定休日は魔王様抜きでお願いします
お茶を出しました。ええ、仕方なくです。断じて心からのおもてなしではありません。
なぜなら、出さなければ出さないで、勝手に厨房に踏み込んできそうな気配が漂っていたからです。いや、もうすでに勝手に店に入ってきている時点で、いろいろ手遅れではあるのですが。
「ありがとう、メルヴィちゃん♡ お茶の香りも味も、まさに乙女の味がするわぁ♡」
「……いえ、市販のブレンドを淹れただけですので」
「こんなに美味しいお茶を淹れてくれるなんて、もうこれは運命よね♡」
「その運命は、どこか遠くの湖にでも沈めてきてください」
ラブリアスさんは、優雅にティーカップを傾けながら、うっとりと瞳を輝かせています。
私はため息をつきながら、あの賞味期限間近で半額になっていたクッキーミックスの粉袋を取り出しました。例の牙の生えた花――バルゼオン様からの土産(?)に、ちょっとしたお返しをしようと思って買ったものなのですが。
「よーし♡ 私もお手伝いするわ♡」
「えっ、大丈夫です! 本当に、大丈夫なので、ラブリアスさんはお茶を飲んでてください!!」
「まあ♡ 遠慮しないで、メルヴィちゃん。クッキー作りは愛の共同作業よ♡」
「なおさら遠慮します!!!」
しかし私の全力拒否も虚しく、ラブリアスさんは楽しげに両手を胸の前でクロスさせました。
「さあ、乙女の戦闘服にチェンジよ!スウィート・テンペスタ♡《爆恋旋風》!」
突然、ラブリアスさんの足元に紅い魔法陣が展開され、真紅のドレスが風に舞い上がります。華やかな布地は炎のように揺らめき、キラキラとした光の粒が弾け飛びました。
次の瞬間――バサッ!と音を立ててドレスは解け、宙を舞う布がラブリアスさんの体に吸い寄せられるように絡みついていきます。
……完成したのは、フリルとリボン、ハートの装飾が山盛りの、ド派手すぎるエプロン姿。
「恋する乙女、戦闘準備オッケーよ♡」
「エプロンにしては戦闘力が過剰すぎませんか……」
「メルヴィちゃんも、一緒に着ない?」
「それだけは断固お断りします!」
ラブリアスさんは、ふふっと小さく笑いながら私の肩を軽く叩きました。
「じゃあ、一つお願い♡ わたしもアモルテ様にクッキーを焼きたいの。いいかしら?」
きらきら輝く瞳が、私を真っ直ぐ見つめています。うーん、特に断る理由はないですね。
「ご自由にどうぞ」
私がそう答えると、ラブリアスさんはぱっと花が咲いたような笑顔になりました。
「やった~♡ 心を込めて、愛情爆発クッキーにするわね♡」
「爆発はしないでください!!!!」
真顔で即座にツッコミを入れましたが、彼女の耳には全く届いていないようです。ラブリアスさんは楽しげに鼻歌を歌いながら、手際よく粉を練り始めました。
「さてと♡ 愛を込めて、こねこね……っと」
本気で手際が良すぎる……。魔王の側近って、まさかクッキー作りまで必須スキルなんでしょうか?
「やっぱり、愛を伝えるにはハート型よねぇ♡ メルヴィちゃんもそうでしょう♡」
「いえ、私は伝えませんので」
即座にクッキー生地を丸型の型に押し込みました。
よし、普通のクッキー。
ここでハート型なんて選んでしまったら、何かとんでもない誤解を招く未来しか見えません。絶対に阻止します。
「ええ~? ハート型の方が、想いが伝わるのにぃ♡」
「何の想いですか」
「もちろん、わたしからアモルテ様への愛よ♡」
……まあ、それなら、別にいいか。
いや、良くはないんですけど、相手がアモルテ様なら……まあ……うん、好きにしてください。
「うふふ♡ アモルテ様、喜んでくれるかしら♡」
「……そうですね。きっと、喜ばれますよ」
ラブリアスさんが楽しそうにクッキーを作る姿を眺めながら、なんとなく私はバルゼオン様のことを思い浮かべました。
もし魔王様にクッキーを渡したら、どうなるのでしょう?
あの涼しい顔で、「ふむ、悪くない」とか言いながら淡々と食べそうな気もしますし、あるいは……。
――いやいやいやいや!!!
何を考えているんですか、私は!!!
慌てて頭を振り、強引に気持ちを切り替えてクッキー生地をオーブンに入れました。
うん、うん、普通のクッキー! 余計なことは考えず、ただ焼き上がるのを待つだけです。
「まあまあ♡ メルヴィちゃん、今ちょっと可愛い顔してたわよ♡」
「余計なこと言わないでください!!!!」
何故かラブリアスさんににこにこされながら、私はクッキーが焼き上がるのをじっと待つのでした。




