魔王様方、お会計も出口もスマートにお願いします!!!
さて、この後はお会計です。
「今日の食事も実に良かった。ご馳走さまである。代金を受け取れ」
バルゼオン様が、懐からきっちりとした金額の硬貨を取り出しました。
なんて、理想的なお会計……!
私は思わず心の中で拍手しました。さすがバルゼオン様。魔王なのに、庶民感覚がちゃんとある!!
――しかし、やはり恐れていた問題が発生しました。
「私はこれで支払おう」
エヴァンス様が金貨の袋を丸ごと置きました。
「うちは銀行じゃないんですけど!!」
私の全力のツッコミが店内に響きます。
いや、金貨の袋をドンと置かれても困るんですよ!定食屋の会計とはもっとシンプルなものなんです!!
「足りぬか? ではもっと――」
「多すぎるんです!!!!」
私は必死に訴えました。
いくら東の魔王様の財力が桁違いとはいえ、定食代にそんな大金を払われると、お釣りがないどころの話ではありません!
「ほう……ならば、どうすればよい?」
「ちゃんと定食の金額分だけ、お支払いください!」
「なるほど。では」
エヴァンス様は、そっと葉っぱを置きました。見たところ、ごく普通の……いえ、普通ではありませんね。輝く金色の葉っぱの表面には、まるで星空のような細かな模様が刻まれていて、きらきらと高貴な光を放っています。
「これは《黄金樹の葉》──金國の王樹から授かった、一国を動かす価値ある宝だ」
「動かさないでください!!うち、動かすものはご飯だけなんです!!!!」
絶対これは受け取れません!
なんでこの魔王様は、金銭の概念を根本から歪めてくるのですか!!!!
「じゃあ、僕は今日の愛情ポイント、1万ラブで払う!」
アモルテ様が両手を広げながら、とんでもない宣言をしました。
「いりません!」
「え~!愛を込めて作った定食だから、愛で返すのが道理じゃないの?」
「道理ではありません!!!!」
「う~ん、そっかぁ……じゃあ――」
アモルテ様は、カウンターにピンク色の小瓶を置きました。光にかざすと、まるでハート型の光の粒がふわふわと浮かんで見えるような……おしゃれで、可愛くて、なんだか乙女心をくすぐる見た目ですね。
「これは……デザート用のシロップでしょうか?いや、甘い香りもしますし、もしかして芳香剤……?」
「それ、超強力な惚れ薬だよ。10ターン、敵を魅了して味方にできるんだ♪」
なんで戦闘用の惚れ薬を定食代にするんですか!
もう限界です。
ここは定食屋、戦場じゃないんですよ!?
誰を、誰と、何ターン戦わせるつもりなんですか!!!
「……」
私は、無言でバルゼオン様を見つめます。
「……ふむ。仕方ない」
バルゼオン様は、静かに溜息をつくと、お二人の分も含めて、きっちりとした額の貨幣を置きました。
「これで良いな?」
「はい!!!!」
私は全力で頷きました。
バルゼオン様ありがとうございます。あなたのおかげで、この店は今日も営業できています……!
「ほう、今日はバルゼオンの奢りか? 」
「わ~い、ありがとう!バル!」
エヴァンス様とアモルテ様は、満面の笑みで立ち上がりました。いや、もう少し支払いに関しては学んでくださいね!!
「では、また来る」
「定食屋というのも、なかなか興味深いものだな」
「メルヴィちゃん!次は愛を伝える方法について、もっと語り合おうね!」
バルゼオン様が静かに立ち上がり、いつものように堂々と店の出口へと向かわれました。
私は内心、そっと手を合わせて祈ります。今日は、無事に通れますように、と。
しかし、その願いもむなしく。
ゴンッ。
「……油断した」
はい、やっぱりぶつかりましたね!?
毎回ぶつかっているんですから、そろそろ学習していただけませんか!?
私はそっとため息をつきました。でも、ここまでは想定内。問題は、その後なんです。
「ふふ、バルったら。僕は大丈夫~♪」
満面の笑顔でアモルテ様が軽やかに歩き出し――
ゴンッ。
……いや、なんで笑顔で角をぶつけるんですか!?!?
あれですか、油断どころか自信満々に突っ込んでいきましたよね!?
私は静かに顔を覆いました。
でも、まだ終わりません。最後の一人が残っています。
「私は違うからな」
そう冷静に言い切って、エヴァンス様が静かに歩みを進め――
ゴンッ!
――違わなかったーーーー!!!!
いや、むしろ一番盛大に響いてますけど!?
静かに、優雅に歩いていたのに、最後の最後で全力衝突!?
私はもう、叫ばずにはいられませんでした。
「誰か一人くらい、普通に出て行ってくださいよ!!!!」
全員同レベルで鈍いんですけど!
静かになった店内。
私は頭を抱えながら、次こそは無事に帰っていただけるよう、本気で戸枠の高さを直すべきか悩むのでした。




