表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイアモンドクラス  作者: 優里
ブロンズの少女
6/80

女王の視線

私立鳳凰学院。



紺色の制服に青いシャツが、今日も校舎のあちこちで蠢いている。



この学園は、財力と家柄、そして厳格なカースト制度によって支配されている。



その少女、山下遥香にとって、それはただの事実であり、この世界の摂理に過ぎなかった。




誰もがうらやむであろう圧倒的な美貌。

誰もが欲しがるであろう圧倒的な才能。

誰もが望むであろう圧倒的な家柄と権力。



そのすべてを生まれながらにして手にしている少女にとって、この世界はただの退屈な日常にしかすぎなかった。




特別フロアにある「ダイアモンドラウンジ」へ向かう途中、

ふと、下階から耳障りな声が聞こえた。




ざわめきと、嘲笑。



『いつもの光景だ。』



そのはずだった。



しかし彼女は常に気まぐれな性格だった。

性格が故なのか、退屈な日常だからこそなのか。

彼女自身も定かではなかった。





遥香は気まぐれに、階段の踊り場に立ち止まり、下を見下ろした。




そこには、アイロンもかけられていないであろう

紺色の制服がくたびれ、青いシャツも色褪せた一人の生徒が、

階段で転倒し、教科書やノートを散乱させていた。


周囲の生徒たちは、笑い声を上げ、蔑んだ視線を投げかけている。



優里、という名前だっただろうか。



遥香の記憶には、カースト最下位の生徒たちの顔はほとんど残らない。





遥香の瞳に映るのは、ただの日常だった。



カーストの底辺にいる者が、上位の者に踏みにじられる。




それはこの学園で、呼吸をするのと同じくらい当たり前のことだ。

そこに感情を揺さぶられる要素など、何もない。




遥香は興味もなさそうに、ただその光景を一瞥しただけだった。



助ける理由もない。



関わる必要もない。



彼女の冷徹なまでの無関心は、周囲の喧騒とは隔絶された、絶対的な静寂を纏っていた。




遥香が再び歩き出すと、周囲のざわめきは一層大きくなった。



生徒たちは彼女の姿を目で追い、畏敬と羨望の入り混じった視線を向ける。



遥香の胸元で、ダイアモンドクラスの者のみ着用が許される、

まばゆいダイアモンドバッジが、冷たい光を放って輝いていた。




その輝きが、彼女がこの学園の頂点に立つ「女王」であることを、改めて周囲に知らしめる。





遥香は、そのざわめきを背に、特別フロアへと続く階段を上っていった。





彼女の居場所は、常にこの世界の頂点にある。




そして、その頂点から見下ろす世界は、常に冷たく、そして孤独なものだった。






ダイアモンドラウンジの重厚な扉が、静かに遥香の背後で閉まった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