4話 家出計画
「エーヴァお嬢様、またお仕事ですか?」
「……まあね」
家を出る計画を練っていた。
けど、後任である王城の同僚達から仕事の手紙がきたのでできる限りで応える。きちんと返事が届くといいけど、第二王子派が途中で破棄しかねない。
アリスから手紙も来ていた。シャーリー様が不在となった王城及び我が国の経済に混乱が訪れる。予想していたこととはいえ、一部の商人の間で買い占め・不買・事業撤退・制限等、多くの想像しうることが起きた。
これに対し、第二王子が選んだ新しい人材は全く使えない。引継ぎした一部の担当者とアリスの采配で大きく崩れないで済んだ。シャーリー様があらかじめ想定して対応策を指示していたけど、それをすべてやっても我が国の景気の波は乱高下している。
「お辞めになったのではありませんか」
「そうなんだけどね……」
届かない可能性は置いといて、手紙にはきちんと応えないとね。
あまり派手に動いてもだめだ。反逆として第二王子陣営に言いがかりをつけられないようにしないといけない。
「エーヴァお嬢様、港のハムン商会からお手紙が届きました」
「ありがとう」
銀細工師になると決め、銀細工師筆頭ティルボーロン様の元へ伺うには船を使わないといけなかった。
彼は西の隣国ドゥエツ管轄の諸島リッケリの領主をしているからだ。リッケリは南の大きな大陸と私たちの三国の間の海上複数の連なる島から構成され、経由地としても利用され貿易が活発だ。
最近は海賊の対処まであるのに侵略もなく一定の利を生み出していて、ティルボーロン様がいかに優秀かが分かる。他に類を見ない十年に一度の逸材と呼ばれる銀細工師であり、彼にしか作れない銀細工の数々を生みだしているのに加えて難しい領地の管理までこなせるなんてすごすぎだわ!
「ふふふ。リッケリ行きの船に同乗させてくれるそうよ」
「よかったです。しかしリッケリに入れるのですか?」
「ハムン商会が搬出入で使うから、そのついでに私も上陸できるように手配してくれるの」
政務で商会関係との話し合いを主にしていてよかった。
シャーリー様は経済の立て直しで国中全ての商会と話をつけ、以降私が引き継いだ。だからこうした時に無理を聞いてくれる。
「ドゥエツ王国はシャーリー様の婚約破棄の件で、ソッケ王国に対し一時的に貿易や渡航を制限しているから助かったわね」
「しかしドゥエツ王国の外交特使ループト公爵令嬢が出てきたと聞きましたが」
「ええ。今我が国にいらしてる」
あのろくでなしの王子が傾いて混乱する政務状況に手を焼いて、シャーリー様を取り返しにドゥエツ王国に乗り込んだと聞いた。戦争が起きてもおかしくない行動だけど、そこはドゥエツ王国がかなり譲歩してくれたようだ。ろくでなしと現婚約者ルーラを強制送還し、王陛下と外交特使ループト公爵令嬢の間で話が済みそう。しかもろくでなしに罰も与えられたとか。最高すぎて手紙で知った時は笑いが止まらなかった。
「ループト公爵令嬢が出てきた以上、第二王子とシャーリー様の件は戦争に至らず上手におさまるわ」
「すごい方なんですね」
「ええ」
伝説ばかりの女性だ。
国内の領地を改革し、伝統文化を誰よりも早くに保護を開始、教育医療での発展も行い、なにより外交面において鎖国を続けていた魔法大国ネカルタスを動かした女性。身体魔法を使い、悪を拳で打ち倒す物語の主人公のような女性だ。
「お嬢様!」
「シェスティン、どうしたの? そんなに急いで」
「ハムン商会から急ぎのお手紙が届きました」
さっき来たばかりなのに次?
その手紙を開けると衝撃的な内容が書かれていた。
「リッケリへの入島拒否ですって?」
「お嬢様?」
ループト公爵令嬢がろくでなしを黙らせたとしても、シャーリー様不在とドゥエツ王国王太子との婚姻がある手前、そう簡単に二国間の状態は解決しないってことか。
けど、時間が惜しい。すぐにでも諸島リッケリに行きたい。
「……出るわ」
「かしこまりました」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
ループト公爵令嬢とは2作品前の拳外交の主人公ディーナのことで、第二王子に対するざまあは拳外交の14・15話あたりが該当しています。このまま読み進めてまったく問題ありませんが、拳外交もご覧いただくとより楽しいかと思います。
そして明日からは一日一話の更新になりますので、よろしくお願いします。




