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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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愛の魔王様の側近、襲来する

花――いや、花と言い切っていいか分からない、牙の生えた謎の植物は、とりあえず店の隅に移動させました。うっすらと花びらの内側に光る小さな牙が、ぱくぱくと動いているのが見えます。


……いや、やっぱり花ではないのでは?

何度見ても、「植物」のカテゴリに収めていいのか疑わしくなります。


「とにかく、水くらいはやらないと」


何でも食べるから大丈夫、という魔王様の言葉を思い出しつつ、いやいや大丈夫じゃないでしょうと心の中でツッコミながら、私は村唯一の道具屋へ向かうことにしました。


定食屋の備品を買うついでに、じょうろくらい買っておけばいいでしょう。


もしかしたら、この花……いや、花(?)も普通の植物のように水をやれば満足するかもしれませんし。


◇◇◇


「いらっしゃい、メルヴィちゃん」


道具屋のおばちゃんが、棚の整理をしながらこちらを振り返りました。

小さな店内には、農具から日用品まで、所狭しと並んでいます。


「あの、じょうろありますか?」


「あるある、奥の棚よ~。好きなの選んでね!」


言われた通り奥の棚を覗き込むと、大きさや形の違うじょうろがいくつか並んでいました。

さすがに魔王様から貰った花(?)に安物を使うのは気が引けるので、無難な普通のじょうろでいいでしょう。


「それと、何か他に……」


ふと、レジ横のワゴンに目を向けると、「賞味期限間近! 半額!」と書かれた札が貼られた商品が並んでいました。お菓子作りに使う材料がいくつか置かれていて、その中に――


「クッキーミックス……?」


シンプルな袋入りの粉。水とバターさえあれば簡単に作れるという、お菓子作りが苦手な人でも安心の優れものです。


「……魔王様にクッキー、かぁ」


牙の生えた花(仮)を思い出しながら、なんとなく手に取ってみました。一応、花を貰ったお返しになるかもしれません。


魔王様が甘いものを食べるかどうかは知りませんが、少なくとも湯呑みを気に入っているくらいには人間の習慣にも適応しているわけですし。


「まぁ、失敗したら自分で食べればいいでしょう」


そんなわけで、じょうろとクッキーミックスを手に、私はレジへと向かいました。


◇◇◇


今日は定休日なので、のんびりお菓子でも作って過ごしましょう。花(?)のお返しにクッキーを焼くというのは、ちょっとした気まぐれだけれど、悪くないアイディアのはず。


――が。


問題は、店の前に「待ち伏せしている人物」がいることです。


店に戻ろうとすると、入り口付近に妙に華やかで違和感のある人影が見えました。


「あっ、メルヴィちゃ~~ん♡」


柔らかくも力強い声が響き、私は思わず足を止めました。


「……へ?」


そこにいたのは、華やかな金髪の巻き髪を揺らし、舞台のようなメイクを施し、セクシーな赤いドレスに身を包んだ――


鍛え抜かれた肉体の男性でした。


「ええと……どなたでしょうか……?」


「初めまして~♡ わたし、ラブリアス♡」


今、何となく分かってしまった……いや、できれば、分かりたくありませんでしたが。この華やかでありながら、強烈な個性を持つ人物は、おそらく――


「愛の魔王こと、淫蕩たる西の魔王♡ アモルテ様の忠実なる側近よ♡」


……ほら、やっぱりです!!!

そうでしょうねとしか言いようがありません!!!!


「それで……何のご用件でしょうか?」


「あら、決まってるじゃない♡ 恋する乙女を助けに来たのよ!!」


ラブリアスさんはくるりとターンし、優雅に微笑みながら、私の腕をぎゅっと掴んできました。思った以上に筋肉が硬い。


「誰ですか、それは?」


「メルヴィちゃん、あなたよ♡」


「違います!!!!」


即答しました。


「でも、アモルテ様が言ってたわ♡ メルヴィちゃんが愛について悩んでいるって♡ だから、私が相談に乗ってあげるわよ~♡」


「悩んでません!!!!」


「んまぁ♡ 照れちゃって、かわいい~♡」


もうダメです、この人(?)、話が通じません。

どうしてこんな展開になっているのか。アモルテ様……本気で出禁にしますよ!!!


「さ、恋の話をしながらお茶でもいただきましょう♡」


「お帰りください!!!」


「まぁまぁ、そう言わずに♡」


私は必死に制止しましたが、ラブリアスさんは「当然のように」するりと私の横をすり抜け、何の抵抗もなく店の中に入っていきました。


「お邪魔しま~す♡」


いや、可愛らしく言えば許されると思わないでくださいね!!


「ねぇねぇ、メルヴィちゃん♡ お茶は何があるのかしら? それと、甘いものがあると嬉しいわ♡」


「ありません!!!!」


「じゃあ、これから作りましょう♡」


全然、話が通じない。ここで私は気づきました。……これアモルテ様が直接来るより厄介なのでは?


アモルテ様なら、適当に流せば飽きて帰る可能性もあります。しかし、このラブリアスさんはどうも本気で、私を「恋する乙女」と信じている節があるのです……!


ダメだ、このタイプはめんどくさい!!!!


「さぁ、恋の話を♡」


「しません!!!!」


私は全力で再び否定しました。


どうしてこんなことに……。


あぁ……私は半額のクッキーミックスを買って帰っただけのはずなのに!

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