遥香の真の幸福を願うのであれば、

自分の感情を乗り越えなければならないという、

究極の選択だった。



彼の心の中には、遥香への歪んだ恋心と、

優里への罪悪感、

そして悠の言葉が提示した

新たな道への戸惑いが渦巻いていた。


しかし、悠の目に宿る、

優里と遥香への揺るぎない覚悟と、

この学園を変革しようとする強い意志を見た時、

渉の心に、

これまでくすぶっていた才能が

再び燃え上がるような、一縷の希望が灯った。


もしかしたら、この計画は、

自分自身の存在意義を見つけ、

過去の過ちを清算する、

唯一のチャンスになるかもしれない。



渉は、まだ完全に納得したわけではなかったが、

悠の提案に、

自身の能力を活かす

新たな「ゲーム」の可能性を見出していた。


彼の顔には、困惑と同時に、

微かな好奇心と、

そして覚悟を決めたような表情が浮かび始めていた。



向井渉が、篠原悠の提案に複雑な思いを抱きつつも、

その計画に加わることを決意したことで、

ダイアモンドメンバーたちは、

具体的な行動を開始した。



彼らの最初のステップは、

優里をダイアモンドラウンジに呼び出すことだった。




悠は、この呼び出しの理由を慎重に選んだ。



優里が再びラウンジに来ることを

拒否している現状を鑑み、

彼女が断れない、

かつ興味を引くような理由が必要だった。


そこで、彼らは、

向井渉の処遇を告げるという名目で

優里を呼び出すことにした。



悠は、自ら優里に連絡を取ることは避け、

宮瀬真佑に優里を呼び出す役目を託した。



真佑は、優里が心を許している

ダイアモンドメンバーの一人であり、

優里も彼女からの連絡であれば、

警戒心を抱きにくいだろうと考えたからだった。



真佑は下位ランクのフロアまで出向いて、

教室にいる優里に会いに行った。


「優里ちゃん、今すぐダイアモンドラウンジに来てほしいの。向井渉くんのことで、あなたに直接話しておきたいことがあるのよ」


この問いかけは、優里の心に複雑な感情を呼び起こした。


向井渉は、彼女を深く傷つけ、デマを流し、

暴行事件の引き金となった人物だった。



その彼の「処遇」という言葉は、

優里にとって、

自身の苦しみの原因となった人物の未来がどうなるのか、

という強い関心を引き起こした。



同時に、再びダイアモンドラウンジに

足を踏み入れることへの抵抗と、

遥香や悠と顔を合わせることへの不安も感じた。



しかし、自身のいじめの元凶の

一人である渉の処遇という、

直接自分に関わる問題であるため、

優里は呼び出しを拒否することができなかった。



彼女は、重い足取りで、不安とわずかな希望を胸に、

再びダイアモンドラウンジへと向かうことになった。



優里は、重い足取りで

ダイアモンドラウンジの前に立った。


その扉は、彼女がブロンズに戻って以来、

固く閉ざされ、

彼女の今の身分では開けることのできない、

象徴的な障壁となっていた。



しかし、その扉は、

真佑の手によって、静かに開かれた。


「優里ちゃん、来てくれてありがとう」


真佑の優しい声に、

優里は不安げにラウンジの中へと足を踏み入れた。




ラウンジのなかには、

ダイアモンドのメンバー全員、

そして、あの事件以来、顔を見ることのなかった

向井渉の姿があった。



ダイアモンドのメンバー全員が、

優里の到着を待っていたかのように、

静かに彼女を見つめていた。



渉の顔を見た瞬間、

優里の心臓は大きく跳ね上がった。


彼が流したデマ、そしてその後の暴行事件の記憶が、

鮮明に蘇ったからだった。



渉は、優里から視線を逸らし、

どこか居心地が悪そうに立っていた。



ラウンジの空気は、張り詰めていた。



悠の視線は、優里と渉の間を行き来し、

その瞳には、この場の全ての状況を

掌握しているかのような、鋭い光が宿っていた。



沈黙を破ったのは、朔也だった。



彼は、優里の傷ついた姿と、

渉の過去の行いを思い、

決然とした声で優里に問いかけた。



「優里」



朔也の声は、優里の心に直接響くようだった。


優里は、緊張しながら朔也を見上げた。


「お前は、向井渉を……どうしたい?」


その問いかけは、優里にとって、

あまりにも重いものだった。


彼女を深く傷つけ、絶望の淵に

突き落とした人物に対する「裁き」を、

今、彼女自身が下すことを

求められているかのようだった。



優里の瞳には、過去の痛みと、

