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39話 社交界での悲劇

「新しい銀の取引・適正価格についての会談前にか」

「はい。ディーナ様も宣伝に肯定的でしたし」

「そうだね」


 私とバーツ様がソッケ王国に戻る頃、泊まり先にアリスが手紙を送ってくれた。内容は各国平等に銀を分配するために話し合いをするけど、前もって新しい銀の良さを見せてほしい、というものだ。


「新しい銀の価値が分かれば話し合いもしやすいわけだ」

「はい。ディーナ様がいらっしゃるので独占したくても不可能でしょうけど、自分の眼で見ているかいないかでは全然違うから、ですか?」

「そうだろうね」

「あらかじめ辺境伯と銀の一定取引について話はついていますが、改めて行うことで確実に各国の職人の銀細工分が確保できるでしょうし」

「そうだね」


 銀細工師の貴重さにも注目が集まる。伝統文化として今まで以上に重宝される可能性も出てきた。


「新しい銀でった銀細工の名前、今日お伝えしますか?」


 二人で考えるよう言われた総称。

 面白いことに二人で散歩している時という何気ない時間に決まった。

 後は伝えるだけ。問題はいつ伝えるかだ。


「いや、社交界で言うことでもないし、会談前だと各国の力の均衡が崩れる可能性もある。別の時に直接伝えよう」

「そうですね」

「うん。じゃあ行こうか」


 銀細工の良さ、この際とことん広めよう。

 私たちは急いで社交界用の銀細工を新たに用意する。忙しさの中に楽しさだけが私を包んだ。



* * *



「まあこんなに細かいのね」

「新しい銀ではより細かい銀糸を作れるので細工も極細のものが作れるようになりました」


 ドゥエツ王国の社交界が割と好評だったからかソッケ王城でも多くの人から声をかけられた。

 後々手紙で注文してくれる約束もとれたし、アリスがあらかじめ伝えてくれていたのか、私を知る貴族は遠巻きに見ているだけだ。


「ティルボーロン伯爵」

「王太子殿下……シェルリヒェット王太子殿下、王太子妃殿下」


 バーツ様と一緒に挨拶したのはソッケ王国第一王太子とシャーリー様とドゥエツ王国王太子だった。各国挨拶のタイミングに来たとはいえ、こんなに早く社交界の場面で声をかけられるとは思ってなかった。おそらく一緒にいるソッケ王国の王太子が絡んでるからだろう。


「ティルボーロン伯爵はドゥエツ王国の、エーヴァ嬢はソッケ王国の銀細工師と聞いている」


 私ってばいつの間にか公式の銀細工師になってる?

 ディーナ様がはからってくれたのだろうか。


「新しい銀で作る細工は非常に美しいな」

「光栄なことでございます」

「シャーリーにその銀でベールを作ってほしい」

「え?」


 私からも頼むとソッケ王国王太子も加わる。

 シャーリー様は笑顔で頷いた。

 二人の結婚式に私とバーツ様で作った銀細工を纏いたいと。


「今後のドゥエツ・ソッケ両国間の良好な関係を祝してぜひ」

「!」


 先の戦争前にこじれた二国間の関係を改善させるためのものでもある、ということだ。あのろくでなし……ソッケ王国第二王子が勝手に出した宣戦布告がなかったことにされ、対セモツ国との戦争に切り替わった。この曖昧な部分を銀細工を贈り結婚式で使うというイベントで解消する気だ。


「喜んでお引き受けいたします」


 バーツ様が応えた。よかった。これで安泰ね。私もバーツ様と一緒に礼をとり無事切り抜けた。

 殿下たちが離れると声をかけてもらう数が先程よりも増えた。当然だろう。王太子とその妃の結婚式に使われるとなれば興味深く思うはずだ。


「私にもぜひ一つ」

「私にも」

「後日、お手紙をいただければ順番に対応いたします」


 囲まれて対応しきれなくなる。その時だった。


「あら失礼」

「あ」


 手にとって見られるよういくらか銀細工を持ってきていたけど、人同士がぶつかり一つが落ちてしまった。垣間見えた様子では誰かが手を叩いて落ちたようにも見えたけど……。


「動かないでください」


 金属製独特の音が響く。

 その後だ。


「銀細工が落ちたようですので回収します」


 私の声は届かない。

 落ちた時のカンという音と違ったぐしゃりと潰されるような音が耳を通った。嫌な音。


「まさか」


 私が屈むと人垣が避けて輪が広がる。

 すぐに床に落ちた銀細工を見つけることができた。


「エーヴァ」

「……そんな」


 手にとった銀細工は踏まれ歪んでいた。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

エーヴァってバーツ以外の男性は割と肩書でしか表現しませんが、それはエーヴァがバーツ以外に興味がないのもありますが、未来が怖くて云々と同じで男性が怖い・不信の対象だからです。意外と傷つきやすくトラウマ続くタイプ。

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