思わぬ昇格
翌日、宝来優里が学園に足を踏み入れると、
昨日のテスト結果発表とは違う、
新たな種類の冷たい空気が彼女を包み込んだ。
学年2位という快挙を成し遂げたにもかかわらず、
ブロンズやゴールドの生徒たちの視線は、
昨日よりもさらに冷たく、露骨な敵意を帯びていた。
廊下を歩いていると、すれ違うブロンズの生徒たちが、
わざとらしく顔を背けたり、聞こえよがしに囁き合ったりした。
「ほら、ダイアモンドのお気に入りだ」
「どうせ不正したんだろ、あんなブロンズが2位なんてありえない」
ブロンズの教室では、
これまで優里をいじめてきたグループだけでなく、
比較的穏やかだった生徒たちまでが、
優里から距離を取るようになっていた。
ゴールドクラスの生徒たちの嫌がらせは、
さらに露骨なものだった。
彼らは、優里が廊下を歩くたびに、
わざと体をぶつけたり、足を引っ掛けようとしたりした。
「おい、ブロンズ。ダイアモンドに媚びていい気になってるんじゃねえぞ」
「お前みたいなのが、俺たちの順位を越えるなんて、ありえないんだよ!」
中には、優里の持ち物を奪って投げつけたり、
教科書を床に叩きつけたりする者まで現れた。
しかし、彼らは決して優里に直接手を出すことはなかった。
それは、山下遥香や篠原悠の存在を恐れてのことだろう。
だが、その嫌がらせは、
優里の精神をじわじわと蝕んでいくものだった。
ブロンズの教室に向かう階段では、
ゴールドの生徒たちが待ち伏せしており、
優里が近づくと、わざと大声で
「ブロンズの癖に」「不正」といった言葉を叫んだ。
優里は、この新たな状況に心を痛めた。
遥香と悠の言葉が、彼女の支えにはなっていたが、
学園全体からの孤立は、優里の心を深く傷つけた。
しかし、優里は、
この試練から逃げ出すわけにはいかないと決意していた。
遥香と悠、そして何よりも自分自身の居場所を守るために、
優里は再び立ち向かうことを選んだ。
優里が学園で新たな嫌がらせに
直面していることなど知る由もなく、
ダイアモンドラウンジでは、
ダイアモンドメンバーが向井渉を囲むように座っていた。
彼らの間には、優里の2位という結果がもたらした、
新たな緊張感が漂っていた。
向井は、優里が自分を上回ったという事実を
未だに受け入れられず、顔を真っ赤にして俯いていた。
彼のプライドは、粉々に打ち砕かれていた。
先に口を開いたのは、冷静な鷹城玲司だった。
「向井」
玲司の声は、静かだが、
有無を言わせぬ響きを持っていた。
向井は、びくりと肩を震わせ、顔を上げた。
「お前は、宝来優里に、こう告げたはずだ。『テストの結果が自分より低ければ学園を出て行け』と」
玲司の言葉に、向井はさらに顔を青ざめさせた。
あの言葉は、優里を確実に追い出すための、
彼の策略だった。
しかし、その策略は、
優里の予想外の躍進によって、
向井自身に跳ね返ってきたのだ。
玲司は、向井の動揺を一切気にすることなく、
淡々と続けた。
「我々は、お前が優里を追い詰めることを黙認した。それは、お前が設定したこの『勝負』の条件を、我々が受け入れたからだ」
そこで、日向朔也が、
向井をじっと見つめながら、静かに問いかけた。
「我々は、優里が向井を越えられなかったら、彼女を学園から追い出すというお前の条件を呑んだ。だが、もし越えたら? その場合のお前の処遇については、何も決めていなかったな」
朔也の言葉は、向井に、
彼が自ら蒔いた種の報いを受ける時が来たことを突きつけた。
ラウンジの空気は、一気に重くなった。
篠原悠は、コーヒーを一口含むと、
口元に微かな笑みを浮かべた。
彼の瞳は、向井の絶望と、
この状況がもたらす新たな展開を、
楽しむかのように見つめていた。
悠は、向井が優里を追い詰めることで、
遥香と優里の絆が深まることを予測していたが、
まさか向井自身が自らの首を絞める結果になるとは、
ある意味で予想外の「ゲーム」の展開だった。
