14話 エーヴァ、危機対応に意見する
「皆やめてください。エーヴァ嬢が困るでしょう」
「なんだよーいいじゃないすか」
「皆領主様のことが心配なだけですわ」
「お気持ちは嬉しいのですが、そういうのではありませんので」
と、新たにやってきた領民がバーツ様に声をかけた。
「領主様、銀が入ってきましたよ」
「ありがとうございます」
「まあ銀が!」
エーヴァ嬢が来たタイミングで銀が補充できてよかったとバーツ様は笑う。
「領主様! 素敵なお弟子さんに服はどうだい?」
銀よりも大事だろと言われるけど、私達にとって銀はなによりも重要なものだ。
当然服より銀を選ぶ。
「いや銀は大事ですね」
「ははは! 領主様相変わらずだな!」
迷いなく応えたバーツ様に周囲が沸く。
冗談を言い合える。素晴らしい関係だわ。領主と領民が普段から話をしている証拠ね。
「けど服や日用品は今日買おうと思ってました。見繕ってくれますか」
それぞれの店の担当が準備しますと店に戻る。一店舗ずつ見に行くことになった。
「バーツ様、これ以上は不要だと思うのですが」
「いいえ。トランク一つだけでしたし、最小限で来たのでしょう? 僕も同じ志の銀細工師が増えるのは喜ばしい。だから今日は僕に贈らせてください」
「なんてスマート!」
そんな悪いですと言いつつも、あまりに自然な流れで私に贈り物をしてくださると言うバーツ様の格好良さに心が跳ねる。すごいわ。領主仕事もできて、領民から信頼もされている。
挙げ句、女性への対応もばっちり! 執事の言ってた引きこもり要素はどこにもないじゃない!
「やはりバーツ様はすごい御人!」
「……そうでしょうか」
「ええ! 領民から好かれることは中々難しいのです」
領主である貴族は民から税金を徴収する。それだけで嫌われることなんてザラだ。そこを抜きにして冗談を言い合えたり、身内の一員のように心配されるのは、その領主が領民と対話を怠らず向き合ってきた証拠。
そう伝えるとバーツ様は満更でもなさそうな照れ顔で自身の頬を撫でた。
「頑張ってきてよかったです」
「はい!」
「領主様」
店ごとに買い物をというところで、一際張り詰めた声音でバーツ様が呼ばれる。
察したバーツ様が真剣なまなざしを向けた。
「どうしました」
「最西端エン島が海賊の襲撃に遭いました」
「被害は」
元々海賊の襲撃は想定内なのだろう。配備していたエン島の騎士たちで海賊の襲撃に耐え撃退していた。
「今回は持ちこたえられましたが、各島で体調不良者が出始めています。本土と同じものかと」
「ループト公爵令嬢から書状が来ていた件ですね。体調不良者はどの程度?」
十もの島があるこの諸島リッケリはそれぞれの島に行き来しやすいものの、物資や設備は主島シーヴが特別優れている。人の数も他の島と比べると圧倒的だ。
ソッケ王国にいた頃のこの情報を考えると、人出が少ない各島で海賊の相手をしつつ体調不良者の看護をするのは難しい。数はまだ少ないからいいけど、ソッケでは短期間で爆発的に増えた。諸島リッケリも同じような増え方をすると、人出が足りずシーヴ以外の島はそれぞれの脆弱な部分をつかれ侵略される可能性もある。
「では体調不良者は各島で対応してもらいましょう。念の為、別室で養生してもらい」
「お待ち下さい」
「エーヴァ嬢?」
「体調不良者はここシーヴに集約すべきです」
「……というと?」
ソッケ王国でとった対応を話した。
ソッケは東西の隣国で患者が出る数ヶ月前から少しずつ発現。あちらこちらで少数で始まった体調不良者を各領地で対応した結果、爆発的に増えた時に人手不足に陥り領地経営が困難になった場所があった。王都で流行り始めたところでシャーリー様が対応策を打ち出したのが集めること。
王都の医療施設に患者と医療従事者を集約し、治療に集中できる環境を作った。これは効果が大きい。領地経営がままならない場所の民も集約したことで、地方の傾きかけた領地経営は破産まで追い込まれることはなかった。
それも第二王子の了承を得られなかったところを王陛下に嘆願して行ったものだから、王子もといろくでなしの機嫌が急降下して八つ当たりや嫌がらせが今まで以上に増えた。シャーリー様は素敵だったけど、あのろくでなしについては嫌な思い出の一つね。
「……成程」
バーツ様は瞬時に理解した。
主島に体調不良者を集約し、人員の編成を考えシーヴから補充を行う。すぐに治れば各島に戻ればいい。体調不良者の看護はシーヴの中でも一ヶ所に集め、集中的に治療を行う。各島に医師を派遣することなく終わるし、各島で人出をさかないので理にかなっているはずだ。
「エーヴァ嬢の言う通りにしましょう。各島に連絡を」
「承知致しました」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
バーツは外出で領主業もしているので敬語復活、けど一人称は僕。もっと公的な場になると一人称が私になります。そしてエーヴァってばつい意見しちゃう回。こういう意見の言える強さが好き。




