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ダイアモンドクラス  作者: 優里
ブロンズの少女

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見下す言葉






昼休みの中庭は、

やわらかな日差しが差し込む静かな場所だった。


生徒たちのざわめきから遠く離れ、

ブロンズの生徒がひっそりと息をつける、

数少ない避難所のひとつ。


そのベンチに、宝来優里はひとり座っていた。



薄い影を落とす木々の揺れを眺めながら、

彼女は静かに、淡々とした呼吸を繰り返す。



ただ、少しでも心を落ち着けるために。



そんな穏やかな時間は、長く続かなかった。




「……おい、優里」


不意にかけられた声は、

まるで冷水を浴びせられたように冷たかった。



顔を上げた瞬間、優里の視界に飛び込んできたのは、

プラチナ階級の頂点に立つ少年、

宝来悠斗と、その取り巻きたち。



彼らの影が、明るい中庭に不自然な濁りを生み出す。


悠斗は、優里の目の前に立つと、

見下すようにゆっくりと腕を組んだ。


その表情には、親族に向ける温かさなど一欠片もない。


あるのは、ただ、階級差という絶対的な優位に支えられた傲慢。



「お前のようなブロンズが、この学園にいられるのは……誰のおかげか、分かっているんだろうな?」



悠斗の声は、淡々としているのに、

鋭利な刃物のように優里の胸へ突き刺さる。


優里はゆっくりと視線を落とす。


彼の質問に答える意味はない。

どんな返答でも、彼が満足することはないのだから。



沈黙を、悠斗は肯定と受け取ったのだろう。


唇の端をつり上げ、さらに言葉を重ねた。


「まさか、自分の力でここにいられるなんて思ってないよな?お前なんて、宝来グループの“お情け”で、なんとか置いてもらってるだけの存在なんだよ」



取り巻きたちが、面白がるようにクスクスと笑う。


彼らにとって、

ブロンズを弄ぶことは、昼休みの娯楽に過ぎない。



「いいか? お前みたいな出来損ないが、同じ敷地にいるだけで不愉快なんだよ。」


「分際をわきまえろ。宝来グループの血が少しばかり混ざってるからって、勘違いするな」



その言葉は、鋭く、重かった。


優里は、唇をかすかに噛む。


父には、“罪の象徴”として扱われ、

学園でも“無価値なブロンズ”と見下される。


どこにも居場所はない。


血筋は誇りではなく、

彼女にとっては“足枷”でしかない。



「……お前に、価値なんてないんだよ」



悠斗は吐き捨てるように言い残し、

満足げな笑みを浮かべた。


取り巻きたちも彼に続き、

笑い声を響かせながら立ち去っていく。



彼らが残したのは、

冷たい空気と、押しつぶされそうな沈黙だけだった。



優里はベンチに俯き、

胸の奥で何かがゆっくりと崩れ落ちていくのを感じる。


涙はこぼれない。


ただ、胸の奥がじんと痛んだ。



いつか、この屈辱を……。



その願いはあまりにも遠くて、

今はまだ、手の届かない未来。


だが、それでも彼女はほんのわずかに息を吸い込んだ。


小さな、小さな希望だけを胸に抱いて。







その頃。


校舎四階の窓際に、ひとりの少女が立っていた。


山下遥香。

最上階の世界で生きる、揺るぎない“女王”。




午後の授業が終わり、

廊下に広がる生徒たちの喧騒を背にしながら、

遥香は何気なく中庭へ視線を向けていた。



特に目的はない。

ただ、空白の時間を埋めるための何気ない行動。



だが、その目がふいに一つの光景を捉えた。



「……?」



宝来悠斗と取り巻きが、

ひとりの少女、優里を取り囲んでいる。


優里の姿に見覚えがあった。



先日、転んでいたブロンズの少女。



その時の彼女は、取るに足らない存在。


遥香の世界には、

一切関係のない“下位の人間”だった。




しかし。


悠斗の口元の歪み、

優里の俯いた肩、

取り巻きたちの軽薄な笑み。



会話の内容こそ聞こえないが、

遥香には、状況が容易に読めた。



この学園では日常茶飯事の構図。


弱者を圧する強者。


階級制度が生む、ゆがんだ優越の形。


だが、遥香はなぜか視線を外さなかった。



優里の表情。

…いや、表情のなさ。



あらゆる感情を押し殺した、

波ひとつ立たない湖面のような無表情。



その“空白”が、

遥香の胸にわずかな引っかかりを生んだ。



(……あの子、抵抗する意思すら見えない)



遥香にとって“面白い存在”とは、

予測不能な動きをする者のことだった。



優里はその真逆。


驚くほど従順で、存在感の薄い少女。



だというのに、

遥香はなぜか目を離せなかった。



優斗たちが満足したように立ち去ると、

優里はベンチに座ったまま動かない。



その小さな背中を見つめながら、

遥香の感情はほぼ“空白”だった。



哀れみも、同情もない。

興味……と呼ぶには微妙に弱い。



ほんの少しだけ、

自分の知らない世界を覗き見たような感覚。



だが確かに、彼女の心に痕跡を残した。



「宝来優里……」



その名前が、

彼女の記憶の片隅にそっと置かれる。



それが、遥香という

気まぐれな女王様の距離を置いた観察だった。




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