遥香は、ただ静かに、向井を見つめていた。
彼女の表情は、冷徹な女王に戻っていた。
優里を傷つけ、学園の秩序を乱そうとした向井に対する、
遥香の怒りが、その瞳の奥で静かに燃え盛っていた。
向井渉が顔を青ざめ、沈黙するなか、
日向朔也の「越えたら?」という問いかけが
ダイアモンドラウンジに重く響いた。
その時、それまで静かに状況を見守っていた
真佑が、口を開いた。
「ねぇ、優里ちゃんを昇格させてあげたら? 」
「…シルバーに」
真佑の提案は、
その場の全員にとって、予想外のものだった。
ブロンズの生徒をいきなりシルバーに
昇格させるという前例のない案に、
向井は思わず顔を上げた。
向井は、真佑の言葉に激しく反発しようとしたが、
真佑の穏やかながらも芯のある視線に気圧され、
言葉に詰まった。
日向朔也は、真佑の提案に少し驚きながらも、
その意図を測るように考え込んだ。
鷹城玲司は、口元に微かな笑みを浮かべた。
真佑の提案は、学園の秩序を揺るがす大胆なものだが、
同時に、優里の躍進を最も直接的に認め、
かつ向井への間接的な報復となる、
非常に巧妙な手でもあった。
篠原悠は、真佑の提案に、
静かに満足げな笑みを浮かべた。
彼の「ゲーム」は、常に予想外の展開を見せる。
真佑の提案は、その「ゲーム」に新たな面白みを加えるものだった。
優里がブロンズからシルバーへと昇格すれば、
学園のヒエラルキーに、
より大きな波紋を広げることになるだろう。
向井渉は、真佑の言葉に、激しく顔を歪めた。
「馬鹿な! ブロンズをいきなりシルバーにだと!? そんな前例、この学園にはない! 学園の秩序を乱す気か!」
向井は、断じて許容できなかった。
彼のプライドと、優里への憎悪が、
激しい反発となって現れた。
日向朔也は、真佑の提案に驚きを隠せないでいたが、
その意図を測るように考え込んだ。
「しかし、真佑の言う通り、優里は向井を越えた。その功績をどう評価するかは、重要な問題だ」
朔也は、学園の秩序を重んじる一方で、
優里の努力と結果を正当に評価する必要性も感じていた。
鷹城玲司は、口元に微かな笑みを浮かべたまま、
静かに口を開いた。
「面白い。学園の慣例を破る提案だが、優里の今回の成績は、それに値するだけのものだ。そして、何より……」
玲司は、一瞬、遥香に視線を向けた。
「女王様が、どうお考えになるか、だな」
ラウンジの視線が、一斉に遥香に集まった。
彼女がこの提案に対し、どのような判断を下すのか。
それが、優里の運命を、
そして学園の未来を決定づけることになるだろう。
遥香は、静かに、しかし力強く頷いた。
「真佑の言う通り」
遥香の言葉に、向井は息を呑んだ。
「優里は、この学園の常識を覆した。ブロンズでありながら、ダイアモンドの向井を上回り、学年2位という結果を出した。その功績は、学園の歴史に刻まれるべきもの」
遥香の瞳は、優里への深い愛情と、
彼女を守り抜くという揺るぎない覚悟に満ちていた。
「だから、私は、宝来優里をシルバークラスに昇格させることにする」
遥香の言葉は、ラウンジにいた全員に、
決定的な衝撃を与えた。
女王としての遥香の言葉は、絶対だった。
向井は、信じられないといった表情で、遥香を見つめた。
「遥香……! そんなこと、認められるはずが……!」
向井は、遥香の決定に激しく反発しようとしたが、
遥香の冷徹な視線に気圧され、言葉を失った。
篠原悠は、遥香の決定に、満足げな笑みを浮かべた。
彼の「ゲーム」は、新たな段階へと突入した。
優里がシルバーに昇格することで、
学園のヒエラルキーは、
これまで以上に大きく揺れ動くことになるだろう。
宝来優里のシルバークラスへの昇格は、
鳳凰学園に大きな衝撃と混乱をもたらした。
学園の厳然たる階層システムにおいて、
ブロンズからシルバーへの昇格は前代未聞の出来事であり、
学園の秩序を根底から揺るがすものだった。
ブロンズクラスの生徒たちの間では、
優里の昇格は複雑な感情を引き起こした。
