魔王様(と私の定食屋が)観光地化されかかる
珍しく村長に呼ばれました。
いや、珍しくというか、これが初めてかもしれません。村の会合なんかには参加したことがあるけれど、個人的に呼び出されるなんてことは今までありませんでした。
何かやらかしたのでしょうか?
心当たりは……まあ、あります。
というか、ありすぎる……。
村長の家に入ると、すでに雑貨屋のご主人が席に座っていました。どうやら、話はもう始まっているようですね。
「メルヴィちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「は、はい……なんでしょうか?」
私は慎重に椅子に座ります。
村長は眉をひそめながら、雑貨屋の店主と目を合わせました。
「最近、うちの雑貨屋で『魔王バルゼオン専用』の湯呑みを注文したよな?」
「……」
あ、これ、完全にアウトなやつ。
心臓がギュッと縮む。
そういえば、雑貨屋のご主人、魔王様の名前を入れるときに「これ、ジョークじゃなくて本気で?」って聞いてきたっけ。
いや、私も適当に流せばよかったのに、なぜか正直に「はい」って答えてしまったのでした。
自業自得!!!!
「えっと、それは、その……」
言い訳を考えようとした瞬間、村長が腕を組み、渋い顔をしました。
「いや、大したものだ……!」
「えっ?」
「まさか、魔王様グッズとは!!」
「は?」
ちょっと待ってください。
何を言っているんですか、村長。
「いやな、これは商機じゃないか!」
「……商機?」
「メルヴィ……よくやった!!!」
「え、いや、違います、そういうつもりじゃ――」
「いやいや、隠さなくてもいい。お主は気づいたんじゃろう?」
「な、何を……?」
「……この村の経済を、活性化させる秘策を!!!」
えええええええ!?
私は唖然としました。
「まさか、メルヴィがこんなアイデアを思いつくとはなあ。さすがは定食屋の娘、商売の勘が鋭い!」
「いや、違いますってば!!!!」
「雑貨屋のおっちゃんから話を聞いて、わしは感動したぞ。『魔王バルゼオン専用湯呑み』……なんとロマンのある商品か!!!」
「いやいやいやいや!!??」
村長のテンションが、妙に高い。
雑貨屋のご主人まで頷いています。
「そこでだな、メルヴィ」
村長がニヤリと笑います。
……嫌な予感しかしません。
「この際、魔王様グッズを本格的に展開するのはどうじゃろう?」
「……は?」
「例えばだな、『魔王まんじゅう』とか、『魔王タペストリー』とか、『魔王キーホルダー』とか……!」
「いや、だから!!!!」
私は思わず椅子から立ち上がりました。
「魔王様、そんな観光地のキャラクターじゃないんですよ!?!?」
「だが、こういうのはイメージ戦略が大事なのじゃ!!!」
「なんのイメージですか!?」
「バルゼオン様も、こういうのを作られたら悪い気はしないじゃろう?」
「絶対にそんなことないです!!!!」
いや、冷静に考えてください。
ラストダンジョンが最寄りにあるだけで、どうして村おこしの材料にしようという発想になるんですか???
「でもな、メルヴィ。これが当たれば、村の名物になるかもしれんのじゃぞ?」
「村長、私はですね!!!」
「『魔王バルゼオン様も御用達!?定食屋メルヴィの佃煮セット』とかどうじゃろう?」
「それもう私の店ごとブランド化される流れじゃないですか!!!!!」
「それに、魔王まんじゅうの包装に、バルゼオン様の角をデザインするのじゃ!」
「絶対に怒られます!!!!」
「タペストリーもな、黒地に金の文字で『悠久の万魔殿』と入れて――」
「完全に観光地のお土産!!!!」
私は頭を抱えます。
もう村長の妄想は止まりません。
止める方法を教えてほしい。
「あとは定番、魔王キーホルダー!黒い剣に、紅い目を光らせた金の龍が絡みついているのじゃ!」
「私の話も聞いてくださいよ!!!!」
「いや、待てよ……ここまでやるなら、名物グルメの定番、魔王カレーも作るべきか?」
「食べ物にまで広げるんですか!?!?!?」
私は泣きたい気持ちで、村長の熱弁を聞き続けるしかありませんでした。
……魔王様に、どう説明すればいいんでしょう……。