この突然の問いに対する困惑が入り混じっていた。




ダイアモンドメンバーたちは、

優里の答えを静かに待っていた。



彼らは、優里の言葉が、

この後の計画の行方を左右する、

重要な一歩となることを理解していた。



日向朔也のという問いかけに、

宝来優里の心は激しく揺さぶられた。



過去の痛みが蘇り、

怒りや憎しみが頭をもたげそうになったが、

彼女の目には、

同時に彼への恐怖と困惑が入り混じっていた。



その時、優里の目の前にいた向井渉が、

ゆっくりとした動作で、

彼女の足元に跪いた。



渉の顔は、驚くほど憔悴しており、

その目にはこれまで見せたことのない、

純粋な後悔と、

そして絶望に近い感情が浮かんでいた。



彼は、自らのプライドを捨て、

優里に対し、心の底からの言葉を絞り出した。


「……悪かった」


その一言は、これまで優里を苦しめてきた全ての悪意、

全てのデマ、全ての暴行の引き金となった渉からの、

初めての、そして心からの謝罪だった。



彼の声は震え、その目からは、

優里に対する罪悪感と、

自身の過ちを悔いる涙がにじんでいるかのようだった。




渉が跪き、謝罪するという予想外の行動に、

ダイアモンドラウンジにいた全員が息を呑んだ。


渉のこの行動に驚きを隠せずにいた。


彼らが知る向井渉は、計算高く、

決してプライドを捨てるような人間ではなかったからだった。



優里は、渉の突然の謝罪に、ただ立ち尽くしていた。




彼の言葉が、耳の奥で何度も反響し、

彼女の心を揺さぶっていた。



憎むべき相手からの謝罪。



それは、優里にとって、あまりにも大きな、

そして複雑な感情を呼び起こすものだった。



彼女の瞳には、怒りや悲しみだけでなく、

戸惑いと、かすかな混乱が浮かんでいた。




渉の突然の謝罪に、優里は困惑し、その場に固まっていた。



その時、朔也が、渉の謝罪を遮るように口を開いた。



彼の声は冷静でありながらも、

その奥には優里への配慮と、

渉への厳しい姿勢が明確に見て取れた。



「謝罪だけじゃ、すまされないだろう」



朔也の言葉は、渉の頭上に突きつけられた

鉄槌のようだった。


彼は、渉が跪いたからといって、

その行為が過去の全てを

帳消しにするわけではないことを明確にした。



「優里は、お前がやったことで深く傷ついた。その事実は、変わらない」



朔也は、優里が受けた身体的、精神的な苦痛を認め、

その重さを改めて提示した。



渉の謝罪は重要だが、それだけでは足りない。



優里の痛みが、何よりも優先されるべきだと彼は主張した。


そして、朔也は優里に視線を向け、

再びその裁量を彼女に委ねた。



「向井渉をどうしたいか……それは、優里が決めろ」



朔也の言葉は、優里の尊厳を認め、

彼女自身に決定権があることを示していた。



それは、優里がこれまでの人生で

ほとんど経験したことのない、

重い責任であり、

同時に与えられた「力」でもあった。




山下遥香は、この一連のやり取りを、

ただ静かに見守っていた。


彼女の表情は読み取れなかったが、

その視線は優里に注がれていた。


遥香は、この状況が

優里にとってどれほど重要であるかを理解しており、

優里自身がどう判断するのか、

その覚悟を試すかのように、ただ見つめていた。



篠原悠もまた、朔也の介入を黙って見ていた。


これは、彼が計画した「ゲーム」の一環であり、

優里自身の意思を最大限に尊重する場面だった。


悠は、優里がこの重い問いにどう答えるのか、

その瞳の奥をじっと見つめていた。


朔也の重い問いかけに対し、

優里は、その小さな身体からは想像もつかないような、

意外な決断を下した。


彼女の瞳には、過去の痛みと、

この状況を乗り越えようとする強い意志が宿っていた。




優里は、ラウンジのソファのそばにあった、

可愛らしいおもちゃの

白い猫耳のカチューシャに手を伸ばした。



それは、おそらくダイアモンドメンバーの誰かが、

冗談で置いていったものか、

あるいは気まぐれなコレクションの

一つだったのかもしれない。



優里はそれを手に取ると、

未だに跪いて顔を青ざめさせている

向井渉の前に立った。



渉は、優里が何をしようとしているのか理解できず、

ただ彼女の動きを固唾を飲んで見つめていた。




優里は、その白い猫耳のカチューシャを、

渉の頭にそっと、つけた。



渉の顔に、場違いな白い猫耳が乗せられ、

その姿は滑稽でありながら、