特にこれまでいじめに耐え、
諦めかけていた多くのブロンズ生徒は、
優里への嫉妬と、
自分たちには決して届かないという
絶望感を深めた。
彼らは、優里が遥香や篠原悠といった
ダイアモンドメンバーの庇護を受けた
「特別扱い」だと認識しており、
自分たちの努力では決して優里のようには
なれないという諦めを強めた。
優里への「裏切り者」という視線は、
さらに強固なものとなった。
プラチナクラスの生徒たちは、
優里の昇格に最も強く反発した。
彼らは、ダイアモンドに次ぐ地位にしがみつき、
ブロンズを蔑むことで自身の優位性を保ってきたため、
優里の躍進は彼らのプライドを深く傷つけ、
地位への脅威として映った。
優里がシルバークラスに編入されたことで、
ゴールドの生徒たちは、
彼女への嫌がらせや陰口をさらにエスカレートさせた。
「ブロンズのくせに」「不正」「女王様の犬」
といった言葉が、優里の耳に届くようになった。
彼らは、優里の存在が学園の秩序を乱し、
自分たちの序列を脅かすものだと公然と主張し始めた。
宝来優里がブロンズからシルバーに昇格したことで、
彼女の学園生活は大きく変化する。
1. ラウンジ・施設の利用権限の拡大
専用ラウンジの利用: ブロンズには許されない、シルバー専用のラウンジや自習室が利用可能になる。そこはより静かで設備が整っており、学習環境が格段に向上する。
特定の学内施設へのアクセス: 学園内の特定のリソース(特定の図書館の区画など)へのアクセス権が付与される。
2. 授業・カリキュラムの選択肢の増加
上位クラスへの編入: シルバーに昇格することで、より高度な内容を扱うシルバークラスの授業への編入が可能になった。これにより、より質の高い教育を受け、学力をさらに伸ばす機会が得られる。
選択科目の幅の拡大: ブロンズでは限定されていた選択科目の幅が広がり、自分の興味や将来の進路に合わせた授業を選べるようになる。
3. 学園内での社会的地位の変化
ブロンズからの解放: ブロンズクラス特有のいじめや、教員からの冷遇が軽減される。ただし、これは完全に解消されるわけではなく、新たな嫉妬や反発の対象となる可能性も伴う。
優里にとっては、これまでの劣悪な環境から脱却し、
本来の学力を伸ばすための大きなチャンスとなる。
しかし、同時に、彼女を快く思わないゴールドや、
複雑な感情を抱くブロンズからの、
新たな試練に直面することになる。
宝来優里のシルバーランク昇格は、
彼女の学園生活に大きな変化をもたらした。
しかし、それは決して平穏な日々を意味するものではなかった。
優里は、シルバークラスの授業に編入した。
そこでの学習環境は、
ブロンズクラスとは比べ物にならないほど充実していた。
授業内容はより専門的で、教員も熱心に指導にあたっていた。
設備の整ったシルバー専用の自習室やラウンジは、
ブロンズの頃には考えられなかった集中できる空間だった。
優里は、遥香に教えられた学習法を実践し、
真剣に授業に取り組むことで、
着実に学力を伸ばしていった。
しかし、シルバークラスでの人間関係は、
優里にとって新たな試練となった。
ブロンズからの昇格という異例の経緯を持つ優里に対し、
元々シルバーにいた生徒たちは、
嫉妬や警戒の視線を向けていた。
彼らは、優里が
「実力ではなく、ダイアモンドのお気に入りだから」と
昇格したと陰で囁き、
優里をグループに入れないようにした。
優里は、ブロンズ時代のような
露骨ないじめこそ受けなかったが、
誰とも打ち解けられない精神的な孤立を感じていた。
優里の存在は、ゴールドやプラチナといった
上位ランクの生徒たちにも、
見過ごせないものとなっていた。
ゴールドの生徒たちは、
優里を「ブロンズ上がりの生意気な奴」と見なし、
ことあるごとに嫌がらせを仕掛けてきた。
彼らは、優里が廊下を歩けばわざと肩をぶつけたり、
聞こえよがしに悪口を言ったりと、
