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ダイアモンドクラス  作者: 優里
ブロンズの少女

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篠原悠の退屈しのぎな日常




篠原悠にとって、

私立鳳凰学院での日々は、

あまりにも予定調和で、あまりにも退屈だった。



ダイアモンドラウンジの一角。


大きな窓から見下ろす学園の景色は、今日も変わらない。




整然と配置された校舎。

時間通りに動く生徒たち。


カーストに従い、上位に媚び、下位を踏みつける。


完成された「社会の縮図」。


悠はソファに深く腰掛け、

すっかり冷めた紅茶を口に含んだ。


「……またか」



視線の先には、複数のモニター。


学園内の経済指数、生徒間の影響力分布、

プラチナ昇格候補者の推移データ。


すべてが、想定通り。

誤差すらない。


悠は、完璧なパズルを、

誰よりも早く完成させてしまうタイプの人間だった。



学園の裏と表。

権力の流れ。


人の欲望が、どこへ向かい、どこで破綻するのか。


それらを“考える”前に、“理解してしまう”。


彼の知性は、この学園という箱庭には過剰すぎた。



だからこそ、

どんな成果も、どんな成功も、

彼にとっては単なる「予測結果の確認」に過ぎなかった。




授業も同じだ。


教授が黒板に書く数式や理論は、

すでに数週間前に、

彼自身が暇つぶしで導き出したものばかり。


悠はノートの隅に、

新しい理論の断片を書き散らしながら、

ただ時計の針が進むのを待っていた。


放課後も状況は変わらない。


ダイアモンドクラスの業務。

学園運営に関わる意思決定。

他のメンバーが頭を悩ませる課題も、

悠にとっては一瞬で答えが出る。



つまらない。






そんな彼にとって、

あの女王である遥香の気まぐれな態度は

興味をそそるものだった。


幼い頃から遥香と一緒にいるが、

型にはまらない気まぐれな行動。



気まぐれ。

予測不能。

退屈を嫌いながらも、退屈に浸っている女王。



そんな日々を過ごすなかで、

遥香が興味を示した「ブロンズの少女」について、

興味をそそるものだった。



日々を退屈そうに過ごしており、

何にも興味を示さなかった女王の遥香が

興味を示した存在。




「ブロンズの少女」である優里の存在は、

まるで砂漠の中に現れたオアシスのようだった。



彼女の行動は、彼の予測を覆す。

彼女の才能は、彼の論理を混乱させる。




篠原悠は、その名前をデータで知っていた。


宝来優里。

カースト最下位、ブロンズ。


だが、成績推移グラフは異様だった。


通常、ブロンズの生徒は横ばい、

もしくは緩やかに下降する。


しかし優里のグラフは、

ある時点から不自然な角度で上昇を始めていた。


努力では説明がつかない。

環境とも一致しない。



才能。



それも、

本人が自覚していないタイプの。


悠は、モニターに映るデータを眺めながら、

わずかに口角を上げた。


「……ようやく、変数が現れたか」


遥香が興味を示し、

悠の予測を裏切る存在。



悠は、モニターに映し出された

優里のデータと成績推移グラフを眺めながら、

かすかに口角を上げた。


「…ようやく、面白いゲームが始まりそうだ」



彼の退屈な日常に、

ようやく新しい刺激がもたらされようとしていた。





一方その頃。


優里へのいじめが日ごとに激しさを増すなか、

彼女は心身ともに限界に近づいていた。




学園のどこにも自分の居場所はない。


教室にも、廊下にも、

彼女が安心して存在できる場所はなかった。



そう絶望しかけたある日、

彼女は人気のない非常階段の踊り場で、

ひとり冷たいランチを食べていた。


冷えたコンクリートの床。

外の光も届かない、薄暗い空間。


いじめから逃れるため、

昼食の時間も隠れるように過ごしていたのだ。



その時、階段を上がってくる足音が聞こえた。



優里の肩が、びくりと跳ねる。


反射的に身体を小さくし、

息を殺す。


だが、現れたのは意外な人物だった。



「おや、こんなところでかくれんぼかい?」



軽く、どこか気の抜けた声。


声の主は、篠原悠だった。


ダイアモンドクラスの生徒。


世界的に有名な政治家の三男で、

カースト制度にはまるで興味がない自由奔放な人物。



彼の青いシャツは完璧にプレスされ、

紺色の制服には一切の乱れがない。


その瞳には、

常に何かを探すような、

退屈の色が宿っていた。




優里は息を飲んだ。


まさか、ダイアモンドクラスの人間が

こんな場所にいるとは。



悠は気にした様子もなく、

優里のすぐ近くに座り込み、

無造作にサンドイッチを取り出した。



「君、名前は? ……ああ、どうでもいいか。見ての通り、暇なんだ。何か面白いことない?」



悠は、顔色一つ変えずに言った。


その視線は、

優里のくたびれた制服にも、

身体に残るいじめの痕跡にも、

一切の感情を向けていなかった。


同情も、軽蔑もない。



ただ、純粋な“興味”。


優里は、言葉を失った。



上流階級の生徒が

自分に話しかけてくることに戸惑い、

何も答えられない。



こんなふうに、

何の前提もなく自分を見た人間は、

この学園で初めてだった。



悠は期待で満ち溢れていた。



女王が興味を示した

「ブロンズの少女」の存在は、

悠の退屈しのぎに応えられるのだろうか。



それとも、

ただの期待外れで終わるのか。


篠原悠は、

久しぶりに“結果が読めない対象”を前にして、

心から楽しそうに微笑った。


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