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13話 港町デートへの誘い

 二十八歳、私より八歳年上。

 若くして伝統工芸品銀細工の筆頭細工師になったバーツ・フレンダ・ティルボーロン様は謎に包まれた方だ。

 調べた限りではドゥエツ王国でディーナ様が伝統文化の保護と発展を目的に国内の有力伝統工芸師の調査を始めた時にバーツ様と出会い、その銀細工の技術と才能を認められ筆頭として任命。その際に伯爵位を王から賜った。

 それ以前は一つも情報が手に入らず、いいところでディーナ様に出会う前は平民だったという噂があるだけだ。噂というのは確実な情報ではなく、"こういう目撃情報があった"程度のものだから。

 見間違えかもしれない。どちらにしてもバーツ様が平民であっても貴族であっても、他に類をみない銀細工師であるということだ。ここさえおさえれば後はどうでもいい。

 それに私がバーツ様の銀細工を初めて手にしたのは街中でという記憶がない。まあ子供の記憶だから当てにならないけど。


「バーツ様は誰かから銀細工を習ったのですか?」

「祖父から」


 もう死んでるけど、と加えられる。


「亡くなったのは随分前で……両親が僕の面倒見ないから世話兼ねて銀細工教えてくれたってとこかな。親代わりだよ」


 なんと三歳から銀細工を作り始めたらしい。元々祖父の見様見真似で作ったのがきっかけで、興味があるならなノリで始まったと言う。となると二十五年も銀細工を作られている。


「一つのことに二十五年……すごいです」

「僕にはそれしかなかったから」

「いいえ、違います! バーツ様は領主の仕事もしつつ銀細工師もされている。多くのことを成しているのですわ」

「そんなことな」

「あります!」


 力強く言う私に少し戸惑っていた。


「バーツ様の驕らない謙虚な姿勢も好きですが、バーツ様にしかできないことがあります。自信をお持ちになっても誰も不快に思いませんわ」

「……そう」

「はい」


 視線を泳がせた後、むず痒そうな顔をして咳払いを一つ。


「ありがとう。その、港に出る用事があって、一緒にどうかな、と……エーヴァ嬢の必要なものも揃えたいし」

「必要なもの、ですか?」


 特段必要なものが思い当たらないのだけど、バーツ様がそわそわしながら返事を待っているのを見て気づいた。

 私だけが屋敷に残るとお手伝い問題が出てくる。もう言うつもりはないけど、あの三人からしたら私が一人でいると「手伝います」と言われる懸念があるわけだ。私に屋敷に残らずバーツ様と一緒に外に出てもらった方がいい。そう望んでいるはず。


「バーツ様、喜んでお受けします。お供させてください」

「ああ。ありがとう」

「ふふ」


 思えばこれは逢い引きなのでは?!

 元婚約者とは全くときめがなかったのに、バーツ様ととなったらすごくドキドキする。楽しいに決まってるわ!


「では馬車を」

「いいえ、折角です。歩きませんか?」

「え?」

「あ、荷物が多くなる予定なら馬車は必要かと思うんですが」

「いや多ければ屋敷に送ってもらえばいいし……今日は歩いていこうか」

「はい!」


 普段着、寝着、銀細工用作業着を各二着ずつ、合計六着しか持ってきていない。服も貴族である自分を捨て新しく始めるというので街中でよく着られるものを選んだ。貴族であれば上等な服を用意するけど、名前を消されただろう今はただのエーヴァ。いつも着ていた服は置いてきた。


「では行きましょう」


 今日着ている普段着が一番上等なものだ。


「領主様!」

「おはようございます」


 共に港町に出ると次々と声をかけられる。

 最近の輸出入、自国のみならず他国間の乗り入れ状況、町で起きた小さな出来事から全ての話がバーツ様の元にくるけど、全て丁寧に聞いていた。


「お、領主様、すまなかった。女性連れてたんか」

「ああ。銀細工を学びに来たお客様、エーヴァ嬢です」

「初めまして」


 するとなんだなんだと人が集まる。さすが活気のある町だ。


「領主様の結婚相手じゃなくて?」

「弟子です」

「なんだ。浮いた話ない領主様にやっときたかって思えたのに」

「いや師匠弟子の関係から発展するかも」

「ただの弟子です」

「領主様いい年だもんな。これ逃すとやべえんじゃね?」

「違います。弟子です」

「あはは……」


 言いたい放題だった。確かにこんなにも素敵な領主様にお相手がいないのは心配だろう。そこに私みたいな存在が現れたら期待してしまう気持ちも分かる。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

エーヴァ、バーツのストーカーかってぐらい調べてるね!(ツンデレストーカーのサクを思い出します) バーツもバーツで「弟子です」連呼の塩対応(笑)。こういうとこが執事から心配されるとこでもあるわけですが、塩対応は作者にとってご褒美なのでこのぐらいの態度は美味しい範囲内です(´ρ`)

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