陰湿な嫌がらせをエスカレートさせた。
彼らにとって、優里の存在は、
自分たちの絶対的な優位性を脅かすものだった。
宝来悠斗を含むプラチナの生徒たちは、
優里を値踏みするような視線を送っていた。
彼らは、優里の躍進が学園の秩序に
どのような影響を与えるのかを分析しており、
今後の展開を見守っていた。
優里にとって唯一の安息の場所は
ダイアモンドラウンジだった。
遥香は、優里が
シルバークラスで孤立していることを察し、
以前にも増して優里を気遣った。
昼休みや放課後には、
優里をダイアモンドラウンジに呼び、
共に昼食をとったり、会話を楽しんだりした。
遥香の存在は、優里にとって何よりも心強いものだった。
篠原悠もまた、優里の状況を常に把握していた。
彼は、優里が困難に直面するたびに、
遠くから優里を見守り、
時折、意味深な言葉をかけることで、
優里を導いてきた。
彼の存在は、優里がこの学園で戦い続けるための、
もう一つの大きな支えだった。
シルバーに昇格した優里の学園生活は、
学力面では充実したものとなったが、
人間関係においては、
ブロンズ時代とは
異なる種類の試練に直面していた。
しかし、遥香と悠、
そして自身の内なる強さを信じ、
優里は新たな壁に立ち向かっていくことになる。
放課後、宝来優里は、
篠原悠と共に学園の庭園を歩いていた。
シルバーに昇格してからの学園生活は、
ブロンズ時代とは異なる種類の孤立と
嫌がらせに満ちていたが、
悠と遥香の存在が、
優里の唯一の支えだった。
優里は、ふと立ち止まり、悠を見上げた。
夕暮れの光が、悠の横顔を照らしている。
「あの……悠様」
優里は、少し言い淀んでから、
感謝の気持ちを込めて言葉を紡いだ。
「私がシルバーに昇格できたのは……悠様のおかげです」
優里の言葉には、心からの感謝が込められていた。
悠が遥香の心を動かし、自身も優里を励まし、
導いてくれたからこそ、
今の自分があるのだと優里は感じていた。
悠は、優里の言葉に、小さく笑みを浮かべた。
「俺のおかげ、か」
悠は、優里の目を見つめ、静かに告げた。
「優里がシルバーに昇格できたのは、俺のおかげじゃない。それは、真佑が提案したからだ」
悠の言葉に、優里は少し驚いたように目を見開いた。
確かに、真佑が「シルバーに昇格させてあげたら?」と
提案したことは、優里も聞いていた。
しかし、優里の心の中では、
悠こそがこの一連の出来事の「仕掛け人」であり、
彼女を導いてくれた存在だった。
優里は、首を横に振った。
「真佑様が提案してくださったのは分かっています。でも……悠様がいなければ、私は昇格することもできませんでした」
優里の言葉には、揺るぎない確信が込められていた。
悠が遥香に優里の存在を意識させ、
何よりも、優里自身の心を奮い立たせてくれたからこそ、
遥香が優里のために動き、
真佑の提案も意味を持ったのだと、優里は理解していた。
悠の「ゲーム」がなければ、
優里は永遠にブロンズのまま、
絶望の中にいたかもしれない。
悠は、優里のまっすぐな瞳を見つめ返した。
優里が、彼の「ゲーム」の真意を、
彼が優里に託した意味を、
ここまで深く理解していることに、
悠は静かな満足感を覚えた。
彼の口元には、いつもの余裕の笑みではなく、
どこか温かい、複雑な感情が浮かんでいた。
優里のまっすぐな言葉に、悠は深く頷いた。
彼の瞳には、優里の純粋な感謝と、
彼の「ゲーム」の真髄を理解しようとする姿勢に対する、
深い満足感が浮かんでいた。
悠は、優里の肩にそっと手を置いた。
「ああ、そうだな。優里がそう言うなら、俺のおかげ、ということにしておこう」
悠の口元に、いつもの余裕綽々とした笑みが戻った。
その言葉は、優里の感謝を受け止めるものでありながら、
同時に、彼が優里の成長を導いてきたことへの、
静かな自負も含まれていた。
そして、悠は優里の目を見つめ、力強い声で告げた。
