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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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魔王様にクッキーをあげた翌日の惨劇・混沌

【続々・前回のあらすじ】

メルヴィの小さな定食屋が監視対象になる。

グラフ、定食屋のアルバイトに?


そもそも、この小さな定食屋が魔王様の側近を雇うなんて、どこをどう考えても無理があります。ここは私が一人でささやかに営む、平和で穏やかな店なのですから。


「いやいやいや、人手は間に合ってますから! 早急にお帰りください!!」


「……皿洗いが駄目なら、会計でも構わんが」


「もっと駄目ですってば!!」


私は思わず声を張り上げました。


想像してみてください。飲食店に入ったら、店内に魔王様の側近が立っているという状況を……!

定食屋のカウンターで魔王の側近が睨みをきかせて会計していたら、恐怖のあまりお客さんが財布を差し出して逃げ出します!!!


「なぜ拒否する? 私のような優秀な者が働けば、この店も繁盛するはずだろう」


「それはないです! 繁盛どころか即日閉店になります!!!」


私は全力で否定しましたが、グラフは無表情のまま微動だにしません。


いや待ってください、微妙に口元が緩んでません?

むしろこれ、絶対楽しんでますよね!!!


「……フッ、まあいい。ひとまず、壊れた扉を直してやろう」


「本当にお願いしますよ! 絶対ですよ!?」


入り口が破壊されたままでは、私の定食屋がただの風通しの良いオープンテラスになってしまいます。

それはさすがに困ります。特に虫とか。


グラフは淡々とした手つきで破片を拾い上げると、懐から重厚な黒革の魔導書を取り出しました。表紙に手を当てながら、低く静かな声で呪文を唱え始めます。


「魔導書開帳──応えよ『深淵のアビス・レヴェラシオン』!」


グラフが片手を上げて声高に宣言すると、彼の周囲に黒色の光が集まり、花火のように爆ぜました。

手元には古代文字が展開され、漆黒の魔導書が空中に浮いて、ページが激しくめくられていきます。


「術式起動──『深淵再構術アビサル・リクリエイト』!」


――バシュウゥゥゥ……!!


闇色の魔力が周囲を満たし、床に散らばった木片がひとりでに宙を舞い始めました。まるで時間が巻き戻るかのように破片が組み上がり、一瞬のうちに扉は完全に元の形を取り戻しました。


「えっ!? ……すごい……本当に凄いです!!!」


私は思わず拍手していました。

魔王の側近なんて、破壊する専門だと思っていましたが、意外と直す能力も高いんですね。


「これで問題ないだろう」


「はい!完璧です、ありがとうございます!」


今まで色々とやらかしてくれましたが、これは認めざるを得ません。魔王の側近、意外と有能。


思わず感謝を伝えると、グラフは再び私に鋭い視線を向けました。


「しかし……」


「え? 何ですか、その不穏な『しかし』って!?」


「バルゼオン様に手作りクッキーを渡した件だが……私はまだ納得していないからな」


「えっ!? いや、待って、それ今また蒸し返します!?」


私は思わず叫びました。さっき扉を直した時点でこの件は一件落着したはずじゃありませんでしたっけ!?

私、何度同じ問題で責められればいいんですか!?


「……監視は嫌、働くのも駄目だというなら、仕方がない。たまに客として訪れることにしよう」


「絶対だめですってば!!」


「何が不満なのだ? バルゼオン様が来たときは問題なかっただろう?」


「魔王様はいいんですよ! 攻撃しないし、定食を食べて、静かに帰ってくれますから!」


私は必死に主張しました。グラフは眼鏡を軽く押し上げ、ため息をつきます。


「私も同じようにするだけだ」


「絶対嘘ですよね!? あなたはちょっとしたことで敵認定して、すぐに攻撃仕掛けますよね!?」


「防犯意識が高いと言ってほしい」


「そんな防犯いりませんよ!!」


「まあ、聞け……バルゼオン様の食の好みをここで見極め、それを万魔殿の料理に活かし、最終的には魔王様了承のもと、この店を吹き飛ばす。なかなか良い案だろう?」


「全然良くないです!! なんでそんなことをさらっと言えるんですか!!!!」


頭を抱える私を見て、グラフがわずかに笑った気がします。完全に楽しんでますよね!?

私の平穏は、一体どこに消えたのでしょうか……。


――こうして、魔王様の側近という厄介すぎる客が、新たに定食屋の客リストに加わったのでした。

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