41話 両親との再会
「……エーヴァ?」
「…………御、父様」
「あなた、どうかして……エーヴァ!」
「御母様……」
二人は大きく目を開いて私を見た。身体が強張る。
バーツ様が不思議そうに私を見下ろした。
「エーヴァ?」
動けない私に対して、両親は驚きが薄れ冷静になってきたらしく、御父様は顔を険しく歪ませた。
「こんなところで何をしている」
「私は、」
「突然いなくなって心配したのよ!」
「手紙を書きました」
あんなものだけ置いてどういう了見だと御父様が声を荒げる。
バーツ様がするりと私の前に立った。
「バーツ様……」
「貴殿は?」
「ご挨拶が遅れました。私はバーツ・フレンダ・ティルボーロン。伯爵位を賜っております」
伯爵位ごときが何の用だと御父様が呻く。
「御父様! 失礼ですわ!」
叫ぶ私の前にバーツ様の腕が上がってくる。バーツ様は目の前の両親を見据えていた。
「私は周辺諸国における伝統工芸の銀細工師を束ねています。エーヴァ嬢は今、私の元で銀細工を学んでいるのです」
「銀細工? ……お前まだあの遊びを続けているのか」
「遊びではありません!」
いくら真剣にやっていても信じてもらえなかったし、必要性すら感じてもらえなかった。今もそう。聞く耳を持たない。
「政務に従ずるのと細工なんぞを作るのとでは選ぶ方は明確だろう」
「いいえ! 私は……私はこちらのティルボーロン伯爵を師とし、真剣に学んでいます! 銀細工師はとても尊い職業です! 私は銀細工を作りたいのです!」
「また我儘を言いおって! 君も君だ。年頃の女性が世迷い事を言ってきたら、断り諭し追い返すべきだろう」
バーツ様になんてことを言うの!
銀細工師がどれだけ素晴らしいものかも分かっていない。
「御父様! 失礼です!」
「まあいい。我が娘が迷惑をかけた」
では娘は預かろうと言い始めてもう限界がきた。
「いい加減にしてください!」
「エーヴァ、落ち着いて」
「いいえ、バーツ様落ち着いてられません! バーツ様が、銀細工が、全ての銀細工師が侮辱されました!」
「何がそんなに」
「御父様! バーツ様への失礼の数々、許せません!」
「エーヴァ、落ち着きなさい! 父親に対してその口の利き方、よくないのは分かっているでしょう」
「御母様まで!」
御母様は私を諌めて御父様に従うよう言ってくる。これはもうだめね。
両親とは分かりあえない。家を出て正解だった。
「エーヴァ」
「!」
怒りに身を任せる中、低く静かな声音が私を呼んだ。
バーツ様が私を見下ろし、しっかりと目を合わせた。澄んだ夜更けの色が私に冷静さをもたらす。
「エーヴァ、ちょっと待ってて」
「え、バーツさ、ま」
「失礼」
両親に相対して、静かに告げた。
「申し訳ありませんが、今エーヴァ嬢は我がティルボーロン家の賓客でいらっしゃいます。私にとって、銀細工師としては初めての弟子です。このままこの場で解決する話ではございません。追ってご連絡をいただけますか?」
「なにを言っている! 貴殿が行ったことは誘拐だろう!」
どこまでも失礼な両親に拳を強く握る。バーツ様が待ってと言ったのだから耐えないと。言い返すのはバーツ様がよしとしてからだわ。
「成人してる女性が自らの意志で決めたことで、本人の同意を得ています。今日はエーヴァ嬢の体調もよくないので我々は帰らせていただきますが、今後エーヴァ嬢に会いたい場合は一度ご連絡ください」
そう言って私の手を取り、エスコートして場を離れようとする。
当然、両親が許すはずもない。
「待て! 話は終わっていないぞ!」
「体調不良者をそのままにしておく方が問題です。それでは失礼いたします」
「失礼なのは君だろう! なんなんだ!」
「……ああ、一報なくご訪問があってもお断りいたします。また、同意のない一方的な連絡であっても同様です。エーヴァ嬢が了承しない限り、私は賓客として迎えている主としてエーヴァ嬢を貴方方から守ります」
注意を伝えた上で、ソッケの一時滞在先と諸島リッケリのことを伝え、バーツ様が今度は私の肩を抱いて動き出す。背後両親の叫びが聞こえたけど追いかけてくることはなかった。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
バーツが格好良いところを見せた(驚き)。正直、社交界に行けば両親と会うリスクはあったのでこうなることは目に見えていましたね~。




