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カボチャと包丁と伝説の剣

私は今、面倒くさいことになったなあと思いながら、新しい小鉢の試作をしています。


何が面倒くさいって、魔王バルゼオン様はともかく、最近はグリム様(角が大きすぎて入店に一苦労する魔王) もグラフ(窓に貼り付く魔王の側近) もこの店に関わってくるようになってしまったことです。


なぜなのですか!?

どうしてこんな普通の定食屋が、魔王界隈の人気スポットになりかけているのですか!?


私はただ、ご飯を作り、お客様に提供するだけの、ごく一般的な定食屋のはずで――。


ガチャリ


……え?

まさかの、営業時間前の来店!?


私は慌てて入り口を見ました。

案の定、そこには黒髪赤眼の魔王バルゼオン様が、定食屋に入ろうとしていました。


まだ準備中です!!!!


「魔王様!? まだ開店していませんよ!!」


「開いた」


そういう問題ではないのですが!?


そして、バルゼオン様が無事に入店――


ゴンッ!


「あいたっ……」


はい、角をぶつけましたね。

知っています。毎回ぶつけることを、私はもう心の中で準備していました。


「ふむ……」


考える様子もなく、座る魔王様。


「では、定食を頼もう」


「いや、ですから、まだ開店していません……」


「待つ」


……本当に食べる気満々ですね!?

仕方がありません。


とりあえず、先に煮物でも作っておこう。


カボチャを用意し、包丁で切ろうとした瞬間――


パキンッ


……え?

……包丁が欠けた。


いやいやいやいや、なんでですか!?

普通のカボチャですよ!?

確かに皮は固めですが、包丁が欠けるほどの硬度ではないはず!!


「ふむ……メルヴィ、これを使え」


そう言って、魔王様は懐から剣を取り出しました。


……は?


私は固まります。

今、何を取り出しました?


「これは、伝説の聖剣エクスグラディウス」


いえ、名前はどうでもいいのです。

問題は、なぜ伝説の聖剣が出てきたのかという点です!!


「これで切るといい」


いや、無理です!!!!


「なぜ剣なんですか!? 包丁でいいんですよ!!!」


「包丁が欠けたのだろう」


それはそうですが!!!!

だからって、伝説の剣を料理に使う発想はどこから来たのですか!?


私は混乱しながら、聖剣をまじまじと見つめました。

剣自体が見るからに輝いていて、神々しいですね。


「……これ、どこで手に入れたのですか?」


「ダンジョンに置くやつだ」


……はい?


「我のダンジョンに置いておくために、準備していたものだ」


……え、ちょっと待ってください。

つまりこれは、ラストダンジョンの宝箱に入れておく予定だった聖剣???


「稀に勇者を倒したら、ドロップする」


それは勇者の形見では!?!?


「使わないのなら、別のものを出そう」


魔王様は、私の動揺など気にせず、次々と伝説の剣を取り出し始めました。


「これは一振りごとに星の光を蓄積し、一定数で星落としを発動する星零の剣ラグナ・ルクス。これは持ち主の名前を奪い、斬った相手の存在の記録を抹消する無銘の白刃。さらに攻撃を反射する能力を持つ、鏡界剣ミラグレアなどがある」


――どれもかぼちゃの煮物を作るのには不向き!!!!


「好きな獲物を選ぶがいい」


選べるか!!!!


私は混乱しながら、山積みになった伝説の剣を眺めます。もうここが万魔殿の武器庫か、ダンジョンの中なのかわからなくなってきました。


「……普通の包丁がいいです」


「ふむ。では、これをやろう」


そう言って、魔王様は極めて普通の、よく研がれた包丁を差し出しました。


最初からそれをくださいよ!!!!


私は深く深くため息をつきながら、新しい包丁を手に取りました。

そして、目の前に山積みになった伝説の剣をどう処理すればいいのか、途方に暮れたのでした。


……うちの定食屋、どうしてこうなったんでしょう。

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