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42話 バーツと一緒にいたい

「バーツ様、申し訳ございません」

「謝らないで。事情がありそうなのは前から察していたから」


 新しい銀細工のお披露目だっていうのに、両親と再会して口喧嘩。銀細工を壊されて最悪の気分をバーツ様が直して盛り返したのに終わりが最悪だった。


「私……バーツ様に嘘をついてました」

「嘘?」


 一時滞在先に戻って私のお部屋でお茶を飲むことになった。本来ならど二人きりでお茶はありえないけど、今は私の気持ちに余裕もなかったし、バーツ様が話しやすいようにとイングリッドをさげたから甘んじて受け入れた。そもそも銀細工を作る時はいつも二人きりなのだから今さらだ。


「私は、公爵家の人間でした」


 ソッケ王国、フィーラ公爵家長女。エーヴァ・フィラシャンスローラ・フィーラ。

 両親と喧嘩別れして家出してきた身だ。

 バーツ様に迷惑はかけないと言ったのに、こんな形で両親の非難の矛先が向かうなんて思ってもみなかった。


「エーヴァが貴族だと思ってたよ」

「え?」

「立ち振舞いが綺麗すぎた。言葉遣いも丁寧だし、領地経営の知識も豊富だったから、平民ではないだろうと思ってたよ」

「そう、でしたか……」


 身分を敢えて言ってなかったけどバレていたらしい。


「エーヴァに事情があると思って何も調べなかったけど、海賊が襲ってきた時も、魔法薬で体調不良者が増えた時も、セモツ国との戦いの時も、驚くほどの対応力を見せてくれた」

「……ご迷惑でしたか?」


 女がしゃしゃり出てと思われてもおかしくなかった。余った時間は書庫を借りて資料を読みふけるのも好ましくないだろう。けどバーツ様は首を横に振った。


「まさか! すごい助かった! エーヴァがいなかったら事態は悪化してたよ」


 バーツ様は優しい。

 私の周囲の男性、特に第二王子派は仕事をしすぎれば批判したし、元婚約者には可愛げがないと言われてきた。

 シャーリー様とアリスがいたからやってこれた仕事だ。

 私はバーツ様に今までの仕事も話した。国政に関わる仕事で、シャーリー様の失脚と共に職を失い、元婚約者からは婚約破棄を言い渡された。


「初めて会った時も婚約破棄されたと言っていたね」

「ええ。今でもどうしてあんなのと婚約してたのか疑問です」


 家同士のためとはいえ、もう少し有能な人物を選ぶべきだ。けど、わざわざ伯爵家で仕事の評判も聞こえない人間にしたのは、フィーラ公爵家の領地経営をフィーラ家主導で行うためだろう。


「エーヴァのところは家の仕事を大事にしてるんだね」

「政務に従事しつつ、領地も保持したがる人たちです。私と妹とでうまくやらせる気だったのでしょう」

「エーヴァは領地経営は嫌い?」


 意外な質問だった。

 少し考えてみても、バーツ様がいなければ公爵家の領地経営をするのに拒否感はない。

 けど、バーツ様と一緒にいる以上はどうしたいかは決まっている。


「嫌い、ではありません。ですが今は銀細工を作っていたいです」

「そっか」


 バーツ様と一緒に銀細工を作っていたいし、これからもバーツ様と作っていきたい。優先順位の一番が銀細工だ。


「……私……そうだわ」

「エーヴァ?」

「私……バーツと一緒にいたいんだわ」

「え?」


 バーツ様と一緒だから銀細工が楽しい。バーツ様と一緒ならこれからも銀細工を作っていける。


「バーツと一緒なら、案外なんでもいいの、かも?」

「え? えっと」


 穏やかに微笑んで私の話を聞いていたバーツ様が急に戸惑った。ああ、話が脱線したからかしら。


「エーヴァ、その話はまた今度しよう?」

「? はい」


 本当は僕の気持ちを受けてもらえるか聞きたいけど今はエーヴァのことが大事と真剣に伝えてくる。絶対その話近いうちにするからねと念まで押された。


「今はエーヴァが御両親とどうしたいか聞きたい」

「両親とですか?」

「そう。銀細工の師匠として銀細工の良さはきちんと僕からも伝える。その上で、エーヴァは御両親に理解してもらって認めてもらいたい?」


 喧嘩別れした両親。

 銀細工を作ることも私がしたいことも理解してほしいかと問われれば、それは肯定だった。

 両親のことはなんだかんだ好きだもの。本当はフィーラ公爵家のこともできる範囲でなら手伝いたいけど、最優先は銀細工を作ることを認めてもらう。ここだけはどうにかしたい。


「……はい」


 バーツ様に思ってることを話した。

 喧嘩別れのままだったのを修復したいと。


「理解されなくても、一度話はしたいと思います」

「分かった」


 なら今日はもう寝ようと優しく頭を撫でる。


「明日また、ね?」

「はい」

「……あー……やっぱり今ききたい」

「何をですか?」

「いや、いい……けど、これぐらいは許してほしいかな」

「え?」


 撫でていた手を止め、そのまま近づくバーツ様を避けられなかった。

 額に感触。


「!」

「おやすみ」


 私が言葉を発する前に部屋を出ていく。


「こ、こんなんじゃ寝れるわけ!」


 ない!

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

そりゃ自分といたいなんて言われたらおいおいそれ告白じゃねーか!という据え膳になるわけですよ。エーヴァとしては自分のやりたいことの深堀に答えが出てよかっただろうけど、問題が解決してない手前、ぐいっぐいに恋愛モード突入したいバーツは我慢しないといけないわけです。どんまい(笑)。

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