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ダイアモンドクラス  作者: 優里
ブロンズの少女

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ブロンズの少女

この物語はフィクションです。

あたたかい目で見守っていただけますと幸いです。





「おい、邪魔なんだよ。ブロンズが」


背中に衝撃が走った。

宝来優里はエントランスで盛大に転び、

抱えていた教科書を派手にぶちまけた。


乾いた音が、冷たい廊下に響く。


だが、誰も助けない。

近くにいた生徒たちは知らぬ顔をし、

なかには嘲るように笑い声を上げる者までいた。


(……まただ)




私立鳳凰学院。

日本有数の名家の子弟が集うこの学園では、

生徒たちは“生まれ”と“財力”で

五段階のカーストに振り分けられている。




最下位の「ブロンズ」。


優里の現在地だ。


だが、本当の彼女は宝来グループの令嬢。


身分を隠し、下位カーストに紛れている。




目立つつもりはない。

波風を立てるつもりもない。

ただ、静かに一年間をやり過ごしたかった。



しかし、現実は容赦なく彼女を踏みつけてくる。


優里は膝をつき、散らばった教科書を一冊ずつ拾い集めた。


その時、ふと視線を感じて、顔を上げた。



ーーそこにいた。



踊り場の手すりに、

一人の少女が静かによりかかっていた。


完璧に仕立てられた紺の制服。

透き通る青いシャツ。

風に揺れる長い黒髪。

整った顔立ちには一片の隙もない。



山下遥香。

鳳凰学院の頂点“ダイアモンド”のトップ。



学力、家柄、財力、美貌。

そのすべてを兼ね備えた絶対的な存在。

生徒たちは羨望と畏怖を込めて、彼女を“女王”と呼んだ。


遥香の視線は、まっすぐ優里に向けられていた。



冷たい。

無機質で、感情の色がない。



まるでこの光景が、

何の変哲もない日常の一部であるかのように。


優里は、胸の奥が少しだけ締め付けられるような感覚を覚えた。


(……きれい)


思ってはいけないと分かっていても、

その一言がどうしても頭から離れなかった。


だが同時に、理解できないものも見えた。


遥香の瞳の奥。


ほんの一瞬だけ、

影のような、薄い寂しさの色。



優里は戸惑う。

彼女は全てを持つ存在のはずなのに。


手の届かないほど完璧で、誰もが憧れる存在なのに。


なのに……。


(どうして……こんなに、孤独そうに見えるの?)




自分がカースト最下位で感じている孤独が、

なぜか遥香にも重なる。



馬鹿げているのに、心が揺さぶられた。



胸の奥で、小さな火が灯ったような気がした。



……いつか、この人を救いたい。



遥香のなかにある寂しさを照らす、

ほんの小さな光でいい。


自分にそんな力はないと分かっていても、

なぜかそう願わずにはいられなかった。



優里がはっとして再び顔を上げると、

遥香はもうそこにはいなかった。



だが、

さっき見た“孤高の女王”の姿は、

優里の胸から離れなくなっていた。


それが、

優里の運命を大きく変えていくことになるとは、

この時の彼女はまだ知らない。




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