「だが、覚えておけ、優里。俺は、ただ道を示しただけだ。実際にその道を歩き、結果を出したのは、優里自身の力だ」
悠の言葉には、優里への深い信頼と、
彼女の潜在能力に対する揺るぎない確信が込められていた。
彼は、優里がこの学園の過酷な現実の中で、
自分の力で「味方」を獲得し、
道を切り開いてきたことを、誰よりも高く評価していた。
「この学園で、誰もが階層に囚われ、諦めていく中で、優里だけが、俺の期待を良い意味で裏切ってきた」
悠の視線は、優里の向こう、
夕暮れに染まる学園の校舎に向けられた。
「優里は、この学園にとって、遥香にとって、新しい可能性だ。だから、これからも、優里自身の力で、この学園の『常識』を壊し続けていけ。それが、優里が俺にできる、最高の『恩返し』だ」
悠の言葉は、優里にとって、
新たな「使命」を与えられた瞬間だった。
彼は、優里が
この学園を変革する可能性を秘めた存在であることを、
明確に示したのだ。
優里は、悠の言葉の重さを噛み締めた。
自分の力で、この学園を変える。
それは、想像もつかないほど大きな挑戦だが、
遥香や悠という存在が自分を信じてくれているからこそ、
できることだと優里は感じた。
宝来優里のシルバー昇格は、向井渉にとって、
自身のプライドと学園での地位に対する、
これ以上ない屈辱だった。
遥香の決定に公然と反発することはできないものの、
彼は優里への憎悪を募らせ、
水面下でより陰湿な行動に出ることを決意した。
向井は、優里の学園での居場所を完全に破壊し、
彼女を精神的に追い詰めることで、
最終的に学園から去らせることを目論んだ。
向井は、まずゴールドクラスの生徒たちを扇動し、
優里への嫌がらせを組織化・エスカレートさせた。
シルバークラスの生徒たちにも働きかけ、
優里を徹底的に孤立させるよう誘導した。
授業中のグループワークから優里を排除したり、
廊下ですれ違う際にわざと避けるように仕向けたりした。
学園内SNSや匿名掲示板を利用し、
優里に関する虚偽の情報を拡散し始めた。
「優里はダイアモンドに体を売って昇格した」
「女王である遥香をたぶらかしている」
「テストで不正をした証拠がある」といった、
悪質なデマを流し、
優里の評判を徹底的に貶めようとした。
宝来優里の学園生活は、シルバーに昇格したことで、
新たな嫌がらせのステージへと移っていた。
向井渉の扇動を受けたシルバークラスの生徒たちは、
露骨に優里を避けた。
授業中のグループワークでは、
優里だけがチームに入れられず、孤立させられる。
廊下ですれ違う際には、わざと肩をぶつけたり、
まるでそこに優里がいないかのように無視したりした。
しかし、優里は、不思議と大きく動揺することはなかった。
(また、これか……)
優里の心には、諦めにも似た、ある種の慣れがあった。
ブロンズ時代、彼女はもっと苛烈ないじめを経験してきた。
授業中に暴力を振るわれたり、
持ち物を破壊されたり、教師に見捨てられたり。
それに比べれば、
シルバークラスでの陰湿な孤立や、
物理的な接触は、
優里の精神に致命的なダメージを与えるほどではなかった。
「いつものことだ」
優里は、自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。
ブロンズ時代からの孤独は、
優里に鋼のような精神力を与えていた。
人は、何度も同じ痛みを経験すると、そこに鈍感になる。
優里は、まさにその状態だった。
彼女は、周りの生徒たちの冷たい視線や、
聞こえよがしの陰口を、
まるで遠くの雑音のように聞き流した。
グループワークで排除されても、
一人で黙々と課題に取り組んだ。
廊下でぶつかられても、転びそうになりながらも、
決して相手を睨み返したり、言葉を返したりはしなかった。
優里は、表面上は無表情で、
内に秘めた闘志を燃やしていた。
この孤独と逆境こそが、
自分をさらに強くするのだと、優里は悟り始めていた。




