表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイアモンドクラス  作者: 優里
ブロンズの少女
4/80

ブロンズの少女

この物語はフィクションです。

あたたかい目で見守っていただけますと幸いです。

私立鳳凰学院――

そこは、日本でも有数のお金持ちの家に生まれた生徒たちが、生まれ持った家柄と財力、そして学内の独自のカースト制度によって厳しく分け隔てられている世界だった。


最下位の「ブロンズ」から「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」、そして頂点に君臨する「ダイアモンド」まで。


この学園では、カーストがすべてを決める絶対的なルールだ。





宝来優里。

高校一年生。


黒髪のショートカットで、高校生にしては中学生に間違えられるほどの童顔の持ち主。


下位カーストの生徒たちは、上位カーストの生徒たちの視線から逃れるように、身を縮めていた。


優里もその一人だ。宝来グループの令嬢という身分を隠し、カースト最下位に甘んじている。

目立たず、波風を立てずに過ごすことだけを考えていた。







「おい、邪魔だよ、ブロンズが」




不意に背後から突き飛ばされ、優里の身体はバランスを崩した。


手に抱えていた教科書とノートが、乾いた音を立てて階段に散らばる。



周囲にいた生徒たちは、誰も助けようとはしない。

それどころか、何人かは愉快そうに笑い声を上げ、蔑んだ視線を優里に投げかけた。



いつものことだ。


いじめであり、

見せしめであり、

彼らにとってはただの遊び半分。



優里は膝をつき、散らばった教科書を拾い集めようとした。




その時、視線がふと上に向く。




校舎の二階、踊り場。



完璧に仕立てられた紺色の制服に、透き通るような青いシャツを着こなした少女が、その光景を静かに見下ろしていた。




山下遥香。




ダイアモンドクラスのトップに君臨する圧倒的なナンバー1であり、「女王」。


財閥企業・山下グループの令嬢であり、誰もが振り返るほどの容姿端麗、トップの成績を誇る頭脳明晰、そして何でもそつなくこなす才色兼備の完璧主義者。


その場にいるすべての生徒が、彼女の存在を畏れ、崇拝の眼差しで見つめていた。



彼女の視線は優里に注がれていたが、その瞳には何の感情も宿っていない。


まるで、目の前で繰り広げられているのが、何の変哲もない日常の風景であるかのように。



冷徹なまでの無関心さ。


しかし、優里はその遥香の姿に、言葉にできない絶対的な「孤高の美しさ」を見た。



カーストの底辺で無力さを味わう自分とは対極にある、手の届かないほどの「強さ」と「美しさ」。



誰もが媚びへつらうか恐れる中で、彼女だけがまるで別の次元にいるかのように、孤高の存在として優里の目に焼き付いたのだ。



その冷たい瞳の奥に、優里はほんの一瞬だけ自分と同じような「寂しさ」や「諦め」のような影を見た気がした。




周囲が遥香のステータスだけを見ている中で、優里だけが、その完璧な仮面の下に隠された人間的な脆さや、深い孤独の兆候を無意識に感じ取ったのだ。


優里自身の優しさ、そしてカーストの底辺で感じる孤独が、遥香の孤独に共鳴したのかもしれない。




優里は、この理不尽な世界の頂点に君臨する「女王」の中に隠された悲哀を見抜いた。




そして、胸の奥底から込み上げてくる、一種の衝動にも似た感情が芽生えた。


いつか、この冷酷な女王を「孤独から救い出したい」。

「彼女の完璧な世界に温かい光を届けたい」。




それは、彼女の秘めた優しさが、遥香の孤独に向けられた結果だった。




優里は拾い集めた教科書を抱きしめ、立ち上がった。


遥香はもうそこにはいなかった。


だが、その背中に焼き付いた孤高の女王の姿と、彼女への途方もない憧れは、もう優里の心から離れることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