どこか痛々しくもあった。



そして、優里は、静かに、はっきりと、渉に告げた。


「今日一日、それをつけて、語尾も、『にゃん』、にする」



優里の言葉は、ダイアモンドラウンジに

静かに響き渡った。



その場にいた全員が、

優里の予想外の「裁き」に、

驚きを隠せなかった。



それは、肉体的な痛みを与えるものではなく、

渉のプライドを徹底的に打ち砕く、

精神的な屈辱だった。



優里は、猫耳をつけた渉を見つめ、

そして、ダイアモンドメンバーへと視線を向けた。


「……これで、どうですか?」


優里の問いかけは、彼女自身の覚悟と、

この状況を乗り越えようとする

強い意志を示していた。



彼女は、自らを傷つけた相手に対し、

暴力ではなく、尊厳を奪うという形で、

独自の「裁き」を下した。



それは、渉がこれまで

優里に与えてきた精神的な苦痛を、

彼自身に体験させるかのような、

優里なりの復讐であり、

同時に、彼を「人間」として

再教育しようとする試みでもあった。




渉は、猫耳をつけられた屈辱と、

優里の言葉の重みに、ただ震えていた。



彼の顔は、怒りよりも、

恥辱と困惑で真っ赤になっていた。




優里が下した、

おもちゃの猫耳と語尾に「にゃん」という、

予想外の「裁き」。


その場にいたダイアモンドメンバーたちは、

一瞬、呆然とした。



彼らは、優里が肉体的な罰や退学処分といった、

より過酷な選択をするものとばかり

思っていたからだった。



日向朔也と鷹城玲司は、

顔を見合わせ、その表情に驚きと、

どこか感心したような色を浮かべた。




「これは……」



朔也は、思わず口元に手を当てた。



優里の選択は、

彼らの常識の斜め上を行くものだったが、

その意図は明確に伝わってきた。



肉体的な苦痛を与えるよりも、

プライドの高い渉にとって、

この精神的な屈辱の方が、

はるかに効くということを、優里は理解していた。




玲司は、静かに頷いた。



「なるほど……これは、向井渉にとって、最も効果的な罰かもしれないな」



彼は、優里の知性的な一面と、

相手の弱点を見抜く洞察力に、改めて驚いていた。




宮瀬真佑は、最初は目を見開いていたが、

すぐに優里の意図を察し、小さく微笑んだ。



彼女は、優里の心の底に、

単なる復讐ではなく、

相手を変えようとする優しさが

残っていることを感じ取っていた。




そして、篠原悠は、優里のこの決断に、

深い満足と、わずかな驚きを覚えていた。



彼は、優里がこの問いにどう答えるか、

彼女自身の意思を尊重するつもりだったが、

優里がこれほどまでに賢く、

そして相手の核心を突くような裁きを下すとは

予想していなかった。



優里の成長と、彼女の内なる強さを目の当たりにし、

悠の瞳には、遥か遠くを見据えるような光が宿った。


彼の計画の第一歩が、優里自身の意思によって、

予想以上の効果を発揮したことに、

悠は手応えを感じていた。



一方、白い猫耳を頭に乗せられ、

優里から「今日一日、それをつけて、語尾も、『にゃん』、にする」と

告げられた向井渉は、

全身が硬直していた。


「なっ……なんだと!?」


彼の顔は、羞恥と怒りで真っ赤になった。



ダイアモンドのメンバーである自分が、

最下層のブロンズに、

このような屈辱的な「罰」を与えられるなど、

これまで考えたこともなかった。


彼のプライドが、激しく抵抗した。



しかし、優里の瞳には、

一瞬の迷いもなく、確固たる決意が宿っていた。


そして、周囲のダイアモンドメンバーたちの視線が、

彼の屈辱的な姿に注がれているのを感じた。



特に悠の、底知れぬ眼差しは、

彼に逆らうことを許さないと語っているかのようだった。


渉は、抵抗しようとしたが、

悠の絶対的な権力と、

この場で優里に逆らえば、

本当に学園から追放されるかもしれないという恐怖が、

彼の動きを封じた。



彼の身体は、羞恥と絶望で震えたが、

最終的に、彼はその屈辱的な「裁き」を

受け入れるしかなかった。


「……っ、わ……かったにゃん……」


渉の口から絞り出された「にゃん」という語尾は、

彼のプライドを木端微塵に打ち砕き、

彼の精神に深い傷跡を残した。



それは、優里の復讐であり、

同時に、彼がこれから経験することになる、

自身の過ちへの贖罪の始まりでもあった。





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