23話 リッケリを知ることはバーツ様を知ること
「海賊はセモツ国が仕向けたもの?」
「そうだ」
戦争が始まった。今までの海賊の襲撃とは違う。
南の大陸、謎の多いセモツ国が南の大陸北端の国々と海を渡ったソッケ王国を含めた三国、合計六ヶ国に宣戦布告した。
「今度は東から現れた」
主要な面子を揃えて港町の一角でバーツ様は指揮をとられている。私も同席が許された。香料を止めた件での功績もあり、周囲から反発もなく安心している。
「ループト公爵令嬢はファンティヴェウメシイ王国からこちらへ向かっています」
「東のフェム島の騎士は出港済み。半分を島に残してます」
この諸島リッケリをセモツ国の海賊に占拠されると戦局が傾く。それはここにいるすべての人間が理解していた。
「数は、……、……」
続く情報の中、考える。
東側はソッケの隣国キルカス王国と南の大陸北東のソレペナ王国が協力してくれるなら手厚い。
ディーナ様のこと、ドゥエツ王国単体でセモツ国を相手にしないはずだ。魔法大国ネカルタスやファンティヴェウメシイ王国へ訪問している以上、セモツ国の情報を持っている国とは同盟を結ぶだろう。
そしてディーナ様が持ちかければ、概ねすべての国は応える。鎖国している魔法大国ネカルタスは別にしてもだ。
「フェム島へ行くべきか」
「西側に動きがない間に一度行くってのも手だな」
「いいえ。シーヴに残るべきです」
「エーヴァ嬢?」
今まで西から来ていた海賊がわざわざ慣れない東側から来るということは何か策があるにちがいない。揚動の可能性がある。攻めやすく、海流がはっきりしている西側から攻めたいはずだ。
状況が国同士の戦争なので今までの倍以上の数を使って挟み撃ちの可能性もある。ただディーナ様が海賊の数を減らしているから想定よりは少ないはずだ。
となると、東西両側からの攻撃に備え、指示がしやすいシーヴ島にバーツ様がいることこそが重要になる。
伝えると往々に反応があった。
「なるほど……」
「エーヴァ嬢の言う通りです。私はここに留まります。ですが現場確認はしてほしい。特にフェム島は騎士の数に不安がある。スコーグさん、騎士を連れて行ってもらえますか」
「分かった」
派遣する騎士の人数も妥当。さすがバーツ様だわ。
「後に西側からの攻撃があるなら食料の確保と体調不良者のシーヴへの集約を優先しましょう」
「海賊が潜んでる可能性もあるが、どうする」
「精々一隻分しか出せないだろう? 対応できるか?」
「海流を利用すれば可能のはずです」
「エーヴァ嬢?」
圧倒的な数の不利は地の利を活かす。海流から海賊が潜むポイントは数えるほど。そこを避けて通るルートが実はある。島の人間しか扱えないルート、ここを今回は活かすしかない。
私のこの言葉にそれならと反応があった。
「ピップさんならいけるだろ。いまだその海流使ってるしな。声かけるわ。俺も一緒に行く」
「任せます」
備蓄の解放も行う運びになった。どちらにしろ諸島の特性上各島に備蓄は十分ある。解放し再配布にしてもそこまでの量ではない。
「体調不良者の対応は?」
「本土からの……ループト公爵令嬢の一報を待つしかないです」
この体調不良に関してはどの国も対応できなかった。
ディーナ様はおそらく何か掴んでいる。こちらに向かっているなら、すぐにお会いできるから待つ方がいい。
「では一旦ここまで、各自対応をお願いします」
いい区切りだ。
バーツ様と二人きりになったところでお茶を出すことにした。
「ありがとう」
「いいえ。バーツ様と一緒に飲む時専用のカップを持ってきてよかったです」
私のお茶を口にして息を吐く。
「美味しい」
「ありがとうございます」
「……エーヴァ嬢には驚かされた」
率先して意見を言うこともさながら、内容が的確だと褒めてくださった。
「ペーテルからエーヴァ嬢がリッケリを知ろうとしてることは聞いてたんだ」
自身の主人に報告は必須だから当然話は入っていると思っていた。それでも今までバーツ様からなにも言われなかったのはバーツ様が許してくれていたから。
相変わらずお優しい。
「エーヴァ嬢が領主になるとしたら良い主になるだろうね」
「ありがとうございます。ですが、バーツ様程ではありませんわ」
「僕は付け焼き刃だからなあ」
そんなことはない。諸島という特殊さがある中、各島のことを把握し他国との関係も考えて動けるバランス感覚の良さはそう身に付くものではない。才能もあるのだろう。そういう器用さも当然好きなわけだけど。そう伝えるとバーツ様は照れくさそうに笑った。
「エーヴァ嬢がリッケリを知ろうとしてくれて嬉しい」
「え?」
「リッケリを知ろうとしてるのが、僕を知ろうとしてくれる気がして」
違うかもしれないけど、と笑う。
領地を知ることすなわち領主を知ること。
私が難局に当たった時に力になれないかと考えたのはバーツ様のためだ。
「バーツ様の仰る通りです」
「え?」
「リッケリを知ることはバーツ様を知ること。バーツ様の想いも考えも知ろうとしていたのですわ」
強欲と言われてもいい。それほど私にとってバーツ様は大きい存在だ。
「それは……光栄だ」
言葉を考え飲み込んだバーツ様が気になったけどきくことはできなかった。ディーナ様が来たと一報が入ったからだ。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
これだけの知識教養理解力があるとエーヴァが何者か概ねバレてしまいますが、まあそこをバーツが言及しないのであればそれでよしですよね~。




