22話 諸島巡り
「ファンティヴェウメシイ王国へ?」
ディーナ様が魔法大国ネカルタスを去った後、ネカルタスの隣国ファンティヴェウメシイ王国へ入りとどまっている。
「海賊が減ってることと関係があるだろうね」
「ディーナ様が捕らえているのですか?」
「彼女ならやりかねない」
自らの拳で解決するディーナ様の姿が容易に浮かぶ。直近このリッケリの西端エン島で海賊と戦った時と同じだろう。
「……ディーナ様のこと、何かお考えがあるのですね」
「恐らくね。香料の件といい何か掴んでると思うけど……あ、そこはもう少し手前で曲げると綺麗に仕上がる」
「ありがとうございます!」
銀細工を一つ一つ作る過程で本来の基礎的なやり方を教えてもらう。丁寧で長年培ってきた歴史がより美しく最善に作れるようなっている。個々の工程が利にかなっているというところだろうか。
「工程ですら美しいとは感嘆です」
「……そんなこと考えたこともなかった」
やっと銀細工作りに時間がとれた。これも束の間なのは分かっている。ディーナ様が動いている、ということは何かの真実に近付いているということだ。大きく動く局面にきているのかもしれない。
「バーツ様、銀細工以外でお願いがあるのですが」
「お願い?」
「リッケリの島を全て巡ってみたいです」
「島を?」
「船を出していただくので人手も必要ですし、できればで構いません。入港も上陸もしなくていいので海上から見られれば」
無理を承知でお願いする。
「そしたら明日一緒に出ようか。定期的に海上巡りしてるから」
「……いいのですか?」
「構わない」
「ありがとうございます!」
銀細工を学びに来ただけなのに、と加えると、たまには他のものに触れるのもいい作品作りの一つだと応えてくれた。単調な作業の中に刺激を与えると、新しい形や模様を思いつくと言う。完璧なフォローだわ。バーツ様は本当に優しい。
「銀細工以外でも御配慮いただけるなんて嬉しい……優しいバーツ様が好きです」
「っ……」
びくっとバーツ様の身体が揺れる。なにかあったのだろうか。
「バーツ様?」
「ああ……いや、エーヴァ嬢の銀細工の上達が早いなと思って」
「まあ! 嬉しいです!」
「本当に。二度三度やっただけで格段に上達してる。元々経験もあるけど、それ以前に向いてるんだろうね」
「ありがとうございます!」
できて当たり前、少しのミスや覚えの悪さは叩かれるが通常運行だった前職とつい比べてしまう。勿論シャーリー様はそんなこと言わないけど他の対抗勢力や王子派はいつも食って掛かってきた。男性が多かった手前、今のバーツ様の対応が涙出るぐらい嬉しい。バーツ様が師匠で本当よかった。
* * *
「あれが西端エン」
「はい」
西から順に島を回っている。風が通りやすい。
「島の特性上、北側へ抜けるのは簡単だ。本土から南下しつつエンへ入港するなら一度エンの東側を大きく迂回するのがいい」
「なるほど」
「エンからシーヴは北の海流に乗りつつ島を半周して南東に変更、その後真南へ行くルートが主かな」
どの島からも真ん中シーヴへは行きやすく、ほぼ決められたルートがある。他国からのルートもほぼ決まっていて、違うルートを辿ると危険が伴うし、他の上陸地点はない。唯一複数上陸地点があるのは二つの島だけだ。けど、この二つはシーヴの側の島で、外側に行けば行くほど潮の流れは決まっていた。
「それぞれの島に特性がある」
酪農が盛んな島、農業、漁業、それぞれが担っているのを分け合い一つの島として栄えている。
主島シーヴの輸出入がなくても十分そうだ。むしろ輸出入があることで独立できる程の国力を持っている。
これは狙われて当然ね。
「バーツ様、ありがとうございます」
なにか起きても対応できるぐらいは頭に入った。後は島の人員配置と規模の把握が必要かしら。
「この後、シーヴで各島の代表と会談でしたね」
「そうだね」
銀細工の時間がとれなくてごめんと言われる。
「気になさらないでください。できるところは進めます!」
「分かった。無理なくね」
「ええ。無理しすぎは逆に集中力を欠きますもの」
よく知ってるねとバーツ様が微笑む。初めてお会いしてから随分と表情が柔らかくなった気がした。
* * *
「エーヴァ様、こちらにいらっしゃいましたか」
「ああ、すみません。食事の時間ですね」
シーヴに戻ってから、空いた時間で再び書庫にこもって調べものだ。
当然、銀細工の時間を取った上で、隙間時間に勉強しているだけ。
「構いません。よければ時間をずらしますか?」
「いえ、いきます」
今日はバーツ様もいるし、私とバーツ様が同時に食事を終わらせた方が片付けも楽だろう。
「エーヴァ様……リッケリについてお調べだったのですか?」
「ああ……今日バーツ様に連れてもらって気になりまして」
「左様ですか。そちらの資料は最新ではございません。後程差し替え予定の最新版をお持ちしましょう」
「ありがとうございます」
できる限りの最新の情報を知っておきたい。
「ペーテルさん」
「はい」
「今、体調不良でシーヴにいる人数と内訳は分かりますか?」
「ええ勿論です。そちらもお持ちしましょう」
「ありがとうございます」
私の懸念通り、大きな争いがすぐに起きた。
私は全力でバーツ様を支えることになる。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
これもデートに入るのか?と思いつつもデートうっはうはなエーヴァはいれませんでした。エーヴァの今の思考を考えるに政務モードというか、シリアスよりなもので。それでも好き好き言うターンはあるのですがね!




